【8巻発売WEB特典「◆ガストン、スターホースを買う」】
「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」第八巻の発売記念SSです。
「フユに……使い魔、ですか?」
王都守護魔法兵団、その団長のヴィオラが困った表情になる。
「そうだ。それなりの使い魔を見繕ってやるのも必要かと思ったんだが、どう思う?」
団長ヴィオラの上官、ガストンが執務室の椅子に座りながら聞く。
「確かにフユならば適正がありそうですし、面白いとは思います」
「とは……という事は、やはり何かあるのか?」
「フユの性格を考えれば気の強いモンスタータイプの使い魔はおすすめ出来ないと……」
椅子の背もたれに寄りかかり天井を見つめるガストン。
「ふむ……ならば動物か」
「えぇ、しかし動物をと思っても、そこでまた弊害が起きます」
「確かにな。これより必ず訪れる過酷な時。これを耐えうる個体ともなると、そこらの動物では荷が重い。ふぅ……中々おらぬものだな」
片手で顔を揉み、目を覗かせたガストンは、瞳に映った微笑むヴィオラを見て首を傾げる。
「……どうした?」
「お優しいのですね、ガストン様」
「ふん、本当に優しい者は、フユに世界の果てに『逃げろ』と言ってやれる者だ」
そう言い放つも、ヴィオラの笑みは揺るがなかった。
「だが、あれはそう言われても動かん。目指す先が決まっているからな。全く、だれに似たのやら……」
「ガストン様ですね」
二コリと笑ったままヴィオラが言った。
突然のヴィオラの指摘にガストンの目が丸くなる。
「……躊躇がなかったな」
「事実かと思います」
「ふん、まぁいい。フユの使い魔の件、いい案があったら儂に報告を頼む」
「かしこまりました」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ヴィオラがガストンの指示を受けて数日。
執務室の扉が大きな音を鳴らして開いた。
「……何事だ?」
「火急の件につき失礼します」
「構わん、話せ」
ヴィオラの顔が焦っているのは一目瞭然だった。
モンスターの襲撃すらも想定に入れたガストンは、すぐ動けるように杖を持ちながらそう答えた。
「本日のセリ市に、音速を超える馬とも言われるスターホースが並んでいるとの事! ガストン様! 既にセリ市は始まっております! フユの使い魔に適合しそうな希少な動物かと存じます! いかがなされ――――」
跪きながら報告していたヴィオラがそう言いながら顔を上げた時、
「ガストン……様?」
ガストンの姿はなかった。
「かぁああああああああああああああああっ!! オールアップッ!!!!」
ガストンは駆けた。
音よりも速く走る馬、スターホースより速く。
跳び、飛び、滑り、転び、転ばせ、潜り、弾き、壊し、避け、時には魔力を放出し、王都レガリアの商業区の人波を割った。
「見えたっ!!」
セリ市が行われている会場を目で捉えたガストンは、入場料金を払わず、
「王都守護魔法兵団ガストンに請求を送れ!」
そう叫びながらスターホースのセリ中に足を届かせた。
「百万ゴルド! 百十万ゴルドないか!?」
既にセリ落とされても不思議ではない金額にまで、セリ値が上がっていた。
「おぉ……何と素晴らしい馬よ。白銀の毛並みが並々ならぬ気品を漂わせている」
「百万ゴルド! 百十万ゴルドないか!? ……では、こちらのスターホースはアダムス家の――」
「――――っ! 一千万ゴルド!」
「「っ!?!?」」
ガストンの咆哮のような声は会場中に響き渡り、全ての人間を沈黙させた。
周囲の注目を集めたガストンだったが、そんな視線など気にする事もなく、コツコツと足を進めていた。
取り巻く魔力はガストンの身体の表面に陽炎を作る程だ。
皆はゴクリと喉を鳴らし、焔の大魔法士ガストンの行進を見守った。いや、目が離せなかったのだ。
そう、進行役でさえも。
「一千万ゴルドだ……!」
進行役の目が泳ぐ。
黒目がどこかへ逃げたそうな程泳いでいる。
「……あ、え、は、はい! 一千万ゴルド出ました! 一千万ゴルド! 一千百万ゴルドないか!?」
ガストンはニヤリと笑う。
(ふっ、間に合ったな……!)
しかし、ガストンの笑みは一瞬で崩される事になる。
そう、ガストンは感じたのだ。背後の大気の振動を。
右斜め後方にいたアダムス家の現当主が立ち上がったとわかったのは、それ程今のガストンの集中力が研ぎ澄まされていたからだろう。
(今期の王都守護魔法兵団の自由に出来る財源は五百万ゴルド! 儂の貯金とへそくりを合わせて五百万ゴルド! 正直これ以上の金額を出されると儂の計算が狂う! おのれアダムス家め……! 後程オルネルにキツイ訓練を! いや、今はそんな事を考えている場合ではない! 金だ! 金! このままではヴィオラに借りなくては!? いや、そんな事司令官の儂が出来る訳ないだろう! ならばアイリーンか!? いやいや、あの糞婆に借りるくらいだったら死んだ方がマシだ! えぇい、こなくそ! 考えろ! 考えるんだガストン! お前は十二士の中で最強の魔法士だろう! こんなところで挫けては小僧に見せる顔がないわ! 考えろ! ありとあらゆる可能性の先に、必ず光が見えるはずだ! 探せ! その光明を! 目指せ! その頂きを! わ、儂は…………焔の大魔法士、ガストンだぁあああああああああああああああああああっ!!)
まるでスローモーションのような考えの中で、ガストンが限りなく小さな可能性から導き出した答えはたった一つ。
「っっっ!!!!」
「「っっっ!?!?!?」」
絶大なる魔力の解放。
一瞬でへたりこんでしまったアダムス家の当主の顔が青ざめる。
そのへたりこんだ小さな音に気付いたように装い、ゆっくりと右斜め後ろに振り返る。
「……ナニカ?」
その視線、全ての者が恐怖する。
その覇気、焔の大魔法士ガストンを皆の脳裏に焼き付ける。
その魔力、戦魔国にガストン在りと誰もが納得する。
その殺気、アダムス家現当主でありオルネルの父親を……失神させた。
「……誰モイナイヨウダナ?」
進行役の黒目はついに逃げ出し、白目を剥きながらもその仕事を全うする姿は正に職人。
「ハ、ハンマ―プライスッ!! こちらのスターホースは、我らが焔の大魔法士ガストン様が落札致しましたっ!!」
ガストンが発動した一瞬の魔力解放。
これが究極限界だったとは、ガストン自身も知らない事である。
ガストンの才能は無限大。




