232 激突
「やーやー、来たねーポーアさん」
ジョルノが黄金の髪の毛を揺らし爽やかに挨拶してきた。
こんな中でよくその顔が出来るよ、この勇者様は。
背後に聖都レガリアが遠目に見える荒野で、リーリアと赤帝牛が凄まじい数のモンスターたちを前に仁王立ちしている。
「来たくなかった……」
「来たくなかったですぅうううう! 帰宅したいですぅううう!!」
「ハハハハ、面白い。本当に底抜けに面白いね君たちは!」
俺はポチの背中から一旦降りた。地に足を付けてあのモンスターたちを見なくてはいけないと、ちゃんと見定めなければいけないと、そう思ったからだ。
見渡す限りモンスター。
まるでモンスタの見本市だ。世界一のな。
数にしておよそ二万というところだろうか。俺とポチが顔を覆いたくなる気持ちもわかって頂けるだろう。
とまぁ、このモンスターたちを前に、そんなにふざけられる訳ではない。
俺はともかくポチにも少しの余裕があったのはせめてもの救いか。
「ほい、ギヴィンマジック&ハイキュアー!」
俺は消耗している赤帝牛に回復を施す。
赤帝牛は鋭い視線で俺を見てきたが、自身が回復状態である事を肌で感じたのか、すぐに正面を見つめ直した。
「優しいねー、ポーアさんは。リーリアの言った通りだよ」
「リーリアさんが? 俺を?」
「ジョルノ。死にたいのか?」
やめてくれ、世界が終わる。
リーリアが背中の剣を抜きながら言うと、本当にそう感じてしまう。
しかしリーリアが俺を優しいと言ったのか。まったく、何を根拠に言ったのだろうな。
「それにしても……二万はいますよね?」
「モンスターの数は問題じゃないよ」
いや、俺とポチにとっては大問題だ。
「問題はあのモンスターたちの後ろにいる悪魔の方だよ」
やはりいらっしゃってるのか、悪魔さん。
「マスター、病欠って出来ますか?」
「それは一大事だな。何ていう病気だよ?」
「仮病っていうんですけどね。こういう状況になると、本当に色んな症状が出始めるから不思議です」
「そりゃ不思議だな。俺も疲れてないのに動悸や息切れが多少おかしい。俺も申請しとこう」
「誰に出せばいいですかね?」
「そこの二人」
「却下だね♪」
「死ね」
知ってた。
ジョルノがさらっと楽しそうに言うのは知ってたが、リーリアのあの返しは予想してなかった。
あれはなにか? もしかしてここで死ねという意味だろうか?
奮戦しながら死ねと、そういう事だろうか?
「「はぁ……ですよねぇ」」
「はははは、全滅させる事が出来たら早退は認めるよ」
こっちが全滅する可能性の方が非常に高い…………とは言い切れないのは、このパーティの異常性故だろうか。
聖戦士であるエルフの戦士リーリア。その使い魔、天獣の一角赤帝牛。
黄金に輝く髪を靡かせ、感情の読めない聖戦士。勇者ジョルノ。
そして愚者と鳥犬。
なんて完璧なパーティだ。綻びがひと目でどこかわかるな。うん。
「作戦はあるんですか?」
「とりあえず~」
「潰す」
なんて完璧なパーティだ。全部綻びてる。
「はぁ、そんなんで大丈夫なんですかねぇ……」
俺の嘆きに、ジョルノはケタケタと笑いながら指を四本立てた。
「良い作戦がある。一人あたり四千。楽で簡単だ」
伝説も大概だな。
いや、こんな事をこんな軽口で言えるだけの伝説だろうからな。
さぞ凄まじい伝説になったに違いない。
「よかったです! 私は後方支援ですね!」
「お前も一人に入ってるに決まってるだろう」
「私は! 匹に! 甘んじます!」
「こんな時ばっかり都合がよくなると思うなよ! 俺たちで八千だ、わかったな!」
「何か倍に増えました!?」
俺のお説教に、ポチは物凄い表情をして両前脚の肉球で頬をおさえた。
「おや? 二人で戦うのかい? 個々で戦った方がやりやすいと思うんだけどねぇ?」
「いえ、俺たちは俺たちでやった方がやりやすいです」
「ん~、まぁそれでいいのなら……ねぇ?」
ジョルノはリーリアに目を流すと、リーリアは口を結んでからそっぽを向いた。
「……好きにしろ」
気のせいだろうか。リーリアの言葉にはいつもの敵意が感じられなかったように思えた。
まるで「任せた」と言ってくれたように感じた。はて、リーリアの中で何か起きたのだろうか?
「ははは、リーリアが任せるってさ」
あぁ、やっぱりそうなのか。
普段は感情を抑えた戦士だ。中々分かりにくいよな、あの人。
「雑談はそこまでだ。時間だぞ」
「「「「「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!」」」」」
まるでリーリアがわかっていたように、モンスターたちの威嚇音が最高潮に達した。
俺とポチは目を涙で潤ませながら、きっと今夜の夕食の事を考えてたに違いない。
もう少し心の準備が欲しかったものだけど、戦闘っていうのはいつもこんなものだよなぁ、と、諦める俺もいた。
「僕は真ん中だね」
「私は左翼だ」
「グモ~ッ!」
「オーケー、牛ちゃんはその間だね。右翼はまかせたよ、ポーアさん、シロ君」
「ほほい! オールアップ・カウント5&リモートコントロール!」
全員への能力強化魔法。
そして俺はまたポチの背中に跨った。
「やっぱりこれはいい魔法だね~!」
「殺す……殺す……殺すっ……殺す!」
「グモォオオオオオオオオオオオッ!!」
「「帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい……!」」
五人が五人、自分に活を入れ、その内の三人はモンスターたちの前進とゆっくりと足を揃える。
そしてそれは一歩、また一歩と歩幅を広げ、やがてそれは走りとなり、風となった。
最後まで動かなかったポチだったが、俺はポチのタイミングに任せるため、頭をひと撫でしてその時を待った。
「家に帰れば!」
「夕ご飯!」
「いつも心に!」
「食! 食! 食!」
「野菜はポチのっ!」
「敵っ! 敵っ! 敵っ!」
「目指すは最高!!」
「神魔の実!!」
「そのためならばっ!!」
「なんのそのっ!!」
「ポチの主はっ!!」
「馬鹿っ!! 阿呆っ!! 愚者っ!!」
「それでいい! 行くぞ!」
最後にくしゃっとポチの頭を撫でると、ポチは身体を起こして天に向かって叫んだ!
「アァアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!!」
「ぶっ潰すぞ!! 俺たちの力で、モンスターたちのど真ん中に風穴開けてやるっ!!!! ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」
「古代最強の使い魔ポチさん! 発射でしっ!!」
あ、噛んだ。
古代最強の使い魔か。事実、公にはそうなったが、ポチはまるで自分自身に言い聞かせるように叫んだ。
確かに、そう言わなきゃ、この状況でやってられないわな。
「ポチ・パッド・ブレス!」
俺たちが受け持つ右翼。
その最奥に対して発動したポチ・パッド・ブレス。
近付き過ぎれば危ないが、この距離ならばいける。
「ポチ・パッド・ボム!」
最前列に並ぶ不死系のモンスターたちに放つポチ・パッド・ボム!
全てはポチの移動の軌道を確保するためだ。
無数に吹き飛ぶモンスター。その後ろのモンスターたちは仲間の亡骸を越えて更なる速度を出す。
そして起こるポチ・パッド・ブレスの爆発。
不可解な魔法の球体から逃れられなかったモンスターの絶叫すら飲み込む巨大な爆発。
そしてそれは、五者全員の戦闘開始の合図でもあった。
「始めるよ~っ!!」
「ぶち……殺すっ!!」
「グモォオオオオオオオッッ!!」
「マスターのせいで酷い目に遭いましたっ!!」
「遭うのはこれからだ、馬鹿たれっ!!」
――――神聖暦百二十一年五月。
聖都レガリア近郊にて、俺たちは初めて魔王軍と戦う事になった。




