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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第六章 ~聖戦士編・前編~

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◆196 乱戦の決着

 西門で奮闘するララは、戦士たちを上回る速度でモンスターを翻弄していた。

 目にも止まらぬ動きで、モンスターの背後をとり、魔法を発動。


「……むーん」


 本来後衛を任される魔法士の中では異質な戦闘方法に、イデアとミドルスが呆気にとられる。


「まじかよ。今リザードフライに直接魔法式描いたぞ……? てかララのヤツ、『むーん』って何だよっ?」

「エッグより速いんじゃないかいっ? っ、ファイアアロー!」


 外壁で戦う二人のそんな言葉を耳に入れたツァルが、目の端で「リナさんのためぇっ!」と叫んでいるエッグを見て呟く。


「「まったく、比べる相手が悪すぎるというものだ。がしかし、エッグも成長している。ならば私もオチュー如きに負けてはいられないな。……カアァアアアアアアッ!」」


 ツァルの煉獄ブレスが前方より迫る腐食モンスターの足を止める。

 様々な衝突が脇で起こり、衝突の度に、冒険者が傷を負う。

 外壁で魔法士の護衛に回っていた春華がそれに気付き、近くにいたミドルスに問う。


「ミドルスさん」

「おぉ!? どうした先輩(、、)!」

「ここ、お願いしてもよろしいでありんすか?」


 言葉の意味を深く考えずとも、ミドルスの返事は決まっていた。

 何故なら、春華の言葉に異を感じなかったからだ。


「おうよ! やりたいようにやんな! それが冒険者ってもんだろ!? おらぁ! アイシクルランス!」


 背中を押すようなミドルスの言葉に、春華は強く口を結んで静かにコクンと頷いた。

 外壁上で戦う三人の魔法士、ララ、イデア、ミドルスを残し、春華はツァルやエッグが戦う地――西門前へ降り立った。

 そして、モンスターと戦士たちが入り乱れた乱戦の中、エッグの背中を見つける。

 同時に、エッグの背後に迫るオーガファイターに気付いたのだ。


「エッグさん! 伏せて!」

「えっ? はい!」


 春華の声に従い、エッグはしゃがみ、振り切られたオーガファイターの大剣をかわす。


「……うほ!?」


 身体を(ねじ)るように反転させ、オーガファイターの剣をかち上げたエッグが反撃に出ようとした時、春華の腰元がきらりと光り、それは横一閃に斬り裂かれた。

 オーガファイターの首をエッグの足下に落とした春華は、更に正面から迫るホブゴブリンに向かって行く。


((下の戦士が足りないと判断し、こちらまで来た……か。良き目と判断力だ――))


 ツァルの目が春華の背を追う中、その下ではエッグが小さく笑みを零した。


「ふっ、まさか春華さんまで僕を大事に思ってくれるなんて……ねっ!」

「…………」


 流石に苛立たしいのか、ツァルはエッグの言葉を無視する事に決めた。

 そして生暖かい目を春華の背に送り、エッグは誠心誠意、爽やかな声とともに春華へエールと愛情を込めた言葉を贈る。


「お嬢さん! 生首落としましたよっ! ははっ!」


 外壁上でその言葉を聞いたイデアが、顔にまで鳥肌を見せて叫ぶ。


「ひぃいいいいいいっ! 過去ワースト一位だよあの言葉っ!」


 両腕を抱いて身体を震わせるイデアに、ミドルスが呆れる。


「戦闘中だぞ! 集中しろ集中!」


 ミドルスの叱咤を聞いた時、イデアは、後方に響く大きな声も捉えた。


「何か聞こえた!?」


 正面より飛来するモンスターを前に振り返る事は出来なかったが、イデアの耳が捉えたのは、後方にいる家屋の屋根で援護に回っていた低ランク魔法士含む冒険者たちの歓声。そして、更に後方より響く、無数の足音と――雄叫び。

 顔に明るさを見せたミドルスが気付く。


「ようやくかよ! 戦士大学の増援だっ!!」

「となると率いているのはドラガン様かい! まったく、待たせてくれるよ!」


 背中を預け合った二人は、飛行モンスターを杖で振り払いながらそう叫んだ。

 待望の援軍に気が緩んだのか、イデアは一瞬街の方を振り返った。行軍の地鳴りが確かに聞こえる。外壁からはその先頭集団が見え、確かに心の余裕が生まれた。

 時間にして一瞬。しかしその一瞬に現れたワイバーンが、イデアの杖を(くわ)え前方に引き倒したのだ。


「っ!」


 最初に気付いたのはララ。目を見開き、倒れ(うずくま)るイデアの背に乗ったワイバーンの下へ駆け付けようと足を向けた時、より身近にいたミドルスが、その巨躯で猛進し、ワイバーンに跳びかかった。


「ぬぅおおおおおおおおっ! がぁっ!?」


 鋭く尖った牙で肩を噛まれながらも、ワイバーンを押し倒したのだ。


「ちょ、ちょっとミドルスッ!?」

「イデアに何しやがるこの野郎が!」


 ミドルスは魔法士ながらも、前衛を任される程の恵まれた身体の持ち主である。

 しかし、生身でランクCのワイバーンに跳びかかる者はそういない。魔法士の命である杖すらも投げ捨て、イデアの盾となりその窮地を救った。

 竜族本来の力で体勢を直し、上空に浮かび上がろうとしたワイバーン。

 上顎と下顎を必死に掴み、尚もワイバーンを睨み、反撃の余地を伺うミドルス。

 仲間の危機に、ララは外壁の狭間(さま)の石を踏み台にし、ワイバーンの更に上をとった。


「ほほい! らら・ぶれぇ~ど!」


 ララの右の手刀から生える根のような植物は、腕を包み込み形を成して剣となる。

 それが振り下ろされる影をミドルスが捉えると、慌てた様子で叫んだ。


「ちょちょちょちょ、うおっ!?」


 一刀のもと、ワイバーンは後頭部から尾先まで縦に二つ斬られ、飛ぶ力をなくす。

 辛うじて外壁に着地したミドルスを案じるようにイデアが近づく。


「ミドルス! だ、大丈夫かいっ?」

「あ、あぁ……ったく、言ったろ! 集中だ集中!」


 その言葉に自分を戒めるように頷くイデアだったが、ミドルスの肩以外から流れる血に気付いた。


「それ……大丈夫かい?」


 イデアが指差す。


「お?」


 そして鼻先まで流れてきた自らの血を手で触って気付く。

 額が少し……裂かれていた。

 頬に冷や汗を一つ流したララは、腕のララ・ブレードを一度見た後こう呟いた。


「おぉ~…………失敗失敗……」


 ララが逃げるように乱戦の中に再び身を投じた頃、街側の屋根板を踏み砕きながらドラガンが城壁に現れた。

 瞬時に情勢を見極め、先頭で戦うエッグの背を見る。


「一年、二年は西門を死守せよ! 三年は冒険者の後衛に回れ! 四年、このまま外壁伝いに南門へ走れ!」

「「はいっ!」」


 下で武器を抜いて構える戦士大学の学生に指示を出し、乱れの無い返答を聞くや否や、ドラガンは戦場に飛び込んだ。

 イデアとミドルスは、ドラガンが現れた後の攻勢の変化に驚きながらも、これならば、と再び宙図(ちゅうず)を始めるのだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 リード、ライアン、アドルフ、レイナの元フォールタウンの面々が南門で苦戦していると、そこへリナ率いる魔法大学の援軍が届く。


「リナ!」

「長! ご無事でしたか」

「うむ、飛行系モンスターばかりで困っている。既に街へ侵入したモンスターもかなりいる」

「ご心配なく。南門を中心とした屋外に四年生が指揮する簡易のパーティを布陣しました。空はバラードとアイリーン様の使い魔のホークがお守りします」


 ライアンがリナの言葉に頷くと、後方からアンリとクラリスが走り寄って来た。


「リナ、まずいよ! 飛行モンスターばかりだったせいで下の南門に人が足りない!」

「リナさん、私とアンリに命じてください」

「わかりました。アンリとクラリスは残った四年生を連れ下へ。城壁は私と三年生が受け持ちます」


 するとライアンは、その言葉を聞き、リナの成長を感じると共にリナへ進言した。


「その護衛、私が引き受けよう」

「……お願いします、長」

「何を言う。これしきの門如きでアズリー殿の手は借りられぬよ」


 フォールタウンの門を守った過去、窮地を救ったアズリーとポチを思い出すライアン。

 そしてライアンは、一度苦笑し、背のマントを翻して下へ跳び下りて行った。

 いなくなったライアンの背に、きょとんとするリナ。


「ん? アズリー……さん?」


 着地したライアンは、アンリとクラリスの間を割るように通り、最前へと出る。


「お嬢さん方、援護をお願いしたい」


 二人見合ったアンリとクラリスは、互いに頷き、有無を言わせぬ背に大きな返事をする。


「「はい!」」


 リード、アドルフとレイナは外壁上でリナの護衛に回り、奮闘を見せる。

 リ―ドは若干ながらの経験不足を感じるアドルフに注意しながら、剣を振るう。


「他の門も心配ですけど、ここが要所です。皆さん互いのカバーを忘れずに!」


 リナの注意に、戦いの中一番響いたのは魔法大学生の返事ではなかった。

 冒険者ギルドの面々から放たれる荒々しい返事。

 アズリーと組み、オルネルと組み頻繁に冒険者ギルドに顔を出していたリナの顔と実力は、ベイラネーア中の人間が知っていた。

 リナの声が響くと同時に、冒険者ギルド出身の戦士、魔法士の士気が向上した。

 下でスウィフトマジックを放ち終えたアンリが小さく呟く。


「こりゃある意味黒帝超えかもしれないね~」

「ふふふ、ウォレン様は冒険者ギルドには顔を出しませんでしたからね」


 クラリスは前で耐えるライアンに、ギヴィンマジックの魔法を施しながら言った。


「かぁっ! 雷刃!」


 地に降り立った飛行モンスターに青雷の地走りが届く。

 ライアンは、娘のように可愛がっていたリナの評価に内心喜びを覚えていた。

 しかし、戦闘中にその余裕を見せてはいけないという心の動きが、ライアンを奮起させた。

 外壁上からライアンを案じるリナ。するとレイナがモンスターに応戦しながらリナの不安を拭った。


「大丈夫です。長は長なれど、後方の憂いを気にする事のない今、あの方に敵はいません!」

「そうだぜリナ、あぁなったら長は無敵だ」


 ライアンの側近であるレイナと、兄であるリードの言葉で不安を拭い去ったリナは、意を決した様子で頷いた。


「なら私も負けてられません! ヘルインフェルノ!」


 ガストンから譲り受けた炎龍の杖から放たれるスウィフトマジック。

 地獄の業火に焼き尽くされる飛行モンスターたち。踊るような真紅の炎は、外壁にへばりつくモンスターを次々と落としていった。

 この瞬間、リナを視界に置く魔法士が目を疑った。


「まさかっ!? 大魔法のスウィフトマジックッ!?」

「特級魔法!? そんな論文発表されてないぞ!」


 隠せない動揺が起きるが、正面のモンスターから目を離せないのも事実。

 衝撃的なスウィフトマジックに、魔法大学の後輩たちも目を見張る。

 アズリーに教わった大魔法のスウィフトマジック化。

 無論、オルネルたちはその存在を知っていたが、他の大勢はそれを知る事はない。

 初公開となるその魔法を放ったリナだが、それを後悔する事ななかった。


(……大丈夫。アズリーさんなら、こんな時にこそ使っている。いえ、ここで使わなくちゃ……きっと怒られちゃう……よね?)


 すると、正面のモンスターを倒し終えたアドルフが、前方を見て驚愕する。


「き、緊急! 前方にモンスターの増援あり!」


 視界を細め捉えた影は、北である南門に向かい、行軍するモンスターたちだった。


「くそっ! ただでさえきついってのに、ここで更に敵の援軍かよ!」


 飛行モンスター以外のモンスターを援軍の中に捉えたリードは、ライアンたちの援護をするために下へ向かう。

 仲間の治療と大魔法を交互に放つリナだったが、ギヴィンマジックではまかないきれない魔力消費が、体力をも奪っていく。

 新たなモンスターの増援と対峙した時、皆の疲労と傷は、高まり、増えるばかりだった。

 リナが残弾少ないヘルインフェルノを放ち、正面の一帯に放つ。

 一瞬の立往生。モンスターは仲間の死に更なる闘志と殺気を剥き出し前進を始めた。

 真紅に揺れていた炎が大型モンスターたちに踏み潰され、消された時、南門が大きな音を発し開かれた。


「……なるほど、よい炎を使うようになったものだ」


 リナの背後で呟かれた、低くしゃがれた、しかし通る声。


「え?」


 リナが振り返る寸前、その視界を横切る魔法式。

 視線を魔法式に奪われ、モンスター群の前列に置かれた時、南門にいる全ての瞳が(だいだい)に染まった。


「ヘブン……ヴァーミリオン」


 地中から地上にいるモンスターたちを飲み込むように荒れ狂う炎。

 息を呑む洗練された大魔法も束の間、リナの背後の声は、下へと向けられた。


ヴィオラ(、、、、)、陣を敷け」

「全体! 前へ!」


 いつの間にか現れる無数の足音。

 南門の内壁から聞こえるそれを耳で追い、そこに光る見慣れた光。


 ――――空間転移魔法陣。


 その中から次々と現れる魔法兵(、、、)

 統率された動き、自信と誇りに満ちている魔法兵の顔。そして魔法大学生ならば、誰もが憧れるであろう制服が前を横切る。


「よく持ちこたえた……」


 リナの背後から聞こえた声。

 ようやく振り返ると、そこには懐かしい顔と共に、厳格な顔が並んでいた。


「ガストン様! それにフユも!」


 顔に嬉しさが込み上げるリナの感情を抑えるように、ガストンが杖先を前方に向ける。


「振り返るはこちらではない。前を見据えよ、リナ」

「……はい!」


 再び正面を向き、前進する脅威に杖を掲げるリナ。

 フユはその隣に立ち、城壁へ上がって来る魔法兵たちに指示を出し始める。


「これより冒険者、及び魔法大学生と連携をとります。三人一組となり動き、死角を埋めながら戦い、援護してください」

「「応っ!!」」


 耳が張り裂けんばかりの気合い。

 ガストンが鋭い目つきで眼前を睨み、一言呟く。


「蹂躙せよ」


 その言葉に呼応するように下でヴィオラが指揮をとる。


「全体、進めぇっ!!」

「「おぉおおおおおおおおおおおっ!!」」


 魔法兵の雄叫びに同期するように、他の戦う者が気合いを入れる。

 思わぬ援軍と、ガストンの存在がそれを成した。

 リナも疲労を吹き飛ばすように気力で振る舞い、歯を強く噛みしめた。


(これなら……大丈夫っ!)


 気丈を装うリナに片眉を上げるガストン。


(ふむ、まだ叩く余地はあるか。しかし……二十にもならぬ娘にこれが出来るか、と言うならば非凡さと才能を発揮したと言えるだろう。小僧、良い生徒を持ったな……)


 ガストンは微かに口尻を上げ、狭間の上に跳び乗った。


「さぁ、儂に続け、リナ!」

「はい!」


 振り続ける雨が弱りを見せ、夕暮れの光が線として見え、夜を迎える頃、その日のモンスターの最後の一匹が、地に伏した。

 このベイラネーアのモンスター襲来は、戦魔国の人々を恐怖と不安に陥れた。

 時代は正に暗黒期へと向かっていたのだ。

皆様あけましておめでとうございます

本年も宜しくお願い致します


次回、アズリーたちが戻って……勝手にどっか行っちゃいます。

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