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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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念動で差し出されたボロ杖。だが見た目とは裏腹に凄まじい魔力を感じる。秘められた力を持つであろう杖に、無意識に手を伸ばしてしまう。「お~う〜? 我からこれを奪おうというのかぁ〜ん?」

辺りが何度も暗転する。

「…………」

「冗談だ。これはもうお前さんのもんだ。賢く使ってくれ。いや! 悪さに使え。葉!葉! 好きに使え。どうでもいい。じゃあな、一般ピーポー」

杖を受け取り老人の答えを待つ。

「…………」

「な・ぜ・ま・だ・こ・こ・に・いるぅ~♪」

「出口を教えろ(威圧)」

「いいや、そんな物なぞ。なに!? そうだ! 出口だ! なぜそれを早く言ってくれないんだ! まったく(陽気な声) ほら作ったぞ。あっちだ。さっさと行け(冷めた声) 出られるかどうかはお前さん次第だがな。ハッハッ〜♪ …………早くいけ」


老人が作ったであろう出口。

地面に掘られた雑な穴。


…………。


中へ入る。


…………。


次第に世界は渦巻き始め……消えた。

だがいつの間にか異なる場所に立っていた。

緑が生い茂る平原。他には何もない。

だが。

「セーラー!!」

巨人となったセバスティアン・ドーマが丘から現れ叫んでいる。

「セラ?」「セラ?」「セラ?」

足元を見ると、小人となった多数のセバスティアン・ドーマがこちらを見上げていた。


「デーモンを見抜けないなど、気の毒な奴だった。ヤーヌスの元へ向かう前に真実を知り、葛藤のあまりここで魂が分裂してしまったのだ」

どこからともなく頭の中に老人の声が聞こえてくる「しかし悲しいかな。ヤーヌスは奴の存在すら知らなかった。奴は小さ過ぎた。いや〜、まったく酷い話だ。だがそんな事は珍しくもない。お前さんはどうだ? 本当に自身が存在していると思っているか? 少しでも疑ったことはあるか?」

「どうだろうな……分からない」


辺りは一瞬で日が沈んでいき、暗くなった。空には黒い雨雲が立ち込め始め、落雷が落ちた後、激しい雨が降り始めた。

視界に溢れていたセバスティアン・ドーマ達は消えており、代わりに大きな邸宅が1つ現れた。

家がこちらへと勢いよく迫ってくる。少し距離のある位置で止まり、玄関ホールのドアが開いた。

ドアの先には銀の燭台が置かれた木製の長テーブル。談笑しながら食事を取る3人が見える。

1人はセバスティアン・ドーマだ。だが声は聞こえてこない。残りは恐らく妻子だろう。

母親譲りであろう赤毛の幼い少女と、丁寧に裁縫された白いエプロンを身に着けた女性。

3人が何を話しているのか聞こうとした瞬間、邸宅はすぐさま瓦礫になり崩れていった。

「魂の崩壊が始まった。娘に二度と会えない。寂しさ。自らの過ち……ああ〜、もうすぐ消滅する。崩壊こそ、今の奴の救い」


ふと無意識に握り締める杖に目をやる。

何故か放そうとも、体があまりいうことを聞かない。まるで杖が意識を持っているかのように。

杖の反対側も持ち、両手に力を込め杖を折る。だが杖は予想以上に脆く、力を込めるよりも前に簡単に折れてしまった。


世界が暗転し、穴に入る前の場所に戻っていた。

無意識に齧っていた黄金の柔らかいパンを金の皿へ戻す。

スプリガン達は木製の人形に変わっていた。だが相変わらず演奏を続けている。

目の前のテーブルは左右、地平線まで果てしなく伸びている。先は霧で霞んでいて見えない。

テーブルを挟み、向かい合うように座っている様々な種族達。テーブル同様、途切れる事なく無数の種族達が果てしなく座っている。

種族達は虚ろな目をして一言も発する事なく、ただ淡々と黄金のパンを齧り続けていた。一口齧ると、反対側から新たなパンが現れていた。

終わりを知る事すらなく、ひたすら食べ続けている。


席を離れる。

だが後ろを向くと黄金の小さい椅子に座る小さくなった老人が座っていた。

「おおっと、久々に立ち上がる者を見たぞ~! 嬉しい事じゃないか~。考えるのは刺激的だ。そうだろう?」

老人の声は甲高く聞き取りにくい。

周囲一帯に響き渡る低い音と共に、金の煙が上がる。

煙が晴れると目の前の視界すべてを覆い尽くすほど巨大になる老人と椅子。

見上げると老人がこちらを見下ろしている。老人の両目は眩しい程に白く輝いていた。


「見事脱出したのだな。すんばらしぃ~!」

「…………」

「残念だが私がした事ではない。恨まないでくれ。これは…理だ。ずっとここで景色を眺め、酒を楽しんでいただけだ。私自身もそうであったように、なっ」

「この場から離れようとは思わないのか?」

「戻れば忌まわしい記憶が蘇ってしまう。何も知らない今が幸福だ。それに……私の知る世界は恐らくもうないだろう」

「ふむ」

「だが決して痛ましい訳でもあるまい。幸福の境地こそ真理への新たな旅路ともなっているのだから。さてさて〜、なんと! 出口はあそこだ〜。会えて良かったよ。奇異な旅人よ。引き金はセバスティアン・ドーマであったようだが、迷宮を作り出したのは己自身だ。何者かは知らんが、気を付けた方が良い。己自身が、己の破滅を招く事だってある」

老人へ何度か小さく頷き出口へ向かう。

白く輝く池に映る自身を見つめていると、目の前が白い光で覆われていく。光が失われていくと、黒いタイルの壁が見え、薪を焼く音が聞こえてきた。


側の篝火の黒い炎が燃えている。

長い通路。通路には黒い蝋燭の火が点々と灯され、少なからず辺りを照らしていた。

背を向け座り込んでいるマーラ。

そして悲しげにマーラを見つめるイエナの姿。

向かうとイエナがこちらに気付いた。

「良かったです。もうダメかと思い始めていていました」


見覚えのある防具を身につけた者達が地面に倒れている。全身黒い鎧を身につけ、刃の無いパイクと大きな盾を背負い、背中には二本の剣を携えている。だがどこか様子がおかしい。

散乱する装備と死体を眺めていると、一体のボーンゴーレムが通路の先で前方を見張っているのが見えた。後方でもボーンゴーレムが警戒していた。

「これはボーンゴーレムがやったのか?」

「いいえ。私達がゲートを抜けた時には、既にこのような状況でした。その……大丈夫ですか? 宙を見つめたまま、動かなくなってしまっていたので」

「ああ、平気だ。お前は平気か?」

「抜ける時も後も、特に何も異常はありませんでした。ただ…その……」

マーラの方を見るイエナ。

マーラの側へ行く。

腹から真っ二つに裂かれ、床に横たわるジャスミンの亡骸。ジャスミンの亡骸は下部からゆっくり塵になり始めていた。

マーラは目を閉じているジャスミンの頭をそっと優しく撫でている。

「マーラ。ここは安全じゃない」

「……そうね。どうしていつも、助けられないんだろう。……ねえ、運命だと思う? 本当にネケシタスが、思い描いた物語を歩んでいるだけだと思う?」

「運命は変えられる」

「はぁ〜、でも私にはその力がないみたい」

「ジャスミンは、ディアーナの元で元気でやっているさ」

「……あなたにとってはただの肉体の損失だろうけど、二度と会えない以上、死の意味は変わらない。それに、無事に神の元へ行った確証もないし……」

「ジャスミンは、ハッグとの戦いで呪いを受けた。死は必然だった。それに生者は遅かれ早かれ、皆必ず死を迎える」

マーラが立ち上がり睨み付けてくる。

「何で黙ってたの?」

「言ったところで、何も変わらなかったさ。苦しめるだけだろう?」

「あなたと議論する気分じゃないし。もうどうでもいい」

ジャスミンの亡骸を布で包むマーラ。


魂の残る吸血鬼ハンターの元へ向かう。

死体へ死者会話を放つ。

吸血鬼ハンターの両目が緑に光り、起き上がり「うぅ……」唸り声をあげ立ち上がる。

「猫を殺したのは誰だ?」

「うぅ……」

「ここで何をしていた?」

「命令で、ルーセットを、殺しに、きた」

枯れた声でゆっくりと言葉を発する死体。

「ルビーという吸血鬼ハンターを知っているか?」

「うぅ……」

「お前達は吸血鬼ハンターではないな」

「そう、違う……はぁぁぁ……」

魂が破裂し、死体は目の輝きを失い地面へ崩れ落ち、塵になった。


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