222 誕生
茶番会
「私は正義の味方、チャッピィ~~~~かめーーんっ!」
「現れましたねチャッピー仮面! この正義の味方ポッチー仮面が相手になりましょうっ!」
何故正義の味方同士で争わなくちゃいけないのだろう?
「ポッチー仮面! お前の正義は間違っている! 真の正義とは悪い奴をやっつける者だ!」
「いいえチャッピー仮面! あなたの正義こそ間違っている! 悪い奴だからといって全ての悪い奴をやっつけるのはいけない事なんです!」
あぁ、そういう事か。随分とまた高尚な争い事だ。
まさかレガリアの宿に帰って早々こんな面白そうな劇を観られるとは思わなかった。
「何故いけないのだ!」
「悪い奴でも美味しい物を作れるコックさんがいるかもしれないでしょうっ!」
違う違う。
「むぅ……なるほど!」
納得しちゃったよ。しかし、物凄い形相で言い切ったな。
結末は一体どうなるんだろうか? 面白いからもう少し観ていよう。
「それに、大した悪さをしていない人間の方が多いからです!」
そっちが本命だろう。何故コックを優先させたんだ……って、ポチだからか。
「ふっ、悪い奴に人権はない!」
おそらくこれは本線に戻ったんだな。
さっきのアレはポチのアドリブか……はたまた元々台本に書いてあったのか気になるところだが、ポチが書いたのであれば、あれも本線だったと思わずにはいられないな。
「くっ、どうやら私とチャッピー仮面の意見はこのまま平行線のようですね! 致し方ありません! 勝負です!」
「望むところだ! 我が漆黒の翼で亡き者にしてくれる!」
「何を! 私の黒爪ぉ、あれっ? いえ! 白いけど黒爪です! その黒爪で引っ掻いちゃいます!」
チャッピーのセリフは決まってるけどポチは何か決まらないな。
もしかしてポチ、自分の爪の色を確認しないでノリで書いたのだろうか? うん、そうだな。そうに違いない。
「くらえ!」
「何のぉっ!」
本気ではないが、表情だけは真に迫る感じがあるな。
ぽこぽこばさばさ殴り合う光景が微笑ましくも、安宿で天獣同士が争っていると考えると恐ろしい。
「くっ! このままではジリ貧だ……! 仕方ない! 私の真の姿を見せてくれよう!」
「何ぃっ!?」
おぉ、変身するのかっ?
「くわぁあああああああああああああああっ!」
アヒルみたいな声を出したなチャッピー仮面。
「ふぅ……これが私の真の姿だ……!」
変わってないな。
少しだけ羽が逆立っているだけだな。
「な、何という圧力ですかっ! こ、このままでは私もやられてしまいます! こうなったらアレを使うしかありませんね!」
どれだろう?
「ぉー……?」
レオンも気になるご様子だ。
「わおぉおおおおおおおおおおんっ!」
素晴らしい遠吠えだが、こっちも毛が少し逆立っただけだな。
獣って便利だな。
「むむむっ? この勝負……長引きそうだな!」
「ふふん! 降参するなら今のうちですよ!?」
「そういう訳にはいかぬ! 私の正義……押し通させてもらうぞ! ポッチー仮面!」
「私の肩には全世界のご飯――じゃない! 全世界の子供たちの未来がかかっているんですっ!」
二人で手を取り合えば万事解決だと思うんだが、どうなのだろう?
ポチの事だ。絶対にそんなツッコミは予想していないだろう。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぅ……!」
「や、やりますね! まさかこんなにも実力が拮抗しているとは思ってもみませんでしたっ!」
「それはこちらのセリフというもの……ポッチー仮面、その正義の名に偽り無しっ……! ならば私の……真の、本当の姿を見せる時がきたようだな!」
……まだあるのか。
「何ですってっ!? あなたにも真の、本当の姿がっ!?」
お前もあったのか。
「ポッチー仮面もだったか! ふふふふ、出会う時が違えば……お互い良い友になれたかもしれないな……!」
親子なのにね。
「ふっ、それを今言うのはよしましょう。この力を解放すれば、お互いに無事では済まなくなる……そんな気がします」
「……ふん。そのようだな。友にはなれなかったが、良い好敵手に恵まれたと思うべきか……」
「「っ! ふぅおおおおおおおおおおおおっ!!」」
掛け声が揃い、二人の目が充血したところで茶番終了のお知らせが扉越しから聞こえた。
『お客様っ。夜も深いのでもう少しお静かにお願い致します!』
「「ごめんなさい!!」」
そういや深夜だった。何て迷惑な客だろう。
…………もしかして俺が怒られてるのだろうか? 何て理不尽な世界だろう。
「あ、マスター帰ってたんですか? 全然気付きませんでした」
気付かなかった事に驚きだが、それ程役になりきってたのか。ポッチ―仮面。
「父上、私の名演技、いかがだったでしょうか?」
「あ、あぁ。悪くなかったと思うぞ?」
自分で名演技と言い切る自信は凄いが、仮面ってそのサングラスだけなのだろうか?
もう少し仮面要素があってもいいと思うんだが……いや、ポチたちに言ってもわからないか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日以降。
ダグラス家の監視から逃れつつ、色々な情報を探り始めた。
ポチとチャッピーの協力により、監視を撒き、インビジブルイリュージョンなどの魔法を使ってダグラス家に忍び込んだりもした。
そこでいくつかわかった事があった。
これはダグラス家内の使用人の話を盗み聞いたんだが、どうやらチキアータはあのまま戻らなかったらしい。
現状ダグラス家には当主も戻っていないようだ。
ミャンも戻ってないって事は、もしかしてチキアータに付いて行く事を選んだのだろうか?
一番の謎はチキアータと一緒にいたあの私兵たちだ。あいつらまで戻ってないとなると、トウエッドで出会ったあの一団が全員消えた事になる。
一体どこへ消えたっていうんだ? チキアータは北の魔女とか言われてたらしいから、もしかしてここから北の方に?
だが、ここから北といえばレガリア湖くらいしかないのでは?
もう少し北西寄りなのだろうか?
しかし、棲家がわからない以上、チキアータたちの消息はわからないままだ。
出来ればあのまま静かに暮らして頂ければ幸いなんだが……そううまくいくものか。
ブルーは悪いヤツじゃなさそうだったが、肝心のマスターがあぁじゃ――って、そうでもないか?
さて、問題の奪われたアダムス家のお金だが、どうやら取り戻す事は困難を極めそうだ。
ダグラス家の家中をあらかた探し、盗み聞きや情報屋をつかって「隠し帳簿」の存在までは突き止めたのだが、その帳簿自体はダグラス家の当主、《ベイズ・ダグラス》が持ち歩いているようだ。
その帳簿さえ見つかればダグラス家と、その後ろで暗躍する皇后含む皇后派を追いつめる事が可能なのだが……肝心の当主が行方を晦ましているのでは、見つけようがない。
そこで使ってみたのが、ララを見つけたあの魔法だ。
そう、マジックストーカーの魔法だ。
家の持ち物や、ベイズ・ダグラスの部屋の物を使ってマジックストーカーの魔法を使ってみたが、どうにも反応がない。勿論反応した物もあるが、それは別の所有者の物だったんだ。
この魔法は本人の痕跡を追うものだが、ある程度時間が経ってしまうとその効果は著しく低下する。
つまり、それだけベイズ・ダグラスは自分の家に戻っていないという事だ。
もしかして皇后派の別の権力者に殺されたか?
ただ隠れているだけなのか…………むぅ、わからん。
とりあえず現状をポルコとジュンに念話連絡をしたが、以降の指示はただ「待機」するというだけだった。
仕方がないので冒険者ギルドに行き、暇な時間を見つけてはモンスター討伐をこなした。
それから何度か太陽が上る姿を拝んだ頃、遂にポチの使い魔杯デビューの時がやってきたのだ。
「第三試合! アダムス家、ポーアの使い魔、シロ!」
さぁポチ、念願の使い魔杯だぞ。
……過去のだけど。




