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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第九章 ~激動編~

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◆289 カオスリザード

2018/1/31 7話目の投稿です。ご注意ください。

 メルキィが去った後の聖堂内。

 薫が運ばれたお茶に手を付け、半分ほど飲んだ頃。


「……行ったか?」


 薫の後ろ。襖の奥から聞こえた籠った声。


「あぁ行ったよ。会ってみたいってさ? どうするね?」


 薫は姿勢を変えずに背後から聞こえる声に問いかけた。


「今はまだその時ではない。機が訪れれば必ず会う事になるだろう」

「何さ、格好つけちゃって」

「ふんっ」


 不服そうな声と共に聞こえる「ちゃり」という金属音。

 薫は横目で後ろを窺いながらお茶の残り半分を一気に飲み干した。


「はてさて、この先どうなる事だかね……」


 最後にそう呟き、後ろからの返答を待つも、襖の奥からはもう何も聞こえてこなかった。


「出掛けた、か。相変わらず忙しいヤツだねぇ」


 日暮れ時、薫は暗くなりつつある部屋でお茶で温まった息を小さく吐いたのだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ―― 戦魔暦九十六年 六月二日 正午 ――


 ガストン率いる王都守護魔法兵団の精鋭たち。

 西に西に進み、クッグの廃村を通り過ぎた頃、ガストンはほんの僅かな空気の揺れ、そして魔力の揺れを感じ取った。


「止まれ」


 ガストンの声で全員が静かに止まる。

 声を大きくあげなかったのは敵から気付かれないためである。そこは流石精鋭たち。全員がその意味を理解していた。

 次第に皆が気付く。

 大地が静かに、しかし確かに揺れている事に。

 それが足音だと気付くのにそれほど時間はかからなかった。


「近くにいるな。トカゲめ……!」


 ガストンはそう呟くと、人差し指を少し咥えこんだ。


「だから爺臭(じじくさ)いと言われるのだ、ご主人」


 (ふところ)にいるコノハに皮肉を言われるガストン。


「黙っておれ」


 濡れた指で風の方向を確かめ、近くにいるであろうカオスリザートに気付かれないように、風下へ移動する。

 ガストンの動きをかじりつくように見るリナ。


「私も見習わなくちゃ……!」


 隣を進むオルネルがくすりと笑う。


「あれは別に真似しなくてもいいんじゃないか?」

「そ、そう?」

「ほら、列が乱れるぞ」

「うんっ」


 精鋭たちの足並みは静かに、しかし大胆に敵の近くへ向かう。

 やがて林の間から遠くに見え始める漆黒の姿。

 蛇のように滑らかな体表なれど、四肢があり、身体の内側は気味の悪い黄土色。

 黄色く濁ったような瞳がぎょろりと動く。


「いたな、カオスリザードだ」


 瞬間、皆が杖を構える。


「攻撃の八、揃えろ……」


 ヴィオラの号令を聞き宙図(ちゅうず)を始める精鋭たち。

 ガストン以外の全ての人間たちの濃縮された魔力が魔法陣へ集まっていく。


「……今!」

「「アイシクルヘルファイア!!」」


 五十人が放つ集約された大魔法。その全てが林の木々をなぎ倒し、カオスリザードの下へ向かう。

 カオスリザードがその接近に気付いた時は、既に遅かった。

 林一帯が業火に包まれるも、周囲に飛び火する事はない。

 その理由は先頭で馬に跨るガストンにあった。


「……ふん!」


 ガストンは、瞬時に退魔障壁を放ち、林を余計な破壊から守ったのだ。


「ギィイァアアアアアアッ!?」


 業火にのたうち回るカオスリザード。

 着火した身体から火を消そうと木々を倒しながら転がるも、行けども行けどもそこは業火の中。

 一気に大ダメージを与えた王都守護魔法兵団の精鋭たちはここでようやく大きな雄叫びをあげる!


「「おぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」」


 互いの雄叫びが互いの士気をあげ、身体から恐怖を追い出す。


「第二は東、第三小隊は西に回りこめ! 第四小隊は後方で支援!」

「「はい!」」


 ヴィオラの指示で、ジャンヌ、オルネル、リナたちが自らの小隊を率いて散開する。

 林の中であろうと、皆は巧みに馬を操り、木々の間を抜けていく。


「ガストン様」


 フユの合図のような一言。


「うむ……レデュケイト・ヒットポイント!」


 ガストンがHPを低下させ続けるレデュケイト・ヒットポイントを発動。これに合わせてフユが魔術陣を発動させる。


「ほいのほいのほい! 加速魔陣!」


 合わさる魔法と魔術。

 これにより、カオスリザードの体力が著しく低下を始める。

 そしてこの時、カオスリザードは生命の危機を察したのか、燃え続ける身体と共に、林の中を駆け始めた。


「守備の一! 揃えろ!」


 再び響くヴィオラの掛け声。

 カオスリザードが向かおうとしている先はガストンの下。

 本能からからその濃い魔力からか、カオスリザードはガストンが一番厄介であると理解したのだ。


「今!」

「「アースウォール!!」」


 ガストンの目の前にせり上がる幾重もの強固な土壁。

 カオスリザードがそれを砕きながら進む。しかし、勢いは徐々に殺され、遂にはガストンとの距離もまた広がってしまう。


「攻撃の七! 構え!」


 動きを止めたカオスリザードだったが、ヴィオラの声を聞いて再び焦り始める。

 カオスリザードの耳には残っているのだ。ヴィオラの声と共に、自身が大きなダメージを負った事を。

 粉々となった土が身体の火を消すも、未だ痛みが引かぬ以上、ここにいるのは危険。そんな判断からか、遂にカオスリザードは後退の道を選んだ。


「させると思ったか?」


 このガストンの言葉と共に、カオスリザードは目を見開いて驚く。


「……インフェルノピラー」


 背後に出現する地獄の炎。どす黒い炎が行く手を阻み、カオスリザードの足を止める。

 地面から噴き出るような鋭い刃物のような炎を前に、カオスリザードの顔は恐怖に染まる。


「今!」

「「アースランス!!」」


 最後に選んだ逃げ場。それは土壁を駆けあがるというもの。

 しかし頭上から降ってくる土の槍がそれを許さなかった。

 巧みに避けながらも、徐々に身体に刺さる土の槍。

 四肢を貫かれ、動きすらままならぬカオスリザード。

 レデュケイト・ヒットポイントの加速化により、その動きは著しく悪く、弱くなっていく。


「……リモートコントロール」


 ガストンの口がそう動くと、カオスリザードの背後にあったインフェルノピラーが徐々に動き始めたのだ。カオスリザードの下へと。

 動かぬ身体。動かぬ四肢。けれどその獰猛な目だけは動く。

 故にその目は自分の死を間近に、現実的に突きつけた。

 インフェルノピラーが身体を焼き、土槍を焼き、土壁を焼き、最後に命を焼いた時、勝負は決まった。


「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」


 勝鬨(かちどき)をあげる精鋭たち。

 誰一人として欠けず、誰一人として傷を負わぬ完勝ぶり。

 その勝利の美酒に、誰もが喜びを露わにした。


「おめでとうございます。ガストン様」


 ヴィオラの祝辞に頷くガストン。


「うむ。もしかしたら半分程でよかったかもしれぬな」

「いえ、出来れば多くの者に「SSランクのモンスターと戦い、そして勝った」という事実が必要だと思いました。これはこれで()い結果かと思います」

「ふむ……かもしれぬな」


 少しだけ顔を緩めたガストン。

 しかし、直後、東側第二小隊の方から悲鳴が届く。


「ぐわぁあああああああっ!?」

「「っ!?」」


 最初に気付いたのは第二小隊隊長のジャンヌ。

 しかし時は遅く、ジャンヌが悲鳴の方向へ向いた時、部下の一人の顔は、噛み砕かれた後だった。


「うわぁ!?」

「な、何だこいつは!?」


 口々に恐怖を見せる部下たちの声。

 ジャンヌは咄嗟に叫んだ。


「後退! 後退だっ!」


 その指示を受け、第二小隊の全員は手綱を引いて第一小隊とガストンがいる方へ後退を始めた。


「何事だ!?」


 ヴィオラがそう叫ぶも、状況はわからなかった。

 しかしその時、リナは動いていた。


「シャープウィンド・アスタリスク!」


 林の被害を最小限に留めた今回の戦闘だったが、怪我人や死者が出てはそうも言っていられない。

 リナは悲鳴からその事を察し、瞬時に風の大魔法を放った。

 そして正面を大きく切り開いて皆の視界を拡げたのだ。

 それに気付いたジャンヌが第二小隊を率いて切り開かれた林跡を駆けてくる。

 直後、ガストンが林の木々より高く跳び上がる。

 そして高所から第二小隊の後ろを睨む。


「何だアレは……!」


 ジャンヌたちに迫る四足歩行の生物。

 それは……ビリーが作った異形の生物だった。

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