319 ダラスの秘技
2018/3/28 本日二話目の投稿です。ご注意ください。
ダラスが剣を構えてからしばらくの時間が経った。
「おーい、痺れ切らしたわりにはじっくりだなー! ダラスのおっちゃーん!」
リナたちがいる方からジェニファーの声が俺の背中に届く。
これは、今までの相手と違う印象。
もしかしてダラスは……俺からの攻撃を待っている?
「……よし」
俺が一歩前に出ると、それに応じてダラスの剣がユラリと動いた。
なるほど、やはり俺の動きを待っているな。
待ちの一辺倒。ダラスの言うレベル外の強さは確かに経験したいところだ。
これから俺が戦う相手が、これまで以上だという可能性は非常に高い。
「…………行きます!」
「来い!」
「っ! はぁあああああああ!!」
左手で杖の先端を押さえ、溜める事で右手で放つ杖の威力が上がる。
ダラスはそれを前に出ていた足を引く事でかわす。
かわした瞬間、俺はそのまま正面に前宙し、身体を逸らせながらダラスに向かって左足を落とした。
「上手いなっ!」
頭部への一撃を交わしたダラス。
俺は着地と同時にドリニウム・ロッドを横に払った。
しかし、ダラスは一瞬俺の前から姿を消した。
「あれ!?」
「こっちだ!」
いつの間にか背後に回っていたダラス。
声を掛けずに攻撃していればよかったのに、何故ダラスは――――?
「くっ! ほい! ほい! ほい!」
「鋭いが甘いな! まだ動きが直線的だ! 魔法での工夫は出来てもまだ体術が甘い!」
…………そうか、ダラスは待ちに専念する事で俺に攻撃を選ばせた。そう、俺は攻撃を選ぶしかなかったんだ。
そしてダラスは戦士。俺が相手の全てを受けきるスタンスで戦っていた事を逆手にとられたのか。
戦闘への持ち込み方が非常に巧みだ。ジェニファー戦の直後、最初に奇襲してきたのも……おそらくダラスの布石。
……くそ、とんでもないな。正に歴戦の戦士というやつだな。
しかし、まだわからない事がある……!
「こっちだ!」
「また!? くっ!」
「どうしたこっちだぞ!」
「何で!? 何で、消えるんだ!?」
ダラスは幾度となく俺の正面から姿を消し、その場所を教えてくる。
高みからの余裕? いや、違う。それ程長い付き合いじゃないが、ダラスはそういう事をする人間じゃない。
「こらー! マスター! ふざけてないでちゃんとやってくださいー!」
「うるせぇ! しょうがないだろう! ダラスさんが消えるんだからっ!」
「全然消えてないですよ! 馬鹿マスター!」
「……えっ!?」
俺には見えないダラスが……ポチには見えているっ?
そうか、ダラスは言っていた。「見せてやろう……レベル外の強さというものを」と。
ダラスは俺に何かを伝えようとしている。今この場でダラスだけが持つ秘技のようなものを。
考えろ……ポチに見えて俺に何故見えない? おそらく今のポチと俺に肉体的な差は殆どない。そして相手はダラス。この時代ではレベル百が限界。今後俺が限界突破を解放軍に提供したならまだしも、今のダラスの動きがそれほどだとも思えない。
ならば俺とポチで何が違う?
考えられるとするならば…………ダラスとの距離?
「よっと!」
そう思った俺は一旦ダラスから距離をとった。
しかし、ダラスはこれまでの距離を維持するように、俺にピタリと付いて来たんだ。
「っ! やっぱり距離か!」
「そうだ。だが、それでは答えになっていないぞ!」
ダラスからの攻撃はない。
基本的に受けの姿勢は変わらないが……。
待て待て、この受けの中に何かしらの法則性があるはずだ。
それを探し出す……!
「はっ! ほい! よっ! このっ!」
「……っ!」
……っ! なるほど、そうか! わかったぞ!
「そこだぁあああっ!!」
「むっ!?」
無理に身体を動かし、俺はダラスの頬をかすめる突きを放った。
ダラスの頬に残る焦げ跡。ダラスはそれをそっと触り微笑む。
「レベルの開きがあり過ぎるからな。バレるのは時間の問題だと思っていた。……が、ここまで早く解答にいくつくとは思わなかったぞ」
「……ふぅ。いやー、正に盲点でしたね」
「流石だな」
ダラスが戦闘に利用したのは正に盲点。
人間の視覚。その中で特定の場所が見えなくなるという暗点が存在する。
それが盲点だ。ダラスはその俺の盲点を早い段階で見つけ、視線を誘導しながらいざという時にその盲点の中に入り込んだ。そして、俺がダラスを見失い、明後日の方角を見た時、俺に出来た死角を利用して背後に回り込んだ訳だ。
「凄いな……まだこんな世界があるなんて……!」
「今度教えてやる。魔王に通じるかはわからないがな」
「あ、ありがとうございます!」
俺はダラスの厚意に深く頭を下げた。
するとダラスは剣を腰元に納めた。
「あれ? もういいんですか?」
「ふふ、普通に戦っては勝てないからな。だが、意地は見せられただろう?」
肩をすくめて苦笑するダラス。
レベル外の強さか……やっぱりまだまだ工夫が足りないんだな。いや、本当に勉強になった。
魔法士の戦闘法なら俺もいくつか持っているが、この短時間で場を支配する能力は、やはりこの時代の戦士ならではという感じが否めない。
ダラスがリナたちの方へ歩き始めた時、俺の背後には一人の気配を感じた。
「そういえば、アナタの魔法はほとんど見た事がありませんでしたね」
俺は振り向きながらそう言った。
「そうですね。アズリーさんはアイリーン様の特別授業が多かったですから」
「はははは、聞こえちゃいますよ? トレースさん」
「いいんです。聞こえるように言ってますから」
とだけ、小声で言うトレースは、やはり侮れないなと思ってしまう。
「ここからは魔法士と魔法士の戦い。という事ですか?」
俺は残るアイリーンとウォレンを見渡しながらそう言った。
「ふふふ、どうでしょうね」
トレースは微笑みながら俺の近くまで歩き、そして……あれ? 通り過ぎて行ったぞ?
「え? やらないんですか?」
「ちょっとあちらに用があります」
そう言ってトレースは、ダラスが腰を下ろしたリナたちの方へ歩いて行った。
はて? あちら側の誰かに話があるのだろうか?
そう考えている内に、俺の正面にはついにこの人が立った。
「私の持てる全てで引っ叩いてやるわ。手を抜いたら承知しないからっ」
「は、ははははは…………」
こりゃさっきのジェニファー戦みたいに、全部攻撃を受けたら怒るって言ってるんだろうな。まったく、困ったお婆ちゃんだ事……。
「何よその目は」
「元聖戦士の目、してませんか?」
「まったく見えないわね! ふっ!」
瞬間、アイリーンは気合いを込めるように息を漏らし、その内に眠る魔力の一端を見せた。
まったく凄いな。トゥースの所に学びに行っただけの事はある。それ以外でも、相当自分の事痛めつけたんだろうな。
というか、ウォレンだけは一歩も動かないのが不安過ぎる。
あんにゃろう、一体何を考えてるんだか……。
「それじゃあ、やりましょうか」
と、一瞬ウォレンの方を見ただけだったのに――――
「デュアルドラゴン!」
「ちょわっと!? 早い!?」
いつの間にかアイリーンは大魔法を発動していた。
そういえばヴィオラが駆け出した時、最初に魔法を放ったのもアイリーンだった。
なるほど、それだけ宙図の速度を磨いてきたって事だな。
「いくわよ、アズリー……!」
アイリーンの瞳が怪しく光る。
うーん、やっぱりサガン時代のアイリーンの方が可愛かったなぁ。
まぁ、それだけ経験を積んだって事だよな。
「アースジャベリン・カウント10!!」
「なっ!? 嘘だろ!?」
アイリーンが放ったソレは、俺がかつてアイリーンに見せた、分裂発動型魔法だった。
「ハ、ハハハハ……」
凄いなこの人。
この短い期間で、これ程……!
「この二年、誰よりも修練を積んだ自信がある。勿論アズリー……アナタよりもね」
アイリーンのこの言葉を聞き、俺は背中に冷たいものを感じた。
「マスター! こっちウォレンさんしかいません! 助けてくださいー!」
やばい、俺も助けて欲しいかも。
今日はここまで・x・
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