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──アークメイジ、セバスティアン・ドーマの書物。
──ページ21。
非常に由々しき事態となった。
まさか私の娘が、あんなに変わり果てた姿になってしまうなんて。信じられない。
よりにもよって、なぜ私の娘なのだ。
これもヤーヌスの試練なのか? それともモルスの呪いか?
何れにせよ、この事実を外部に知られる訳にはいかない。
何か手を打たねば、娘の為に。
──
──ページ22。
あれから随分と日が経ってしまったが、まだ現実を受け入れられないでいる。我ながら情けない事だ。
しかし娘は元気に生きている。それだけで私には十分過ぎる事だ。
渇きを発症した娘はまるで別人のようになってしまうが、潤してやればいつもの娘に戻る。
この安堵こそ今の私の生き甲斐だ。不満はない。
だがやはり最終的な目標は治療だ。
いつまでも今のような状況が続くわけじゃないのは分かっている。血の調達が困難を極めつつある中、早く治療法を見つけなければならない。
──
──ページ23。
羊や鶏の血を代替えに考えたが、上手くはいかなかった。なぜ吸血鬼は種族の血に拘るのだろうか。
娘の話しを聞くに味のような物だと。単純な答えだった。少し残念だ。
詳しく調べていくと、ポーションのように、何か体を一種のトランス状態にするものと思われる事が分かった。
残念だが私は吸血鬼にも、錬金術にも詳しくない。
メル帝国のアークメイジである錬金術師の友人に手を借りたいところだが、知られる訳にはいかない。1人で頑張るしかない。
最近、避難民や浮浪者の血では娘の体が穢されているような気がしてならなくなって仕方がない。穢らわしい連中だ。
一時期与えていた魔術師見習いを娘に与えるのを増やすのもいいかもしれない。
──
──ページ24。
血を飲む時の娘の顔が愛おしい。とても幸せそうだ。
血を啜る娘の笑顔は私を幸せにしてくれる。いつまでもこの娘の喜ぶ顔を見ていたい。そういつまでも。いつまでもだ。
探し出した治療法は神の血を飲ませるだの、吸血鬼の血を飲ませるだの、終いには心臓を呪術で覆うだの。実にくだらないものばかりだ。今はもう治療法などどうでもいい。
私は娘が吸血鬼でも構わない。失敗し、娘を失うのが怖い。
微笑む娘が私の側にいてくれるのならそれだけで十分だ。今さら娘を危険に晒したくはない。
どれだけ苦難が伴おうとも、娘の食事ならいくらでも調達してやる。奴らは家畜と同じ。私の娘の生け贄になるのが運命であり、使命に違いない。
ヤーヌスもきっと許して下さるはずだ。きっと。
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──ページ25。
今日は非常に気分が良い。強大な力を持ったデーモンの使者が私の元へ訪ねてきてくれた。
今までこんな事はなかった。ついに私の信仰が報われる日が来たのだろう。
使者がヤーヌスの使いなのは明白だ。きっとヤーヌスがこの苦難に対し取り計らってくれていると信じていた。それが叶ったのだ。
主天使は私に吸血鬼の住まう領域について教えてくれた。領域、ついにイニティウムの外界へと行けるのだ。
見返りは私の魂や魔術師の魂。それに私の知る情報や知識だ。
安いものだ。娘の為に尽くせるのだから不満など一切ない。
それに私の魂はヤーヌスに守られている。万一の際でも救って下さるに違いない。
全てはヤーヌスの導きの元であり、定められた運命に違いない。
慈悲深きヤーヌスは吸血鬼として謳歌する娘をも救って下さるはずだ。
──
次ページに部屋の見取り図、領域扉の位置が記されていた。
書物を捨て、記された場所へ向かおうとした時、イエナが卓上奥の壁、壁掛け時計の左右に飾られていた杖を両手で嬉しそうに抱き抱え、こちらへ駆け寄ってきた。
後方でアイスイエナとデススポアが音を立て消滅する。
「見て下さい! 立派な杖が2本もありました」
興奮止まぬ様子のイエナ。
黒鉄色と材質に、脈打つように周期的に青黒く杖全体が発光している。精巧な黒鉄の一本を手に取り左右に動かし軽く回し眺める。
「エンチャントを見据えたのか?」
「いえ…あまり。ただエンチャントの強さだけは感じ取れました」興奮のあまり常に嬉しそうに話すイエナ「それから杖を取った際に、向こうの本棚からブラックハンドの拠点の際に聞いたのと同様の音が聞こえました」
「ふむ」
音のした本棚へ向かう。
「あの…杖のエンチャントについて教えて頂けませんか?」
イエナから杖を受け取り、凝視する。
「……恐らく魔力吸収の類だろう」
「こちらもお願いします」
イエナが次の杖を差し出す。
黒鉄の杖をイエナに渡し、次を受け取り眺める。
全体は精巧な金で作られ、強力な魔法石が多く練り込まれている。
先端には大きい球体の白い魔法石が白く輝きながら備え付けられている。白い魔法石は球儀のように4つの柱に覆われ、ゆっくりと自転していた。
「俺はエスティナのように詳しくはないが、これは素晴らしい。恐らくフェイの魔法石だ。魔法を防ぐ障壁を張る杖。と言ったところだろう」
「凄い。あの…その…」
俯き落ち着かない様子のイエナ。
「新しい杖が欲しいのか?」
「はい!」顔を上げ元気よく声を上げるイエナ。だがすぐさま表情を曇らせる「いえ……その…許しを頂ければですけど……」
「構わんさ。だが問題がある。通常扱える範囲は、三本が限界だと思うが」
背中から杖を取り出し、別の杖をしまうイエナ。
「あぁ……」
「他に持たせるという手もあるが、今のお前には上手くは捌けんだろうな」
「はあ~」納得した様子で頷くイエナ「3本以上はどうやって扱うんですか?」
「念動で自身と杖を浮遊させ戦う方法がある」
「想像しただけで、興味深いですね」
「これは常に魔力を消費し、攻撃の回避も困難になる。かなりの腕がないと無理だ。だが好きな方を1本持っておけ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
奥へ少し下がっている本棚を念動で押すと、壁奥に小部屋が設けられていた。
解体途中の死体や瓶詰めの腸、肋骨や足骨などが綺麗に整頓され置かれていた。
金の装飾が施された青いローブの者が、原型を留め壁にもたれかかり死んでいた。
手には羊皮紙の切れ端が握られていた。
──血痕で掠れた字で書かれた羊皮紙の切れ端。
アークメイジに吸血鬼調査の助力を求めたが、こいつが元凶だった。
近くに悍ましいデーモンの気配を感じる。
パクスよ。どうか、どうか私の魂をデーモンから御守り下さい。
──
切れ端を捨て、小部屋を出る。
「こちらの杖します!」
「分かった」
何者かがドアを蹴破り入ってくる。
「はぁー! 参った、参った。うわ、こっちもグロ」
ドーマの死体を眺めているマーラ。
「マーラ、遅かったじゃない。どうしたのその格好!?」
マーラは全身が茶色い液体で濡れていた。
「横着して別の転移盤踏んだら、厄介なところに飛ばされちゃって」両手を胸の前に出し、人差し指と中指を立て二度曲げるマーラ「スプリガンに襲われたの」
「でも無事みたいで良かった」
「そっちもね」
「でも怪我してるよ」
マーラの防具が裂け、腕に切り傷を負っているようだ。
「そんなに痛くないから平気」
「スプリガンの毒は厄介だぞ」
「マジ?」
「ああ」
「嘘でしょ。ったく、ついてない」
「それからイエナ。見た目がマーラでも、本物とは限らないんだぞ」
「すみません。今度から気を付けます」
イエナがマーラの汚れを布で拭いていく。
「うぅ……」
「あ〜ん……で、これ誰?」
親指でドーマを指差すマーラ。
「セバスティアン・ドーマだ」
「嘘でしょ!? あのセバスティアン・ドーマ!?」
興奮し目を見開くマーラ。
「マーラ、知りってるの!?」
拭く手を止めるイエナ。
「知るわけないじゃん。あれ? ジャスミンは?」
辺りを見渡す。
「お前と一緒じゃないのか?」
「私は先に行ったから…痛っ!! ちょっとイエナ!!」
「ごめん」
「でもありがとう」
「ンフフ♪」




