93
迫り来る雷の精霊へ杖から触手を放ち壁へ投げ飛ばす。壁に打ち付けられた雷の精霊へ触手で追い打ちを掛け、雷の精霊の体を侵食させていく。死の侵食を受けた雷の精霊は融解し消滅。同時に指輪から蛆を排出し、蛆の周囲に不可視化付与を放つ。そして盲目の老女が持っていた杖を地面へ捨てる。
多重に魔術師の男へ骨の揺り籠を放ち封じ込める。
メトゥスも同様に別の雷の精霊を触手で貫き、侵食させては消滅させていく。僅かばかりか、メトゥスの体に雷の精霊の電撃が帯電していた。メトゥスが自身の触手を地面に打ち付け帯電へ抗っている。
杖の触手で雷の精霊を打ち付ける傍ら、アイスイエナが小型のアイスシャードを複数放ち、雷の精霊へ浴びせていく。
突き刺さるアイスシャードに動じる様子のない雷の精霊は、アイスイエナへチェーンライトニングを放ち、アイスイエナが被弾する。チェーンライトニングはそのまま周囲にいたデススポア、イエナへと電撃が連鎖していく。
雷の精霊の放つチェーンライトニングはイエナの放った守護の布陣を貫通し、デススポアは飛来した電撃を蔓と葉で盾を形成し防ぎダメージを軽減させる。
形成した蔓と葉に紫に光る電撃が帯電しているデススポア。デススポアは大きく口を開き毒液を吐き出す。毒液を雷の精霊へ浴びせていき、イエナが透かさず杖から自然の報復を放つ。雷の精霊の体は棘の蔓で絡まっていくが、雷の精霊は放電を放ち、毒液と蔓を電撃で焼け焦がし消滅させてしまう。
強力な放電を放ち、骨の揺り籠すべてを粉々に吹き飛ばす魔術師の男。
蛇の精霊を召喚し終えた男は不可視化、精霊のベールを放ち、鎧の弾ける音と共に鋼のベールも瞬時に放つ。
魔術師の男へ中型の死の火球を連射し浴びせる。だが魔術師の男は被弾寸前の所で転移で回避。
避けられた死の火球のコントロールを捨て、火球が壁に衝突していく。魔術師の男は再び転移先で素早く雷の精霊を複数呼び出していく「墓から出てきた事を後悔させてやる!」魔術師の男が次の魔法を放つ前に被弾覚悟で翼で一気に距離を詰め接近する「はっ!?」こちらから見えていないと思い込んでいた魔術師の男が驚く表情を浮かべ、再度別の場所へ転移する。丁度こちらとの位置が立ち替わった瞬間に忍ばせていた蛆を杖で操り、魔術師の男へ一斉に攻撃させる。大量の蛆が男へと這い迫っていく「くそっ! 一体どこから湧いて来た!?」叫ぶ魔術師の男が這い迫る大量の蛆へ向かってチェーンライトニングを複数放っていく。離れた位置に召喚された雷の精霊がこちらへ突進し向かってくる。
左右から迫ってくる雷の精霊を念動で壁際へ弾き飛ばし、中型の死の火球を複数それぞれへ放つ。一体は避ける間も無く複数被弾し地面へ崩れ落ちると消滅した。もう一体は一発避けたがその他の火球が被弾、避けられた火球をuターンで戻し、雷の精霊の背へ衝突させ雷の精霊が消滅した。
最初の雷の精霊を消滅させたイエナが右側の雷の精霊へと小規模の死の火球を放ち始め、左側の雷の精霊の対処をするメトゥス。
「プルトーに呪われろ!」大量の蛆を焦がし相手する魔術師の男がこちらに向かって招雷を放ってくる。こちらの頭上から複数の雷撃が落ちてくる。
追尾してくる招雷を飛行し避け、魔術師の男が招雷のコントロールと蛆の対処に気が逸れている隙に念動を放ち地面に転がしていた杖をこちらに勢いよく呼び戻す。
「ヴァ゙ッ!!」
魔術師の男の血飛沫が吹き上がる。
「グッ!!」
高速で飛行先を的確に追ってくる招雷の雷撃が肩と腕を掠め被弾してしまった。瀕死の魔術師の男が放ったブリッツボルトを避ける。そのすぐ後に頭上の雷雲が消滅した。
杖が魔術師の男の鋼のベールを粉砕し穴を開け、男の背中から腹を突き破っていた。壁に突き刺さった血肉の付着した杖を念動で手に戻す。
魔術師の男は立ち竦んだまま口から大量の血を流し、自身の体に空いた穴を見つめた後、静かに顔を上げ俺の目を見てくる。魔術師の男はそのまま白目を剥き、そのまま力を失い、勢いよく地面に倒れた。
倒れた魔術師の男の死体から赤い血溜まりが地面にゆっくりと広がっていく。
蒸発音と共に雷の精霊、蛇の精霊が消滅した。
静まり返ったフロア。
イエナが転移で側へ来る。
「勝てましたね」
「そうだな」
「お見事でした」
満面の笑みを見せるイエナ。
「今の世界は、アンデッドに疎い。そのアドバンテージが勝利に繋がっただけだ」
「……これからは厳しい戦いが?」
「そう心配するな。勝利が困難になるのも時間の問題だが、当面は心配いらんさ」静かに頷くイエナ「今あるこのアドバンテージは非常に強力だ。お前は焦らず経験を積んでいけばいい」
「はい♪」
「それはそうと、お前の戦いは見事だった。短い間に腕を上げたな」
「ンフフ♪ ありがとうございます。手本が良いので」
死んだ男の元へ向かう。
「イエナ、風術には詳しいか?」
「いいえ、まったく」
「ふむ。風術は最も体得の難しい魔法系統だ。規模や種類に関わらず、風術を扱う者には経験豊富な者が多い。今後も注意が必要だ」
「はい」
「先の攻撃の1つにブリッツボルトが含まれていた。あれはアンデッドの体には無害だが、生者の体には時に致命的にも為り得る」
「召喚した者も」
「そうだ」
「ブリッツボルトは、実際にどんな効果があるんですか?」
「耐性が無ければ体が麻痺してしまう」
「それは…確かに強力な魔法ですね。何か対策はあるんですか?」
「沢山あるさ。普通の電撃に比べ、速度が遅く対処しやすい。だが風術は障壁を貫通する特性がある。そこが厄介で、考慮しなきゃならない点だ。覚えておいて損はない」
「なるほど」
魔術師の男の死体を探り、死体から青く輝く指輪と首輪を手に入れる。内側のポケット内に小さな書物と複数の羊皮紙が入っていた。
死体を探り終え、ヴォイドの誘いを死体へ放つ。
「うぅ……」
魔術師の男が起き上がり唸り声を上げる。
「生前と同じなんですか?」
「いいや。多くは失われるだろう。信仰心強ければそれだけが魂が…まあ、弱くなるという事だ」
起き上がった魔術師の男を見つめるイエナ。
「彼には意識があるんですか?」
「さあな」
「だったら私は……どうしてなんでしょうか? どうしてアンデッドになってもまだ意識があるんでしょうか?」
「さっきも言いかけた事だが、これは非常に複雑な問題なんだ。簡素に言えば、魂が信仰する神の元へ送られる。イエナ、お前は生前、信仰心が乏しかったのだろう?」
「あぁ……」バリン!!「ァ゙ァ゙!!」
窓を突き破り、アンデッドレイブンが一体入ってくる。
緑の血を流しながらバタつき、地面を転げ回るアンデッドレイブン。
小型の死の火球をアンデッドレイブンに放つ。
アンデッドレイブンが起き上がり、死体の側の地面に降り立つ。首を動かし周囲を見回している。
「だからどの神の領域にも召されなかった。それに蜘蛛はデーモンのように魂を弄んだり、貪ったりはしない。この男の魂は今頃ヤーヌスの元へ行き、死後を謳歌している事だろう。イエナ、話は終わりだ。好きにしていろ」
「分かりました」
イエナが卓上の方へ向かっていく。
羊皮紙を読むが、どれも申告書や請求書など証憑書類の類いだった。
署名欄に目を通す。セバスティアン・ドーマと書かれている。
羊皮紙を地面に捨て、一冊の小さな書物を開く。個人日誌のようだ。無駄なページを飛ばし吸血鬼に関するページを探す。




