◆297 援軍
2018/2/28 本日四話目の投稿です。ご注意ください。
憤怒に染まるビリーの貌。
ガストンはその貌に杖を向け大きく息を吸った。
そして叫ぶ。未だ死闘を繰り広げる部下たちに対して。
「これより先手出し無用! これは儂の戦いだ!」
それはビリーも同じだった。
「貴様ら……散れ」
ゆっくりと手を振ってガストンの周囲からアルファを退かせるビリー。
「頭を叩くというのなら作戦は成功だな、ガストン……」
「ふんっ」
「しかし、貴様に向いていたアルファが他に行けば、貴様の部下たちの負担がより一層増える。どうやらそこまで頭が回らなかったと見える」
「そんな事は頭を叩きつぶしてから考えればいい事だ」
「……面白い冗談だ」
それだけ言った後、二人の間には沈黙が流れ、やがてビリーの赤い目が大きく見開かれる。
「カァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
「…………っ!」
吹き荒れる魔力の嵐の渦。それを前にガストンの顔に緊張が走る。
しかし、ここでガストンが引く訳にはいかなかった。今ここでビリーと戦えるのは、自分だけだと知っていたからだ。
「ぬんっ!」
放出した魔力は周囲のビリーの魔力を吹き飛ばした。
だが、肌で、感覚でそれを感じていたリナやオルネルは、いや、この戦場にいる魔法士は全員気付いていた。
(明らかに……)
(ビリー先生よりガストン様の魔力の方が……)
そう。オルネルとリナが考える通り、ガストンの魔力は王都守護魔法兵団の中でも他の追随を許さない程強力だ。
しかし、それを知っていても尚、ビリーの魔力量は次元が違った。
(これはまるでアズリーさんの魔力に……近い?)
禍々しい悪に染まった魔力ではあるが、その総量はリナが最も尊敬するアズリーに匹敵するものがあったのだ。
正面に立ちながら、ガストンが自らの非力を理解していないはずがなかった。
「はははは、小さい。何とも小さいなぁ……ガストン」
「戦闘は魔力の優劣で決まるものではない」
「それは、両者の魔力の差が大きくない時に言うものだ」
「では証明して見せろ……」
「ほざくな……カァッ!」
一瞬でガストンの前に跳んだビリー。しかしガストンは最小限の動きでその側面に回っていた。
振り上げられた拳は、的確にビリーの左頬を打つ。常人であれは頭が吹き飛ぶ程の衝撃。だが、ビリーが受ければ、それは赤子の如き児戯。
不気味な笑みを浮かべてビリーが呟く。
「十二士筆頭様に何をする、ガストン?」
「くっ! はぁ!」
手を大きく開き、ビリーの顔に向けて魔力を放出するガストン。
「危ないじゃないか?」
屈み、ガストンの攻撃をかわし、その右腕を掴むビリー。
「危ないのはこの次だ」
この言葉を聞き、ビリーが見たのはガストンの左腕。
手に持つ杖は、五つのスウィフトマジックが入るダマスカスロッド。現在作られている杖の中で最高の代物である。
ビリーの視線は杖の先にあった……自分の足下。
「くっ!」
「ロックブラスト……」
直後、大地が弾け、音と共にビリーの身体が打ち上がる。
「ぐぉ!? おのれ、猪口才な!」
すぐに体勢を整え、眼下を睨むビリー。しかし、いるはずのガストンがいない。そして見つける。ロックブラストによって弾けた地面の近く。ガストンが立っていた場所が不自然に掘り下がっているのだ。
気付いた時には遅かった。降下が始まる直前にガストンによって叩かれた場所は背中。
「がぁっ!」
物凄い勢いで地面に叩きつけられるも、ビリーは四肢を大地に付けて衝撃を回避する。
しかし、降下してくるのはビリーだけではない。
ガストンはこの間に空で宙図を行っていた。
「バースト!」
空と自分とビリーの直線上に向けて放たれる魔法。当然それは降下以上の速度を生み出した。
ビリーの着地の直後、ガストンの強烈な蹴りが再び背中に振り下ろされる。
「ぐう!?」
「使われるのが大魔法だけだと思わぬ事だ。アースコントロール!」
スウィフトマジックから放たれるアースコントロール。その動きは通常の土壁を形成するものとは違い、ビリーを拘束するように動いていく。
「ふん、こんなもので私が動けぬとでも!?」
「思わんな。だから一瞬でいいのだ」
右手で描かれていた宙図。この戦闘中に描き切る技術と胆力。それが出来る男。王都守護魔法兵団の長たる男……ガストンが囁く。
「ヘブン・ヴァーミリオン」
瞬間、ビリーの身体を中心に周囲が強力な炎によって包まれる。その威力は、かつてベティーのランクS昇格審査の時に放ったソレとは明らかに違った。
「ぐあぁあああああああああああ!!」
ビリーの叫び声が、周囲にただならぬダメージを知らせる。
ガストンすらもその手に確かな感触を覚えた程である。
「ああああああああああ――――」
油断こそが敵。長年の経験からそれを知っているガストンは追撃の魔法の宙図に入った。
ガストンの判断は正しい。経験は人間に大きな成長を与えるものである。それはこれまでガストン自身を多く助けた。
ガストン唯一の認識の違い――そのこれまでの中に、悪魔が存在しなかった事。
「あああああ。あ、あ、あ…………あぁああああっはっはっはっは! そうか、これか! これが焔の大魔法士と呼ばれる男か!」
「ファイアランス・レイン!」
追撃の魔法が、未だ炎の中にいるビリーの頭上から降り注ぐ。
魔法は確かに当たっている。けれど、ガストンが抱える不気味な感覚は強まるばかりである。
「なるほど、確かに攻撃の一つ一つが熱い。炎とは違った熱さ。四大元素とは違った熱さ。これは面白い。さぞ面白い研究題材となるだろう」
炎の中から聞こえる拍手。
ガストンが気付く。声には余裕が、余力が……ガストンの想定以上にあるのだ。
「だがそれだけに惜しい。こんなに面白い研究対象が…………この場で死んでしまうのだから、なっ!」
力を込めて振り払った炎。その中から現れるは……無傷のビリー。
「さぁ、もう一度聞こうガストン? この現状を目の当たりにして……戦闘は魔力の優劣で決まるものではないと、まだ言えるのかね?」
「…………っ」
ビリーを睨みながらガストンが口を結ぶ。
「はははは、ついに言葉を失ってしまったか。言いづらい事を聞いてしまったようだな。だが、そうやって黙っている間にも、一人、また一人と部下が死んでいくぞ? 早く何とかしなくてはな……!」
見下すようにビリーが言う。しかし、その言葉は正しく、先程より味方は減っている。
このままでは全滅は必至。それはガストンにもわかっていいた。
(アイリーンの援軍……断っておいて正解だったな。誰が来たところで今のビリーには勝てない……。せめて退路でも確保しなければな。リナに何かあっては小僧に顔向け出来ぬわ……! しかし、どうする? 全力で当たっても砕けるのみ。それでは意味がない。何か、何かとっかかりがあれば……!)
「さぁ、大詰めだな。ふふふふふ……っ! 何だ?」
最初に気付いたのはその背に異変を感じたビリー。笑い声の直後に背中に届いた鈍痛。
強固な魔力で覆っている壁を突き抜けて届いたのは斬撃。
ビリーの背中から流れる赤い血。
「不意を衝いたにしても見事……誰だ?」
横目で背後を見るビリー。その視線は鋭く突き刺さるようだ。
(馬鹿な、こんなところに援軍なぞ……)
今度はガストンが最初に気付く。ビリーの奥にいる人物。王都守護魔法兵団への援軍に。
「あっれー? 結構なクリーンヒットだったと思うんだけどな~っ?」
遠目に映り、軽口を叩く背の小さな……青年。
「なるほど、六勇士を抜けてどこで何をしているかと思えば…………こんなところで何をしている?」
そう聞いたのはビリー。
自身が十二士筆頭になった直後に、脱会した戦士がいた。
姿をくらませていた期間、彼がどこで何をしていたのかは誰にもわからない。
しかし、これがトレースの手配した援軍に違いなかった。
彼は、アズリーと共に魔法大学を驚かせた内の一人。しかし入学をせず六勇士となった、異質の存在。
「天秤の異――――バルン」
バルンはお気に入りキャラの一人




