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第二話:沖縄戦線Ⅰ 



◆ ◆ ◆



――西暦2283年4月15日


 沖縄県最西端に位置する「与那国島」。


 過去、人口減少がいよいよ国家問題となった際、主要都市への人的リソースの集約が行われ、島民は一斉に沖縄本島へと移住した。


しかし、軍事拠点としての価値は極めて高く、現在は友好関係にある台湾と共同で建設された海軍基地が鎮座している。制空権を台湾に委ねる代わりに、日本は海上防衛を一手に引き受ける。


その盾として配備されているのが、最新鋭護衛艦「イージスⅢ・赤雷型」五隻である。




 沖縄本島の占領を最終目標に据えたこの争い。その前哨戦とばかりに差し向けられた中露連合艦隊であったが、二十五層に及ぶ障壁魔法を展開し、あらゆる被弾を無効化するイージス艦を前に、十隻からなる敵艦は悉く(ことごとく)戦闘不能に追い込まれた。


 ミサイル、魚雷、砲撃。


 双方が火力をぶつけ合う中、障壁魔法の同時展開が十層に留まる中露連合軍は、防戦に回るのが精一杯であった。


対して日本のイージス艦は、敵の総攻撃をいとも容易く防ぎ切ったかと思えば、その間隙を縫って『赤雷』の名を冠するレールガンを連射する。まさに理不尽極まる火力の一方的な押しつけ。


 《《世界水準の先を往く次世代の魔法工学、ならびに卓越した魔法師たちの能力》》。それこそが、この圧倒的な芸当を可能にしているのだ。


 三日間にわたり被害を厭わぬ猛攻を仕掛けたものの、有効打をただの一つとして与えられず、一方的に削られ続けた連合軍は、真正面からの海戦では牙城を崩す術なしと判断。無人化した要塞島・与那国島の近海、排他的経済水域付近での交戦を打ち切り、満身創痍の状態でその海域からの離脱を余儀なくされた。




 だが同日、敵が侵攻拠点とする中大陸連邦の軍港から、まるで、当初からこちらが本命であったと言わんばかりの用意周到さで、二十隻からなる戦闘艦、および輸送艦十隻が順次出港していく。



 艦艇同士の戦闘による勝利を完全に諦めた彼らは、航空魔法師の運用能力を重視した大型母艦に加え、超大口径レールキャノン二基を搭載した『戦艦・极炮ジーパオ』を中核に据えていた。


 それは圧倒的な質量による力押し。すなわち《《強行突破》》をコンセプトとした、特化型艦隊。


 軍港を覆い隠す光学迷彩の揺らぎを抜けると同時に、鋼鉄の巨躯たちはその圧倒的な威容を大海へとさらけ出した。



――最終針路は沖縄本島、国防軍那覇統合基地。


 戦闘艦二十、輸送艦十、《《航空魔法師、実に五千》》。圧倒的な物量をもって海と空の支配権を掌握し、空軍基地を落とす。


 昨年の四国基地占領時には、最終的に壊滅状態に追い込まれ基地の奪還を許したものの、それまでの過程で日本側の精鋭をかなりの数屠っている。


 傷を癒やす暇を与えず、畳み掛ける。


――それが、中露連合が描く、再侵攻のシナリオであった。




◇ ◇ ◇




――西暦2283年4月17日


 出港から二日。


 海を割り、堂々と突き進んできた中露連合の鋼鉄の巨躯たちは、ついに沖縄本島の排他的経済水域(EEZ)境界線を視界に捉えた。


 そして今、その艦首が不可逆の一線を越える――。




 与那国島を護る『赤雷』五隻は境界線外に居座る国籍不明の別働艦隊の存在により足止めを余儀なくされている。

よって、この海域は那覇基地に配備されたイージス艦十隻で死守しなければならなかった。




 経済水域、境界線直近。那覇基地より緊急出撃したイージス艦、全十隻が鶴翼の陣形(V字型陣形)を敷き、不退転の防衛ラインを形成。

対するは、その三倍におよぶ連合軍艦隊三十隻。魚鱗の陣(三角形陣形)を敷き、力押しによる強行突破のみを狙う。


 互いが有効射程にその身を晒しながら、静寂の中で睨み合う。



 午前10時36分。


 中露連合の前衛艦が左右へと分かれる。その中央、中核に据えられた戦艦『极炮ジーパオ』のレールキャノンからは四本の導電レールが鈍くせり出し、その照準が固定される。膨大な電力を吸い込み、周囲の空気を熱気で歪ませた砲口には『加重・加速魔法』の幾何学紋章が浮かび上がる――。


エネルギーが臨界に達し、火を噴いたその瞬間、沖縄を巡る戦いの幕は開けた。



『イージスⅢ・アイギス型』


 イージスシリーズの基本装備である艦本体を覆う二十五層の障壁に加え、艦外二十五メートルを浮遊領域とし、三次元機動を可能とする巨大な盾――物理・魔法障壁併用式シールド『アイギス』が、轟音とともに放たれた超音速の巨弾を受け止める。


凄まじい火花を散らしながらも、その莫大な運動エネルギーを正面から防ぎきった。


 着弾跡――表面に張り巡らされた障壁の数層が砕けたことを示す「網の目状の亀裂」が走るが、それもわずかな時間。アイギス本体に組み込まれた魔法式に魔力が供給されたことで即座に再構築され、再び鉄壁の輝きを取り戻す。


 平たくひしゃげた弾丸が海面へと落ち、水柱を上げるのを傍らに、敵陣の後方に布陣する母艦の甲板からは、整然と隊列を組んだ無数の人影が空へ躍り出た。


 その手に握られているのは、時代錯誤なほどに無骨な長身銃。発射と同時に『加重・加速魔法』ならびに抽象系統魔法『赤熱投影』を付与し、弾丸の威力を火工兵器としての限界点まで高めた、単発排莢型のボルトアクションライフルだ。


 間もなく、ダークグリーンで統一されたアーマースーツの集団――ロシア帝国軍、航空魔法師隊が、その絶対的な数でもって空を埋め尽くした。




◆ ◆ ◆




「島木隊長。敵航空魔法師の出撃が確認されました。第一波、数はおよそ千とのことです」


 副隊長である航空魔法師少佐、大矢おおや 信樹のぶきが淡々と報告した。


「第一から第十小隊、計五百で迎え撃つ。追加兵装は重装型ヘビータイプを選択。目視で捉え次第、マイクロミサイルによる波状攻撃で敵を蹴散らせ」


 島木もまた、顔色ひとつ変えることなく平坦な声で命令を告げた。


「ハッ!了解いたしました!」



 第65航空大隊には独立した指揮系統が与えられている。

総司令部との情報共有は行うものの、直接的な指揮下には属さない。


 この戦場における日本側唯一の航空戦力である彼らには、空の領域すべてを預かる独立部隊としての広範な裁量権が与えられている。


 日本のイージス艦は本来、戦況に応じて『赤雷』や『風神』といった攻撃型や対空型装備への換装が可能となっている。

だが、敵に絶大な火力を有する超弩級戦艦が存在する以上、鉄壁とはいえ独立型シールド『アイギス』を持たぬ装備を選択する余地はない。結果として、海上の友軍は最低限の対空支援がせいぜいであり、自艦の防衛に徹するだけで手一杯となることが予想された。


 空が負ければ、この戦線、ひいては沖縄本島は敵の手に堕ちる。


ゆえに、この戦線におけるすべての「矛」を受け持つ『第65大隊』には、通常の尺度では測りきれぬ『強化兵士』としての能力を最大限発揮させるべく、指揮系統から運用に至るまでの全権が委ねられているのだ。


――敵に勝利する方法は、ただ一つ。


 敵の強行突破に対し、こちらも強行突破で応える。


イージス艦隊が海上の敵を食い止めている間に、航空大隊が『元老院』から無尽蔵と思えるほど供与された兵装および弾薬を惜しみなく吐き出し、敵の撃滅を目指す――否、それを成す。


 それが、現場の下した《《夢想的》》な、しかし揺るぎない最終目標であった。



◇ ◇ ◇



 灰色のアーマースーツに身を包んだ第65航空魔法師大隊、計五百名は、那覇基地から轟音とともに次々と飛び立っていく。


 隊員全員のスーツ胸部および肩部には、追加兵装として二十五ミリ口径のマイクロミサイルコンテナが装着されている。胸部左右には三十二発を二回に分けて発射する六十四発入りのものが二基。肩部には五発を三回に分けて発射する十五発を収容したものが左右に一基ずつ装備されている。


 一人あたりの装填数は計、百五十八発。


 未登録の魔力を自動検知し、標的として定める『追尾魔法』が付与された、ホーミングミサイルの弾幕を、敵大隊へと浴びせかける――それこそが、航空魔法師における最大火力を誇る対集団殲滅仕様、重装型ヘビータイプの持ち味だ。


 空を翔けて間もなく、灰色の集団は敵大隊を視界に捉えた。その瞬間、全小隊が敵を囲い込むように陣形を大きく横へと拡げながら、各員が一斉にトリガーを引いた。




 計七万九〇〇〇発。胸部ならびに肩部のコンテナが開き、勢いよく放たれた不可避のミサイル群が、深緑の集団へと迷いのない機動で次々に吸い込まれていく。


 敵は最大速度で急速旋回し、全力の回避行動を試みる。だが、全弾に付与された『加重・加速魔法』によってマッハ三を超えたそれを、振り切れるはずもなかった。


 着弾の間際、焦燥に駆られた敵魔法師が本能的に両の掌を突き出し障壁を展開するも、冷酷に殺到するミサイルの大群を防ぎきることは叶わない。二十五ミリの小口径とはいえ、その爆発の威力は魔法によって極限まで増強されている。


 頑丈なアーマースーツに身を包んでいようが、一体、また一体と、深い緑色の人型たちが全身を爆炎に呑み込まれ、海面へと叩き落とされていく。


 だが、敵も当然無策ではない。即座に防御手段を講じた。


質量煙幕ウェイトスモーク


 視界を遮らない微粒子に『加重魔法』を付与し、物理的な質量を持たせた煙幕を散布し空域を埋める。それによってミサイルの速度を大幅に減衰させ、航続限界まで距離を稼ぎ続けることで、直撃を回避したのだ。


 推進力の消失を条件に設定された信管が作動し、ミサイルたちは次々に虚しく、無意味な爆発を繰り返した。結果として、被害は四百名余りの撃墜に留められた。



 日本側、灰色の五百名は即座に空となったミサイルコンテナを切り離し(パージ)、実弾発射と同時にその弾丸へと魔法付与を可能とする、MCD【Magic Cast Device】一体型アサルトライフルを構えた。


 彼らにとってミサイルを受け流されたのは想定の範囲内だ。それはあくまで、数的不利を削り取るための「足切り」に過ぎない。


 第65大隊の真骨頂。それは、最新鋭の兵装と強化兵士ならではの高次元の身体強化魔法を駆使した、超音速領域での電光石火の機動戦を敢行することにある――。



 

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