表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十章 ~戦魔国の闇編~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

324/496

◆320 心の距離

 アイリーンが放った分裂発動型魔法を見たアズリー。

 その余りの衝撃に息を呑んだ後、アズリーが静かに口を開く。


「……凄いですね」

「どっかの誰かさんは二年前に見せてくれたわよ」


 じとっとしたアイリーンの目。

 アズリーは頰を掻きながら苦笑して目を逸らす。


「アイリーンさん。これまでの俺は……どうでしたか?」

「それは、この戦いが終わったら答えてあげるわ」


 そんなアイリーンの対応に、アズリーは口を尖らせる。


「全力じゃなきゃ、怒るからね」

「結構怒られてません? 俺」

「私がいつ怒ったっていうのよっ!」


「今じゃないのか?」と、そんな顔を向けるアズリーだったが、アイリーンは目を釣り上げるだけだった。

 アズリーはアイリーンを前にドリニウム・ロッドを構える。

 そして――――、


「っ!」


 ビリビリとアイリーンの身体を伝う魔力の波。

 アズリーは今日一番の魔力解放をアイリーンに見せつけたのだ。


「ま、まだ……あんな魔力を……」


 目を見開くヴィオラ。

 腰を下ろしていたリナ、フユ、オルネルが立ち上がる。


「アズリーさん……!」

「凄い……」

「…………っ」


 オルネルは自分の拳を強く握り、そして開く。


(全然足らないじゃないか……っ)


 そう思ってしまったオルネルの胸中をよそに、アズリーは宙図(ちゅうず)を始めた。


「させないわよっ」

「いいえ、もう終わってます。オールアップ」


 瞬時に向上したアズリーの身体能力。

 跳びかかるアイリーンを軽くかわし、その背中に強烈な蹴りを叩き込むアズリー。


「っ!?」


 吹き飛ばされる中、アイリーンは蹴られた事にようやく気付く。

 反れる身体を強引に立て直し、アズリーがいた方を見るも、アズリーの姿はその視界から消えていた。


「くっ!」


 アイリーンは地面を掴みながら身体を止めようとするも、その勢いは中々死んでくれなかった。

 直後、アイリーンの背中に先程以上の衝撃が走る。


「きゃあっ!?」


 背後から当てられたアズリーの強靭な肉体(タックル)

 アイリーンの身体が戦闘を始めた場所を通過し、ウォレンの横を通り過ぎ岩壁に激突する。

 これを見て、圧倒的に優勢であるはずのアズリーが渋い顔を見せる。


「あ、あの……」


 岩壁に罅を入れる程の強力な攻撃。

 アイリーンの身体には大きなダメージがあるはずだった。

 しかし、アイリーンは頭と口から血を流し身体に渡る痛みを堪えるようにしてアズリーを見る。


「何よ……終わり?」


 完全なやせ我慢。

 それはアズリーの目にも、明らかだった。

 それを見たポチは、隣にすっと移動してきたウォレンを見て、たははと苦笑する。


「これは、アイリーン様の公開処刑みたいですね♪」

「は、ははははは……」


 それに満面の笑みで応えたウォレンを、ポチは青い顔で迎えた。


「ふっ!」


 アイリーンは再び跳躍する。

 アズリーの正面まで。

 しかし、身体を回復する事はしなかった。それは、アイリーンの意地という名のやせ我慢。

 アズリーは物凄く困った顔をしながらも、その後、すぐに覚悟を決めた顔付きとなる。


「手加減したら、怒られるんですもんね」

「当然よ……!」


 静かに燃えるアイリーンの闘志。

 そんなアイリーンの瞳の奥底に光る何かに身体を震わせながら、アズリーはゴクリと喉を鳴らした。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ぐぅ……!」

「くっ!」

「はぁはぁ……っ!?」

「このっ!」


 幾度もアズリーに跳びかかり、何度も打ち倒されるアイリーン。

 身体はボロボロになりながらも、その闘志は未だ衰えない。

 逆に戦っているアズリーの方がその気迫にのみ込まれつつあった。


「何故……何故そんなにボロボロになってまで……!」

「はぁはぁ……ホント、わかってないわね」

「な、何がですか……!」

「ぐぅ……それだけの魔力と力があって、何で私を戦闘不能に追い込まないのかしら……」


 血反吐を吐きながら、身体中に傷を作りながら、アイリーンが呟く。


「さっき……オルネルにやったみたいにしてごらんなさい……!」

「ど、どうして――――」

「どうして? わかってないわね。アナタ、女に甘すぎなのよ!」


 そんなアイリーンの言葉に目を丸くするアズリー。

 しかし、アイリーンの瞳は至って真面目だった。


「ヴィオラはスリープマジック。フユはマジックドレイン。リナには降参勧告。それにジェニファーには回復魔法? はっ、ふざけるんじゃないわよ! その絶大な魔力を、ちゃんと私に向けなさいよ!」


 アイリーンの言葉に嘘はなかった。

 アズリーの戦闘には確実に偏りがあった。アイリーンがあげた者との戦闘は、倒したというより、戦闘を終わらせたというのに近い。

 そんなアイリーンの指摘に、アズリーは――――、


「で、でも仲間内で――――」

「――――関係ないわね!」


 その一言で、何も返せなかった。

 緊迫する中、ポチがウォレンを見る。


「気になりますか? アイリーン様が何故あんなに拘るのか?」

「な、何も言ってませんーっ」


 頬に前脚を置き、ビックリするポチに、ウォレンは再び笑顔を向けた。


「大きな理由は二つです」

「ふ、二つ……?」

「一つはこの場。アズリー君の手にはおそらく限界突破の魔術がありますね?」


 ウォレンの鋭い洞察力を前に、ポチが驚きながらコクコクと頷く。


「当然、それはアイリーン様もわかっています。けれど、それを使わずにこの戦闘を行った意味をアズリー君が気付いていない事、ですかね」

「意味って何です?」

「先程伺いましたが、過去に飛ばされた時、お二人は周りの環境にとても翻弄(ほんろう)されたようですね?」


 アズリーが過去に行った経緯の話を持ち出した時、ポチもその場にいた。

 それはアズリーの口から出た言葉。しかし、ポチの口からも聞きたいかのようにウォレンは聞いたのだ。


「……えぇ、まぁ」

「見てください、アイリーン様の身体」


 ウォレンが微笑みながら見つめるアイリーンの身体。

 天獣であり、この場にいる中でアズリーと一、二を争う程の実力を持ったポチの目。それは簡単に捉えられた。


「震えて……いますね」

「相手はアズリー君。見知った仲ならば恐怖を感じないと思いますか?」


 そこでポチは黙ってしまう。


「そうです。アイリーン様は既知(きち)の間柄であるアズリー君との関係や感情を全て捨て、仮想敵として本気でアズリー君と戦おうとしているのです。だからこそあそこまで震えていらっしゃる」

「でも、そんな事してまで、どうしてです?」

「そうですね~。私も乙女心には詳しくないのですが…………おそらくあれは追体験(、、、)というやつでしょうか」


 ウォレンの言葉の意味がわからず、首を傾げるポチ。


「アイリーン様は、アズリー君やポチさん、お二人が経験した伝説の時代を理解しようとしているのです。そうする事で、きっとアズリー君の頑張りを理解する事が出来ると思ったのでしょう」

「……そういう事だったんですね」

「本当にお優しい方です、アイリーン様は……。それにしてもアズリー君は気付きませんかねぇ?」


 うっすらと笑みを浮かべながら、ウォレンは眼鏡をくいと上げる。

 するとポチはこれまでより少し明るい顔と口調で言った。


「いえ、マスターはお馬鹿さんですけど、そういう所は気付いていると思いますよ?」

「ほぉ? そういう所とは?」

「アイリーンさんが優しい事……ですかね?」


 ウォレンさえも目を丸める程の明るい笑顔で、ポチが言った。

 そして、少しだけ考えてから、再び笑みを作ってウォレンが答える。


「なるほど。結構です♪」


 少しだけ嬉しそうなウォレンは、一歩だけポチの近くに移動した。

 それは、まるで、ポチとの心の距離を埋めるかのような黒帝の一歩。

 再びウォレンが笑い、ポチも満面の笑みを向ける。

 遠目でそんな二人を見ていた反対側のジェニファーとダラス。


「何故、あちらでは笑顔のウォレンが一歩近づく度に、笑顔のポチが一歩離れてるのだ?」

「さぁ? 新しい遊びなんじゃね?」


 当然、心の距離が埋まる事はなかった。

「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」ノベルの1~8巻・コミックス1巻発売中。

『がけっぷち冒険者の魔王体験』書籍化決定しました。宜しくお願い致します。

⇒https://ncode.syosetu.com/n7920ei/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~』
おっさんは、魔王と同じ能力【血鎖の転換】を得て吸血鬼に転生した!
ねじ曲がって一周しちゃうくらい性格が歪んだおっさんの成り上がり!

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ