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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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ジャスミンの亡骸を袋に入れ終わったマーラが側に来る。

「こっちよね」

マーラが前方を指差す。

「ああ。ここで待っていてもいいんぞ。先よりは安全だろう」

「いいえ、行きましょう」

「行く前に、なら呼吸の泡を」

「了解」

目を瞑り集中するマーラ。

「私も必要ですか?」

「いいや、俺達は大丈夫だ」

マーラが自身に呼吸の泡を放つ。

白く輝く泡の膜がマーラの体全体を覆っていく。

「上手くいった?」

「ああ」

マーラに属性調和の共鳴を放つ。

「念の為だ」

「ありがとう」


先へ向かう。

前方のボーンゴーレムが行き止まりとなっているドアの前で立ち止まり、こちらを向く。

歩きながら頷き、ボーンゴーレムがドアを開ける。

ゲートから溢れ出ていた光はドアから流れ込む闇に呑まれていく。

マーラの様子を伺う。

流入する闇に共鳴するように蝋燭の黒い炎は激しく勢い増していく。

呼吸の泡が抵抗し反応しているが、大丈夫のようだ。

「平気か?」

「ええ。でも少し圧を感じるかな。急に割れたりしないよね?」

「大丈夫だろう」

「私も少し、息苦しい感じがします」

「濃い闇が立ち込めているからな。慣れれば平気だろう」

「もし私が吸い込んだらどうなるの?」

「聞かない方がいい」

マーラが険しい表情でじっと見てくる。

「藻掻き苦しみながら死ぬだろうな」

「ありがとう」


周囲は辺り一帯、黒い土の大地。

無数の様々な大きさをしたキノコが発光し、呼吸し、闇を排出している。


「ウーーーー」

遥か上空まで達する巨大な体を持つ、二足歩行の黒い影が遠くをゆっくりと歩いている。細長い二本の両手足に頭部のない体。

シャドウ・ウォーカーか。

シャドウ・ウォーカーが大地を踏みしめるごとに大地を揺らし、キノコが小さく揺れる。

唖然と巨大なシャドウ・ウォーカーを眺めるマーラ。

「ここって、地獄?」

「いいや。地獄は暑い」

「うわー」

宙に浮かび、自転している無数の小さな黒い球体を見上げるイエナ。

少し魅了されているようだ。

「イエナ、あまりあれを見るなよ。あれは魅了魔法を放出しているからな」

「そ、そうなんですか。気をつけます」

「で、ここは一体どこなの?」

「ここはモルスの支配する領域、テネブラエだ」

なぜか、どこか懐かしみを感じる。

「ウゥ、ウゥー、ウゥゥゥ」

標準的な種族ほどの大きさをした数体のシャドウ・ウォーカーがキノコに隠れながらマーラをじっと見つめ、唸り声をあげている。

「あなた達はだ〜れ?」

「闇に呑まれると、最後は奴らのようになる。マーラ、奴らはお前の生命力に惹かれている。俺からあまり離れるなよ」

「ok。ここじゃあ、私は人気者ってわけね」

「光栄だろ?」

「ンフフ」

先へ進む。


上空の遥か彼方に広がる、青く、赤く、黄色く、白い、幻想的に映し出された世界。暗闇の中に点在するその輝きの世界に、イエナは立ち止まったまま心酔しているようだ。

そっと声を掛ける。

「イエナ、行くぞ」

「あっ、はい」

「よく分かってないんだけど、つまりここは別の世界って事?」

「いいや。分かりやすく言うなら、距離のある別の国ってところか。こういうのは初めてなのか?」

「当たり前でしょ。え……当たり前じゃないの?」

「記憶ではな」

「そう。まあでも、不思議と恐怖は感じないかな。寧ろ、ワクワクする」


色の濃いシャドウウォーカーがこちらを見つめ何か呟いている。

耳を澄ます。

「ウゥ、ウゥゥゥ(変な連中が来た)」

「ウウゥゥゥゥ(向こうもそう思ってる)」


「変な連中だって。特にあなたの事よね」

「奴らの言葉が分かるのか?」

「向こうが分かってて話してるんじゃないの?」

「ああ…そうだな」

マーラの才は意外だな。


前方に黄色く光るランタンをまとう大きな魔物が周囲を見回していた。

ずんぐりとした体から伸びる二本の足。腕はなく、体と同じ大きさの首と顔を持つ魔物。表皮は蛙のようだ。背中には多くの歪な形状をしたトランクを背負っている。

見たことない生物だな。

大きな魔物の足元で、白く長い髭を生やした老ラディフの男が立っていた。

「おおー! 良かった! こんなところでアンデッドと獣人に会えるとは。君達も観光かね?」

「でかい虫が喋った……」

「いいや。吸血鬼狩りだ」

「それは、穏やかじゃないね〜」

両前足で髭を梳く老ラディフ。

「あんたは?」

「私はブライアン・ヒューバート。ただのつまらん行商人さ」

「聞いた事のある名だな」

「え!? あのヒューバート!? 著者の!?」

「確かに書物を多く書いたな。ここでも私の名が聞けて嬉しいよ。だがもう昔の話だ」

「イメージとは…違うのね。白い毛玉の蝶の魔物だとは思わなかった……」

ヒューバートが驚いた様子で俺を見てくる。

「こいつは領域移動も知らないところから来たんだ。リッヂといるのは、色々と複雑でね」ヒューバートが顔を少し傾け口角を曲げる「それで、俺達に何か用か?」

「ふむ、良くぞ聞いてくれた。ここの住人達はどうも愛想が悪くてな。実はコラプサーの影響でピラミッドの調子が良くないんだ。それでここに足止めされていてな。この近くに安定的な領域磁場はないかと思って探していたところなんだ」

「丁度イニティウムから来た所だ。後ろに見える館にゲートがある」

「あ~! ありがとう。助かったよ。シャドウアイの寝床のようで入りたくなかったところだったんだ」

魔物の足を羽で撫でるヒューバート。

「ンーー♪」

魔物が低い声を響かせる。

「良かったら礼に取り引きでもしないか?」

「通貨は?」

「スターストーン、エーテルストーン。どちらでも良い」

「生憎、手持ちはないんだ」

離れ先へ進もうとすると。

「それは残念。まあどれか1つ礼に渡そう」ヒューバートが念動で五角形の白いトランクを目の前で浮遊させ広げる「選んでくれ」

眩く光る魔道具の数々。

「す、すご……」

「こんなの見た事ないですね」

2人とも見惚れているようだ。

「気前が良いんだな」

「まあ、あんたには借りを作っておいた方が良いと思ってな。それだけだ」

ヒューバートの真意を探ろうにも、魂には全く何も映らず見えない。

「ではこのピラミッドを貰おう」

「ほら!」

ヒューバートが念動で軽く投げ渡してくる。手の平サイズのピラミッドを受け取る。

「感謝する」

「ではまたな」

軽く手を振るイエナ。

「ンーーーー」

魔物は大きな足音を立て、ヒューバートにゆっくりと付いて行く。


「まさかヒューバートに会えるなんてね。ねえ?」

「有名な人なの?」

「知らなかったの? でも私も本を読でたまたま知ってただけだから似たようなものね」

こちらを向くイエナ。

「そんなに有名な方なんですか?」

「恐らくな」

イエナの肩に手を回すマーラ。

「アンデッドになってる時点で、あんたも十分凄いから」

「ありがと♪」


先へ進む。

キノコが生い茂る道をボーンゴーレムに整地させながら先導させる。

小さなキノコを踏むと、闇が液状となり滲み出でくる。

建物が見えてきた。

「あの館だ」

ボーンゴーレム2体に周囲を警戒するよう指示を出す。


吸血鬼ハンターの格好をした者達や、ローブを身につけた者達などが赤い血、黒い血を辺りに撒き散らしながら倒れていた。

「酷いですね」

「良かった。私達の先客がいて」

マーラが散乱した武器を踏まないよう掻き分けながら辺りの散策へ向かって行く。

「何があったんでしょうか?」

「確かめよう」

死者会話を損傷の軽微なローブを身に付けている者に放つ。

「うぅ……」

両目が緑に光り、唸り声を上げながら起き上がる。

「ここで何があった?」

「奇襲を、受けた」

低く掠れた声で話す死体。

「相手は?」

「コバ卿の、アサシン。見透かされていた。はぁぁぁ!」

死体が塵と化す。


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