◆190 北門と東門
視界の悪い中、北門の前に立つブルーツとベティー。
正面に捉えた無数のモンスター群の中から最優先に叩くモンスターを探す。
「厄介ね、アサルトワイバーンが三体。飛ぶし知能が高いわよ、アレ」
「悪ぃな。俺はあっちだ」
ベティーがランクAの飛竜型モンスター三体を捉える。
ブルーツは目を細めて更に奥を猛進する大型のモンスターを見据えた。
「オーガクイーンね。懐かしいじゃない。もうすぐあれから四年も経つのね」
「あぁ、しっかし……これもあの影響か?」
未だ公になっていない魔王復活の事を尋ねるブルーツ。
「さぁ。でもこれでより真実味が出てきたじゃない?」
手持ちのダガーを慣れた手つきでクルクルと回しながらベティーが言う。
するとブルーツが片眉を上げて反応する。
「なんでぇ? アズリーの事信じてなかったのか?」
「まさか。これでお堅い上の方々が信じてくれるかもって思っただけよ」
「その話、後程伺いたいものだな」
二人は一瞬にして反応したが、後方より話しかけた男はそれより早く二人の間を縫って前へ出た。
(……速ぇ訳だ)
再び振り返りモンスターが間近に迫る中、見覚えのある背中にベティーは目を丸くさせた。
「あれ? 何でアナタがここに?」
「……ちょっとした後始末だ」
正面を見据えながら剣を構えた中年の男は、ぼそりと呟く。
「ま、アンタがいりゃちっとばかし楽になるだろうよ」
「またその剣を赤く染めるんでしょう? 赤剣さん♪」
剣の面に反射した男、赤剣ダラスの顔は顰められたままだったが、ブルーツとベティー二人には、どこか笑っているように見えた。
後方で他の冒険者たちの雄叫びが高まり、三人は過去のオーガ討伐を思い出していた。
大剣を下段に構えたブルーツが叫ぶ。
「しゃああっ! 気合い入れろよっ!!」
呼応するように統一された雄叫びは豪雨に濡れる地を揺るがした。
当然の如く真っ先に駆けたのはブルーツ。
ベイラネーア最強チーム銀の特攻隊長にして最強の男。正面を走るフレッシュゾンビをなぎ払い、モンスターたちの敵意と殺意を一身に受けた時、後方のベティーが静かに動いた。
ドン・キサラギお手製の匕首を一瞬のうちに投げ、厄介な飛行型モンスターであるアサルトワイバーンの翼に命中させたのだ。
後方から魔法士の補助魔法が届き、匕首の後ろに続いたのはダラス。
翼へのダメージに怯んだ一頭のアサルトワイバーンの首を刈り取ったダラスは、ブルーツの背中を守るように走った。
最初の狙いはオーガクイーンの首、ただ一つ。
奥から迫る脅威など意に介す事なく一気に駆けるブルーツの背に、冒険者たちは引っ張られるように士気を高め、正面からぶつかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
北門と時を同じくして東門ではマナが緊張に顔を強張らせていた。
正面に迫るモンスターの中に異常な存在を確認したからである。
ランクSSモンスター、【カイゼルレックス】。カイゼルディーノ以上の速度と膂力を誇る巨大な竜族モンスターである。
フォルムはカイゼルディーノとほぼ同じだが、茶色い体表の背から頭にかけて苔が生え、頭部中央には鋭い一本角。
マナだけではない。他の冒険者にいたっては歯を震わせ、じりじりと後退すらしている。
過去、オーガキングとの戦いに参加した冒険者たちは、その恐怖を身をもって知っているのだ。
ランクSSモンスターの脅威を。
手に握られた小剣が、カイゼルレックスの存在によって震えて定まらずにいる。
心臓を掴まれたような身体を叩く動機に頭を振ると、最前線に一人の男が駆けつけた。
「「ブレイザーさんっ!!」」
上位ランクの冒険者にそう呼ばれた銀のリーダーは、北門で戦う特攻隊長と同じように先頭に立った。
ブレイザーはカイゼルレックスを睨み、同時に東門に集まるモンスターの数を分析する。
(ランクSSのカイゼルレックスがいるせいか、ナツに聞いた他の門に迫るモンスターより数が少ないようだ。数にして千……というところだが、奴がいるおかげで力が均等に分かれている。それにしても……モンスターにしては統率がとれている。いや、とれすぎだ。なるほど、まるでおとぎ話の魔王軍のようだな。魔王が復活するというのはこういう事か、アズリー……!)
正面を走り迫っていたモンスターたちは、先頭のカイゼルレックスに足並みをあわせるように進行をゆるめ始めた。
そして遂に対峙するように足を止めたのだ。
カイゼルレックスの動きだけを見逃さないよう、ブレイザーは瞬きすらせず、身体を緊張させた。
そんな緊張を解すためなのか、ブレイザーの両肩を掴む男が二人。
「ふむ、相変わらず良い気の張り詰め方だ、ブレイザー殿」
「もうっ、これだからいいのよ~! ホント、寡黙な男って素敵っ」
ブレイザーの左に立った巨大な男、千剣万化のチャーリー。
肩にチャーリー程の巨大な斧を担ぎ、身体をくねらせる大男、ダンカン。
場にそぐわないダンカンの声、そしてその存在に、ブレイザーは珍しく驚く。
「チャーリー様、それにダンカンも……!」
「カイゼルレックスか。昔見かけた時は一目散に逃げたものじゃが、今日はそうも言ってられないのう」
「ランクSSモンスター……今は発見されても危険だからってすぐ禁止指定区域になっちゃうからねぇ。まさか引退してから戦うとは思わなかったわ♪」
弾んだ声でダンカンが言うのを唖然と見ているマナ。
(ダンカンさん……まさか戦えるとは思わなかった。けどあの腕……斧を持ってるあの左腕だけ、異常に隆起している。一体どれ程の力が――?)
モンスターをじろりと見つめ、鼻息を荒く吐くチャーリーがダンカンに言う。
「図体に見合うだけの死角が多いじゃろうな。正面は儂。後ろはダンカンじゃ」
「後ろは得意よっ」
「馬鹿ぬかすな。まぁ、ベイラネーアの門番と呼ばれるその実力、久しぶりに見させてもらおう。ブレイザー殿、お主は側面から儂等の援護じゃ」
ブレイザーが静かに頷くのも束の間、カイゼルレックスが東門をビリビリと震わせるような叫び声をあげた。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
その威圧感に一瞬目を瞑った冒険者たち。
それを受け、目を瞑らなかったのは最前線の三人のみ。
後ろの反応を背中で感じ、チャーリーが大きく溜め息を吐く。
「育ってきたとはいえまだまだじゃのう」
落胆の息を吐いたチャーリーにダンカンがくすりと笑う。
するとチャーリーは、吐いた溜め息を全て身体に取り込むように息を吸った。
そして――――
「がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――」
カイゼルレックスに負けず劣らずの強烈な雄叫び。
間近故か、片目を瞑って耳を塞ぐブレイザーと、予期していたかのように耳を塞いでいたダンカン。
背後にいるにも関わらずにチャーリーの声に驚く冒険者たちは、耳に届いた声に不思議な力を感じ始めた。
身体にわき上がる得も言われぬ力に、余計な緊張は消え、底から湧き上がる闘志に火を灯す。
先程とは反対に、今度は正面にいたモンスターたちがたじろぎ始める。
味方の士気向上と敵の士気低下。
「――――あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっはっはっはっはっはっは!!!! いやー、叫んだのう……」
図ってか図らずか、チャーリーの声にはそういった力があった。
最後にはとぼけてみせたみせたチャーリーにブレイザーが苦笑する。
(流石元十二士筆頭。人心の根底をよく理解しておられる)
チャーリーのおかげで上手く緊張が解れたブレイザーは、剣を軽く払い砂塵を巻き起こす。カイゼルレックスの強烈な威圧を前に、ブレイザーは小さく、しかし力強い言葉で呟いた。
「……行きます」
「ふん、言われるまでも――」
「――ないわ♪」
西門、北門、東門で激闘が開始される。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「くそっ! こんなの…………どうしろって言うんだっ!!」
そんな中、リードが向かった南門では、異常な事態が起こっていた。




