245 鳥頭
「くっ……おかしい!」
「ぬぅ……おかしいですっ!」
「何で!」
「私たちが!」
「採掘班!」
「何ですかぁああああああっ!?」
俺たちはガルム・キサラギの指示に従い、ソドムの街の西にある山岳地帯を歩いていた。
まさか戦闘員を割けない理由で俺たちが選ばれるとは思わなかった。
確かにポチビタンデッドの余りが出始めた。
だから出て来られたはいいものの、俺が戦闘員として考えられないというのは、いかんせん信じがたい。
去り際のガルムのあのニヤついた顔。もしかして何か考えがあるのか?
「ところでポチ君?」
「何でしょうアズリーさん?」
「とんとん拍子で強くなったジョルノ君やリーリアさんを見てどう思ったね?」
「いやー、もう正に聖戦士って感じでしたね。マスターの労力とか鍛錬とかを一瞬で追い抜いていくあのセンス! もう抜群ですよ! いえ、抜マスです!」
何だそりゃ?
いや、確かにジョルノとリーリアはこの一年で強くなった。
しかし、俺もポチも、ジョルノ、そしてリーリアとの接点が多くない。というより非常に少ないのだ。
信頼や関係性も旅立ったあの時から何かが変わったという事はない。
全てはソドムの街にいる時、三人の行動が分かれてしまう事にある。
リーリアや赤帝牛はソドムの周囲を警戒しながら動き回り、ジョルノは正面のモンスターたちを相手している。
ポチはフォールタウンにいた頃のように、食べられるモンスターを調達したり、赤帝牛では出来ない小さな身体を活かせる場所のモンスター討伐をしている。
そして俺は後方支援ばかり。
使い魔のポチとだって顔を合わせるのが珍しい程だ。
絶望の使徒が現れた時も基本的には、覚醒し強くなったジョルノ一人で事足りる。
全ての聖戦士が分担された場所を担い、終日その場所にいれば、顔すら見ないというのも頷ける。
――――――――が、
「なぁポチ?」
「何でしょう?」
「俺たちの知ってる聖戦士って…………こんなんだっけ?」
「正確にはおとぎ話でしか知らないですけど、確かに一年も一緒にいて、会話すらほとんどないというのは辛いものがありますね。全てはソドムの街の劣悪な環境のせいでもありますが、このままじゃ魔王ルシファーが復活した時、上手く連携がとれるのか心配ですよね」
その通りだ。
魔王ルシファーが復活した時、いつもの調子で戦っていいものか?
バディンと戦い、ある程度悪魔の強さというものがわかった。
だが、魔王と戦う際、魔王は一人なのか? 他の悪魔が魔王を護衛しているんじゃないか?
まだ見ない強力なモンスターが立ち塞がるんじゃないか?
その悪魔の強さは? そのモンスターの強さは? ……魔王の強さは?
俺とポチのレベルはこの一年で更に上がった。
勿論、レベルに伴って力も魔力も強くなっている。
これから手に入れるであろうドリニウム鉱石から、ガルムが武具を作ってくれたとしてもそれらに対抗出来るのだろうか?
このまま仲間意識や信頼関係が薄くても魔王を倒せるのか? …………一体どうすりゃいいんだ?
「間も無く魔王が復活するという事はわかっているんですし、全てはそれからなのかもしれませんよ? 復活したならば、どうしても我々はソドムの街を離れなくてはいけませんから」
「……だよなぁ~」
「あ、マスター。ここじゃないですか? 山が割れたみたいに谷になってますよ!」
谷というより、地獄へ通じる穴という感じがするな。
何で地獄に夢が詰まってるんだ? まったく、自然というのはこういう不可思議な力を持っているからあまり好きになれないんだ。
「……これ、どうやって降りるんですか?」
「そういえばポチ。お前鳥だったよな?」
「はっ! そうでした! ……出でよ羽! そしてマスターをこらしめたまえ!」
………………生えないな。
「大変ですマスター!? 私鳥なのに羽がありません!?」
この一年で何度このボケをやったか覚えていないが、やる度に忘れるんだよな、ポチ。
頭まで鳥頭になってしまったのだろうか?
チャッピーも似たところがあったし、そういう事なんだろうか?
「仕方ない。歩きで行くか」
「こんな傾斜を歩くなんて無茶ですよ! 私の羽が生えてくるまで待ちましょう! ね!?」
そんな「絶対生えてきますから! ね!?」みたいな顔してんじゃねぇよ。
まったく、久しぶりの遠出だからってテンションが上がってるのはわかるが、上がり過ぎもどうかと思うぞ?
「あ!? ちょっと!? 何やってんですかマスター!? エッチッ!」
「うるさいな! 担がないと歩けないだろう!」
「こんな獲物みたいに縛られたような格好は嫌です! おんぶを希望します! お! ん! ぶ!」
「痛い! 痛い! わ、わかったから頭を叩くな!」
俺の頭の上をわざと踏むようにして身体の位置を調節するポチ。
おのれ、ちょっとお仕置きしてやろう。
「よっ!」
「っ!? いやぁあああああああああああああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁっ!?」
傾斜を飛び下りた俺は、ポチの悲鳴を心地よく聞きながら谷底へ向かう。
そして途中で魔力を飛ばし、それを――――、
「――――ほい、リモートコントロール!」
「ひょえ!? な、何ですこれ!? う、浮いてるんです!?」
「設置型魔法をリモートコントロールで運べるようになったろ? その応用で反発力のある魔力を空に向けてるんだよ。それに乗っかればほんの少しだけは……ほい! ほい! ほい! っと! こうして歩けるんだ!」
「おぉー! これは快適です! これは以前マスターが開発をしようとしていた飛行魔法とは違うんですか!?」
そういえば昔そんな研究していたな。
「自分に強力なリモートコントロールを掛ける方法のアレか。アレは自分の身体の制御が制御魔法のせいで制御されちまうから無理だったんだよなぁ」
「何だか早口言葉みたいですね?」
自分の身体を拘束したら動きたくても動けないしな。
「これはあくまで落下を助けるだけの魔力操作だからな。足場のあるフウァールウィンドみたいなものだよ。飛行魔法なんて夢のまた夢さ」
自由自在に空を飛ぶというのは確かに課題ではある。
だけど本当に出来るのだろうか。
自分で言った通り、夢なのかもしれないが、あるならあるでそれは非常に有用なんだけどな。
「へぇー。聖戦士の力を手に入れても出来ない事は多いものですねぇ」
「そういう事っ。ま、今は別の魔法の実現を目指しているんだ」
「えー? 何ですか、何ですかっ? 教えてくださいー!」
「おい、こら! 身体を揺するな!? この空中歩行の制御も楽じゃないんだぞ!」
「いいじゃないですかー! ほらほらほら! 教えないと落としますよ!」
落としたら自分も落ちるという事に気付いていないのだろうか?
「ほらほらほらー!」
うん、気付いてないな。
完成していない魔法を教えるとポチがまたけなしてくるからあまり言いたくないんだが、仕方ないな。
「ったく、瞬間転移魔法だよ。魔法名はレガ・テレポーテーション。略して瞬間転移魔法」
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!! 出来る訳ないじゃないですかぁ!?」
こ、こいつっ! かなり噛み気味で笑い始めたぞ!?
「おいポチ! どうやったら主をそこまで小馬鹿に出来るんだよ!?」
「だって一瞬で移動しちゃうって魔法ですよ!? マスターだって昔、あの研究の匙を投げた時大笑いしてたじゃないですか!」
「あれは悔しくて泣きたくなる衝動を抑えるために、オオワライダケを食べただけだよ!」
「何ですかそれ!? 笑っちゃいますね! …………はっ!?」
何だ? 一気にポチの声のテンションが下がったような?
普通なら言い合いになるようなところで……? これは何かある?
モンスターでも見つけたんだろうか?
「……どうした、ポチ?」
おそるおそる背中のポチに語り掛ける。
「っ!?」
痛っ!?
「何すんだお前っ!? スコーンと気軽に叩いてんじゃねーよ!」
「マスターの馬鹿!」
「いきなりなんだよ!?」
「何でさっき私がマスターを落とそうとした時、止めてくれなかったんですかっ!? 危うく私も落ちるところだったじゃないですかっ!!」
「止めましたけどもぉおおおおおおっ!?」
「ちゃんと前見て足下しっかり見てください! ほらワン、ツー! ワン、ツー! 落としたら落としますよ!」
だからお前も落ちるんだって。
「馬鹿マスター!」
「犬ッコロ!」
「馬鹿馬鹿マスター!」
「こんの鳥頭っ!!」
「鳥ですしぃいい!」
結局言い合いになった。




