198 アズリー御一行様の大変身
「はい! 可愛い女の子がいいです!」
車座になったところで、ポチが開口一番に挙手してそう言った。
そうか、ポチが人間に……そうかそうか……って――なれる訳がないだろう。
「無理!」
「えぇえええええっ!? 何でですか!?」
「動物を動物以外に変身させても、挙動を見たら一発でバレるってーの! それに俺には、そんな高度な幻術魔法無理だって。神にでも頼むんだな」
「おぉ、神よ! 何故あなたは神なのですかっ!?」
祈り始めたポチを無視し、ポチの真似をして祈り始めたチャッピーを無視し、俺はブライト少年の肩を掴んだ。
「ど、どうしたんですか……師匠?」
突然の事で驚いたのだろう、珍しく目が泳いでいる。
「ブライト様、この作戦の肝はあなたにかかっています」
俺の熱い意図が伝わったようで、ブライト少年はすぐに平静を取り戻し、決意の固い目を俺に向けてくれた。
「何でもお任せください! 師匠」
純真な子供の目だった。
しかし有難い。まさか「何でも」やってくれる程の熱意を返されるとは……これは、俺も頑張らなくちゃいけないな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「嫌ぁあああっ!? 嫌ですぅうううううっ!?」
ジタバタと駄々をこねるポチさん。奴らに気付かれない距離だから良かったものの、普段ならお説教ものだ。
まぁ、俺もさっきから結構叫んでしまってるが……そんなに気に食わないのかね?
……この変身。
「何で!? どうして!? どう間違ったら私が牝牛にならなくちゃいけないんですか!?」
「仕方ないだろう、荷車を引く役目は牛と決まっている」
「せめて馬ですよ!?」
「俺も最初はそう思ったけど、鏡望遠視で確認したら、この国では荷馬車より荷車の方が多いんだ。それも、牛が多い。木を隠すなら森の中、そうだろう?」
「あ、あんまりですぅ……」
肉球で顔を覆い、土塗れになりながらもそんな事は一切気にしてないポチ。いつもならさっさと払ってしまうんだが、相当な嫌がりようだ。
あっちは凄いノリノリなんだけどなぁ……?
「牛ぃいいいいっ! 父上! 私が牛になっておりますよ!」
出来れば喋らないで頂きたいものだ。
紫死鳥の身体を幻術魔法のスウィンドルマジックの魔法式を応用し、漆黒の牡牛に変身させた。
幻術だから、事実上変身ではないんだが、他者の目と自分の目をも偽ったならそれは変身と言えるだろう。
「ほれ、台本だ」
俺は即興で作った台本を二人に渡す。
「……も~」
「もー」
「…………も~」
「もー!」
「マスター!! これ何かの嫌がらせか何かですか!? 『も~』しか書いてないじゃないですか!」
俺はパチンと台本を地に投げ捨てるポチを背に、無視を貫いた。
だって仕方ないじゃないか。台本作らないとお前ら勝手に喋るだろうに。
世間一般の牛ってのは喋らないもんなんだよ。
ポチはまだ変身していないが、ポチの体色なら、比較的簡単に変身出来るだろう。
さて、ポチはどうでもいいとして、問題はあっちか。
ストアルームから荷車を出したはいいが、その影でワナワナと震える美少年が一人。
珍しく綺麗な顔をくしゃくしゃにし、慣れない頭を抱え込んでいるブライト少年。
「馬鹿な……! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な……! 何で僕がっ!?」
本日はあまり素のキャラを隠しきれていないブライト少年は、小声ながらも怒りに満ち溢れている。
俺はわざと砂利を鳴らし歩いて近づき、ブライト少年に接近を知らせた。
「……はっ!?」
ばっと振り返ったブライト少年の黒髪は、いつか色食街で見た、特殊な髪型。
今回は、以前春華に教わった「ニホンガミ」という子供でもやるような素敵な髪型。
その難しい指導を思い出しながら……更に、遠くのトウエッドの子供たちの髪型を見様見真似でイメージし、幻術魔法のカツラを作ってみたが、どうやらうまくいったようだ。
「どうしました、アキちゃん? そろそろ出発しますよ」
「ぐ……! 師匠! 僕が女装する意味はあったのですかっ!?」
「そりゃありますよ。奴らの第一目標はブライ――アキちゃんと言っても過言じゃないんですよ? 顔が割れてるなら化粧でもするしかないでしょう。ましてや性別が変われば、疑いも少ないというものです。幸いトウエッドの人間は黒髪ばかりです。自信を持って言えますよ。私の、アキちゃんならではコーディネイトです」
未だ納得いかないのか、アキちゃんはとても悔しそうに拳を握っている。
血とか出てしまいそうな程に。
「……く、師匠。この服もそうだと言うのですか……!」
掛け衿を掴み、自らが着ている衣服に不満を見せるアキちゃん。
「見事なものでしょう? 私の姉弟子の傑作です」
以前メルキィがふざけて作った女物の和服。
自分用だと言いながら一度着て飽きてしまった物を、俺のストアルームに入れた。と言うか勝手に入れられていた。
メルキィの身長ならばと、アキちゃんに合わせてみたが、中々に似合う。
薄い緑を基調とした紅葉柄。
着てしばらく経っているせいか、悔しさよりも恥ずかしさを見せ始めるアキちゃんは、もはや女の子にしか見えないだろう。
「こ、こんな……こんな事をするためにトウエッドに来たんでは……くっ!」
「そのトウエッドに行くための作戦です。耐えてください。それに……――」
「な、何ですかっ?」
俺はきっと……ここで、無意識に笑っていただろう。
とても嫌らしく、厭らしく、イヤらしく……そして爽やかに。
「『何でもお任せください』と言ったのはアキちゃんですから」
「…………っ~!」
アキちゃんに指導という名の社会勉強をさせた俺は、内衿に『アズ君用』と書かれた焦げ茶色の和服を身に纏い、自身の身体に幻術魔法を掛けた。
どんな顔になるかと俺をチラチラと見ていたポチは、完成した顔に驚きと笑いを見せ、「うひゃうひゃうひゃひゃ」とか、おっさんみたいな笑い声をあげた。
「ひゃひゃひゃほっ! トゥースさんです! ちっちゃなトゥースさんがいますっ! あははははひゃひゃひゃひゃひゃ!」
土埃が舞う程、地をバシバシと叩くポチ。
そう、俺が変身したのはトゥース。ポチと二人、旅に出てから一番記憶に残る顔。
そんな憎々しい顔だが、記憶に残っている方がイメージしやすいというものだ。
顔の色はやや色黒という程度、ヤツの潰れていたエルフ耳は普通の耳。身体に合わせたトゥースの顔。
ふむ、こんなものか。
「……本当にこれしか方法がないんですか?」
肩を落とし、しょぼんと項垂れるポチ。
「俺の頭じゃこれが限界だよ」
「それは仕方ありませんね」
俺の頭の話で即座に納得したポチの頭に納得出来ない俺は、ぴくりと眉を反応させるも、ポチもポチで我慢しようと観念したみたいなので、おあいこという事にしておこう。おのれ。
チャッピーの身体に合わせ、ポチが適度な巨大化を行う。
俺はポチ側を、子供役のアキちゃんはチャッピー側の手綱を引き、歩く格好だ。
嫌がっていたポチに幻術魔法を掛けると、ポチは白黒の斑模様をした見事な牝牛に変身した。
「も~」
早速鳴いた。いや、目に涙が見える。泣いたんだろう。
そして涙目のポチが即座に何かに気付いた。
「い、嫌ぁああああああああああああああああああああああああっ!?」
今度は何だ?
俺は大きな溜め息を吐いて、手綱をぐいんぐいんと振りまわしお荒ぶっているポチ様に近づいた。
「どうしたんだ、シロ?」
首をぶんぶんと振り、悲痛な叫びを続けるポチの首を、摩ろうと近づいた瞬間。
「あ痛っ!?」
何故か噛まれた。
しかし、明かに様子がおかしい。
幻術魔法で体調に変化を起こしてしまったのだろうか?
だとしたら俺も、他の皆も気を付けなければいけない。
さて……一体どういう訳だ?
「ぉ、お、お……お! おっぱいが丸見えですぅうううううううううううううううううううっ!?」
……そいつは大問題だな。
皆さんの大好きなおっぱいです(小声)




