◇113 聞き耳
いつも「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」を読んで頂きありがとうございます。
新しい記号を勝手に入れていて説明を忘れていました。申し訳ありません。
タイトルの前が無印の場合はアズリー視点です。
タイトルの前に「◆」が付く場合は三人称視点です。
※新記号=タイトルの前に「◇」が付く場合はアズリー以外の視点で書いています。
我輩はタラヲである。
偉大なる主はティファ様だ。
「はふ……はふ……ティファよ、そろそろ回復魔法をかけてはくれないのか?」
「安心して、致命傷は避けてるわ」
致命傷は避けても我が額は裂けているぞ?
だがこれで人間について少しは学ぶ事が出来た。まさか人間が胸部の大小をここまで気にするものだとは。
これからは出会う人間の胸部を褒めておくとしよう。
まったく、我輩の力が本来の力であればここまで気を遣わなくとも済んだものを……。なんと生きにくい世界だというのだ。
ぬぅ、それにしてもティファのヤツ、我輩の歩幅の事も考えて欲しいものだ。
おのれ、このようにトコトコと走る我輩を見て笑っているではないかっ! なんと罪深き業よ。
それにしてもこれはどこへ向かっているのだ? ティファめ、行き先くらい教えてくれてもいいものだが、まったく、困った小娘よ。
どうやらベイラネーアの北の方へ歩いているようだが、確かこの辺りは大市場の外れではなかったか?
やはり、横目には光が無数に見え人間どもの騒ぐ声が聞こえる。
このような時間に元気な事よ。
だが、こちらの方はそこまで騒がしいという訳ではないのだな。
人気も少ない故、ここは我輩がティファの使い魔として、しっかりとティファを警護してやらねばなるまい。そして守られたティファは言うのだ! 「ありがとう、タラヲ。今まで本当にごめんね♪」……ふふふふふ、よいぞ、よいではないか! 素晴らしい!
さて、その後はどう料理してくれようか?
ティファの膝の永住権でも頂くか? それとも全身を撫でる仕事とその許可をくれてやろうか?
いや、そのどちらも行使してやろうか。ふふふふふ、我が野望の大きさの前には何者も無に等しい。
「どこまで行く気?」
「……ぬぅ」
いつの間にかティファは立ち止まっているではないか!?
解せぬ。ティファの隠形術はこれ程のものだったか!?
ぬ? 何だこの安っぽい看板は? 我輩がこれから立ち入るという情報を得ていなかったのか?
ならば仕方ないだろう。もし我輩が来る事を知っていれば、これ程の無礼を働くはずがないであろうしな。
ほぉ? あの看板の端に付いている肉球のマーク。中々のものだ。この数ヶ月、文字はティファから強引に教え込まれた。我輩にはこの看板の文字が読める。「ポチズリー商店」……確かにそう書いてある。ん? 「ズリー」という言葉に少し引っかかるな?
ティファが古びた扉を開けると、そこは何かの店のようなカウンターがあった。
そこでは茶髪の女が机を跨いだ席に腰を掛けていた。ふむ、成人しているとはいえ背はそれ程高くないようだな。ティファより少し高い程か。
戦士という訳でもない。無論魔法士という事でもない。
いや、確かどこかで会った記憶があるが、はて、どこだったか?
こんなところに何の用なのだ? 我が偉大なる主は。
「こんばんは、ポチズリー商店へようこそ! って…………ティファちゃんじゃないか?」
「久しぶりねイツキ。今日は冒険者ギルドじゃないのね。まさかここでも働いてるとは思わなかったわ」
おぉ、そうであった。確か冒険者ギルドで「うぇいとれす」という仕事をしているイツキであった。
この者も我輩の背中の気持ちいいツボを知る凄腕の者であった。
「今日のギルドのお仕事はお昼で終わりっ。夜はこっちに人がいなくてね~。それで? 今日はどうしたの? そのワンちゃんでも買い取ればいいのかな? あははっ」
な、何だと!?
我輩を………………売る……だと!?
「そうね、いくらになるかしら?」
「ん~…………三十ゴルドでどうっ!?」
「売った」
「売るでない! 我輩がその程度の価値しかないなどと……認めるものか!」
「よかったわね。スパイシーカレーが一杯食べられるわよ」
「ほぉ? それは…………ふっ、悪くないかもしれぬ」
「ぷっ。あはははは。面白いねこの子。前に来た時は喋らなかったから知らなかったけど、君、面白過ぎ。ここのポチさんと良い勝負よっ」
ぬぅ、この狼王ガルムと肩を並べる者がこんなチンケな店にいるだと?
これは警戒せねばならぬな。
「それよ」
ティファの目が……変わった?
「それって…………ポチさんの事?」
「もしかしてそのポチさんって…………シベリアンヌ・ハスキーの使い魔じゃない?」
「ほぇっ? よく知ってるね? ぐぇっ」
ぬぅ、あのティファが人の、女の胸倉を掴むとはっ。それに……何だあの凄まじい様子は!?
あんなティファ……見た事がないっ。
「その……その主の名前はっ!」
「ふぇっ、え……っと…………アズリーさんの、事っ?」
離した。
そして…………笑った。何という顔だ!? 正面にいるイツキが青ざめているぞ。
我輩もあの不敵な笑みには…………くっ、尿意がっ!
「うぇ~……あー、苦しかった。もう、私にはそういう趣味はないのよっ?」
「わ、私にもないわよっ」
「で、アズリーさんを知ってるって事かしら? 確かに一般にはそこまででもないけど、戦闘に携わる人たちの間じゃかなり有名みたいだし、知っててもおかしくはないけど…………どうやらその顔はそういった『知ってる』って顔じゃないみたいね」
「アズリーさんは、今どこに?」
「残念ながら今はいないわ。今アズリーさんは王都レガリアでランクSの昇格審査って話よ。あ、でも明日には戻って来るってリナさんが――ぐぇっ」
また掴んだぞ。
い、一体我輩の目の前で何が起きているというのだっ!
「それってリナお姉ちゃんも…………ここに住んでるって事?」
「うぇええ…………って、あ」
イツキは我輩たちの後ろに何かを見つけた様子で言った。
振り返るとそこには…………リナがいた。
無論リナだけではない。ブルーツ、ブレイザー、ナツに春華。そして…………何だこの双頭の蛇と緑髪の子供は?
「あん? おいおいティファじゃねぇか? この前春華と一緒にアサルトコボルトを倒した」
「戻ったよイツキ。随分熱烈なお客さんみたいだね」
「ブレイザーさん。あはははは。なんかティファちゃんがアズリーさんを探してるみたいで…………って、あれ? どうしたんですか、リナさん?」
一番前にいたリナが…………固まっているようだ。
ぬぅ、我が主も同様に固まっているぞ? 一体どういう事か?
「リナ……お姉ちゃん」
周りが二人の様子を見守る中、最初に沈黙を破ったのはティファだった。
「ティファ…………なの?」
「なんだ、二人は知り合いだったのかよ。だったら話ははえぇ、奥を使いな」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ブルーツの言葉でイツキに案内され、奥とやらに通された。
どうやら応接用の部屋らしいが、我輩は―――――――
「ここでお座り」
「ふっ、こうか!」
閉め出された。
ぬぅ、これはどういう事かっ! すっかり騙されてしまったわっ!
おのれ、こうなれば聞き耳を立ててくれるわっ!
「へぇ、タラヲっていったか? お前も中々わかってるじゃねぇか」
ブルーツが小声で言った。
ほぉ、お主もあの二人の話が気になると見える。
「しっ、バレてしまうぞ」
ブレイザーが続く。
なんともむさくるしい顔が上下に並んだものよ。
「ナツ、イツキ。ララまではしたないでありんすよっ」
なるほど、緑髪の女はララというのか。反対側で団子のように顔を連ねておるわ。
だが、そう言いながらも春華も聞き耳を立てているではないか。小賢しいものよ。
「「中々に、面白そうな話が聞けそうだな」」
「へっ、ツァルもかよ」
「「静かにせい。話し始めたようだぞ」」
ぬぅ、全員がドアの前で聞き耳を立てているではないかっ!
解せぬ。解せぬが………………ふふふふふふふ、これは中々…………悪くないかもしれぬ。




