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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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「マーティン、これについて何か知らないか?」

四角い物体を見せる。

「あー……私が盗んだ」

「はっ!?」

マーラが驚き、マーティンを見つめる。

「まあ…その…そう。盗もうとして盗んだわけじゃない。何か食べ物がないか探していたんだ。ついでに戻る方法も。それから色々あって、ここで蓋が開いた……そんな感じだな」

「まずいんじゃない?」

「返せるもんなら返したさ。でも、この体じゃ」

四角い物体をしまう。

「そうか」

「あっ! そういえばこの近くでネクロマンサーを見たぞ」

「ほお(興味)」

「ああ、ほら! あそこのドアの先だ」

マーティンの指差すドアへ向かう。

「最近猫を見たか?」

「見たぞ。ピンク色をした毛並みの良い猫だったな。この体になってから怖い物が増えたんだ。特に猫は怖くて。あん?」

振り返りマーティンを静かに見る。イエナがマーティンを優しく手で掴み前へ出す。マーラもマーティンを見る。

「な、なんだよぉ~」

怯えるマーティン。

「実はその猫は、はぐれた仲間でな」

「あ~、だったら気の毒に。ヤバそうな吸血鬼に追われていたんだ。もう生きてはいないと思うが……あっ」

「どんな奴に追われていた?」

「それがあまり。だがいかつい奴だったな。オーラとかが。おい待て! 俺は行きたくないぞ」

「元々強制していない。だが1人で闇の住人が彷徨く場所から帰れるのか?」

「うぅ……選択肢はないか。まああんたは頼りになりそうだから、心配ないか」

「調子のいいネズミ」

「無事に帰りたいのなら協力しろよ。元の体に戻す方法も一緒に探してやる」

「背に腹は代えられん。協力するよ」


ボーンゴーレムにドアを開けさせ、アンデッドメイジを先に部屋へ入らせる。

「なあ、ところで……。あのアンデッドは強いのか? お前達のリーダーみたいだが(小声)」

「私達よりは強い」

「だといいな。例の吸血鬼は普通とは違っていたから。頼むから二度と起き上がらないよう、しっかり始末してくれよ」

「言われなくても」


部屋の中央の地面に仰向けで横たわり、目を閉じているケリー。首筋には噛まれた跡が残っている。周囲にはケリーを囲うように黒い薔薇が置かれていた。

イエナがケリーの元へ向かい、地面に杖を置きながら屈む。

「うっ……」

「はっ!?」

イエナが身構える。


部屋の隅の壁にもたれかかり、辛そうな表情を浮かべ座り込んでいるルイン。

イエナの側を通り、ルインの元へ向かう。

屈み、目線を合わせる。

「随分と商売熱心だな。こんな所でも商いとは」

「ゲホッ、ゲホッ…くたばれ」

黒い血を吐くルイン。

吐いた血を指につけ眺める。

「手酷くやられたな」

「全て知っている癖に…ゲホッ、ゲホッ…全部お前のせいだ……」

「一体何の話だ?」

「殺すならさっさと殺せ……ゲホッ、ゲホッ」


ルインのポケットを探り、ルインの所持していた羊皮紙を読む。

ルインは抵抗する力さえ残っていないようだ。


──ルインの所持していた羊皮紙。

お前のロクスソルスでの行いには感謝している。正式に我々の仲間に向かい入れる事を検討してもいい。


お前があの娘に執着しているのは知っている。一先ずは手を出さないでおいてやる。

だがヴォイドを甘くみない事だ。奴ほど恐ろしい神は他にいないからな。

用心は怠るなよ。


ルーセット。

──


ルインの目を見る。

ルインは目を逸らし俯く「ゲホッ、ゲホッ……」

「あの…ケリーのポケットにこれが……」

ルインの目をじっと見つめ、その後イエナから受け取り、丸められた2つの羊皮紙を広げ読む。


──くしゃくしゃの羊皮紙。

ケリー。君に初めて会った時から僕はずっと君のことが好きだった。

僕の正体を知っても、君だけは吸血鬼の僕を心から受け入れてくれていた。

そう思っていたのに、君は友達だとしか思っていなかったなんて、がっかりだよ。

大丈夫、僕が君を眷属にして、その迷いを断ち切ってあげるから。


僕と君は出会った時からずっと一緒にいるべき運命だったんだ。

この運命からは逃れられない。ヴォイドから恩恵を受けた君だとしてもね。

だってこれは僕だけじゃない、モルスの願いでもあるんだから。

すぐ君を迎えに行くから待っていてね。

もうすぐだよ。君の血を味わうのが楽しみだ。


ルイン

──


「ゲホッ、ゲホッ……」

黒い血を吐くルイン。

再度ルインの目を見ながら読み終えた羊皮紙を後ろへ投げ捨てる。

ルインは目が合うと、バツが悪そうな表情を浮かべながら視線を逸らす。

次を読む。


──くしゃくしゃの羊皮紙2。

モルスの眷属と協定を締結できる事を光栄に思う。

今一度、共にイニティウムを味わっていこうではないか。


差し当たり、捕縛した魂の礼としてそちらの従属の吸血鬼が欲していた子供を送る。

その子供は体内に死霊魔力を溜め込んでいる。

食した後は注意する事を忘れぬようにな。


アルケイン大公爵・アガレス。

協定誓約仲裁者・調停官マルファス。印。

──


「お前が群れるタマじゃないのは分かってる。誰の指示だ? ルーセットか?」

「ふっ」鼻で笑うルイン「ルーセットだって? ゲホッ、ゲホッ……。あんな老いぼれじゃない。僕が指示を受けたのは……」ルインは宙を見つめたまま動かなくなった。そしてルインの赤い目が青黒く染まっていく「ウグッ!?」両手で首を抑えるルイン。口から大量に血を吹き出し、もがき苦しみながら床へと倒れた。そのままルインの体はドロドロと黒い液体となって溶けていき。跡形もなく消滅してしまった。

誰だ……。

姿を見せていない何者かが、口封じに殺したようだ。それも凄まじく強力な魔法だ。これは……。辺りから魔法の気配が一切消えた。

ダメだ。痕跡すら消された。誰にも糸を引いている事を知られたくないようだな。

一体誰が……。


立ち上がり、残りの羊皮紙を捨てる。


「で、この子がジャスミンの言ってたケリーね」

「知らなかったのか?」

「街に着いた時に少し聞いただけだったから。ジャスミンは随分と心配していたようだけど、当たったみたいね」

「そうだな」

「それより彼女、死んでるのに凄い死霊魔力が溢れ出てる。これって普通なの? 気を付けないとイエナが飛び付くわけよね」

「少し心配ではあるな」

「貴方もよね。でも分からない。噛まれたのよね? なんで吸血鬼に転化してないの?」

「さあな」

「起き上がったりする?」

「蘇る可能性はある」

出口へ向かう。

「え、置いてくの!?」

「もうジャスミンの願いは叶えた。ケリーは死に、ジャスミンはもういない。俺のやるべき事はもうない」

「そうだけど……」


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