240 約束のもの
昨日サボ――――やむにやまれぬ遊び的な事情があったのでお休みしてしまいました。
なので、本日は二話投稿とします。
2017/6/24 二話目の投稿です
「ふっか――」
「――ふかですーっ!!」
見事にベッドの上で跳び跳ねてくれちゃって……。
あー、あー、毛も羽も散らかり放題だな、こりゃ。
客間といえどキングサイズのベッドが四つもある大きな部屋だ。そりゃあポチもチャッピーも喜ぶだろうよ。
俺の部屋はポチとチャッピーが同室だ。
覇者は覇者だけの部屋かと思ったが、そうではなかった。まぁ、しっかりと見張れという意味なんだろう。
左右の部屋にはフェリス嬢とブライト少年がいるそうだ。まぁ、しっかりと見張れという意味なんだろう。
だが、ポルコもそうだが、聖帝の判断もどうなんだ? 使い魔杯の覇者とその主だとしても、フルブライド家、アダムス家の下男である俺の隣の部屋が、お坊ちゃんとお嬢さんの部屋って……いや、それだけ政治の方も切羽詰まっているという事なんだろう。
慣れない俺にとっちゃ居心地が悪い事この上ないが、ポチもチャッピーも喜んでるし、今日くらいはいいか。
レオンも俺の懐がやはり居心地がいいという事か。とても気持ちよさそうに寝ている。
「ちりんちりん!」
「ちりんちりんです!」
「…………何やってるんだよ?」
「決まっているでしょう! ルームサービスを呼んでいるんです!」
ここはそういうところと違うと思う。
「ご飯!」
「ご飯!」
「「ごはーんっ!!」」
既にナプキンの装着が完璧な二人は、テーブルに腰掛けながら叫んでいる。
なるほど、親鳥に食料をせがむ雛鳥のようだ。
天井に向かって叫んで、エサが降ってくるとでもいうのだろうか?
『た、大変お待たせしました! おぉおおおお食事をお持ちしました!』
きたよルームサービス。
それにしてもやたら緊張気味の声だったな? はて? どこかで聞いた事のある声だ。
扉を開けると、そこには直立したまま目を血走らせたハチヘイルが立っていた。
この前は兵士のような鎧を着ていたが、今回はコックのような様相だ。
何でもやるんだな、この人。
「お、お久しぶりです……」
「こ、これはポーア様! この度は聖都レガリアを救って頂き誠にありがとうございます! ハドル陛下も、国の混乱をいち早く治めて頂いた事に感謝の意を表しております! 素晴らしき勇士に褒美をと、この度、聖都レガリア一の夕食をご馳走させて頂きたく存じます!」
そんな頭を下げられても困るな。
しかし…………もしかしてこの人は、聖帝との距離が非常に近い人物なのでは?
聖帝からの指示を直接受けているように思える。信頼も厚そうだ。
人が良さそうな顔してるから俺としても好感もてるし、聖帝もそうなのかもしれない。
「まだですか!?」
ポチの執念がこもった声で再びハチヘイルがガチガチに固まる。
「は、はぃいいいいいいいっ! 只今ぁっ! あぁあぁ早速怒られてしまった! 大変申し訳ありません!」
「ご飯っ!」
今度はチャッピーか。
「ひぃいいいいいっ!? 申し訳ございません! 申し訳ございません! 申し訳ございませんっ!」
出世は出来なさそうだが、人からは愛されそうだな。
ハチヘイルが配膳をし、「どうぞ!」と頭を下げた瞬間に食事が消える。
勿論、二人の胃袋に向かっているだろう。
おそるおそる顔を上げるハチヘイルが「ひぃいいいっ!? 空のお皿をお出ししてしまうとはぁあああっ!?」とか驚いていたけど、面白いからしばらく眺めて見てた。
食事が終わり、泣きそうなハチヘイルにフォローを入れながら扉を閉める。
既にチャッピーもポチもベッドに飛び込んで枕投げを始めている。レオンも近くで寝ているんだ、当てるなよ?
是非混ざりたいとも思ったが、俺の背後から来客をしらせるノック音が鳴った。
はて? そろそろ二十時を回る頃だが、こんな時間に誰だろう?
『師匠、私です』
意外な事に、扉の向こうに現れたのはブライト少年だった。
「はりけぇええええんしゅううううとっ!」
「羽毛百ぱーせんとぉおおおお!!」
枕投げが熱を上げ、部屋がやかましい事になるとわかった俺は、部屋から扉の外に出た。
「お取込み中でしたか?」
ブライト少年の子供のような「どうしたんですかぁ?」は本当に卑怯だと思う。
手を後ろで組んでカタりと首を傾げちゃってからに。うーむ、俺は騙されないぞ。
「いえ、大丈夫です。シロたちがはしゃいでいるだけですよ。それより遅くはないにしてもこんな時間にいかがしましたか?」
俺の問いに、ブライト少年は口ごもってしまった。
はて、こんなブライト少年は珍しい。
医者でも呼ぼうかと考えていると、ブライト少年は強い視線で俺を見つめてきた。
「師匠っ、どうか私を連れて行ってはもらえませんか……!」
………………………………どこへ?
ブライト少年はそのまま俺に縋るように上着を掴んできた。
「ジョルノさんに伺いました。師匠は聖戦士なのだと」
……そうか。
「私も神に仕える身。その役割がいかに大きい事かはよく知っているつもりです……」
そうか、そういう事か……。
「だからこそわかるのです。国としての問題が消えた今、おそらく私やフェリスさんへの魔法指導はもう…………っ!」
「そうよ、連れて行ってくれるんでしょうね」
「「っ!」」
悲しそうなブライト少年の顔に、もどかしい気持ちが生まれた時、左側からフェリス嬢が現れた。
ブライト少年が廊下でここまで声を荒げるんだ。そりゃ聞こえてしまうよな。
むすっとするフェリス嬢に、ブライト少年は顔を隠すように後ろに向けた。
珍しくも冷静で端正な顔が崩れていたからな。隠したくなる気持ちもわかる。まさかブライト少年にこんな一面があったとは知らなかった。
「フェリス様、アダムス家のご息女が部屋を出ていい時間ではありませんよ」
「今更そんな事言う訳? 私の性格ならもう知ってるはずでしょう」
腕を組んでむすっとするフェリス嬢。
そりゃごもっともで。
「返答次第で部屋に戻ってやるわよ」
「ご希望に沿えない場合もあるかと――――」
「――――返答次第よ」
ブライト少年も平静を取り戻し、再び強い目を向ける。
もう少し時間を置いてから言いたかったんだが、やっぱりこうなるのか。
「…………大変申し訳ありませんが、魔王討伐にお二人を連れて行く事は出来ません」
俺は出来るだけ心を殺し、出来るだけはっきりと伝えた。
その声だけが廊下に響く。弟子の前だというのに、辛い間だ。
そしてその間を壊したのも、やはり彼女だった。
「…………そう」
半目になり、小さく息を吐いたフェリス嬢は、
「あー眠い眠い、あわわわわわ~……」
出てもいない欠伸を演出し、静かに部屋へ戻って行った。
俺の返答で俯いてしまったブライト少年は、震えながら拳を握っている。
俺は膝を突き、ブライト少年の目の高さまで背中を縮める。
「……お約束のものです」
俺は指に魔力を集め、魔法陣の公式をゆっくりと宙図する。
間違えないよう、慎重に、わかりやすく、丁寧に。
普通の魔法士から見たら難解だろうが、今のブライト少年ならば、これだけゆっくりと公式を見せれば瞬時に模倣する事が出来るだろう。
トウエッドでの賭けの代償――――――空間転移魔法陣の魔法公式譲渡。
「……確かに、頂きましたっ」
俯いたままのブライト少年は、
「さぁ、もうお休みになってください……」
「……わかりました……っ」
不服そうな声を露わにし俺に再び目を見せる事はなかった。
扉を閉める背中に、寂しさが見えたのは気のせいだったのか。
はたまた、ブライト少年が決して見せる事のない気持ちだったのか。
今の俺にはもう聞く事が出来なかった。
「はぁ~~……」
どこから出たのかと自分で思う程、深い溜め息を吐いた俺は、自分の部屋で待ってるであろうチャッピーとの決別にも憂鬱を感じていた。
まぁチャッピーは物分かりがいいから多少は楽だけど、やっぱり言うのは辛いなぁ。
そんな事を考えながら、自分の部屋である客間の扉を開け――――
「マスターの! 究極限界ォオオオオオッッ!!!!」
「何の! 羽毛千三百パァアアアアアアアアアアセントォオオオオオオッッ!!!!」
うん、とりあえず枕投げしよう。




