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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第四章 ~ランクS編~
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129 アジト

おそらく本日5月5日、二本投稿です。

まずは一本目です。

 鉄の重い扉を開く。

 そこには地下とは思えない光景が広がっていた。

 周りから届く声は冒険者ギルドのソレに似ていて、その空気すらそっくりだった。

 違うのは顔ぶれ。一部冒険者ギルドで見たような顔も見えるが、顔見知りという程ではない。

 年齢層はそこまで高くはないな。ここに十代はいないようだが、主に二十代前半の男女で構成されている。

 ガヤガヤとしているわりにはどこか落ち着いていて、皆何かしら抱えてそうな感じを漂わせている。

 一体何故色食街(しきしょくがい)の地下にこんな場所が?

 俺はそう思ってダラスへ振り返る。

 振り返った時には、既にダラスは俺のすぐ背後まで来ていて、ポチは既に空いていた席に腰掛けている。

 背後にいたダラスより、ポチの身勝手さに驚いたのは言うまでもないだろう。

 俺の顔を覗き込んだダラスは、目を合わせると、少し笑ったような気がした。


「やはり、ここに来たどんな人間とも違った反応だな」


 そうだろうか? 結構普通に驚いているんだが。

 普通はもっと驚いたりするのだろうか?


「ダラスさん、ここは一体?」

「……解放軍(レジスタンス)のアジトだ」

「なっ!? なんですってっ?」


 驚きと恥ずかしさもあり、最初の驚きから徐々に声が小さくなるという人間の不思議を体験した俺だが、ダラスは平然と俺を見る。

 ダラスが……解放軍(レジスタンス)の一味?

 と、いう事は、あのオーガキングとの戦いの時、既にウォレンと顔見知りだった? いや、それともダラスがウォレンを誘ったのか? いや、それはないか。ならその逆? ……むぅ、何かどちらもない気がしてきた。


「ポチ、すぐにそこへ食事を持ってくる。待っていろ」

「上等です!」


 小さくウィンクを見せるポチ。

 するとダラスは俺に向き直って奥に手を向け誘った。

 ……ポチを置いて、付いて来いって事か。


「アズリー、お前はこっちだ」


 涎をテーブルに付け、椅子にお座りしているポチを横目に、俺はダラスの後を追う。

 周りから届く奇異……というよりも興味の視線に背中を刺され、変な気持ちにさせられる。

 確かに自分の顔が多少知られているというのは知ってるつもりだが、これはただそういう有名人を見ているような視線ではない気がする。

 一番奥にあった入口と同じ扉。今度はダラスが押し開き、中に歩を進める。


「アズリーさん……ですね」


 回転式の分厚い革の椅子に座った女の声。背を見せてはいるが身体を覆う魔力は張り詰めてビシビシと俺に伝わってくる。

 声はやや掠れているが、通る声だ。


「……はい」


 一拍遅れて返事をすると、女は椅子をゆっくりと回転させてこちらを見る。

 水を思わせる薄く青い髪が揺らめく。顔からは優しさが溢れているが、目はしっかりと俺を選別している。

 歳は五十を……回っているな。泣き黒子(ぼくろ)が印象的な、灰色の瞳をした女。それが俺が見た第一印象だった。


「ダラス、ご苦労でした。下がってください」

「はい」


 ダラスが一礼して下がり、扉を閉める。

 少しの沈黙の間、じっと見つめる目を…………俺は終始逸らし続けた。

 初対面の人と目を合わせるのは得意じゃないしな。

 しっかし、何で俺は今知らない人にジロジロ見られているのだろう。

 流石に解放軍(レジスタンス)のトップがウォレンだとは思っていなかった。

 ダラスの言う「アジト」という言葉、そしてその一番奥の部屋にいる強力な魔力を有したこの女性の存在。この人こそ、解放軍(レジスタンス)のトップなのかもしれないな。

 だが……………………だが何故…………、この人は宙図(ちゅうず)を始めたのだろう?

 あれ、今少し……笑った?


「ウィンドニードル」

「っ!? どわっとぉっ!?」


 咄嗟に水龍の杖で迫る風針を叩き落とす。

 笑顔だ…………。この女、笑顔で俺に魔法を放ってきたぞっ!?


「ウィンドランス」

「こ、このっ!」


 宙図(ちゅうず)が速いっ! 中級魔法でこの宙図(ちゅうず)速度はかなりの魔法士だな。

 風の槍を魔力で覆った手で受け止め、そして消滅させる。


「ウィンドホール」


 風が吹き荒れる閉じられた部屋。迫る風刃空間に、部屋の本や羊皮紙が舞う。

 また面倒な魔法を……ったく、仕方ない。


「ほほい、四角結界!」


 俺は一瞬で風の空間を結界で包み込み、ほぼ同時のタイミングで魔力で圧縮し、それを消失させた。

 一瞬女の目が細くなる。あ、しまった。もしかして魔術を使わせたかったのか?


「……見事ね」

「それはどうも……じゃないっ! 何ですかいきなり。笑顔で攻撃魔法とか、恐怖しか感じませんでしたよ!」

「あら、私は楽しかったわよ?」


 にこりと返す女に、やはり恐怖しか感じられない。

 出会って早々、挨拶さえままならず俺の名前だけ知られていて、この女の名前がわからない。あ、そうか。

 鑑定眼鏡を使えばいいのか。


 ――――――――――――――――――――


 セイラ

 LV:100

 HP:1830

 MP:2099

 EXP:9999999

 特殊:攻撃魔法《特》・補助魔法《特》・回復魔法《特》

 称号:魔法大学卒・ランクS・六法士・輪廻の氷笑・大魔法士・統べし者・指導者


 ――――――――――――――――――――


 ……はて、どこかで聞いた事のある名前だ。

 最初に表示された名前を見て思い、後に続く称号を見たと同時に、それを思い出す。


「六法士……輪廻の氷笑、《セイラ》…………っ!?」

「ご明察」


 微笑みを崩さないまま、俺を見据えるセイラ。

 終始現れる目尻の(しわ)に、少しながら色気を感じる。むぅ、恐ろしい。


「一体何故こんな事を?」

「あら? ダラスから聞いていないの? 解放軍(レジスタンス)への加入テストの事?」

「……初耳ですねぇ」

「ふふ、言わなくても咄嗟の実力で乗り切れる。そう思われたのかもしれないわね」


 落ち着きを払ってそう言うと、セイラは椅子から腰を上げ、じっと俺を見つめた。

 今度は…………目に優しさが見える。


「それにしても見事だったわ。あの宙図(ちゅうず)速度。イシュタルやロイドに迫る実力と見たわ」

「それはこちらもです。一手出遅れていればこちらのダメージは免れませんでした」

「そう? 余裕があるように見えたけれど?」

「何故、そう思うんですか?」

「全て、この小さな部屋を壊さないような配慮があったから」


 ポチともダンカンとも違うウィンクをしてセイラが言った。

 引き込まれそうな仕草に、ウォレンを思い出す。タイプは違うが指導者としてはウォレンのそれに似ている。


「そして、魔術が使えるのも驚いたわ」

「はぁ……」

「それで? 正式な加入はいつ頃になるかしら?」

「俺はまだ加入するとは一言も言っていませんよ? そもそも加入意思はありません」


 そう言い切ると、セイラは少しだけ首を傾げた。


「おかしいわね? ウォレンからアズリーさんの加入推薦。そして意思の確認はとれていると連絡があったのに……」


 …………あんにゃろめ。

 きっとウォレン史上最高の笑みを浮かべながら、その推薦を連絡したに違いない。


「そんな話は一切してないです。『今後我が軍で動いてもらう予定』と強引に言われたくらいですかね」

「ん~、困ったわね~。となると、アズリーさんをここから出す訳にはいかなくなってしまうのよ~」


 またも笑顔でセイラが言う。

 なるほど、輪廻の氷笑とはこの事か。何度でも寒気を覚える冷たい笑みだ。


「止めても勝手に出ていきます。それ位は可能かと」

「アナタはね? でも、扉の向こうで薬を混入された食事を食べている、アナタの使い魔ちゃんはどうかしら?」

「なっ!? ポ、ポチに何かしたら――」

「何かされる事を前提に話すのであれば私もそうするけど、本当にいいのかしら……?」


 この……。

 いや、いかんいかん。相手に飲み込まれるな。

 とにかくここさえ出てしまえば何とでもなる。


「言っておくけど、私たちはアナタの住む場所も、仲の良い友人も、そして可愛らしいアナタのお弟子さんの所在も知っているのよ?」

「――――っ!!」


 セイラの脅迫の言葉、そして挑発ともとれる言葉。俺はその時、頭の中で何かが切れる音を聞いた。


次回「爆発、アズリー」をお楽しみに。

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