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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ 作者:壱弐参

第八章 ~聖戦士編・後編~

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258 ジュンの事情

 紫死鳥の「忘れぬぞぉ!」という声を背中に、俺たちはブライト少年がいるであろう山の山頂に向かった。
 へぇ、二人共少し背が伸びて……おぉ、フェリス嬢よりブライト少年の方がもう大きいんじゃないか?

「……怒ってる?」

 そう言うなら最初からやらなきゃいいのに。
 だが、このフェリス嬢も成長したもんだな。
 ちょっと前からは想像も出来ない程だ。
 自分の非を少しでも認識出来るなら、将来も安心かもしれないな。

「はぁ……怒ってません」
「……何で?」

 どんな顔をしていいのかわからないのだろう。
 フェリス嬢は困惑すら顔に浮かべられずに、ただただ俺に聞いてきた。

「チャッピーから色々聞きました。沢山の人々を救ってきたようですね。最初は怒ろうとも思いましたが、それを聞いてお二人がもう素晴らしい大人(、、)だという事はわかりました。俺にだって出来たかわかりませんしね」

 苦笑しながら言うと、ブライト少年とフェリス嬢はお互いに顔を見合ってからまた俺を見た。
 だけど、言うべき事はしっかり言わないといけないだろうな。

「家をお捨てになるのですか?」
「そう決めた訳じゃないわ」
「ふむ? ではどういった理由で家を飛び出したのです?」
「このままじゃジリ貧だからよっ」

 フェリス嬢は拳を力強く握りながら言った。
 ……ところで、フェリス嬢の背中から飛び出てる身の丈程の金棒は一体何だ?
 もしかしてこんなの振り回してるのか、この子……?
 しかし、ジリ貧…………か。フェリス嬢もそれ以上にうまい言葉が出てこないようだ。
 おぉ、フェリス嬢とブライト少年でハイタッチした。なるほど、交代って事か。

「コホン。フェリスさんはこう言いたいんです、師匠。『魔王に滅ぼされたら貴族もクソもない』と」
「そう、それよ!」

 クソも入ってていいのか。
 ブライト少年も、姑息な手でフェリス嬢に復讐するなぁまったく。
 いや、もしかしてブライト少年の気持ちすらも込めているのかもしれないな。

「つまり、まず魔王を倒さなくては結局は家もなくなる……と」

 フェリス嬢がふんふんと頷く。

「家の事は――」
「――魔王を倒した後で考えればいいのよ!」

 フェリス嬢が金棒をぶんぶんと回して言い張った。
 ふむ、相当な錬度だな。おそらくランクAのモンスターならものともしないだろう。
 なるほど、伊達に子供たちだけでソドムを目指した訳じゃないらしい。
 三人束になればランクSSのモンスターとだって渡り合える程の実力。
 元々才気溢れる弟子二人だ。魔王が復活する間際のあの短期間に()を経験出来たのは相当大きな収穫だったみたいだな。
 だが、魔王は既に復活してしまった。この先の魔王軍の動きはジョルノでも読む事は出来ないだろう。
 ソドムの街も確かに人手は欲しいが…………困ったな。

「マスターマスター」
「何だ、シロ?」
「まずは保護者に連絡するのがいいと思います」

 (もっと)もな意見だ。
 まずは……ジュンからだろうか。
 俺は念話連絡の魔術を起動した。

『お久しぶりです、ジュン様』
『…………ぁ』
『ん? 元気がないようですが、大丈夫ですか?』
『あ、いや……何でもない。久しぶりだな、ポーア殿』

 ポルコがジュンは今大変な時だと言っていた。
 話は早急に切り上げるのがいいだろうな。

『お探しの弟さん。先程保護致しました』
『っ! ……その口ぶりでは大きな怪我はないようだな』
『えぇ、この後ポルコ様に連絡するつもりです。そちらへ帰そうと思いますが……いかがしましょう?』
『言いたい事はわかっているつもりだ、ポーア殿。たとえ今ブライトを帰しても、ブライトは必ず私の下を離れソドムの街へ向かってしまうだろう』

 なるほど、弟に関しては鈍感かとも思ったが、しっかりブライト少年の根底を見ていたという事か。
 確かに、今のブライト少年ならジュンの制止を振り切って外へ出てしまうだろう。
 もしかしてジュンの弟に対する過剰な反応は…………ブライト少年の成長に関係したんじゃないだろうか?
 現に成長したブライトには諦めの感情すら見える。
 俺の考えが正しければ、おそらくジュンは怖れていたんだ。ブライト少年が大人になる事を。
 だからこそ過敏に、過剰に、時には過激に弟を守り、自分が前に出た。
 ブライト少年が大人になれば、必ず矢面に立つ状況……いや、それ以上の状況の場。つまり魔王軍と正面切って戦う立場になっただろう。
 だからこそジュンは、ブライト少年を出来るだけ子供のままでいさせたかったのだ。
 国を支える貴族としての立場と、弟を想う姉の立場。それらの葛藤の中で生まれた結論が…………もしかしたら魔法指導の家庭教師だったのかもしれないな。
 これは、五千年後の文明とも関係するものかもしれない。魔王の楔によって成長を止める人類……か。
 神の使いが言った言葉が俺の頭の中で何度も過った。

『弟の……ブライトの好きにさせてやってくれないだろうか、ポーア殿?』
『…………わかりました』
『頼む――とはもう言えない立場かもしれないけれど、気に掛けてやってくれ』
『……しっかりと頼まれました』
『感謝する……』

 しかし、気になる。
 やはりジュンの言葉に力がないように感じる。ブライトが行方がわかったのなら一気に回復してもいいと思うが、それ以外にも何かあるのだろうか。
 大変な時期……か。簡潔に話を終わらせようとも思ったが、ジュンの事も心配だ。
 聞いておくのがいいのかもしれないな。

『やはりお元気がないように感じます。お疲れなのでしょうか? 私でよければ何か力になれるかもしれません』
『ははは、いくらポーア殿でもそれは無理(、、)だろう。だが、心配はとても嬉しい。それだけで力が出てくるようだ』
『しかし――――』
『――――ブライトの事、お願いする』
『お話しになるつもりは……ないようですね』
『ポーア殿にだけは、な。…………キミにだけは――――ッ』

 最後の言葉が少しだけ揺れ、ジュンとの念話連絡が途切れた。
 俺は以降ジュンに連絡する事なく、取捨選択で用事を片付けるように今度はポルコに連絡をした。
 ジュンの精神状態が揺らいでしまった今、俺にとって出来る事はそれだけだったから……。

『――――という訳で、ブライト様はこちらで預かる事になりましたけど、フェリス様はいかがしましょうか?』
『むむむ……あのジュン殿がそう言われたのか。どうしたものだろうか……やはりアレ(、、)が響いてるのか? いやいや、ジュン殿も気丈に振る舞っていたし……いやいやいやいや、もしかするとポーア君の前だけは別だったのかも――――』
『――全部聞こえてますよ』
『ぬぁ!? ぬ、盗み聞きとは趣味が悪いようだね、ポーア君?』
『とか何とか言って、そこは計算ずく何でしょう? アナタの性格は知ってるんですよ、ポルコ()?』
『ふ、流石は聖戦士ポーア……見事だ』

 かつてここまで安っぽい「聖戦士ポーア」があっただろうか。
 あ、あったわ。ポチが「聖戦士ポーアさん、ご飯まだですか!?」とかよく言ってたわ。
 あまり気がすすまないが――

『聞かせてくれませんか? ジュン様があそこまで元気をなくしているのか……。ポルコ様も伝えなくてはならないと思ったからこそ、そんな芝居をうったのでしょう?』
『うむ…………我々の世界ではよくある事。しかし自由な冒険者の間では絶対に起こり得ない事。そんな事態が今ジュン殿の身に起こっているのだ』
『というと?』
『……家の名を残すための政略結婚(、、、、)というやつだよ』

 そういう……事だったのか。

『皇后イディア様の行方がわからなくなり、魔王が復活が近かった時、聖帝ハドル様は一つの手を打った。ポーア君にだったらわかるんじゃないかな?』
『……穏健派と革新派の統一』
『そう。幸い、表立って動いていたのはイディア様とダグラス家のみ。他家の有力な貴族はイディア様の圧力や奸計、バディンによって操られていた者も少なくない。だからこそ国の混乱を避けるため、ジュン殿は自ら進んで有力貴族との仲を深めようと動いたのだよ。無論、私も……』
『ポルコ様も?』
『うむ、フェリスが出て行った直後に決まった。子孫を遺さねば国は傾くばかりだからね』

 だから、だからジュンは無理だと俺に伝えたのか。
 こればかりはジュンの意志の上での決定。果ては国の決定だ。
 そしてそれは歴史となり俺とポチにとっての過去となる。今、俺が何かをして歴史が動いてしまっては、何が起きるかわからない。
 俺自身も手が出せない状況。
 フルブライド家とアダムス家は、俺の時代ではウォレンやジェニファー、オルネルの代まで続く必要があるのだから。

『深く考える必要はないよ、ポーア君? 貴族の中では当たり前の事だ。次の世代に時代を託すのは我々の義務だからね。民の税で生きている身だ。これくらいの滅私は付いて回るものだ』
『しかし……――』
『――しかし? 厳しい事を言うようだが、ポーア君にその先の言葉が見いだせるのかね? 君は君で君の責務があるのではないのかね? 魔王討伐なんて大仕事、そこらの貴族に出来る事なのかね? 断じて出来ないよ。ポーア君だから、シロ君だから出来る可能性を見出せるのだよ。そんなものに比べれば、私やジュン殿の責務など、大したものではない。無論、女性であるジュン殿にとっては辛い選択かもしれない。だが、既に決まった事なのだよ』

 立て続けに言葉を並べるポルコは、どこかわざとらしい印象を俺に与えた。
 まるで俺に「振り返るな」と言っているように。
 その後、完全に言葉に詰まった俺の反応を受けてか、ポルコが話題を変えた。

『フェリスは、どうしているかね?』
『……身の丈以上の金棒を地に突き立てて、眼下に広がる山々を眺めています』
『ふふふ、鬼に金棒。いや、フェリスに金棒といったところだね。体術に関しては、既に私より上だろう。最後まで甘えるようで申し訳ないが、上手く導いてやってくれないかね?』
『……わかりました』
『ポーア君の友情に……感謝する』

 最後に少しだけ笑ったポルコは、そのまま念話連絡を切った。
 ポルコもポルコで辛い状況だろうに……自由な冒険者と違って、貴族ってのは本当に不自由なんだと思い知らされるな。
 考え事をしながら俯いていた俺の顔を、ポチが覗き込んでくる。

「どうでした?」

 いち早く念話連絡を終えた事を理解しての行動か。
 ポチの声に反応して、周りの皆が一斉に俺を見つめてくる。
 チャッピーはともかく、ブライト少年もフェリス嬢も……強い意志を向けてくる。
 いや――――彼らももう大人(、、)か。

「チャッピー、ブライト、フェリス……行こう。ソドムの街へ」

 ブライトとフェリスは、顔をポカンとさせた後、互いに見合ってから笑みを零した。
 そして口を固く結び、また俺を見た後……――

「「はいっ!」」

 やまびこにもなりそうな元気な声で、俺の背中を叩いた。

「って、ちょっと! 呼び捨てなんて自分の立場がわかってるのかしら!?」
「フェリスさん、僕たちは既に冒険者。上も下もないって事ですよ」
「父上! 母上! チャッピー仮面はどこまでも付いて行きます!」
「マスター! 私の名前がありませんでしたよ! ねぇマスター!? 聞いてるんですか!?」

 今は、前だけを見つめて歩こう。
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