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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ 作者:壱弐参

第四章 ~ランクS編~

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103 ヴィオラ団長

「ったく、やり方が最悪よね! あんな逸品、そうそうお目にかかれるものじゃないわ! そもそも何で力が認められないのよ!」

 手をぶんぶんと振りながら歩くベティーの後ろで、フユが拳を握りしめる。
 国に雇われているという意味で責任を感じているんだろう。
 まったく、そう抱え込む事ないのに……。
 自然と俺はフユの拳をとっていた。見上げる顔には困惑と自責と……後よくわからない感情が見えた。
 何か嬉しそうな……喜び? うーむ、わからん。

「あの…………ありがとうございま……す」
「あははは、こんなんでよければ」
「ちょっとアズリー、聞いてるのっ!?」
「あー、はいはい!」

 あの後、ベティーは店にある投げナイフ、匕首を全て買い、俺はドンがすすめた護身用のナイフを買った。
 大した足しにはならないだろうが、レウスの喜ぶ顔はとても心地良かった。
 その後ベティーはあの調子だ。
 ポチ? ポチは今俺に引きずられている。
 凄く幸せそうな表情だ。とても心地良くない。
 ……もしかして、また問題だと予想して寝たんじゃないか、こいつは?

「アズリー、アンタ後でフユに空間転移魔法を教えなさい!」
「へ? なんで?」

 気の抜けた対応が悪かったのか、ベティーは俺の胸倉を掴んで肉薄した。

「いーいぃ? 今後私たちとフユ、つまりベイラネーアと王都レガリアを繋ぐのよ。それでベイラネーアにいるブレイザーやブルーツ、それに春華(はるはな)…………いえ、ベイラネーアの冒険者ギルドの戦士仲間全員であの店に詰め掛けてやるわっ!」
「それじゃベイラネーアの武器職人が職を失うのでは? うん」
「カンケーないわよ! どの世界も弱肉強食よ。だからこそ、良質の武器が世を去るのは罪よ!」

 確かにその通りだが……はて、本当にいいのだろうか?
 とりあえずベイラネーアに帰ったらブレイザーたちに相談してみるか。
 今後王都とのアクセスを簡略化するのは確かに良い手ではある。
 後でフユに空間転移魔法を教えておかないとな。

「とりあえずベティー、顔が近いぞ? うん」
「ふんっ」

 鎖骨まわりの肉がつままれてて痛かったなんて言えないが、ようやく離してくれた。
 と、この直後、今度はフユに胸倉を掴まれた。
 ……ほよ?

「アズリーさんっ。空間転移魔法の公式を知ってるんですか!?」

 すっごい首ブンブンされてる。
 とてつもない勢いで視界が半円を描いてる。む? このワードはいいな。後で賢者のすゝめに書いておこう。
 ふふふふ、目次に名言集を加えるのが楽しみだ。

「知ってるも何も、アズリーが作ったのよ? あの公式」
「なっ! 本当ですか、アズリーさんっ!?」
「あ、馬鹿! それは言わない約束だろっ」
「馬鹿なのはアンタよ。フユはもう大人なの。それも分別の出来るね。だからこれは言っても問題ないわけ? わかった? はい解決」

 畳み掛けるように言われてしまった。
 さっきの件で相当虫の居所が悪いみたいだな。理不尽な事には敏感だからな、ベティーは。

「そんな…………空間転移魔法はアイリーン様の功績じゃ」
「あ、えーっと……アイリーンさんにその権利を売ったんだよ。ハハハハ」

 俺がこれだけ言うと、フユははっと何かに気付いた表情になった。
 つまり……気付いたんだろうな。そのお金で自分が助けられた事に。
 あの時はある意味がむしゃらだったからな。トゥースやメルキィの指導で少しは大人しくなったつもりだけど……。
 そう言えばナツはともかく春華(はるはな)も知らないんだよな。いや、今みたいにベティーがさらっと言ってるかもしれないが。

「……そういう、事でしたか」

 涙を浮かべ、フユは言った。
 そして笑顔を浮かべ、ベティーは俺の臀部(でんぶ)を叩いた。
 痛い。こういうところはほんと兄妹だよな、ブルーツとベティーって。
 何か言ってるな。そんな早口、読唇術が出来ないと無理だぞ、おい。
 まぁ出来るけどな。えーっと何々? 「や・さ・し・く・し・て・や・れ」って……それは喋った張本人のお前の仕事じゃないのか?
 くそ、またっ! 尻が痛いぞ。

「えーっと、フユ? そんなに気にしなくていいからね。ある意味俺の都合だったようなものだ――()っ!?」

 いてーよベティーッ! 「そ・う・じゃ・な・い・だ・ろ・ば・か」…………ぬぅ。
 俺にそういったスキルを要求するんじゃないよ、まったく。

「く……フ、フユたちが――()っ!?」

 このやっろっ!? 「た・ち(、、)・じゃ・な・い・わ・よ!」……細かいなっ!

「ぐぬぬぬ……フユ()助かったのなら……それでいいんだよ。だから、ね? そんなに泣かないで」

 どうだ、これが俺の本気だぞ! ベティーッ!
 俺の全霊に、ベティーはまだ不服そうな顔だったが、どうにか納得して頂けたようだ。
 きっと今日はツイてない日に違いない。こりゃ早々に帰らないとまだまだ災難が起こりそうだぞ。
 ある程度買い物が終わったし、後はフユの用事ってやつだけだろうけど、はて? どこに何しに行くんだろうか?
 西門の方とは言ってたが、地理に明るくないから流石に想像が出来ないな。
 ポロポロと泣くフユに、俺は全霊を込め続けた。ちょいちょいとベティーの臀部アタックが俺を襲ったが、次第にフユは泣き止んでいった。
 ランクSの依頼より困難だぞ、これは。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 フユが最後の涙を拭った頃、日は少し傾き始めていた。

「私、納得しました。ガストン様がアズリーさんを認めていらっしゃる事、アイリーン様がアズリーさんの話ばかりをする事――」
「え、アイリーンさんに会ったのか?」
「えぇ、先日。王都レガリアにいらっしゃった時に、ここから西()にある王都守護魔法兵団本部までガストン様を尋ねられたのです」

 あれ、今……西って言わなかったか? 西って?

「……そうなんだ」

 アイリーンがここに? 一体何の用事で?
 十二士会があるって話は聞いてなかったはずだけど。私用でもあったのだろうか。

「それで、今日アズリーさんにお会いしたいという方がいらっしゃったので――」

 きた。
 どう考えても俺にメリットのない話っぽい。それに……嫌な予感しかしない。
 どうやって逃げるべきだろうか?

「そう。それだったらそんなに相手を待たせちゃいけないでしょう。さ、行きましょう」
「はい、そうですねっ」

 はい、そうですね。

 俺は、一転して元気になったフユに手を引かれ、王都の外壁内周をなぞるように西門を歩いた。
 寧ろこれは普段以上と言っても過言ではないだろう。
 元気なあまり小走りになる事もあり、その衝撃でポチが「ぎゃふん」と言って起きた。
 そしてその時がちょうど目的地に着いた瞬間だった。
 ポチは目の前に見えた看板の文字を追うと、すぐに振り返って俺をじとっと見つめた。

「マスター、これは嫌がらせか何かですか?」
「ポチ君、実は俺もここに来たくなかったのだよ」
「奇遇ですね」
「奇遇だな」

 看板には、物々しい文字でこう書かれていた。

 ――――王都守護魔法兵団。

 建物から漂う魔力の濃度と、奥から聞こえる気合いと気迫に満ちた掛け声。
 このビリビリとした圧迫感はとても苦手だ。
 入っちゃいけない。それはきっと本能が俺に知らせた危険の知らせ。
 嫌な事と嫌な事しか待っていないと知らせる生への知らせ。
 ポチの飲み込む唾と、俺の飲み込む唾の音が重なった時、今にも空転移魔法を宙図(ちゅうず)してしまおうかと思った時、フユはとても……それはとても素敵な笑顔で言った。

「アズリーさん。ほら、あの方がアズリーさんに会いたいと仰っていたヴィオラ団長ですよ」

 きつい化粧に紫炎を思わせる深い瞳。
 大きなマントを肩にかけ、フユの着る制服が微笑ましく見える程、彼女の着る制服はキマっていた。
 年齢は四、五十にはなるだろうが、漂う魔力はとても若々しい。
 これが王都守護魔法兵団。その団長のヴィオラか。
 彼女に駆け寄ったフユは、どうやら俺の事を話しているようだ。
 フユのヤツ、もしかしてガストンの時より緊張していないか? あ、こっち見た。

「入りなさい」

 嫌です。
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