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第一話:権威を巡る争い



◆ ◆ ◆



 『第6.5世代ソルジャー(兵士)計画』



『上補十二家』ならびに『上弐二十四家』。


 その一族のみが特権的に継承する、圧倒的な素質を有する「第一世代」および「第二世代」魔力因子。


 政府閣僚が、日本の軍事力を彼らに依存せざるをえない現状を打破、あるいは、それら権威の()()を掲げて発足した、極秘プロジェクト。


 それが、第6.5世代|ソルジャー計画の正体である。


 現行規格では完成の域にある第六世代魔法師を超える、「6.5世代魔法師」を目指すこの計画。その具体的な立案と実行を担うのは、日本魔法学界の権威の象徴――


 世界最高峰の知見を有し、約七十年前、世界に先駆けて「無指向性・汎用型魔力因子」を開発。世界に魔法を普及させ、残存する化石燃料を巡る戦乱に終止符を打たせた、日本が誇るリーディングカンパニー『元老院』であった。



 第一・第二世代因子とは異なり、血統遺伝に頼らない後付けの魔力器官「無指向性・汎用型魔力因子」――通称、第三世代因子。その基本構造をそのままに()()が重ねられること、七十余年。三度の進化を経て到達した「第六世代因子」は、もはや発展の限界に達していた。


 その壁を突破するために残された可能性は、正当なる進化の道――すなわち、完全新規格「第七世代因子」の開発のみであった。


 だが、元老院内部で発足した強化兵士計画チームに与えられた時間はわずか二カ月。彼らは新規開発を早々に断念し、代わって、平時であれば禁忌とされる「身体への因子同化」および「因子の追加植付」を立案した。


 ()()()()()()には、有事の渦中にある今、兵士の数に頼れぬ島国ゆえの現実問題――「個々の能力値の向上は喫緊の課題である」という大義名分が貼り付けられた。


 非人道極まる内容にも関わらず、『元老院』上層部がそれを承認。ついに正当な免罪符を得た実行チームは、国防空軍・航空魔法師を中心に集まった志願者1000名に対し、その手を禁忌に染めた。



 当座の圧倒的な能力と引き換えに、将来的な進化と改良の可能性を永久に放棄する「超過因子施術」を施したのだ。






――西暦2283年3月24日。


 水面下、この計画が実行に移されてから約二か月後。中露連合軍は日本国に対し、宣戦布告。


 それに対し、日本政府は当然のごとく徹底抗戦を宣言。


「防衛の主軸として新たに編成された『第65航空大隊』をもって、その侵攻を撃滅する」


 そう、声高らかに宣言したのである。




◆ ◆ ◆



――西暦2283年4月15日。 埼玉県・入間空軍基地


 沖縄最西端、与那国島の経済水域の境界線付近。連日繰り返される海軍同士の小競り合いが、日を追うごとに激しさを増す中。


 中露連合艦隊が侵攻拠点へと集まりつつあることを察知した日本政府は、国費を投じて編成した『第65航空大隊』に対し、ついに実戦投入――沖縄への出撃を命じた。


 目的は、標的とされた沖縄の防衛ではない。敵航空魔法師隊の殲滅、ならびに主力艦隊の撃滅である。


 空中戦闘用アーマースーツ、銃火器一体型MCD【Magic Cast Device】や自律追尾型補助兵装ATD【Auto Tracking Drone】。

コストを無視した数々の最新鋭兵装に加え、元老院より提供される無尽蔵なまでの補給物資、および予備兵装。


 そのすべてを使い果たしてでも、任務を完遂せよ。


――それが、彼らに与えられた()()であった。




「島木隊長。第65航空大隊、総員準備完了です」


「よし。これより沖縄那覇空軍基地へと向かう。五十名の小隊で隊列を組み、順次発進せよ」


 その号令に従い、灰色で統一された、タイトかつシャープなシルエットの最新鋭空中戦闘用アーマースーツ――『ウィング00(ツーオー)』に身を包んだ隊員たちが、轟音を従え次々に空へと消えていく。


 灰色の人型すべてが出撃を終え、彼らが残した飛行機雲が薄れはじめ、しばしの静寂が訪れた。


 その直後。一筋のコントレイル(飛行機雲)が青空を断つように描かれる。


間もなく地上へと、肩口に「銀の四つ星」を飾る黒紫色の軍服を纏った偉丈夫――「紫崎 隼人(しざき はやと)」が、静かに降り立った。



「紫崎総師長閣下! ご足労感謝いたします。わざわざお見送りにいらしてくださったのですか」


その姿を確認するや、島木は即座に漆黒のフルフェイスを脱ぎ取り、小脇に抱えた。後に続く面々も同様、弾かれたように一斉に敬礼を捧げる。


「島木。――困難と判断すれば、撤退せよ。これは国防空軍総師長としての()()だ」


 紫崎は降り立つや、射貫かんばかりの鋭い視線で、怒りに駆り立てられたように島木へ詰め寄り、そう言い放った。


「……閣下、それは承服しかねます」


 島木は紫崎の視線を正面から受け止め、静かに、断固たる響きで言葉を返す。


「四国では市民を護るため、多くの一級魔法師も散りました。今の日本国に、その穴を埋める余力などどこにも残されていないということは――閣下が一番よくご存じのはずです」


「無駄死にになるぞ」


 紫崎はさらに眼光を尖らせ、その言葉を真っ向からぶつけた。


「市民を、そして祖国を護って死ぬ。そんな死に様であれば、軍人一家に生まれた身として、それ以上の誇りはありません」


「馬鹿者! 敵が沖縄本島に踏み入れば我々上補家が、少なくとも白川家が必ず出る! それまでは防御に徹し、お前たちは沖縄の市民を避難させること、その一点に全力を注げばいいのだ!」


「……それでは、決して少なくない市民の犠牲者が出ます。それを私は、軍人として、一人の人として見過ごすことはできません」


「貴様は政府の我欲に利用され、使い潰され死ぬことが誇りだとでもいうのか!――島木、死んでしまえば何も残らん。誇りとは、生きていてこそのものなのだぞッ!」


「分かっています、閣下。ですが、我々のような元より『替えの利く一兵卒』は、そうでもしなければ真の意味で日本国を背負う機会が与えられないのです」


 島木は、どこか悲しげに、それでいて穏やかさすら湛えた面持ちで続けた。


「それに、閣下に並ぶ上補家や上弐家に、日本国全体は過度な負担をい、政府からのにらまれ役すらも背負わせたままここまで来てしまっている」


「傲慢と承知していますが、その肩の荷を少しでも軽くしたいと願ってしまうのは、今回志願した我々にとって――いえ、空軍に籍を置く者すべてにとって、至極当然の総意なのですよ」


「……バカ者共が」


 漆黒の外装をまとう隊員すべてが示す鋼の意思。


紫崎はそれ以上、返す言葉を持たなかった。


「――なら敵を撃滅し、必ず生きて帰れ。そして、その身すべてを賭し、死ぬまで尽くせ。これは絶対命令だ」


「ハッ! 島木 慎一 航空中佐、拝命いたしました!」


「貴様らもだ。皆、生きて帰れ。命令だ」


「『ハッ!』」


 残る五十名の精鋭たちも、一斉に紫崎へと敬礼を捧げた。――その眼差しには、一分の後悔も、迷いの色もない。




 紫崎は、敬礼を返すことはできなかった。

死を厭わぬ彼らの覚悟を、とてもではないが、認めることなどできなかったからだ。


 だが上補家である彼には、現状、侵攻に対して介入する権限が与えられていない。その選択を否定することさえ、今の彼には叶わないのだ。


 自分たち上補家が出撃すれば、すべてを解決できる。


 それだけの力を持ちながら、憲法に縛られ、その力を行使することを許されない。その残酷な現実が、見えない鎖となって彼を強く縛り付けていた。




 第65大隊の命を預かる国防空軍中佐、島木 慎一率いる――漆黒に統一されたアーマースーツ『ウィング01(ゼロワン)』の一団が、垂直に高度を上げ、高空域へと昇る。彼らは音を置き去りに、南の空へと飛び立っていった。


 静寂の中、晴天の空に五十の飛行機雲が流れる。


「――バカ者共が」


自身の無力感を嘆くように、硬く握られた拳から鮮血が滲み出す。


 紫崎の瞳には、底の見えない昏い怒りと悲しみ。







――――暗く、深く、溢れ出していた。





 彼らに、増援は無い。


 閣僚たちが威信を懸けた第65大隊(強化兵士)に望むのは、上補十二家の代わりを務めうる圧倒的な強さ。


 どれだけの兵士を向けられようとも、すべてを打倒する。それが、現実を知らない政治家たちにとっての前提条件であった。


 敵を撃滅し、英雄として帰還する。


 彼らには、それ以外に生き残る道など、許されてはいなかった。



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