108 お金、金銭、マネー
「何て清々しい朝日だ。まるで俺たちの明日を照らしてるかのような輝きだな! なぁポチ君!」
「『俺が絶対になんとかしてやるから!』ですって! アハハハハハッ!」
「いやぁ、やっぱり早朝からモンスター討伐なんて冒険者ってのは自由で最高だな! なぁベティー君!」
「『辛そうな顔見せるなよ!』ですって! ハハハハッ! おっかしっ!」
「…………やっぱり帰る!」
「あー、ごめんごめん。ちょっと調子に乗り過ぎたわ。謝るから、ほら!」
「そうですよ! 『そんなマスターの顔なんて見たくないんだよ!』……ぷっ」
「ぷっ」
「「あはははははははははっ!!」」
そうだ、メルキィが北西に天獣の紫死鳥がいるって言ってたな。
そこで暴れて死のう。食ってもらおう。俺の恥と共に。
「あー、笑ったわ~。いや、私はアズリーの事少し見直したのよー?」
「…………どういう事だよ?」
「まさかアズリーがあそこまで感情的になって男を出すとはね。リナは妬いちゃうんじゃない?」
「な、何でそこでリナの話が出てくるんだよ!」
「一夫多妻は大変ですよ、マスタ~?」
「何より経済力が求められるわ!」
「私の世話も含まれますしね!」
お前はどうか俺の世話をしてくれ。そもそもそういった内容で契約したの忘れてるのか? 確かに使い魔契約は解除したが、あくまで俺たちの縛りをなくしたに過ぎない。契約の本質的部分に関しては残したと思ったんだが…………はて。
最近ポチの躾がなってないような……それとも、使い魔契約を解除した原因って事か?
徐々に強制力が薄れる感じなのだろうか。ふむ、ここはもう少し様子を見てみるべきか。
ポチとベティーのいじりが落ち着いてきた頃、俺たちは目的の場所まで着いたのだ。
今回、俺たちが王都レガリアの冒険者ギルドで引き受けたモンスター討伐は、西の廃村にいるスキュラの群れの討伐する事だった。
スキュラとは、女の形を主としたモンスターで、下半身は大蛇のような魚のような形状をしていて、腹部からは犬の頭が複数飛び出ている。
ブルーツが言う、「モンスターの中でもイイ女風」な奴。との事だ。ランクはA、その群れであるからして、つまりランクSのお仕事である。
そう、俺たちは遂にランクSの冒険者となった訳だ。まさか二日半程で交付されるとは思わなかった。
これを機会にベティーと共に高難度の依頼に挑戦してみようという事で、ここに至る訳だ。
…………世の中は世知辛い。
それを胸に抱いたのは数時間前だ。
普段受けているランクBのモンスター討伐の平均は五千から八千ゴルド。あって一万ゴルド程だ。
そしてランクAの仕事は一万ゴルドから二万ゴルド程。稀に三万ゴルドという依頼もあるが、それはやはり報酬にしては割りに合わないというのが現状だ。
しかしこのランクSのお仕事。
王都だからなのかはわからないが、スキュラ十体を倒せば、なんと六万五千ゴルドというお金が手に入るのだ。
勿論、それだけに危険な仕事でもあるが、俺とベティー、そしてポチがいるのであればこんな依頼わけないのだ。
三人で依頼を消化しても一人頭二万以上のお金が手に入る。
これが定期的に行えれば、ポチズリー商店の経営は楽になり、晴れて商店を出た皆が働き、その返済をするまで余裕で過ごす事が出来る。
難点なのは、そこまでの数のランクSの仕事がないのと、一人で挑む場合は、安全に気を遣わなければいけないという事だ。
王都レガリアでこのレベルの仕事は月に数回らしい。
となると、俺と銀の皆で回れば、かなりの効率でお金を稼げるだろう。
ふふふふふ、お金は大事だ。お金は素晴らしい。
「………………ふぅ。とりあえず十体は倒したから、これで依頼は完了な訳だけど、まだ少しいるみたいね? どうする? もう少し奥まで行ってみる?」
「んー、そうだなぁ……土地勘のない場所で深入りするのは避けた方がよさそうだ。一度王都へ戻ろう」
「そうね、もう一つランクSの依頼があったから、それを受けちゃうかっ」
この時、ポチの鼻が少しひくつく。耳がピンとなり、ぴくぴくと動く。
「……どうした、ポチ?」
「いえ、音は特にないんですが、少し気になる匂いがします」
俺とベティーが首を傾げるより早く、ポチは見据える先、廃村の奥へと走って行ってしまった。
どういう事だと、数拍遅れて駆けだした俺とベティー。先に見える食いしん坊の尻尾を追いかけていく。
おや? 尻尾がふりふりと動いているぞ?
もしかして、危険はないのか?
走り続ける事一分。廃村の西出口付近へ来ると、その近くにある倒れている銅像の前でポチが止まる。
やはり尻尾を振っている。一体ここに何があるっていうんだ?
「この銅像が…………どうした?」
銅像は最早原型を留めておらず、辛うじて人の形だという事しかわからなかった。
………………………………………………………………妙だな? 銅像の劣化具合と廃村の歴史があっていないような気がする。
どう見ても千年以上は経っている劣化具合だ。だとするならば、もしかして何回か滅びているのかもしれないな。
それにしても何で廃村なんかになったんだろう?
ここまで王都レガリアが近いというのに南東にあるレジアータと同じで、西の要と言っていい立地なのに。
要だからこそ滅びたのか?
「うーん、わかりませんねぇ。どこかで嗅いだ事のある匂いなんですけど、思い出せません」
「知ってる匂いって事か。だからここまで……」
ポチは銅像にむかって何度か鼻をすんすんとさせ、そして首を捻った。
この村は廃村になって百年程だろうか、歴史としてはおそらく戦魔暦より以前のものだ。
「ベティー、この村の事、知ってるか?」
「クッグの村。これ以前にも何度もモンスターに襲われているらしいわ。昔はレジアータと並ぶ大きな街だったって聞くわ。戦魔暦に入ってから復興を諦めて滅びたって話よ」
「なるほどね」
ポチの様子をしばらく見守ったが、結局答えは出ず、もどかしそうなポチを連れて俺たちは空間転移魔法で王都レガリア付近に隠して設置した魔法陣へと戻った。
本来公式のアクセスコードを変えているから隠す必要はないのだが、それでもやはり見つかると厄介なんだ。
それから、再び冒険者ギルドでランクSの依頼、「ウィレム」のモンスター討伐依頼を請け負った。
ウィレムは年老いた翼のないドラゴン系の魔物だが、本来は水気を多く含んだ土の中で生活するために滅多に見る機会はない。
だが、北西のレガリア渓谷近くに住むと言われる紫死鳥にあてられたのか、最近になって度々人前に姿を現すようになり、実際に被害も出ているという。
その戦闘力は一体でランクSという強力なものだと聞く。
最初にスキュラ討伐を受けたのも、安全マージンをしっかりととるためという理由からだ。
ウィレムの討伐報酬は七万八千ゴルド。先程の金額と合わせればひと月はポチズリー商店がまわるだろう。
ふふふふふ、お金は大事だ。お金は素晴らしい。
しかし、冒険者ギルドを出る時、意外な人物が俺たちの前に現れた。顔を知らないベティーは首を傾げている。
「誰?」
「女連れとは良い身分じゃない、流石ランクSになると違うねぇ。アズリー?」
「んまー! 私の事をレディー扱いしてくれてますよ! マスター!」
ベティーの事だよ。
冒険者ギルドにいるのは珍しい事じゃないが……何をしに来たんだ?
「六勇士のバルンさんだ。こちらはベティー、俺と同じでランクSになったんです。その言い方はどうかと思いますよ」
「へぇ、君がベティーか。あのガストンさんに傷を負わせたってね? 凄いね、はははは」
凄いと思ってないような単調な褒め方だ。ベティーも当然それに気付いてる。
「へぇ、あなたが六勇士のバルンね。ポチって使い魔に、使い魔と二人掛かりで負けたってね? 凄いわ、うふふふふ」
おや、今一瞬空気が割れるような音が?
「……体調が……悪かったんだよ……っ!」
猛烈に怒ってる。すっごい怒ってますけど、ベティーさん?
けど、この言葉を聞き、ベティーはすっと嫌味の表情を消し、一瞬で真面目な表情になる。あれ、どうした?
「……なら、戦士たるもの常に体調には気を遣いなさい。それで死んでは汚名しか残らないわよ」
「……っ!」
バルンが…………ベティーの気迫にのまれたな。そういう事か。
勝ちの理由は存在しても、負けの言い訳は通らない。ベティーの方が年上だろうし、ここは年の功ってとこか。
わなわなと小刻みに震えるバルンの肩を、ベティーがぽんと叩く。
今叩いてはある意味一触即発なのでは?
だが、そこでもベティーは俺を驚かせた。またもがらりと印象を変えてバルンに言ったのだ。
真っ白で何の嫌味も悪意もない言葉で。
「ね、それよりアナタ、ここには何しに来たのよ? もしかして暇だったりするっ?」
「え、あぁ。今日は急に非番になったから……な」
毒気を抜かれるようにバルンが言う。
……おいおいもしかして……。
「よし、ならちょっとお姉さんたちに付き合いなさいよ! 今からウィレム討伐&紫死鳥見学に行くからっ!」
「はぁっ!?」
後半のなんとか見学の話は初耳だ。
………………………………………………………………………………………………はぁっ!?




