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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ 作者:壱弐参

第一章 ~魔法大学編~

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◆032 焔の大魔法士

 巨大、と言うと周りのオーガ達の事を何と言えば良いかわからなくなる。
 インペリアルオーガに囲まれたクイーンとキングは、辺りを見渡し、倒れている同胞を見つける。
 その動きがピタリと止まった。

 瞬間、
「「ゴォオオオオオオオオオオッ!!」」

 二体のオーガが出した怒号は大気を、大地を揺るがした。
 その咆哮は天に届き、第八分隊の最後尾にいる魔法大学の三年生の心まで凍りつかせた。
 ビリビリと走る振動に耳が鳴り、体が震えた。

 オーガキングの動作は緩やかだったが、誰もがその動向を見つめた。インペリアルオーガの死体から黒槍を奪い、その切っ先を睨む。
 その刹那の時、オーガキングは小枝を払うように槍を投擲した。
 風を裂き空間を裂くかのようなその一瞬、第五分隊の一角に異変が起きた。
 風が通り過ぎた。そう感じた第五分隊の一人。その隣には確かに悪友や昔からの仲間が存在していた。

 ――彼等はいなかった。

 そこにあったのは、上半身が無くなった人間の下半身だった。
 欠損、斬撃、そんな生半可なものではない。
 槍の先端で貫かれるならばまだわかる。しかし彼等は槍の物理的な圧力で消えた。
 吹き飛んだ、いや押し千切れたと言うのが正解だろう。
 それがわかった時、第五分隊の冒険者達は一目散に後方へ逃げた。冒険者故の生存本能、圧倒的戦力への恐怖、果ては混乱。その全てが重なり合って全力で逃げた。人を押し分け、倒し、正面に遅い者がいれば殴ってどかす。そんな光景が分隊長ベティーの視界に映る。

「……バ、バケモノ……」

 ランクAの冒険者をしてそう言わせるだけの力が、オーガキングにはあった。
 逃げない者はいなかった。
 ベティーだけがその場に残り、腕をブンブンと回すオーガの王の姿をただ呆然と見ていた。

「ベティーッ!!」

 近くにいたブレイザーの声が届いた。ハッと我を取り戻したベティーは、その場を飛ぶように離れた。
 瞬間、オーガキングの二投目が辺りを襲う。
 投げた瞬間は見えなかったが、タイミングだけはわかった。
 ベティーは長年の勘から匕首(ひしゅ)を何本か投げる。
 小さな金属音が鳴り、ベティーの頬を風が通り過ぎた。やはり()は見えなかった。
 しかし、その匕首が槍の軌道を変えてベティーを救ったのだ。
 頬から流れる血を気にもせず、彼女はアイリーンの分隊まで駆けた。

「密集隊形!!」

 アイリーンが号令する。
 第一分隊の前に戦士達が集まり、一番前にはブレイザー、ブルーツ、ダラス、そしてベティーが剣を抜き構える。

「一人じゃ無理だ。あの投げ槍は我ら全員の力で弾く……俺の合図で正面に向かい剣を振り降ろせ」

 ダラスが三人に言った。
 ブルーツの体がガタガタと震えている。当然それに気付いたブレイザーが気にかける。

「ブルーツ、いけるか?」
「ったく、いけねぇとは言えねえから震えてんだぜ?」
「……あぁ、そうだな」

 ブルーツの肩を掴むブレイザーの手も震えていた。
 しかし、それを気にかける程ブルーツの余裕はなかった。自身のそれにブレイザーは気付く余裕もなかった。

 アイリーンの分隊が障壁の魔法を唱え、後方にいるウォレンの分隊が前衛達に補助魔法を唱える。体力上昇、硬化、武器硬化、身体能力向上、称号強化、様々な重ね掛けがかかる。

「っ、来るぞっ!! ……今だ!」

 ダラスの合図。四人の渾身の剣撃が振り下ろされる。

 バチィイイイッ

 電撃が走ったかのような轟音。
 防いだ……いや防げたのかがわからない。
 四人の腕が誰もがどうに見ても折れていた。剣こそ無事なものの、その剣をを落とすか落とさないかという現実がアイリーンの目の前で起きていた。

「ビリー!!」

 アイリーンが旧知の悪友の名を呼ぶ。
 その声の意味に気付かない人間ではない。その号令より早く彼は動いていた。

「ハイキュアー・アジャスト!!」

 最高回復魔法が四人に施される。

「ぐぅうううっ……前衛の力馬鹿は辛ぇぞコラッ」
「……っ。耐えるしかあるまいよ……」
「うっ……腕が太くなったらどうすんのよ……くぅっ」

 銀のメンバーの悪態が互いを、自身を奮い起こす。
 自分達が瓦解すれば後方は壊滅的なダメージを受ける事がわかりきっていたからだ。
 ダラスにもそれがわかり、自らの口を噛み切って再び剣を握る。
 三人の震える手にも力が入る。

「……っ、来るぞっ!! 今っ!」

 バチィイイイッ

「「「ぬぅううううっ!!」」」

「ハイキュアー・アジャスト!!」

 この時、クイーンとインペリアルオーガの団体が前進を始めた。

「おいおい、シャレになんねーぞ……」
「いや、こういう時は……」
「冗談じゃない、ね……」
「ふ、銀は面白いメンバーで構成されているな……」
「そりゃどうも……」

 肩で息をするランクAの四人は一丸となって軽口をを叩く。
 圧倒的戦力の前進がやってくる。
 それでしか自分をその場に留める事が出来なかったのだ。
 その時だった。

「ガーネット・ヘル!」
「ダイアモンド・カットラス!」

 最後尾、第八分隊からは赤い閃光が。真後ろにいる第一分隊から硬い風刃が走った。
 黒槍分の道を開け前進していた二部隊に直撃する。赤い光がクイーンの部隊へ、風刃が反対側へ。
 オーガが燃える。魔法の耐性が強い彼等が、アイリーンの攻撃を防いだインペリアルオーガでさえも、体から出る赤い炎に苦しそうな表情だ。
 オーガが切り裂かれる。先程の魔法より圧倒的な威力。その壊滅的なダメージは、大地にまで浸透した。
 抉られた大地の中には闇が広がる。どれほどの震度かわからぬ程深い闇が続いた。
 オーガの苦悶の表情、ボトボトと落ちる足や腕、そして首に足を止める。

「ふむ、こんなものか。アズリー、出るぞ! ビリーがあの状況だ、代わりをせい!」
「はい!」
「行ってらっしゃい!」
「お前も行くんだよ!」

 はっきりとわかる程のポチの嫌そうな顔、それを見たガストンがニヤリと笑う。

「ふははは、運が悪かったと思え小娘!」
「マスター、小娘って言われちゃいましたよ!」
「喜ぶとこが違うだろうが!」
「アイリーン、ビリー、ブレイザー、ダラス、ブルーツ、ベティー! キングの攻撃を後三回防げ!」

「「おう!」」

「ウォレン! ビリーの分隊に敵を近づけるな!」
「お任せを!」

 簡潔な指示だけを伝え、ガストンの馬が走り、巨大化したポチに跨ったアズリーがその後を追う。
 狙いはそう、ガストンの攻撃を振り払い単身歩を進める女王だ。
 真紅の錫杖が天にかざされる。

「八角結界!」

 光の杭が天から降り注ぎ、女王の八方に刺さる。瞬間、現れた結界陣から電撃のような稲妻が走る。

(ちょ、マスターの魔術より凄いですよ!)
(俺なんて六角が限界なのに!)

「ゴォオオオオッ!」

 女王が地に膝をつき遂には手をつける。

「衣を剥がせ、アシッドレッド!」

 馬上から次の魔法を放つガストンは後ろに目をやる。その視線の先にいたのはポチとその主人、アズリーの姿だった。

「小僧、合わせろ!」
「んな無茶な!」
「マスター、私がいきます!」
「おぉ、そうだった! 行け、煉獄ブレス!」

 ポチの口から赤黒い炎が吐き出る。ガストンを追い越すかというところで、その錫杖から毒々しい炎が吹き出た。

「その身を侵食しろ、ベノムデッド!」

 直後、オーガクイーンに強力な毒素を持つ緑炎と、深紅の業火が直撃する。
 オーガクイーンは苦痛の表情で二つの巨大な炎を振り払い続ける。
 動けないがその抵抗は凄まじく、八角結界の杭にヒビがはいり始める。

「八角結界!」

 再び降り落ちる八つの杭。
 より強固な結界に、女王の身体が遂に地に伏した。

「化け物かよあの爺さん!?」
「マスター、聞こえちゃいますよ!」
「ふははは、聞かなかった事にしてやるぞ小僧! それにしても、何もせず終わるつもりか?」

 ギロリとアズリーを見る。
 からかい混じりというのがわかっていてもアズリーのその身は硬直してしまう。
 仕方ない、そんな様子でアズリーはスターロッドをかざす。

「ほいのほいのほい! レデュケイト・ヒットポイント!」
「ほぉ、HPの低下魔法か。しかし短期決戦を求める戦闘では無意味ぞ?」
「マスターはここからですよ!」
「何っ?」

 杖がオーガクイーンに向けられる。
 珍しくも真剣な眼をするアズリーの眼がゆっくりと閉じられる。
 ふわりと身体の上に魔法陣を移動させたアズリーは、再び口を開く。

「ほいのほい、加速魔陣!」

 魔法陣が包み込まれるように魔術陣が覆い被さる。

「これは……魔術かっ!」

 ガストンがその知識にない魔術を目撃した時、アズリーが自分の口元に人差し指を持っていく。

(内緒でお願いします)

「ほぉ……なるほどな。儂も小僧に興味が湧いたわ。内密か……貸し一でいいぞ?」
「返済に困りそうな貸しですねぇ」
「ぬかせ。して、この複合魔法、効果は?」
「毎秒マイナス十でそれを加速させたから……毎秒マイナス百ってとこですかね?」
「何ぃっ?」

 またもアズリーを睨みつける。
 ポチもお座りしてしまう程の威力だ。それに伴いアズリーがポチから落ちる。

「痛っ! ポチ、お前なぁっ!」
「ポチ。どれ、彼奴(きゃつ)(とど)めを刺してみなさい」
「アォオオオンッ!」

 アズリーではなくガストンの指示でポチがブレスを吐く。
 青白い光が。強烈で強力な一撃がオーガクイーンに決まる。
 微かに抵抗していたその身体がビクビクと動き、そして遂には動かなくなった。

「ほお、(きわみ)ブレスか。ベイラネーアにこれを使える使い魔がいたとは驚きだ」
「人に使い魔を使われるとは……」

 がくりと肩を落とすアズリー。
 脳内に響くレベルアップのファンファーレも、今の彼には届いていないだろう。

「いやぁ、今回は集団戦ですからね!」
「ふはははは、面白い奴等だ! さて、次の標的だ。意外にも早く終わったからあの婆でも助けてやるか」

 そう言って手綱を引くガストンの瞳は、今も黒槍に悩まされているアイリーン達へと向いていた。
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