231 不完全燃焼
何故……何故リーリアは使い魔杯に出場した?
そもそもリーリアはそんな性格じゃないはずだ。自分の力を示す方が向いている。
最前線であるソドムの街で戦っているんじゃなかったのか?
何故ここへ来た? ソドムからの距離を考えれば、レガリアはフラッと訪れる場所じゃない。
赤帝牛にしたってそうだ。何故、名前を付けなかった? 何故あんな強引な使い魔契約をした?
「先に行く。貴重な戦力だ、逃げるなよポーア。……行くぞ!」
リーリアは傷だらけの赤帝牛にそう声を掛けると、凄まじい跳躍と共にコロシアムの外へ消えて行った。
何故……何故ここへ魔王軍が?
いや……問題は何故ここに魔王軍が来たかではない。
何故魔王軍が来る場所にリーリアがいたかという問題だ。
そう考えてしまうと、俺の脳は答えに行きつくのに時間はかからなかった。
リーリアは――――ここに魔王軍が来る事を知っていた……!?
「……っ! そういう事かよ!」
「マ、マスター……?」
なるほど、もしそうなら全てにおいて説明がつく。
何故リーリアは使い魔杯に出場した? 赤帝牛による圧倒的な力で早々に使い魔杯を終わらせるためだ。
そこに俺とポチが現れた。そしてつい今しがたリーリアは言った。
「貴重な戦力」だと。大幅な戦力アップをした俺たちの力を見極めるために、使い魔杯の決勝まで残った俺たちとあえて戦った。赤帝牛を前に、奮闘し、真っ向から立ち向かったのは使い魔杯でポチだけ。リーリアは自分の目で確かめないと相手を認めないタイプだ。十分に考えられる。
だがここは聖都レガリアだ。何故こんなところに魔王軍が現れた?
知っている。俺なら知っていたはずだったんだ。ソドムの更に南とここレガリアとを結ぶ一本の糸さえあれば、それが可能だと知っていたはずだったんだ。
――――空間転移魔法。
…………くそ、怠ったな。
空間転移魔法があればこことソドムを繋ぐ事が出来る。
俺は以前ジョルノに指摘したというのに……!
悪魔の中に魔法を使う者がいれば内部からも、外部からでも一気に攻め込む事が出来ると。
リーリアがここにいたのは心眼使いだからだ。絶望の使徒が侵入すれば、内部からレガリアは一気に崩壊してしまう。
それを防ぐための常駐だったんだ。
ジョルノの姿を見かけなかったのはそういう事だ。おそらくジョルノは外部からの接近を警戒していたんだ。
二手に分かれ、魔王軍の進路を割り出すために。
魔王軍が知っていたのかはわからないが、不幸中の幸いか今は使い魔杯の時期。
実力者が集うこの中で、更にポルコやジュンもいる。
内部から崩す事は諦めたのだろう。だから現れた。レガリアの外に。
幸い中の不幸か、ここには実力者が集まっている。全てを一気にぶち壊すならば、絶望の波となってレガリアを襲えばいいわけだ。
ついでに圧倒的カリスマをもった聖帝も葬れる。
赤帝牛にしたってそうだ。何故リーリアは強引な使い魔契約を結んだと頭で批判するより、何故それしか手段がなかったかと考えればよかった。
単純に時間がなかったんだ。自身の戦力ともなる使い魔だが、使い魔杯の出場に間に合わないとなれば、また別の方法が必要となってくる。
だから急を要するリーリアはあの外法を選んだ。選ばざるをえなかったんだ。
そもそもリーリアは強引な性格をしていても、根本はエルフだ。魔法や魔術を重んじるべき種族がそんな事するはずもなかった。
なるほど、心底聖戦士だな。
俺なんかとは訳が違う。
「――スター! マスター!」
「ぁ、あぁシロ。回復出来たのか」
「『回復出来たのかぁ、ほげぇ』じゃないですよ! 『回復出来たのかぁ、ほげぇ』じゃ!」
おかしい、そんな事を言った記憶がない。
「大変ですよ! もう皆さんパニックで! ポルコさんの言葉で悲鳴まであげてる人がいるんですから!」
それもそうか。
ここは聖都レガリア。危険とはかけ離れた場所だ。
混乱するというのは目に見えている。だが、ポルコはそれでも俺にその言葉を投げかけた。
混乱以上の戦力を俺に見たからだ。
ポルコとジュンは既に聖帝の両脇に付いた。いつ内部に魔王軍が侵入するとも限らない。
護衛は外せないだろう。
「父上ー! 母上ー!」
「チャッピー!」
チャッピーが客席から降りて来た。
瞬間、俺は懐でレオンがもぞっと動く感触を覚えた。
「ぁう」
「…………ったく、ホント、とんでもない赤ん坊だな」
「あじゅりぃ!」
何とレオンはベビーキャリアの結び目を強く揺さぶっていたのだ。
外せはしないが、俺に意図を知らせる事が出来る。
レオンは俺に存分に戦える戦力を与えるため、乗り換えを提案したのだ。
俺はその意思に従い、ベビーキャリアを外しチャッピーの首と羽にかける。
「レオールを……いや、レオンを頼んだぞ、チャッピー仮面!」
「当然です! 私は正義の味方! チャッピ~かめーん!」
「この後はポルコの下へ行き指示を仰げ。このパニックは聖帝がどうにかしてくれるだろう。ブライトとフェリスからは目を離すな」
「合点承知!」
チャッピーは羽を器用に使って敬礼すると、来賓席の方へ飛んで行った。
「よし、準備はいいか!」
「行ってらっしゃい!」
「くそ! こんな時までブレないなお前ぇ! ほほい! オールアップ・カウント2&リモートコントロール!」
「あはははは、マスターは変わりましたね!」
「ぁん? どういう意味だよ?」
ポチに跨りながら聞く。
「覚えてますか? 旅をし始めた頃。リードさんたちを見つけた時、マスターが何て言っていたかを?」
……うーん、何て言っただろうか?
今思えば悠久の時を生きたのに、旅を始めてからの方が充実した日々を送った気がする。
十年も経っていないのに五千年より長い時間に感じるのは面白い現象だ。
それにしても、何て言ったっけ? リードを見つけた時……はて? ……ぁ。
「そうだな、変わった……というより成長したかもしれないな」
「あははは、思い出しましたか?」
「襲われてるリードたちを前に『よし、今のうちに逃げるぞ!』って言ったんだったな」
「ちゃんと引き止めた私に感謝してくださいね! あの時私がマスターをこき使ってなければ、絶対にリナさんたち生きてませんからね!」
まったくもってその通りだ。
ポチには感謝するべき事が多いような気がする。
「はいはい、感謝してますよシロさ~まっ! ほれ、飲んどけ!」
「んば!」
天に向けるポチの口の中にポチビタンデッドを流し込む。
「ほい、ギヴィンマジック&リモートコントロール!」
「……はて? ギヴィンマジックは設置型だったのでは?」
「一応言っておくが、設置型のままだぞ」
「むぅ~、ついにボケちゃいましたか?」
「説明は後でしてやる! 今はリーリアを追ってレガリアの外へ向かえ!」
「もう! 後でちゃんと教えてください……ねっ!」
実際には、魔力で見えない平面の床を形成し、その上に設置型魔法を置いているんだ。
リモートコントロールでそれをポチの足下に置いて操作すれば移動しながらの魔力回復が可能だ。
そんな秘密を聞きたかったポチは、リーリアにも負けない特大の跳躍を見せ、一気のコロシアムの外壁の上に着地した。
「ところでポチ?」
「はい、何でしょう?」
「使い魔杯、優勝おめでとう」
「………………………………はぇ? 何を言ってるんですか?」
「決勝の相手、赤帝牛の主、リーリアが棄権を宣告したんだ。お前の優勝で決まりだろう」
「……………………………………はっ!?」
「っておい! この状態で立ち上がるんじゃない!? 俺の腹筋だってまだ聖戦士になりきってないんだからな!」
「そんな!? ほんとに!? え!? わたし!? 優勝ですか!?」
「はっはっはっはっは、喜べポチ君! 古代の最強使い魔の称号は君のものだ!」
「ふっ……ふっ……ふっ…………ふっ――――」
……笑っているのか?
「不完全燃焼ですぅううううううううううううううううっ!!」
違った。
だが、言葉とは裏腹にポチの顔は緩みまくっている。そうかそうか、嬉しいか。
それに、ポチの尻尾を見れば一目瞭然だしな。
「さぁ! 我々の明日! そう、未来が待っているぞポチ君!」
「うぉおおおおです! 皆さんの下に戻ります! 絶対に!」
そう叫び自分に、互いに言い聞かせた俺たち。
――――だったが、
「おうち帰りたい!」
「です!」
無数に並ぶモンスターの群れを前に、肩を震わせ、涙を流しながら絶望を嘆いた。




