101 王都の商業地区
ベティーと冒険者ギルドに着くと、その扉の前でフユが立っていた。
白と黒を基調とし、緑色のラインが入った服を着ていた。あれは……もしかして制服か? だとすると王都守護魔法兵団の制服か。
少し制服が大きいようだけど、中々似合っている。
ちょこんと立つフユを見ていると、ベティーが横から肘で突く。本当にこういう事好きだよな、ベティーって。
「待たせたわねフユ。アズリーが女の子に話しかけてたから時間かかっちゃったのよ~」
「おまっ、そういう誤解を招くような言い方はやめろって! そもそも遅れたのはベティーが――」
「さ、行きましょうかっ!」
言い訳はシャットアウトされ、ベティーはフユと組み歩き始めた。流されながらも片方の手で俺のマントを掴み、間に挟まれたフユは、左にベティー、右に俺という三人の横列を作った。
しかし、「ぬぬぬぬ」という変な声と一緒に、ポチが俺の頭に手をかけ、おんぶを要求してくる。
「お、おいっ、ちょっと重いぞっ。こら!」
「ふん、たまには私も楽させてください!」
「ポチさんも……一緒ですね」
フユは俺の肩に乗せたポチの顔を見上げると、くすりと笑って喜んだ。
まったく、何がそんなに嬉しいのだか……。
「そういえばフユ、それは王都守護魔法兵団の制服か?」
「はい。どうですか? 似合ってますか?」
もしかしてフユはこれを見せたかったのかもしれないな。
「あぁ、皆が憧れる制服だ。似合わないはずないよ」
「えぇとその……ありがとうございます」
フユはそれだけ言うと、頬を紅潮させて俯いてしまった。ベティーはその頭に手を乗せて撫でている。
こうして見ると、この二人は姉妹みたいだなー。
ナツはブレイザーの娘みたいな感じだし、ブルーツはブルーツで最近ララとつるんでる事が多い。まぁその度にツァルと口喧嘩してるんだが、喧嘩する程仲が良いとも言うし、ブルーツはそういう事に慣れているってのもあるけどな。
「それで、今日はベティーの装備の新調と…………どうするんだ?」
「馬鹿ですねぇマスターは。女の子の買い物ってのは当てがない場合が多いんですよ!」
「そういう事っ」
ベティーがウインクしてポチに同意すると、フユは俯いたままくすりと笑って震えていた。
「それじゃあまずは、中央区へ行くわよ!」
駆け始めたベティーに引っ張られるフユはかろうじて付いていく。
だが、俺はそんなタイミングがわかるはずもなく、フユに引っ張られて……豪快に転んだ。うつ伏せ状態に倒れた俺は、おぶってたポチに背中の上でギャーギャー騒がれ、今夜のポチのおかずを一品減らす事を心に誓った。
王都レガリアの中央区はとんでもなく活気に満ち溢れていた。
人はごった返し、怒号とも思えるような客引き。極めつけは流れるような人の歩きの速さに驚き、押され、また転んだ。おぶってたポチに背中の上でギャーギャー騒がれ、今夜のポチのメインの量を少し減らす事を心に誓った。
ずれた眼鏡を直して改めて見ると、やはり人はそこまで苦労していないように見える。
悪魔崇拝をしているとは思えない状況だ。いや、それだけ灰色たちがうまくやっているという事なんだろう。
ベティーやフユの話だと、この中央区の南側から南区の南門へ続く大通りが商業地区となっているそうだ。
行く当てもないままだが、どうやらコースだけは決めたようで、このまま南門まで向かい、そして外壁の内側を伝うように西門を目指すそうだ。
それだけでどうやら一日潰れるみたいだ。「何故西門なのか」と聞くと、どうやらフユが行きたい場所は西門近くの施設らしい。
そこを目的地として、俺たちは商業地区を南下し始めた。
…………やはり凄いものだな、王都ってのは。
武器屋が並び、防具屋はその対面にあり、総合的に販売している店は店で固まり、そして競争しあっている。
驚いたのはフユの顔を見ると皆声を掛けていた事だ。
常にガストンと行動を共にしているからか、王都ではちょっとした有名人なんだそうだ。
しかし本当に成長したよなフユは。オルネル含め魔法大学の学生が皆憧れる王都守護魔法兵団に入り、ガストンの下で修業しているとなれば成長して当然だが、初めの頃は小間使い的なポジションで雇われたはずだ。それがこうも成長するとは、人間ってのは本当にわからないものだ。
昼少し前、ベティーはようやく満足出来る防具屋を見つけたらしく、その店に入る事にした。
てっきり選ばされると思っていたのだが、ベティーは自分で決めると言った。
ベティーを待っている間、店内にある椅子に座りながら、俺はフユに聞きたい事を尋ねた。
それは、リナが入団しようとしている王都守護魔法兵団の事だった。
「そう言えばフユ、ジャンヌさんは元気にしてるか? 一昨年に魔法大学から王都守護魔法兵団に入ったはずなんだが?」
「えーっと、確か魔法大学の副会長をやってらした方ですよね?」
「そうそう」
「あの方は確か、鍛錬兵を終えて先日正式な兵士になられたかと思います。特筆すべき点は……特にあがってきていないかと」
「あのジャンヌさんが……鍛錬兵か」
しかも特筆すべき点はないとか、流石ガストンが選んだ精鋭たちだ。
「鍛錬兵の期間は団長である《ヴィオラ》様が見ますからね。正式な兵士となればガストン様も見ますが、鍛錬兵を終えたとしても、正兵士の鍛錬内容に音を上げ、退団される方もいますので、あえて気にしていないというのが実状です」
ヴィオラ……確かガストンの懐刀と称される王都守護魔法兵団の団長。
ガストンを司令官とする事実上、兵の中のトップ。
確かその下には兵士長、分隊長とかの階級があったはずだ。
「へぇ、そりゃ恐ろしい。フユも鍛錬兵を?」
「私は、特殊な入団をしたので鍛錬は全てガストン様にお願いしているのです」
それはそれで恐ろしいんじゃないのか?
しかし、どんな恐ろしい鍛錬をしてるっていうんだ? 憧れである職を自ら手放すような鍛錬ってのは……。
そんな事を考えていると、装備の新調(と言っても前と大して変わっていないが)を終えたベティーが戻って来た。
「いや~、待たせちゃったわね」
「ベティー、それでいいのか? もう少し重くしてもいいんじゃないか?」
「私の良さはスピードよ? それを殺しちゃ戦闘能力が落ちちゃうわよ」
「確かに、それもそうか」
そう考えるとあれだな。防具の重さを感じさせなくするような魔法陣を組み込んで、アーティファクトとしてしまうのはどうだろうか?
ふむ、この研究も少し進めてみるか。
「アズリー? もう行くわよ~」
「あ、あぁ。今行く!」
店を後にし、再び通りまで出ると、ポチのお腹から魔王もびっくりな音が響いた。
あの量を約十時間で消化するとは驚異的な内臓だな。
「ごはんの時間です!」
「ホントね、人通りも少なくなってるみたいだし、皆お昼かしら」
それ正午を知らせる音なのか?
「私もお腹がすきました」
小さな手でお腹をおさえながらフユが続いた。
俺はそこまでお腹は減ってないんだが、まぁ仕方ないか。
俺たちはポチの鼻が知らせる美味そうな店とやらに足を運んだ。
ポチの鼻は正確なようで、ハムと野菜を炒めた料理が美味しくておかわりをしてしまった程だ。
ポチなんか野菜をよけて俺に食わす程だ。
別の料理にすりゃいいだろう、お前。
再びフユと話をしたかったが、「食後は外で日に当たりたい」という我儘使い魔のせいで、俺はそれに付き合う事になった。
まぁベティーはベティーで積もる話もありそうだし、これはこれでいいのかもしれないな。
お腹をポンポンと叩くポチの背に寄りかかりながら近くにあったベンチに腰掛けていると、俺の目の前に小さな男の子が現れた。
何だこの子? 少し痩せ気味の線の細い男の子だ。シャツにパンツも薄汚れている。
貧困層の子供だろうか? そう思い首を傾げていると、男の子は俺のマントを引っ張りながら言った。
「あのっ、武器を買ってくれませんかっ?」
ワタシ、マホウシデスヨ?




