244 最後の欠片(ピース)
ソドムにやって来て一年近くが過ぎた。
拠点が変わる事はない。
これ以降南に築ける地点がないし、何より人類にそんな力はなかった。
バディンとの戦い以降、絶望の使徒と戦う事が何度かあった。
しかし、そのどれもがランクSSモンスターの亜種のような相手だった。
やはりあの時現れたバディンの攻撃には、それ程の意志があったようだ。
ソドムでの俺の役割は至極簡単なものだった。
戦闘は全てポチや赤帝牛、ジョルノやリーリアに任せている。
俺の役割、それは……――――――、
「ポチビタンデッド、三ダース出来上がったぞ! マサキ、この二ダースはブルネアに! ランドルフ! もう一ダースはレジアータだ!」
「「へい!」」
「ポーアの旦那!」
「どうしたジャンボっ?」
「怪我人多数だ。南門に頼むっ!」
「ほほい! ハイキュアーアジャスト・カウント10&リモートコントロール! ほい、地走魔送! ……よし、もう一度だ!」
壮絶を極める後方支援の多忙さに追われていた。
元々の魔力と聖戦士の力、そしてレベルの相乗効果によって魔力が尽きる事はない。
そもそも俺とトゥースが試行錯誤して完成したギヴィンマジックに乗りながら、魔力が減るはずがないのだ。
しかし、ポチビタンデッドでは拭えないような精神的な疲れが出てきているような気がしないでもない。
てことはそれだけ疲れるのが早いという事か。そろそろひと瓶飲んでおこう。
「……ぷはぁっ! 美味い! やべぇ! すげぇ元気になってきた!」
何だこれ。作ったヤツ天才なんじゃないだろうか?
あ、俺じゃないか、作ったの。よし、俺天才。頑張ろう。
そう言い聞かせ始めたのはソドムに来て二日目の晩だった。
最後にポチの腹枕を使ったのはあれが最後だったろうか?
このソドムの街に来て最初に気付いたのは、俺が初めて訪れた時と比べて戦士や魔法士の人数が激減していたんだ。
今やこの街には行商人すら訪れない。俺が働いていた商店もバーも存在しないのだ。
屈強な者から順に死んでいく。そんな状況に絶望していた中、ジョルノとリーリアがソドムの街に戻った時は割れんばかりの歓声が起こったものだ。
初日に訪れた冒険者ギルドで、あの悪人面のギルド受付員が驚いてたっけ。
「お前たちは……!」
「……力になりに来ました」
「もう新顔じゃありませんよぉっ!!」
「……へっ、はははははっ! 地獄へようこそ馬鹿野郎! 魔王軍に寝首をかかれねぇように気を付けなっ!」
以前はなかった労いの言葉は今でも記憶に残っている。
それ程、枯渇と言っていい程、ソドムは疲弊し、崩壊寸前だったのだ。
俺たちが旅立ち、最初にリナたちに出会い、フォールタウンに訪れた時同様、モンスターの肉を喰らい、俺は水を用意した。
最前線をブルネア近くに移すかどうかという段階だったソドムの人間たちにとって、不相応ながらも俺たちは聖戦士だったのかもしれない。
ソドムの街に着いてから間も無くして、リーリアとジョルノも聖戦士の力が解放された。
以前称号消しの巫女、薫が歌った言葉を思い出す。
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聖戦士は集う
滅びの街のその先に 無数の魔物の懐へ
聖戦士は集う
一人 勇敢なる黄金の男の子 その手に携えるは無敵の剣
聖戦士は集う
二人 異種より生まれし異質の力 赤き丑を友とて突き進む
聖戦士は集う
三人 時を跨ぎて現る千の魔手 黒狼の背に乗る千の魔手
聖戦士は集う
魔の手が広がるその時に 世界に降り立つ光かな
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なるほど、最前線を下げ、魔の手が広がるその時…………俺たちはここへやって来た。
ソドムの街の皆にとって、俺たちは光だったというのか。いや、もしかしたら世界にとって……。
……そうだ、正にその通りだな。予言というのは恐ろしいものだ。
滅びの街はきっとこのソドムの街の事だろう。
という事は、予言と照らし合わせると、魔王が復活するのはこれより南という事か。
「マスターマスター! 聞いてください!」
俺の思考を止めるように、泥だらけの犬が現れた。
「………………シロ?」
「ついに愚者として覚醒しました?」
「いやいや、本当にシロだって気付かなかったんだよ! 三日ぶりだったし、泥だらけだったし!」
「まぁ今や水は貴重ですからね! 三日……そういえばそれくらい会ってませんでしたね? むっ! という事はマスターは三日会わなかったら私を忘れるんですかっ!?」
八百年顔を突き合わせていて三日も会わなかった事なんてないからな。
喧嘩した時だって何故かコイツは近くにいたし、こんな事もあるんだな。
面白い。賢者のすゝめに書いておこう。
「えーっとメモメモ。それで何だ? 何かあったか?」
「むきぃー! 遂に武具店の当てが出来たんですよ! ソドムの街に来てくれるそうです! 何でもブルネアに住んでいらっしゃった方ですって!」
「へぇ! そりゃ嬉しいな! 時間がなくてブルネアに空間転移魔法で行く余力なんてほとんどなかったし、皆の武具もボロボロだ。流石にこればかりは俺は直せないから、いるといないじゃ全然違うだろう!」
これは嬉しい情報だ。
まさかこんな状況のソドムの街に赴いてくれる人間がいるとは思わなかった。
空間転移魔法陣があるといっても、現場から離れる人間が増えるというのは、今の状況では非常に厳しいものがある。
それに、武具といえば俺も気になっている事があったしな。
「今ジョルノさんが迎えに行ってます。何でもお知り合いの方らしいですよ?」
「へぇ、何だかんだで顔が広いしな……ジョルノは――――」
『――――ヒヒヒヒッ! 何だ何だ! 皆死にそうな顔してっかと思えば気合いに満ち溢れてるじゃねぇか! 一体全体こりゃどんな魔法だっ! あぁ!?』
俺とポチの会話を遮るように、家屋の外、即ち広場の方で豪気な声が聞こえた。
…………はて? この声、どこかで聞いた事があるような気がしないでも――――うぉっ!?
「ひぎゃっ!?」
嗅覚の落ちたポチが鼻を塞ぐのも無理はない。
扉を開けた瞬間匂ってくるのは異常なまでの酒気。
酒なんて皆もう飲み尽くしたってのに、何なんだこの匂いはっ!
「おぉ! 兄ちゃんはあの時のっ!」
声がした方を見ると、そこには頭より大きい面積の髭を蓄えた、背の低い中年男が立っていた。
太ってはいないが身体がそう見えるのは鍛えられた肉体と太い腕にあるだろう。右手には酒瓶、背中にも酒瓶。そして左手にも酒瓶と、どう見ても最前線に来るような恰好ではなかった。
だが、俺はその男を知っていた。
「ガ、ガルムさんっ?」
「ヒヒヒヒ、銘から名前を知ってたか! 何だ兄ちゃんも命知らずな馬鹿だったか! ヒヒヒヒ!」
ガルム・キサラギ。
俺はこの人を現代にいるドン・キサラギ、レウス・キサラギの先祖だと思っている。
確信が持てないのはやはり平民の名は残りにくいからだ。
しかし、ブライト少年やフェリス嬢の訓練用の棒を購入した時に見たあの武器棚は、ドン・キサラギの店である「ドリニウム・ロード」の店と同じ空気を纏っていた。
…………そうか、このタイミングだったのか。
伝説には残っているが、何故魔王復活の直前で武具の問題に直面するのだろうと思っていたが。
「ヒヒヒヒ、とりあえずそこらのガキ共にはこの武具で大丈夫だろう。んで、お前さんたちの武具だが……!」
……このタイミングだったのか。
「ちょっと面倒な鉱石を取りに行ってもらうぜー?」
「「面倒な鉱石?」」
ジョルノとリーリアが口を揃える。
俺とポチがそこに口を並べなかったのは、その存在を知っていたからだ。
「なぁに、夢を拾って来てもらうのさ。夢の鉱石を」
「「夢の……鉱石?」」
「おう、それを鍛え上げるとな? ドリニウム鋼っていう強力な武具になるんだ! ヒヒヒヒヒ!」
聖戦士ご用達の伝説の鋼材――――――――ドリニウム鋼。




