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Stay Here  作者: 多手ててと
遠征

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32/41

32.東スポ2歳(5)

「ウィンドブリンガー、ここから見ているだけでも強いのがわかりますね」


嬉しいことに雪島さんと一緒にパドックを観覧するになった。何度か敬称についてのやり取りの後「雪島さん」と呼ばせて頂くことに落ち着いた。その方が悠馬に尋ねる。


「佐藤さんは名伯楽だと聞いています。ウィンドブリンガーのどのあたりを評価していますか?」


「そのような過分な評価を頂くと身もだえしそうになりますが……やはり歩様ほようが滑らかで、筋肉の張りが申し分ないですね。特にトモ(後肢)がしっかりしていると思います。背中も良いですね。これまでの2戦、最初から最後まで先頭をゆずりませんでしたから、勝ち方も良く知っています」


2戦ともスタートでハナを切ってそのまま圧勝。結果的に逃げた形になっているけれど本当は強い先行馬じゃないかな?  グランフェリスほど極端に前で勝負する馬ではないと思う。


雪島さんもウィンドブリンガーには言いたいことがあるようだ。


「さすがは良く見てらっしゃいますね。もちろんうちのたちにも期待していますが、彼を見ると今年の牡馬クラッシックは弱気になってしまいます。もちろん絶対的な本命馬でも必ず勝つとは限らない。それが競馬の面白いところですが」


雪島ファームはここ3年連続でダービー馬を排出している。年によっては出走馬の半分ぐらいが雪島ファーム出身になる時もあるから別に驚きはない。さすがに所有者はバラバラで、雪島さん自身やその一族、系列のクラブ、そして多くのトップオーナーたちの名前が並ぶ。


だからもしこの東スポ2歳Sで負けたとしても、雪島さんがダービーを諦めることはないだろう。 実際このレースでも4番人気だし。


「さすがダービーで勝つために必要なことを良くご存じですね」


「ブリンガーは強敵ですよ。ですが強い馬が出て来るのは競馬界にとって喜ばしいことですから」


「はい。おっしゃるとおりです」


強い馬がいると競馬全体が盛り上がる。それを素晴らしいと言い切れるのは、雪島さんが大局をみているから。そして悠馬にとっては自分には関係のないことだから。おそらくグランフェリスとウィンドブリンガーが同じレースで走るのはこれが最初で最後だろう。


「グランフェリスについてはどう考えてらっしゃいますか?」


雪島さんの問いに、輸送の疲れで体重が落ちたことを悠馬は包み隠さずに伝えた。茨城の牧場を借りているのだから、その気になったらすぐ知れる立場だ。実際知っていて訊ねているのかもしれない。悠馬は体重に触れた上で、調教師と厩務員が頑張ってくれたと伝えた。その上で自分の願望を話す。


「まずはケガ無く帰って来てほしいです。そして……これは願望ですけれど、できれば前半分、7着までには入って欲しいですね」


本当は掲示板(5着以内)には載って欲しいがそれはかなり高いハードルだ。体調を考えると10着あたりで大健闘な気がする。そもそも近年のこのレースでは牝馬は1頭出走するかしないかで、今年もグランフェリスがただ一頭だけ女の子。斤量も同じく1kg減で条件はサンライズカップと同じ。


なぜ牝馬が少ないかと言えば1kgの斤量優位があっても勝ち目がないから。実際勝った牝馬はいないし、掲示板に乗った馬さえ稀だ。


そして地方所属馬がこのレースを走るのもグランフェリスが初めてだと思う。


ただ一頭の牝馬、地方所属、芝が初めて、極端なレース展開、陣営は遠征に不慣れで案の定調整に失敗。買える要素はどこにもない。14頭中の14番人気なのは覚悟していたけれど、ここまでオッズが飛び抜けて高いと少し悲しいものがある。


だって今回の相手はいずれも中央のエリート揃い。繰り返すがこれはJRAのGⅡ、それも2歳の登竜門に位置付けられていて、世代最強馬が出走するようなレースなのだから。


せめて牡馬牝馬の斤量を見直せばいいのに、悠馬は自分勝手なことを考えながら雪島さんとパドックで下馬評を続けた。


「なるほどお聞きしていた以上に慧眼をお持ちだ。もう少しお話を続けたいのでこ一緒に観戦しませんか?」


悠馬はもちろん快諾した。


こんな競馬界の重鎮とパイプができるなんて運が良いでは済まされない。うまくいけばグランフェリスの今後の遠征にも便宜を図ってもらえるかもしれない。それはそれ、とビジネスライクに区分けされるかもしれないけれど、それが当たり前。やれることはやっておきたい。


最初に声をかけてくれたのも雪島さんからなので、何らかの狙いがあるのかもしれない。でも後ろ暗いことなら、わざわざこんな人目につくところでトップ自ら声をかけて来ないだろう。 悠馬がジャマなら書斎で側近にひとこと命じれば事足りるはずだ。「消せ」とか。


それは冗談だけど、雪島さんが何を考えているにしても、悠馬ごときから強引に奪うようなものはない。せいぜいグランフェリスを買い戻したいとか、だけどそれもないだろう。うん? 引退したら繁殖で牧場に戻してほしい。これはあるかもしれない。


買い取るといえばソフィアさんは元気かな? まだ日本にいるんだろうか?


そんなことを思いながら悠馬は雪島さんと一緒に馬主の観覧席に戻った。

まだごたごたは片付いていないのですが、一話は書きあげたので投稿します。


6月には週イチペースに戻したいです。

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