◆234 聖戦士ポーア
(ふぅ、ようやくポチの動きも戦闘に慣れてきたな。おっと、そろそろ切れる頃だな)
「ほほい、オールアップ・カウント5&リモートコントロール!」
効果切れ直前、アズリーが能力強化魔法を奮闘するパーティメンバーに届ける。
「……生意気だよぉ」
リーリアが歯をギリと鳴らし、
「……フンッ!」
赤帝牛が大きく鼻を鳴らし、
「やる~っ!」
ジョルノが飄々と言った。
能力強化の効果切れは、この大規模戦闘では大きな敗因ともなり得る。
今まで軽やかに動けていた身体が、モンスターに囲まれる中、一気に重くなるのだ。
アズリーは頭で、身体で、オールアップの効果が切れる時間を覚えている。
全てのメンバーに能力強化魔法を送り、特定の相手に対してそれを発動する。
かつて目で追えなかったリーリアの動きを、遠方から、魔力の揺らめきを感じ取って捉えているのだ。
「ほい! ハイキュアーアジャスト・カウント5&リモートコントロール!」
僅かな傷も、一瞬で治す回復魔法。
「ほい! ギヴィンマジック・カウント5&リモートコントロール!」
設置型魔法を飛ばし、常に仲間を捉えて魔力を回復させる卓越した技術。
「ほい! ポチ・パッド・ブレス!」
魔王軍の陣形の綻びを見逃さず、素早いスウィフトマジックによって無数のモンスターが散る。
「ほほい! グラビティスタンプ&リモートコントロール!」
赤帝牛が抱えるモンスターの量の調節。
「ほい、エアウォール・カウント3&リモートコントロール! よし、ポチ! 真っ直ぐ極ブレスだ!」
「ガァアアアアアアアアアアアアアッ!!」
両側面、背後からのモンスターの侵入を防ぎ、正面の敵を一掃。
(ここだ!)
「ほい! グランインフェルノ・カウント3&リモートコントロール!」
エアウォールの魔法が切れた瞬間に、その前方に落とし穴を作成。
そして落とし穴の中で煉獄の炎が踊り、モンスターたちを焼いていく。
かつてリードたちを救った魔法の連携を、
「出来ない」と言っていた土と火の複合魔法で、
三ヶ所同時に行う異常な程の魔法技術。
「ほい! アースコントロール・カウント3&リモートコントロール!」
煉獄の落とし穴が移動し、モンスターを更に飲み込み業火で焼く。
この間、アズリーは他の仲間へのギヴィンマジックのリモートコントロールを維持したままである。
「……凄いな」
ジョルノが動きを止め、アズリーに目をやる。
平時の爽やかな笑顔は消え、ただただ感嘆の声を漏らし、アズリーを見つめる。
アズリーは顔に皺を寄せ、大汗を顔に滲ませながら魔法を操っている。
そんなアズリーだけが気付いていない。
アズリーを背に感じ、ただ主が示す方向のみに集中しているポチは気付いている。
感嘆の息を漏らしたジョルノも、敵を吹き飛ばす赤帝牛も、狂喜に身を投じるリーリアも気付き、認めている。
――アズリーの実力を。
魔法士ながらも戦況を支える程の存在。
パーティを誰一人として欠かしてはならないという執念。
人一人に収まるはずもない知識と魔法、魔術の発動速度。更には戦士さえも圧倒する肉体。
受け持った八千のモンスターを翻弄する作戦と、ポチへの信頼。
アズリーの長年の研究と鍛錬がようやく実を結んだ時である。
(……凄いです、マスター!)
その性格故、絶対に表に出さないポチの心。
ポチの身体はアズリーの全てを助けた、アズリーもまたポチを助け、二人の信頼で結ばれた糸は強靭な力となって猛威を振るった。
「――ほい! ――ほほい! ――ほいのほい! ――ほいのほいのほいっ!! オールアップ・カウント5&リモートコントロールッ!!」
ポチ以上に……いや、このパーティの誰よりも戦闘に集中しているアズリーだけが気付いていない。
この大規模な魔王軍との戦闘は、このアズリーによって支えられている事を。
『……見事!』
アズリーに掛けられた称賛の言葉。
アズリーの集中力故、背を貸している使い魔にだけ声が届く。
「へ?」
それはどこかで聞いた事のある声だった。
疑わしくも温かな、顔の見えない老人の声。
ポチはその声の正体にすぐ気付いた。
「あのお爺さんの声です! 神の使いとか言ってた、あの――!」
「あぁ?! 何か言ったかポチ!? ……あれ?」
そして、アズリー自身、自分の変化に気付く。
(身体が……軽い?)
咄嗟に鑑定眼鏡を発動し、反射魔法を掛けたアズリー。
数千のモンスターを前にそれだけの余裕が、今のアズリーにはあった。
ジョルノ、リーリア、そしてアズリーに付いている【聖戦士候補】の称号。
誰よりも鍛錬し、修練し、尽力し、ただ一言、神の使いが放った研鑽という言葉に従い突き進んだからこそ――
誰よりも早くその称号に変化が訪れた。
(候補じゃ…………なくなってる?)
他の聖戦士候補より早く、それは訪れた。
瞬間、アズリーの内に眠る膨大な魔力が暴走を始めた。
「うぉっ!? 何だ何だ何だ何だっ!? 魔力が……力が溢れてくる!?」
「何ですかそれ! ずるい!」
「いやいやいやいや! それどころじゃねぇよ! このままじゃ魔力が全部抜けちまう!」
「抑えればいいでしょう! いつもやってるように!」
「それが……くぅ……くくくっ! この! くっ! 集え筋力! ふんがっ!」
アズリーの身体が筋力で膨張する。
「と、止まった……!」
「今の筋力必要ありましたぁ!?」
顔を歪めてポチが突っ込む。
「う、うるさいな! 今調節してるとこだよ!」
恥ずかしそうに答えるアズリーに、ポチは思い出したように前を見る。
そう、今は戦闘中。そんなやりとりをしている場合ではなかったのだ。
「早くしてくださ――――って、マスターの魔力に当てられて、モンスター皆固まっちゃってます……」
蛇に睨まれた蛙……以上の硬直。
全てのモンスターは目の前の不可解で異常な魔力に、自分の死を見たのだ。
そしてその影響は、ジョルノが担当する中央にまで及んだ。
再びアズリーを見るジョルノ。その頬にかつて感じた事のない冷たい汗が流れた。
「今のは……ポーアさん、が?」
アズリーは水龍の杖を脇で挟みながら左手で右の手首を掴み、握っては開き、握っては開いている。
「よし……よぉーし。なるほど、こういう事か。何となくわかってきたぞ」
「制御方法ですか?」
カタンと首を傾げるポチ。
「まぁそれもあるけど、力の使い方というか、今までわからなかった攻撃魔法の使い方だよ」
「攻撃魔法?」
今度は反対に首を傾げるポチ。
「ほれ、前に話しただろう? 攻撃魔法の《特》が、《極》に変わっていたって」
「あーあー! 確かに言ってました! それで、どういう事なんです?」
「……うし! こういう事だ! ほいのほいの……ほい! ホーリーワールド!」
天に掲げられた水龍の杖。
そして発動される光の魔法。
「へ? ホーリーワールドって特級の魔法だったはずですが――――っ!?」
その時、ポチの瞳に映ったのは眩いばかりの光。
視界の全てが光で覆われ、そして視界に見える全てのモンスターが砂のように光となり、消えていった。
本来適切な魔力で発動する魔法や魔術。
アズリーはその公式を無視する程の魔力を瞬間的に込め、大魔法と呼ばれる特級魔法を更に一つ上の次元にもっていったのだ。
その範囲は広大で、その威力は未知数で、その効果は絶大だった。
千は超えるモンスターが一瞬にして消えたのだ。
「……………………すげ」
アズリー自身も驚きが隠せない程である。
ホーリーワールドの光は仲間全ての足を止め、アズリーの戦場を見させるだけの力があった。
膨大過ぎる程の魔力の動きに翻弄されたのは、モンスターとて例外ではない。
「すげぇ……すげぇ………………すげぇ! おいポチ! 今の見たか!? めっちゃ凄くなかったか!? 俺のホーリーワールドが視界一面にいたモンスターを、こうサーって消していったぞ!? これが極魔法ってやつなんだな! いやー放った俺も驚いちまうくらいだからな! ポチもさぞかし驚いただろう!? うーん! あの魔力供給であの威力ならポチ・パッド・ブレスをまた改良出来るかもしれないぞ! なぁポチ! おい聞いてるのかっ!?」
興奮したアズリーの下でプルプルと震えるポチ。
(何だ。そんなに感動したのか。言葉を失ったって事だな。うんうん、これなら更に上の魔法にも手を加えられるかもしれないな! この戦闘が片付いたら光魔法から手を付けていこうかな! うん、そうしよう! ……ん? 光?)
アズリーは何かを忘れていたかのように首をカタリと傾ける。
ソレを思い出した時は、全てが遅かった。
アズリーは顔だけを歪めた。いつもは準備している防御策を忘れた事に気付いたからである。
そして、その時は訪れる。無常にも無慈悲にも――――。
「みぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!?!?!? 眩しいですぅうううううううううううううううううううううっっっ!?!?!?」
「うぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!?!?!? うるせぇえええええええええええええええええええええっっっ!?!?!?」
未だ賑やかな右翼の中心である。




