253 復活
「むわぁったくっ! 私がどれだけ苦労したか知ってますか!? 何でマスターはそんなに安直なんですか!? いえ、愚直ですよ愚直! 私はいいですよ!? 大変なのはウェルダンさんの方です! 私が牛から元の姿に戻ってもしばらく我を失ってましたからねっ!? ちょっと、聞いてるんですかマスター!? 私まだまだまだまだ許してなんかいませんからねっ!!」
「はい、すみませんでした」
「んまー! よくもそんな事を言えたものですね!? すみませんで済む問題と済まない問題がある事を知るべきです! そもそも! 何であんないたずらしてくれちゃったんですかっ!」
ポチが俺の話を色々すり替えてジョルノに話していた――と言ったらポチとジョルノの会話を盗み聞きしていた事がバレてしまう。
そうなるとまたギャーギャー喚かれてしまうからなぁ。
むぅ、ポチの視線が鋭い。
とりあえず何か言い訳しておこう。
「そ、そこに――」
「――そこに! 何です!?」
「そこに、シロがいたから…………かな」
あんぐりと口を開けたポチはかなり秀逸かもしれない。
そしてその場でよよよとへたりこんで、首のスカーフを目元に持っていくポチ。
「うぅ……マスターの使い魔をやって八百と余年…………まさか! まさかこんなにもマスターの私への扱いが酷いとは……! 私、悲しいですよ!」
「いやぁ、だってまともな言い訳が思い浮かばなかったんだから仕方ないだろう……」
「言い訳っ!? じゃあ何ですか!? 本当の理由が別にあるって事ですかっ!?」
あ、やべ。
「ちょっとそこんとこ詳しく聞かせてもらいましょうか、マスターッ!」
「あーあー、わかったよ! お前がジョルノにしてた話な! ほとんど聞いてたぞ!」
「ひゃいっ!?」
心当たりあり過ぎなご様子。
「どれもこれも俺の話をシロの話に替え、そのどれもがシロのいいとこどりだっただろうがっ!」
「ひぃいいいいいっ!? そ、そんな事はありません! 全部私が主人公でしたっ!!」
確かに、ポチ著といっても過言じゃないからな。
「『ひゃいっ!?』とか『ひぃいいいいいっ!?』とか言った後に否定したって遅いんだよ! 馬鹿犬っ! 俺がシロにイタズラしたくなる気持ちもわかるってもんだろう!」
「って事は何ですか!? マスターは私とジョルノさんの会話を盗み聞きしていたって事ですね!?」
「そこに! シロが! いたから! SSIだ馬鹿っ!」
「私を見ると盗み聞きに至る理由がわかりません!」
「ジョルノさんとコソコソしてたからその理由が知りたかっただけだよ!」
「んまぁ!? そんな理由で私を気遣ってくれてありがとうございますぅうう!! あれは全部○×ゲームでジョルノさんが待ってくれた回数分、マスターの可哀想なお話を聞かせるって約束を果たしてただけですよっ!!」
「どんだけ待ってもらってんだよっ!?」
「しょうがないでしょう!? 待ってもらわないと負けちゃうんですからっ!!」
「戦績はっ!?」
「0勝29敗です!!」
「やめちまえっ!!」
「やめた後ですぅううううっ!!」
俺とポチの論争とも言えない言い合いがピークに達した頃、俺は足の裏で静かな揺れを感じた。
「大体マスターは――――っ?」
そしてポチも一拍置いてからそれに気付く。
巨大な揺れではない。
静かに、しかし不穏に揺れる大地。
揺れは次第に大きくなり、俺たちの回りの木々の葉の音をより一層騒がした。
――――――瞬間、
「「――っ!?!?」」
横に揺れているのか、縦に揺れているのか全くわからない程の揺れが、俺とポチを襲った。
いつの間にか抱き合ってた俺とポチ。
「な、何ですかぁこれぇええええっ!?」
ポチは俺の胸元で涙目になりながら叫んでいる。
「決まってるだろう! く、口にはしたくないがなっ! ……くっ!」
俺の言葉より前に、ポチも気付いてたはずだ。
自分では口にしたくない現実を、主である俺に「代わりに言ってくれ」という願いにしたんだ。
「こここ、こんなのに……勝てるんですか、マスターッッ!?」
「勝つために……! 勝つためにこの二年……いや、この五年頑張ってきたんだろうがっ!!」
心の震えが声として表れる。
巨大な地震から零れ出る奴の魔力の欠片。
俺とポチはそれを肌で感じ、凶悪な恐怖として心に焼き付けられたのだ。
これが…………魔王ルシファーの魔力。
「ポーアさん! シロ君!」
抱き合いながら震える俺たちの下に現れたのは、勇者ジョルノ。
この魔力の中動ける胆力は流石勇者というべきか……。
……くそ、俺も何とか……!
俺は自分の太腿をドンと叩き、自分に活を入れた。
その振動を当然気付いただろうが、ポチは何も言わないで、ようやく立った俺を見上げるだけだった。
「大丈夫かいっ!」
「……ジョルノさんの、援護のおかげで……!」
明らかに虚勢だという事は、ポチもジョルノも、何より言った本人である俺が一番よくわかっていた。
しかし、やはりポチもジョルノも何も言わずにいてくれた。
「この感じ……どうやら復活したようだね。魔王が……」
戦いの世界に身を置いてはいるものの、その実、聖戦士のパーティで一番経験不足なのは俺だ。
まともに戦闘をするようになったのだってこの五年だろう。叩いてもこの身体は虚勢くらいしか出してくれないのだ。
震える唇を噛み、震える肩にポチが手を置いてくれる。
そしてそれは背後からも感じる事が出来た。
「それでいいわ」
後ろから肩に手を置いてくれたのは、リーリアだった。
しかし、リーリアさん? もう片方の手で掴んでいるのは、お荒ぶっていらっしゃるウェルダンの角ではないですかね?
優しさと腕力を兼ね備える両の腕に顔をヒクつかせた俺は、その時ようやくソドムの街に襲い掛かる不安に意識が向いたんだ。
そうだ、俺たち以上に不安になるのは、この街にいる他の戦士やガルムのような職人だ。
俺はその場に空間転移魔法陣を描き、皆でソドムの街に戻った。
「……案の定、だな」
悲痛とも悲鳴とも絶望ともとれるような声が辺りから聞こえる。
広場で何かを抱きかかえ蹲るガルム・キサラギの姿が何とも痛ましい。
「マスター……」
俺の足をくいとひっぱり呟くポチ。
わかっている。「何とか出来ないか」と言いたいのだろう。
常に胸を潰してくるこの圧迫されるような魔力から、何とか守ってやりたいが……どうすればいい?
雨のように降り注ぐ魔力。これを防ぐ、か。
……ともなれば、対魔防壁魔法だろうか。
街を覆う程のソレを構築するのは初めてだが、やる事は基本的に同じだ。
極魔法、補助魔法だが出来るだろうか?
「……やるだけやってみるか! ほいのほいのほい! マジックシールド!!」
広場一帯に描いた設置型魔法陣。
本来宙図で発動するマジックシールドだが、設置化する事で半永続的な起動が可能だ。それに……更なる魔力を供給する!
「ふんがっ!」
「……ポーアさん、筋肥大する必要はあるのかい?」
「んー、やっぱり調整が難しいな。魔力の通り道を直線軌道で受け入れ易い公式にすればいいのかな? ならこっちを直結させて、ここを閉じてしまえば――――」
「あれは聞こえてないって事かなシロ君?」
「あーなったらマスターは手が付けられませんよ。でも――」
「――でも?」
「愚直に真っ直ぐに。大抵の事は成功しちゃうんです」
ポチがごちゃごちゃと何かを言っているような気もしたが、これで起動するだろう。
「ふんがっ!」
「おっ! どうやら成功したみたいだねぇー」
「見事ね、快適といってもいいくらいだわ」
リーリアが俺を褒めるのは珍しい。
だが、ここ最近リーリアとの会話も、いや、皆との会話も増えてきた。
魔王が復活した今、あまり悠長な事は言っていられないが、悪い傾向ではない。
皆の安堵の声が耳に新しい頃、俺を見つけたガルムが酒の臭いと共にやって来た。
「お、おう兄ちゃん! こいつぁアンタが?」
「えぇ、この後ブルネアとレガリアにも届けようかと思っています」
「ニ、ニヒヒヒヒ……そ、そうか! 兄ちゃん、アンタぁやっぱりイイ男だな!」
「褒めても何も出ないですよ」
「こういう時はよ? 褒める側が褒めた相手に何か出すもんなんだよ、先にジョルノたちの分を作ったが、兄ちゃんにはとびっきりのモン作ってやる! ニヒヒヒヒ!」
ん?
そういえばガルムのヤツ何か手に抱えてるな?
「そ、それは!?」
「おう! 今頃気付いたかよ! まずはジョルノとリーリア、これを受け取りな!」
そう言って手渡したガルム。
金属の中に見える赤の斑模様。
「軽いね、けどしっかりと肌に馴染む感じがするよ。それに……」
ジョルノはガツンと防具の胸元を叩く。
「かなり強く頑丈だね」
「いい仕事だわ」
着々と準備を整えつつある俺たちだが……はて?
ガルムの言う「とびっきりのモン」ってのが気になるな?




