276 ………………あれ?
「…………ふぅ。っ!? いってぇ!?」
「ふぅ。じゃないですよ、ふぅ。じゃ! ここに戻って来た時私一人で寂しかったんですからね!? 今の今まで一体どこほっつき歩いてたんですか!?」
「だからってスコーンと殴る必要ないだろう! 何そんなに怒ってるんだお前!?」
「だってー! さっきとかさっきとかさっきとかー! リーリアさんと仲良さそうにしちゃってー!? マスターの鼻の下なんてこんなに――――あ! 私鼻の下短いから真似出来ません!?」
「何言ってるんだよ! 俺のあの精悍な顔つき見なかったのか!? 世界中の役者を探しても中々見つからねぇよ!」
「謝ってください!」
「誰にだよ!?」
「精悍という言葉に対してです!」
「対象が人ですらねぇのかよ!」
「ところで馬鹿マスター!」
「何だよ犬ッコロ!」
「ここ! どこなんですかっ!?」
「ようやく言ったな! 俺も視界に広がる荒野にちょっとばかり驚いてたところだ!」
「んもう! 気付いてたのならもっと早くに指摘するべきですよ! 馬鹿マスター!」
魔王を倒すより、コイツの責任転嫁の早さをどうにかするべきだったかもしれない。
戻った直後にスコーンって殴られてポチに怒らない方がおかしいだろう?
「ん? そう言えばもう目は大丈夫なんですか?」
「あぁ大丈夫みたいだ。時空転移の際、神が何かしたんだろうな、きっと。ていうか、今更過ぎるだろう。目の回復を知らずに俺の頭部を殴打したのか、お前は……」
「何か、いつものマスターっぽかったので、つい」
俺は、「つい」で人を殴る使い魔を育ててしまったのか。
「あ、マスターにだけですからね!」
俺だけだった。
「それに、まだわからない事があります!」
こういう知的欲求は俺を見て育ったからだろうか?
「何だよ?」
「私たちが過去に飛んだ時は、こうグイーンって飛んだような気がしたのに、何故今回戻って来る時はあんなにも自然に飛べたのでしょう?」
「魔王ルシファーっていう存在が消えて、あの時代の神の力が正常に戻ったんだろうな。魔法陣の発動すら見られなかったのは流石神の所業ってところか」
俺の説明にポチがふんふんと頷いた後、思い出したようにまた前脚をあげる。
しかし、どうやって戻ろうかとも考えていたんだが、最後の最後はサービスしてくれたって事だろうか? まぁ、俺もあの状況で時空転移魔法を発動出来たかは確かに怪しいところではある。
聖戦士の恩恵を受け、あの魔力があれば、おそらく発動に足る魔力は確保出来たはずだろう。だが、あれだけ身体を酷使した直後となると、しばらく時を置いてからとも思っていたが、事は性急だったという事か。
「はい! はいはいはい!」
「今度は何だよ?」
「戻って来てから思ってたんですけど!」
「だから何だよ?」
「身体、何か重くありませんか!?」
ポチはしばらくここで待っていたようだから、それに気付いたのか?
俺はポチの言う重さをまだ実感出来なくて、身体の至る所を動かしてみた。
ふむ………………確かに少し重い? いや、待てよ?
「どうしたんです、マスター? 鑑定眼鏡ですか?」
その通り。俺は咄嗟に鑑定眼鏡を反射発動させ自分のステータスを覗いてみた。
「っ! そういう事か……!」
「な、何です!? マスターのその顔! 嫌です!」
長年付き合ってると、こういう顔の変化でどういう状況か理解出来るのも難点だよな。
「俺の聖戦士の称号が…………消えてる」
「わ、私の聖戦士の使い魔って称号もですかー!?」
「心配は先にそっちかよ! ん~? うん、確かに消えてるな」
「いやぁあああああああああああああああ!?!?」
そんな絶望しなくたっていいだろう。別に天獣の称号が消えた訳じゃあるまいし。
だが、レベルこそ変わらないものの、聖戦士の称号の恩恵がないのは大きい。
「どうして!? どうしてなんですか、マスター!? また何かやらかしたんじゃないでしょうねぇ!?」
「何で俺が何かやらかした事になってるんだよ!? 魔王がいない時代って事は、即ち聖戦士のいない時代だ! これだけ言えばわかるだろう!?」
「せめて元聖戦士とかの称号が欲しいですー!」
「ふむ…………確かにその通りだ。まぁでも、それだけ元の時代の神の力が弱くなってきてるのかもしれないな」
「ショックです~~」
よよよと顔を伏せるポチを見た後、鑑定眼鏡で自分のステータスを改めて確認した。
自分がこれからどう動き、どう生きるか、ある程度の判断基準は必要だろうからな。
魔力はあの時の………………あれ?
「その顔、また見たくない顔です……今度は何ですかぁ?」
「魔力が…………ほとんど………………ない?」
直後、俺の頭部に先程以上の衝撃が走った。
「いっっってぇええええええ!? 何するんだよ、犬ッコロ!?」
「だったらさっさとその鑑定眼鏡を止めるべきかと思って! というか! どういう事ですかそれ!? って、いつまで鑑定眼鏡を――んぐっ!?」
俺はポチの口の中に拳を突っ込んで黙らせる。
「んー! はふっ! はっふーん! んふーっ!」
んー? ……MPが五千で固定されている? 自然回復もなくなった訳ではない。
ギヴィンマジックを使ってもそれ以上は回復しなかった。
つまり、俺の魔力は何らかの原因によって制限されてしまった。
原因とはおそらく…………神。
って事は、つまりまた、何らかの使命があるという事か。
ポチの魔力に制限がかかってないところを見ると、そういう事なのだろう。
「んほっふ! んごー! んごぉおおお!」
「おっとすまない。考え事してたんだ」
「はぷぅ! んもう! 食べちゃうところでしたよ! ちょうどいい塩味ですね!」
夜中に寝ぼけて食われないか心配だ。
「それで、どうするんです?」
「まぁ、ここがどこかもわからないけど、とりあえず人里に出るのが正解だろう。太陽の位置から察するに、あっちが北だ。もし元の時代に戻ってるなら知った風景からベイラネーアに戻ればいいだろう」
「ポチズリー商店の空間転移魔法陣に飛べばよくないです?」
「天才かお前!」
「えっへん!」
鼻高々に威張るポチを前に、俺はドリニウム・ロッドの先端を使い、地面に自宅へ繋がる空間転移魔法陣を描いた。
幸い、この魔法は今の魔力で発動出来る。
「………………あれ?」
「起動しませんね? どこか間違えたんじゃないですか!?」
「いや、流石にあそこへの魔法式を忘れるはずない。って事は誰かに消されちゃったのか?」
「それじゃあ誰かに帰還報告をしてみてはどうです? 念話連絡の魔術で」
「それだ!」
「えっへん!」
「………………駄目だった!」
「嘘ぉ!?」
ポチすらも驚くこの結果。俺は嫌な予感を感じながら、北の空を見つめた。
リナにもアイリーンにもティファにも春華にもガストンにも……銀の皆にも連絡がつかないなんて事あり得るのか?
いや、それはない。
一体、神は何をしたっていうんだ?
「はぁ……とりあえず、北に向かうか」
「ぬん! そうですね!」
俺は巨大化したポチに跨った。
「ほいのほい、オールアップ・カウント2&リモートコントロール!」
「飛ばしますよぉー!」
「おうっ!」
「アォオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!」
ポチが風になり視界が流れていく。
しばらく走ると、そこは懐かしくも見慣れた、一本の山道が見えた。
「……ここって『巨人の通り道』ですよね?」
「まぁそうだな。って事は、ここを越えれば……」
「ベイラネーアがありますよ、マスター!」
喜びながら尻尾を振って言ったポチだが、俺はやはり嫌な予感を拭う事が出来なかった。
俺たちの前に出て来るモンスターは、それほど強いというものでもなかった。
少なくとも聖戦士の時代ではないようだが……はて?
「見えました! ベイラネーアです!」
見据えた先の大きな街、見ればかつて離れた土地と何ら変わらない印象を受ける。
街の看板にはしっかりと《ベイラネーア》と記載されており、《ブルネア》でないと確認するも……どうにもおかしい。
街に入り、早速向かったのはベイラネーアの北区。
そう、ポチズリー商店がある地区である。
「………………あれ?」
「おかしいですね、マスター」
ポチズリー商店が………………ない。
ここは一体どこでしょう・x・
追伸:皆さんメリクリです。私は今日一人で高尾山を登って来ます。一人で。
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