252 好みのタイプ
俺はポーアもといアズリー。
今日は最近仲良くなったポチとジョルノの後ろを付けている。
どうにも俺の前に姿を見せなくなってしまった気がする。
さっき仲良さそうに歩いてる二人を見かけて追っているが、相手はあのジョルノだ。
ポチはともかく、勇者ジョルノの後ろを気取られずに付けるというのは至難の技だ。
インビジブルイリュージョンを使っては逆に目立つし、魔力の揺らめきを察知されてしまうだろう。
ならばこそ、こうして藪の中を獣のように這っている訳だ。
ふっ、咄嗟に開発してしまった範囲拡聴の魔術があれば、離れていてもあの二人の会話が聞こえるのだ。
自分の才能が恐ろしい。
まぁ、これは前に研究していた拡声魔法から構想段階までいってたから早かっただけなんだけどな。
……む?
「アハハハハ、そうなんですよジョルノさん。その時マスターったら私の背中で寝ちゃって、でも私は全然気付かなくて走ってて、ようやく気付いたら背中にマスターがいないんですよ!」
「ハハハハ、へぇ。それでその後どうしたんだい?」
「十日間会えませんでしたっ! おかげで私、百食くらい食べられなかった計算ですよ!」
随分とおかしい計算だな、ポチ。
しかし、随分と懐かしい話だな。
あれは三、四百年くらい前の話だったろう?
あの時、ポチが慌てまくってなければ念話連絡が上手く働いたんだろうけど、精神不安定になってたからいつまで経っても見つからなかったんだよな。
「それだけだったらまだ良かったんですよ! でもその後マスターったら大泣きしながら私に抱きついてきちゃって! もう大変だったんですから!」
「ハハハハ、ポーアさんもシロ君に会いたかったんだろうねぇ~」
「ふふん! 仕方ないから私がマスターを『おーよしよし』とあやしてやったんです!」
おかしい。
何かが食い違っている気がする。
あの時ポチは「ごは~~んっ!!」とか叫び、泣きながら俺に抱きついてきたはずだ。
「他には他には?」
ジョルノも興味深々らしいな。
俺とポチのくだらない話なんて、八百年分あるんだ。
早々ストックが切れる事はないだろう。
「マスターが滝に飛び込んじゃった話とかどうです!?」
「いいね~!」
お前を助けに飛び込んだんじゃなかったか?
「マスターがキラービーの巣を頭から被った話もありますよ!」
「おぉ!」
お前が奴らの蜂蜜に手を出さなきゃそうならなかったはずなんだけどな。
「マスターが――――!」
「へぇ!」
「マスターが――――!」
「出てくるねぇ~!」
「マスターが――――!」
ぐぬぬぬぬぬぬ…………おのれポチ!
まさかそこまで自分を美化出来るとは思わなかったぞ!
これはちょっくら出て行ってお仕置きをしてやらなきゃいかんな!
「何をしている、ポーア?」
「ひゃいっ!?」
ワナワナと震える俺の肩を一瞬で止めたのは太い声だった。
振り向くとそこには巨大な赤い牛がいた。
「何だウェルダンか」
「何だとは心外だな。怪しい人間がいると思ってこちらを見に来てみればお前がコソコソしていたのではないか。む? あれはジョルノとシロ……?」
「やば……! おいちょっとこっち来い!」
「な、何だ何だっ……?」
………………ふぅ。どうやら気付かれずに済んだみたいだな。
しかし、俺が怪しい人間とはウェルダンめ……!
「何だポーア。何故あの二人を前にコソコソする必要がある?」
訝しむウェルダンに、俺は適当な言い訳を考えていなかった。
「あ、えっと……その、だな?」
「ん? 一体何だというのだ? まさかお前、魔王軍に操られているのではないだろうな?」
さて、どう言い訳したものか。
下手に言い訳しても蹴り飛ばされるだろうし、正直に言っても怒られそうだ。
ここはなんとか切り抜けなくてはいけない。
魔法のように切り抜けられる言い訳はないものか。魔法のように……魔法?
おぉ、そうだ! ポチにお仕置きが出来て、ウェルダンも何とか出来そうな魔法が一つあるじゃないか!
「いやな、ウェルダンに会わせたかった相手がいるんだよ?」
「会わせたかった相手? 魔王軍の幹部だとでも言うのではなかろうな?」
「まさかまさか……でも、決して損な話じゃないと思うんだよ」
「……わからんな? 一体誰に会わせたいというのだ?」
首を傾げるウェルダン。
俺は口元に人差し指を持っていき、ウェルダンを静かにさせた。
「ほいのほい――ほい!」
ふ、ふふふふふふ。
いつぞや使った魔法だが、これはいい仕返し……もといお仕置きになるだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「そうなんですよ~、それでマスターがぁ――!」
「うんうん!」
よーし、そろそろ効果が表れるぞ?
というかまだ話してたのか、アイツめ……。
「……おや? シロ君その姿は…………?」
ジョルノは気付いたみたいだな。
「おい、いつまで目隠ししていなければならないんだ、ポーア!」
「おっと、もういいぞ。さ、アイツがウェルダンに会わせたかった相手さ!」
「む? 何だジョルノと――――――っ!? な、何だアイツはっ!?」
ウェルダンの見据える先。
そこはジョルノがいた場所。
そしてポチがいた場所でもある。いや、正確にはポチはまだあそこにいる。
「それで~、マスターがぁ~――――おや? ジョルノさん、どうしたんです? 私の顔に何か付いてますか?」
「いや、シロ君…………その姿は一体……?」
「え? どこか変ですかぁ?」
自分の身体の変化に気付かないってのはこの魔法の良い点であり、悪い点でもあるな。
「おぉ! おぉ!? おぉおおおお~っ! 何だアイツのあの美しいフォルムは!?」
しっかし、ウェルダンのヤツかなり興奮してるな。
そんなに好みのタイプだったのか。
「美しい! 美しいぞ! 正にアイツは理想の相手! こんな辺境の地でこれ程の美貌を持った相手に会えるとは思わなかったぞっ! ふん! ふん! ふんふんふんっ!!」
…………あれ? ちょっとやり過ぎた?
「いや、だってシロ君……その姿、まるで……」
「まるで?」
「最高の牛っ!! 見つけたぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!!!」
大地と空気が震える程の声でウェルダンが叫んだ。
そして大地と空気が割れる程の勢いで…………ウェルダンが牛になったポチに向かって行った。
「ハハハハ、それじゃあシロ君。僕はこの辺でぇ~♪ ごゆっくりっ!」
「へっ?」
ジョルノは逃げるように消えて行き、ポチは未だに重大な事態に気付いていない。
「はぁはぁ! はぁはぁはぁっ! そこの女子っ!! 名は何というっ!?」
「あれ~? ウェルダンさん? 名前って……ははは、何を言ってるんです?」
うーん、これはまずいかもしれないな。
「いや、今の我らに名前など必要ない! 是非! 是非! 子々孫々繁栄を願い! 真剣な交際を希望するっ!!」
「……へ?」
「さぁ! さぁ! さぁ! こふぅうううううううっ!! ふん! は! ふん! は!」
ウェルダンのヤツ、息が荒すぎじゃないか?
「いや、男は黙って直進あるのみっ!! 行くぞっ!!」
一体どこへ向かうと言うのだろう?
「あぶ、あぶ、あぶ!? 危ないですぅううううううっ!?!?」
ウェルダンの突進をサッと避けたポチは、倒れる木々を見て戦慄している。
当然だ。俺も正直驚いている。
あれはどう見てもいつも以上の力が出ている。
「ふ、ふふふふ! 赤帝牛である俺の動きをかわすとは素晴らしい! さぞや優秀な仔牛が生まれる事だろうっ!!」
「は、ははははは…………な、何を言っちゃってるんですか、ウェルダンさんっ……? は、はは、ははは……」
「ふはははははは! 既に我が名を知っていたか! そうかそうか! 運命など信じるつもりはなかったが、これがその運命というやつか! 素晴らしい! 素晴らしいぞっ!!」
「はは……………………だ、だ……――かっ……」
「むぅ!? 何か言ったか女子ぉ!? こふ! こふぅうううっ!!」
突進の準備のように足場を均しているな、ウェルダンのヤツ。
「誰か…………誰かっ!! 助けてくださぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?!?」
「グモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「嫌ぁああああああああああああああああああああああああああっ!?」
た、大変な事をしてしまったかもしれない…………。
聖ヒロイン、ピンチ。




