↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第八章 ~聖戦士編・後編~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

278/497

◆275 聖戦士の帰還

 アズリーたちが魔王ルシファーを倒した後、気を失った主(あるじ)の頭を腹部に置き、その頰をひと舐めするポチ。


「んー、マスター……また血の味変えました?」


 カタリと首を傾けるポチを見て、対面で腰を下ろしていたジョルノがクスリと笑う。

 そんなジョルノの背後で、リーリアが耳に手を当てながら目を瞑っている。その目が開かれ、ほっと一息吐(つ)く。


「どうやらルシファーが倒された事で、魔王軍のモンスターたちは散り散りになったらしいわ。ポルコが応援に来てくれたそうだから一安心ね」

「ポルコさんが来てくれたんですか! それはよかったですー!」


 嬉しそうに尻尾を振るポチ。

 それをジョルノが微笑みながら見つめた後、真剣な面持ちとなる。


「さて、ポチ君」

「はい! ん? あれ? シロです! ……よ?」

「君が気を失っていた時、ルシファーがアズリーさんとポチ君の存在について話してたのを聞いてたんだ。僕はあの時倒れてて、耳でしか情報を集められなかったからね」

「あわわのわですー!?」


 アズリーの身体を動かせないせいか、首だけが色んな方向に傾き焦りを表すポチ。


「そして聞いたよー? 悠久の刻(とき)を生きる者だって。道理で身に余る知識量だと思ったよ。特にアズリーさんはね」

「悠久の刻(とき)…………トウエッドの巫女と同じく、あの悠久の雫を飲んだのね?」


 リーリアの推測にジョルノが頷く。


「まぁそんな事は僕からしたら結構どうでもいいんだけど、一つだけ解せない事があるんだ」

「歳を隠すのはまだわかるけれど、偽名を使う理由……かしらね?」

「何も聞こえないですー!」


 へたりと耳を畳(たた)んだポチが目を瞑って顔を伏せる。

 少しの沈黙が流れた後、ポチの腹部から小さな声が聞こえた。


「いい……ポチ。俺が、話す…………」

「マスター!? も、もう少し休んでていいんですよ!? 今動ける状態じゃないでしょう!」

「聖生結界とギヴィンマジックを使えば……多分大丈夫だろう」

「でも!」


 ポチの言葉では止まらないアズリーは、宙図(ちゅうず)を始め、言葉通り聖生結界とギヴィンマジックを自身に向け発動した。


「すみません、俺だけ」

「簡単な回復はポチ君にしてもらったから気にしないでいいよ。アズリーさんは、魔王戦の最大功労者なんだから。ね、リーリアっ?」

「そうね。楽にするといいわ」

「それに、まだ見えてないんでしょっ? その目」

「流石ですね」


 ジョルノの指摘に苦笑するアズリーは、ポチに身体を預けたまま語り始めた。

 自分とポチ二人は時を超えて来た事。

 時を超えた理由。限界突破の魔術を手に入れるため。この時代で生き抜くため。ポチによってポーアと名付けられたため。自分の時代での聖戦士の伝説。

 あくまでも掻い摘んで。自分の存在や周りの存在に影響しないように、アズリーは慎重に伝えた。


「あぁ~~話しちゃいましたー…………」

「俺が話す事も、あの爺さんはわかってるさ」

「「…………」」


 黙り続けるジョルノとリーリア。

 そんな二人の気持ちをわかってか、わからずか……アズリーは再び口を開く。


「まぁ……その、つまり…………多分、もうすぐお別れって事、ですかね」


 はにかみながら笑うアズリー。

 すると、二人がすっと立ち上がり、アズリーの眼前へと移動した。まるで、互いの位置を揃えるように。


「っ!」


 目の見えないアズリーに代わるように驚いたのはポチ。

 アズリーの前に跪き、頭(こうべ)を垂れるのは勇者ジョルノと戦士リーリア。

 ポチの異変を感じたアズリーが、魔力の揺らめきから二人の行動を知る。


「な……何を?」

「僕たちがいない世で、更なる敵との戦いを決めている者への礼儀…………だと、僕は思ってる」

「また魔王と戦えと言われて、戦える者はそうはいないわ。その身体、その心、その知識、その経験、アズリーの全てが尊敬に値するわ」

「どうか、その境遇を知らずにアズリーさんを軽んじた僕たちを許して欲しい」

「ごめんなさい……」


 敬愛の心と、かつての非礼を詫びる二人。


「な、なーに言ってるんですか! マスターはそんな――――」

「「――――偉大な魔法士アズリーと、その使い魔ポチに幸多からんことを……」」


 ポチの言葉を遮るように揃った二人の言葉。

 目を丸くするポチと、静かに驚き、そして苦笑し、頬を掻くアズリー。

 言葉を失ったポチの腹部から、アズリーが離れ、そして立ち上がる。

 ふらふらになりながらも頭を下げる二人の下へ歩いて行くアズリーを見て、ポチも巨大化を解きその隣に小走りで向かった。

 膝を突き、腰を下ろしたアズリーが、二人の肩にその両手を静かに置いた。

 ジョルノの顔が、リーリアの顔が、ゆっくりとアズリーに向けられる。


「お二人に会えて……本当によかった」


 恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに笑みを零すアズリーと、


「色々助けてもらっちゃいましたね! 私、お二人との時間、とても楽しかったです!」


 尻尾を振るわせながらニカリと微笑むポチ。

 ジョルノとリーリアはアズリーの手を取り、支えながら三人で立ち上がる。

 そして、中央に三人の右手を置き重ね、


「あー、私もですー!」


 三人の右手と、一人の右前脚を置き重ね、ジョルノが空を見上げながら口を開く。


「我ら四人。たとえ時は違えど悠久の友情を結ばん。その結束、幾千万年を超えても綻びはしない!」


 次にリーリアが、


「最高の絆と誇りを胸に、いばらの道を歩む友たちに力を!」


 アズリーが続く。


「聖戦士としてではない。ただただ友として。俺はこの友情を、この瞬間を忘れはしない!」

「で、ですーっ!!」


 アズリーとポチの瞳から零れる雫。

 それは決して悲しみだけの涙ではなかった。

 これまでの全てが、頼るところのないアズリーとポチの、大冒険だったからである。


「っ…………っ……」


 涙を堪えるアズリーに、ジョルノがいつもの調子で聞く。


「何か僕に出来る事はあるかな~?」

「皆に…………ありがとうと……」

「伝えるだけか~い? っ! あれ、アズリーさん?」


 ジョルノがアズリーの身体を指差す。


「あれ!? あれ!? 何か私たち透けちゃってますよ!? どうなっちゃってるんですか! マスター!?」

「これは……」


 アズリーは俯き、自分の手を強く握る。


「…………時間って事かな」


 ジョルノが察したように言うと、ポチが慌ててアズリーのドリニウム・ロッドを取りに行く。

 アズリーはそれを受け取った後、静かに呟いた。


「そう……みたいですね……」


 悲しそうな様子のアズリー。

 すると、目の前のリーリアが恥ずかしそうに叫んだ。


「ア、アズリー!」


 きょとんとするアズリーとポチ。


「そ、その…………出来れば何か、アズリーとの繋がりが欲しい」

「…………へ~、あのリーリアがねぇ~?」


 茶化すように言ったジョルノの頬を、拳でどつくリーリア。


「あいてっ」

「エルフは仲間との別れの時、相手との繋がりを大事にするのよっ」


 そんな二人のやりとりにくすりと笑ったアズリー。


「そうか、そういう事か」


 そう言ったアズリーは、指で宙図(ちゅうず)を始めた。


「ほい、ストアルーム」


 黒く深い空間からアズリーが取り出したモノ。

 それは、一枚の羊皮紙だった。

 その羊皮紙に、アズリーが魔力を込めて何かを書いた。


「ではこれを」


 きょとんとするリーリアがその羊皮紙を受け取る。


「何も……書かれてないけど?」

「後でわかりますよ」


 含んだ笑みを浮かべたアズリーは、仲間との最後の時を感じ、ポチの頭に手を置いて、満面の笑みを浮かべて見せた。

 そしてそれは、ポチも同様だったのだ。

 光に包まれたアズリーとポチが二人の前から消える。

 どこに消えたかもわからない。しかし、二人は揃って空を見上げる。


「いや~、面白い人たちだったね~……」

「えぇ、本当に…………」

「う~ん、やっぱりらしくないな~。ひょっとして本当にアズリーさんを~?」

「そんなはずある訳ないでしょう!」

「本当かな~?」

「……で、でも今まで会った男の中では一番…………だったわね」


 そんなリーリアの言葉を受けて、目を丸くするジョルノ。

 直後、激戦地の上空に大きな笑い声が木霊(こだま)した。

 激怒するリーリアの声と共に……。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「おかしい」


 ぽつんと一人立つアズリー。

 未だ透けている身体。

 右手にはドリニウム・ロッド。

 そして左手はポチの頭に載せていた。はずだった。


「ポチが……いない? それにここは…………っ!」


 聖生結界のおかげか、微かに見えた周りの景色は、アズリーにとってとても懐かしい場所だった。

 そう、ここは――――


「――――フルブライド家」


 正面に見えたのは、かつてジュンと蜂蜜酒(ミード)を呑(の)み交わした部屋。

 偶然か必然か、その扉がゆっくりと開かれる。

 俯くジュンが、足下の自分以外の影を発見する。


「っ!」


 言葉を失うジュン。両の手で口を塞ぎ、ボロボロのアズリーをただ見つめている。

 次第に潤む瞳と歪む顔。


「えーっと…………――っ!?」


 アズリーが次の言葉を発する前に、自分の胸に置かれた細い両腕。

 眼下に見えるジュンの震える肩。

 それは、長くも短い……別れの抱擁(ほうよう)。

 それは、ジュンにだってわかっていたのだ。


「すまない……ポーア殿…………」


 アズリーの胸の中で、精一杯震える声を絞り出すジュン。


「……えっと、アズリーって呼んでください」

「…………そうか」


 アズリーは全てを言わず、ジュンは全てを聞かなかった。

 ただ一時の静寂だけ。それが二人の会話だった。

 やがて俯くジュンの口が開く。


「魔王は……倒したのだな」

「ははは、何とか……」

「そうか……」


 再び訪れた沈黙はそう長くはなかった。

 身体の震えを止め、静かにアズリーを見つめるジュン。

 その顔は儚げで、辛そうな……女の顔。


「勇気を…………くれないか?」


 ジュンの不思議な言葉の正体。

 それは、今後訪れる政略結婚に理由があった。

 それを言えないジュンと、聞けないアズリー。

 しかしその意味がわからないアズリーではなかった。

 ジュンの両の肩を抱えていたアズリーの手が後ろへと回る。

 その逞しくも優しい抱擁に、ジュンの顔が安堵の色に染まっていく。

 アズリーの胸に置かれるジュンの頬。

 ほんの一瞬。しかし確かに訪れた幸せの笑み。


「ありがとう……」


 消えゆくアズリーに掛けた最後の言葉。

 そして見つめ合い、やはりアズリーは笑顔を選んで消えていった。

 後に残ったのは……ほんの少しの獣臭。


「ふふふ……この匂い。好き」


 天井を見つめ、涙を堪えながら言うも、その雫は止めどなく溢れ、頬を伝っていく。


「ありがとう……!」


 再び呟くジュン。

 涙を拭(ぬぐ)い、歩き出す背中は既に、誇り高き騎士の背中となっていた。

これにて、『第八章 ~聖戦士編・後編~』が幕となります。

次回は……………………戻るぞ現代! 多分!


【ガチな後書き】

本当はジュンとの別れを入れるつもりはなかったんですが、せめて……少しでもジュンが報われて欲しいなと思って書きました。

読者の皆様にも、是非ジュンの気持ちが伝わればいいなーと思ってます。

さて、まだまだ続くアズリーとポチの珍道中。

まだまだ残る謎は一杯。私の力量もいっぱいいっぱい。

おそらく今章は全ての章を通して最も多く書いたと思います。そもそも聖戦士編が三章に及ぶなんて考えてなかったよ!

しかし、物語の根幹の部分とアズリーの成長の面では本当に必要な事だったので、念入りに書かせて頂きました。

聖戦士編、いかがだったでしょうか? もし、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

本当は少しお休みしたいところですが、今月15話を更新すると言い切ったあとなので、明日以降も物語は続きます。

願わくば、面白いと思って頂いた方は是非、書籍も手にとって頂ければ嬉しいです。

ほら! モチベーションあがるし! 普通に私の糧に繋がるし! WINWINじゃないすか!? え、違う?

「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」1~7巻、自称絶賛発売中なので、是非是非宜しくお願い致します。

それでは皆さん! 『第九章 ~激動編(仮題)~』も宜しくお願いします!     壱弐参







「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」ノベルの1~7巻・コミックス1巻発売中。

※是非ご購入くださいっ!(切実)

※ニコニコ静画でアズリーの漫画第六話が公開中。コメント見るの楽しい!

※コミック アース・スターではその続きの第七話が公開中。ダイナマイト回です。


『がけっぷち冒険者の魔王体験』、宜しくお願い致します。

⇒https://ncode.syosetu.com/n7920ei/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~』
おっさんは、魔王と同じ能力【血鎖の転換】を得て吸血鬼に転生した!
ねじ曲がって一周しちゃうくらい性格が歪んだおっさんの成り上がり!

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
[一言] また泣いてしまった・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。