163 経験値考察
―― 神聖暦百二十年 六月二十七日 午後十時半 ――
クッグ村北部。
「さぁポチ君! 今の俺の総経験値はいくつかなっ?」
「何かテンション高いですねぇ。よく言うとらしくない。悪く言うと気持ち悪いです!」
実験前はこんなもんだろうよ。知ってて言ってるからタチが悪い。
鑑定眼鏡をかけたポチが起動分の魔力を供給する。
「えーっと、30961300ですね!」
「あちらにいらっしゃるのが、ホブゴブリンです。ポチ、しっかりと数値を視てろよ? あいつを……ほい。ファイア!」
「ギャー!」
「事故レベルでちょっと可哀想でした」
いや、あいつ俺たちの事狙ってたから。
「さぁ、今はいくつだね?」
俺は両手を広げてポチに言った。
「30961472ですね。という事は、えーと?」
「ポチにも172の経験値が渡ってると思うから、今のホブゴブリンが344の経験値を持っていた事がわかる。俺の研究論文によると、モンスターは同種でも経験値にばらつきがある。まぁ、それでも大差ない。因みにホブゴブリンは350前後の経験値が平均だ」
「ふむふむ」
「ここで俺の仮説だ。今ポチに視てもらってた数値、変化までにどれくらいの時間がかかった?」
「確か……1秒程だったかと?」
やっぱりだな。
しかしポチのヤツ、眼鏡似合うな?
くいっと上げる仕草がとても様になっている。
「モンスターを倒した瞬間に変わるのではなく、モンスターを倒して1秒で数値が変化するならこの仮説を実行しない手はない」
「どういう事です?」
鼻眼鏡になったポチが首を傾げる。
「経験値はモンスターを倒した時発生し、浮遊して俺の下まできている可能性がある。あるいは、降り注いでるのかもしれない」
「それってつまり、経験値は魔力のように見えないもの。しかし確かに存在するものだという事ですか?」
「そういう事。これからモンスターを倒した瞬間に強力な魔力の壁を張るから、またその眼鏡で視ててくれ」
「うーん……わかりました!」
ポチめ、今考えるのやめただろ。
えーっと……あぁ、あそこにダイオウトカゲがいるな。
「ほい、アースジャベリン!」
「グルゥ……」
ここで、魔力を放出!
「ふんぬっ!」
「おぉ、濃い魔力ですね〜!」
「感想はいいから経験値の数値を視てくれよ! これキツイんだから!」
「…………あれ?」
「どうだ!?」
「……30961472から動いてません……」
「だろぉ!? ……ふぅ」
「あ、30961586になりました。これってつまり…………どうなってるんですかぁっ!?」
ポチが両頬を押さえて叫ぶ。
夜にうるさいもんだな。村から離れてよかったわ。
「つまり、魔力で経験値の体内浸入を拒んでる訳だ」
「おぉー! でもそれって……何の役に立つんです?」
「ふっふっふっふ。モンスターから俺までの空間に経験値は確かに存在した。そしてそれは魔力によって制御出来る事もわかった! ならば!」
「ならば!?」
「その経験値を魔法陣に通し、改竄する事も出来るかもしれないって事さ」
「なんと! そんな魔法式……出来るんです!?」
「わかんない!」
「馬鹿マスター!」
「何でだよ!? ここまでで十分賢者だろうが!」
「賢者ってのは最後まで答えられるもんです!」
「そんな事ねぇよ! この程度の賢者もいるだろ!」
「その程度の賢者でいいんですか!?」
「嫌だよ!」
「じゃあ考察を続けましょう!」
「はい!」
あれ? いつの間にか丸め込まれた?
夜に俺たち二人は、低レベルとはいえ、モンスターが闊歩する場所でギャーギャー喚き散らし、目に付くモンスターを吹き飛ばしていた。
すると、遠目に見える暗い山の頂がチカチカと光ったのが見えた。
「何だろうあれ? ポチ、見えるか?」
「んー……ちょっと遠すぎますが、どうやら炎のようですね」
確かにユラユラと炎が見える……気がする。
「にしては多すぎないか?」
「遠視系の魔術ってありませんでしたっけ?」
「ないな。けど多分すぐ出来るよ」
「何でそういうのはすぐ出来るんですかねぇ……」
ポチの小言と溜め息を無視し、俺は一つの魔術を完成させる。
「ほいのほい、鏡望遠視!」
展開されたレンズ群が、目的のモノを捉え、俺に情報を与える。
「……どうですか?」
「…………ポチ、こっちから視てみろよ。とんでもないものが見られるぞ」
俺の位置まで来たポチが目を細めてみる。
「炎龍……ロードドラゴンですね……」
「あぁ、その群れだな」
「何ですかアレ!? 十頭や二十頭じゃききませんよ!? 少なくとも二百頭はいます!」
なるほど、フェリス嬢が倒したい炎龍ってのはおそらくアレの事だな。
幸いこちらへ襲って来ないみたいだ。山一帯が巣になっている。これはロードドラゴンが長くこの地に住んでいる証拠。
巣への干渉さえしなければ大丈夫だろう。クッグ村が残っているしな。
だが、それよりもまずい事がある。あれ程の群れが巣を築くのにはそれなりの理由があるからだ。
ポチもどうやら気付いてるようだな。
「アレ、絶対に何かを守ってますよね」
「おそらく次代の王の誕生だな」
「炎龍王でしたっけ?」
「そう呼称する人もいるが、多くの人はこう呼んでいる。…………獄龍ヘルエンペラー」
「ランクは?」
「さぁな。一説にはランクSS以上だったって話もある。まぁ個体数が皆無に等しいし、すぐ倒されたらしいからなぁ」
俺が思い出すように言うと、ポチがすぐに疑問を述べた。
「誰が倒すんです? その顔は知ってる顔ですよ?」
「……聖戦士が倒したって話だ」
「へぇ。誰ですか、その奇特で残念な聖戦士は」
「確か……ポーアって名前だ」
「どこにいるんでしょうね」
「さぁな。会った事ないからわかんないや」
……………………………………………………。
「嫌! 嫌ですよ! 私そんなのと戦えません!」
「俺だって嫌だよ! ランクも知られてない奴との戦闘なんておっかなくて出来ねぇよ!」
「そもそも炎龍一頭ですら手ごわいのにどうやって倒すんですかっ!」
「知らねぇよ! 本物のポーアさんが現れてちょちょちょいって倒してくれるんだよ、きっと!」
「ポーアはあなたでしょう!」
「お前が名付けたんだよ!」
「いい名前じゃないですか!」
「そうですね! ありがとうございますぅ!」
「どういたしましてぇ!」
夜に俺たち二人は、低レベルとはいえ、モンスターが闊歩する場所でギャーギャー喚き散らし、目に付くモンスターを吹き飛ばしていた。
そして、ポチが落ち着いた頃合いを見計らって、俺はひとつ咳払いをした。
「……何です? ちょっと危うい感じですよ、マスター」
そんな顔してるのだろうか?
だが、こればかりは話すと決めていた事だ。仕方ないかもしれないな。
これから話す事を重く受け止めたのか、ポチが俺と向かい合って座りこむ。倣って俺も座る。
「えーっと……その、だな……」
「…………」
さっさと話せと、ポチの目が少し怖い。
「ポチは犬狼……だよな」
「当然です! 誇り高い狼さんですよ!」
くそ、更に気まずくなるような言い方するじゃないか。
「……その狼さんを……だな……」
口ごもった俺に、ポチは更に続けた。
「ですが、それ以上にマスターの使い魔です! なんたって八百年もやってますからね!」
「……あぁ、そうだったな」
ポチはこれから俺が言う言葉を知っていたのだろうか?
これだけで、この言葉だけで俺の心が軽くなった。
だが、言葉に出来るかと言ったらそれは別の問題だ。
中途半端な心の軽さは俺に口を噤ませ、ポチの睨みを鋭くさせてしまった。
そして遂に痺れが切れるのだ。
「マスター!」
「はい」
「マスターは私の種族の事について、何か提案をしようとしている。そうですね!?」
「えぇ、全くその通りです」
「何故黙るのですか! 何故私に命じないのですか! 使い魔契約が甘くなったとしても、主人の命令に使い魔が逆らえるものでもないでしょう!」
「俺が……俺がそれを命じれると思ってるのかよ!」
「思いませんよ! だから私がこう言ってるんです! 背中を押してるんです! いえ、押してあげてるんです!」
今の訂正は別にいらないだろう。
しかし有難い事でもある。ここは礼を言っておくべきか。
「……わかった。ありがとう」
「もっと感謝してください!」
「あ、ありがとうございます!」
「足りませんねぇ!」
「ポチ様、いつも本当にありがとうございます!」
「満足ですー!」
頬を緩ませて両前脚を夜空に向かって上げたポチ。
……なるほどな。これもポチによる作戦……か。
「よし、そんじゃ聞いて後悔すんなよ!」
「えぇ、言って後悔しないでくださいよ!」
「おいポチ! お前モンスターにならないか!?」
「嫌です!」
夜に俺たち二人は、低レベルとはいえ、モンスターが闊歩する場所でギャーギャー喚き散らし、目に付くモンスターを吹き飛ばしていた。
突然の魔術集
補助や回復より先にこっちかな? と思ってまとめました。
魔術=六芒星の魔術陣。主に何もない空間から何かを召喚する術。現代に近づくにつれ、それが魔法寄りになっている。
魔法=五芒星の魔法陣。魔力や空気中にあるものを利用して発生させる法。
※必ずしもこの通りという訳ではないですが、概ねこれに従って考えてます。
【攻撃魔術】
氷柱一角
氷結結界
絶対零度
剣閃集降
土遁隆起
水龍流麗
呪言発破
【補助魔術】
四角結界
六角結界
八角結界
十角結界
聖十結界
地走魔送
速射向上
速度向上
活力向上
加速魔陣
魔力吸引
効果延長
制限解除
魔法変換
盾頑防壁
【回復魔術】
聖生結界
【その他の魔術】
念話連絡
通信遮断
情報開示
情報封鎖
術式変更
悪魔契約
限界突破
時限消滅
妄想体現=書籍版で出てきます
【愚者固有魔術】
体内時計
契約改変
鏡望遠視




