131 キメラ
ビリーとの付き合いを改めなけりゃいけないって…………どういう事だ?
確かにダラスと最初に会った時、ビリーの知り合いって話してたけど、何がどうしてそうなるんだ?
「ビリーさんは良い人です!」
とまぁ、ポチはビリーの事が大好きだし、こうなるのはわかる。餌付けされたに等しいが、それでも、ビリーの好意があったからそれが成り立ったんだ。
「ビリーの動物好きは、確かに昔からだ。それこそ私財を使って小さな保護施設を作る程に」
「…………」
「素晴らしいじゃないですか!」
そんな施設があったのか、ビリーには少しだけ回復魔法を教わった事があるが、そういった話はしなかった。
ポチはプンプンと怒っているが、ダラスの話を最後まで聞いて損はないだろう。
俺はその続きを待つ。間も無くしてダラスはその真相を話してくれた。
「だが、最近になってそれが表向きのカモフラージュである事がわかった」
「……と、いう事は、そう判断させる出来事が起こったという事ですね?」
ダラスが静かに頷く。
「先日の事だ。レジアータ近郊にあるその保護施設近くのモンスター討伐の依頼を受けた。依頼を終え、その施設へ足を向けたのだ。無論足を向けたのには理由がある。レジアータにビリーが来ているという噂を聞いていたからだ。旧友の顔を見る、そんな取るに足らない理由だった」
「ふんっ、どうせそこでは幸せそうな動物が沢山いたのでしょうっ?」
「分厚く高い外壁から覗き込んだ段階ではそうだった」
覗き込む? 普通に見れなかったって事か?
「何故、ダラスさんがそんな真似を?」
「保護施設に向かう道中、そこへ近づく程、動物の死骸が増えていった……。わかるか? モンスターが食い荒らせぬ程に動物の死骸が多いという意味を」
ポチの怒りが少し消え、無言が走る。
「俺にはわからなかった。故に保護施設に近づくにつれ、より慎重になったのだ。本館、飼育スペースと分かれた保護施設の飼育スペース内を覗くと、心配は杞憂だとも思った。だが…………」
「…………」
「ビリーはいた。飼い慣らされている動物の中から一匹の茶色い斑模様の狼を連れていた。珍しい体表だったから覚えている。そして保護施設のそいつを連れ、本館の中へ入って行った。ビリーの顔とは思えぬ気味の悪い笑みを浮かべながらな……」
ポチはごくりと唾を飲み込む。
確かに、ビリーのそんな様子は今まで見た事も聞いた事もないからな。
「施設を見張る警備がいる。長居は出来なかった。不安を残しながらも依頼報告をし、数日間レジアータに滞在したが、ビリーに会う事は出来なかった」
「それではビリーさんが不審な笑みを浮かべた、という理由だけですか?」
ダラスは静かに首を振る。
まだあるのかと、俺が首を傾げる。
「レジアータを発ち、こちらへ向かう途中、異様なモンスター、いや、動物に襲われた……」
こう、言い直すという事は…………。
「もしかして……」
「茶色い斑模様の狼……に、見えた。何しろ首が三つあってな……。ランクAのケルベロスとは違う異様な姿だった。凶暴で強力な動物だった。ケルベロスと比べて遜色ない程にな。倒して初めて動物だと気付いたのだ。だがあれはもはや…………」
モンスターだ、と言いたいのだろう。三つ首のケルベロスに似た狼……か。
ポチはどうやら何かを思い出したようだ。おそらく俺が今考えている事と同じだろう。当然だ、以前俺と一緒に研究した内容だからな。
「無論、それだけだ。ビリーが連れていた狼の体表と似た、異様な動物を見、そして戦った。それだけだ」
俺はしばらく思い出すように俯き、考えた。えーっと、あれは確か三、四百年前の頃だ。
「……おそらく、真ん中の首を起点に、左右から強制的な縫合痕か、真新しい毛色で覆われていたはずです。どちらかに該当しませんか?」
ダラスがゆっくりと頷く。
「安易な発想だがな、俺も二つの首を取り付けられたと思って倒した後首元を確認した。しかしそういったものはなかった。だが、アズリーの言う通り、左右の毛色のみ真新しいように見えた。……知っているのか?」
「……マスター……」
ポチが首をこちらへ向けて言う。その顔は、少し悲しそうだ。……まぁ、好意のある相手ならそうなって然るべきだよな。
俺はポチの考えを肯定するように頷く。
「あぁ、キメラだな。それも高いレベルで実現可能にしている」
「……キメラ? キマイラとは違うのか?」
「キマイラタイプのモンスターは昔からいるものですが、キメラは人為的にモンスター……いえ、凶獣を作るという意味で、手法の一つとして挙げられるものです。先程の強制的な縫合痕の方は、他の生物の頭部を取り付けた場合ですが、真新しい体毛で……となると、その数日間で生やしたのだと推察出来ます」
ポチが複雑そうな顔をする。
そう、このやり方は回復魔法の権威であるビリーであれば可能だと、ポチも知っているからだ。
「おそらくその頭部、全て同じ顔だったのでは?」
「そうだ」
「他生物の首を付ける場合は、相性などで失敗も多く、実用段階としては難しいケースが多いんです。しかし、母体から生やす方法だと、開発者の魔力と魔法で可能なんです」
前者だと、成功すれば今回ダラスが戦ったキメラより強力なモンスターとなる。その分失敗は多く、実験体の数が、多く必要だ。
後者の場合だと、母体さえあれば、後は回復魔法と、魔力、必要な知識があれば比較的成功しやすい。………………母体への損傷は深刻なものになるけどな。
後者は、何度も動物の母体を傷付け、母体の脳に「首を生やす進化が必要だ」と、刷り込ませる必要がある。首元から肩部を切断し、回復させ、母体の体内に、進化を誘導する魔力と、骨の進化を制御する異物を入れる。首の骨が二股に分かれた段階になれば、成功確率は高い。
そう、執着しながら魔力を使い、回復魔法が得意なビリーなら……………………。
俺は簡単な説明をし、鼻息を深く吐きながら考えるダラスの返答を待った。
「…………ビリーだと思うか?」
俺はこれらの事から導き出される答えをダラスに伝えた。
「十中八九」
「……わかった。こちらでそれは調べよう。今日は…………すまなかったな。またいつでもここへ来てくれ」
「ダラスさんがいるなら来ますよ」
「ふ、では次回からポチズリー商店へ顔を出そう」
という事は、やはりこの街に定住はしていないんだな。
解放軍のアジトとは言え、ダラスはダラスで、国中を動き回っているという事か。
珍しく…………いや、この話を聞いた後なら仕方がないが、元気のない様子でポチが俺の後ろを付いて来る。
色食街に出ると、俯くポチの頭に手を置く。
「キメラは、モンスターじゃない。人間の言う事を聞く凶獣だ。つまり、そういった兵力を用意しているという事になる」
「…………というと?」
「強力なモンスターは黒魔術じゃ操れない。操るには作る。そういう結論だろうな」
「へ?」
「ダラスさんの話じゃ、昔は本当に動物を可愛がっていたそうだ。家で飼っていた動物を皆保護施設に移動したのは十数年前。その頃にビリーさんは変わったんだろうな。……何者かによって……」
「もしかして…………操られていると!?」
「まぁ、ダラスさんの報告待ちだなこれは」
ニカリと歯を見せて笑うと、ポチの表情が明るくなる。
「わっかりましたー! ビリーさんを操ってるヤツがいたら……ボコボコですー!」
前脚をパンチするように、シュシュっと繰り出すポチ。
動きは戦闘態勢だが、何故か尻尾は振られていた。




