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「肉体が弱っているな」
「あんたには隠しても無駄そうだな」片手を胸に当てる男「俺は長くない。死に場所を求めてる。敵や味方、信念や正義などどうでもいい。俺が求めてるのは戦いだけだ。それとデーモンの玩具になりたくないって事だ。魂には自信があるんだ。死んだ後は俺の魂を好きに使ってくれ」
「だが永遠に戦っていたいのだろう?」
「できればな」
「ふむ。どうやって俺の事を知った?」
「ある種の、神託だよ。昔手に入れた魔道具で、予知みたいな力を使ったんだ。鮮明に見えたんだ」
「アンデッドはお前が思っているより気楽じゃないぞ」
「尚更唆られるね〜」
「いいだろう。迷える者は歓迎しよう」
「感謝する」両手を胸の前で握り締める男「俺の名はスターノだ。まあ好きに呼んでくれ。こう見えてハイエルフの血が流れてんだ」
スターノに軽く頷く。
「ここで待ってろ。必要があれば呼ぶ」
檻から離れる。
「あいつ不気味だろ?」
「俺に言うのか」
「ハッハッ、リッヂってもっと学者気取りだと思ってた」
「残りの奴隷も全て徴兵する。準備させておけ」
「分かった。モークに伝えとくぜ。なあ、本当に今後の事は心配ないんだよな?」
「デーモンの事か? それともこの仕事の事か?」
「まあ……両方だな」
「なら心配ない」
「頼むぜ。デーモンに捕まる事だけは御免だ」
「お前は死霊魔法を使えるか?」
「ネクロマンサーじゃないんだから、使えるわけねーだろ」
「ふむ。俺は次に行く。後は頼んだぞ」
「ああ、じゃあな」
上階へ戻る途中、カラスを呼ぶ。
「来い」
「カー!」
カラスの頭部が緑に光る。
「ニオス。この地点にアンデッドハッグを全て送ってくれ」
「畏まりました」
「もうロレンツォとは会ったか?」
「はい。先程」
「それで?」
「師の決断に間違いはないでしょう」
「俺は意見を聞いたんだ」
「死霊術への知識が乏しいですが、例の分野での才は現時点で師の見立て通り有用かと」
「ではハッグと共に軍備の資金を送るよう伝えろ」
「直ちに。師よ、吸血鬼の問題が片付き次第、早急にお話ししたい事が御座います」
「分かった」
「それでは、メメントモリ」
「メメントモリ」
カラスを残し地上へ戻る。
ジャスミンが向かってくる。
「早くケリーを見つけてあげたい」
「そうだな。吸血鬼と戦った事はあるか?」
「ない」
即答だがどこか悲しげなジャスミン。
「マーラ」
「ん?」
「もう一度言うが、これはかなり危険だ。引き返すなら今しかないぞ」
「貴方は行くんでしょ?」
「聞く必要があるか? アンデッドと生者では危険の度合いが違う」
「危険なのは十分分かってる。でもしない後悔よりする後悔でしょ?」
「好きにするといい」
「ありがとー」
わざとらしく頭を下げるマーラ。
目的地へ向かう。
── Ⅸ章『闇の表面』──
第6章第7節。自ら蒔いた種は自ら刈れ。『聖ロザ騎士の掟』より。著:ジャノマリス:初代 聖ロザ教祖。
「お前達は吸血鬼についてどこまで知っている?」
「「「…………」」」
「よくついて来ようと思ったな」
「今教えて。私はケリーの為に引けないけど、2人は帰った方がいいんじゃない?」
「私は一度死んだ身なので、心配はありません」
マーラを見るジャスミン。
「私の冒険心は止められない」
「相変わらずね。プリスカは死んだわ」
「好きな事で死ねるって、良い死に様よね♪」
「プリスカって誰ですか?」
「知らないの!?」
「シャムナの塔やレッドロックの尖塔でパルクールを披露してた女性よ。小さい頃、マーラの憧れだったの」
「最高よね♡」
「でも常にスリルを求めてて、魔法も命綱も無くやってた。必然よね」
「いいじゃない。最後まで好きな事できたんだから」
「でもできなくなる辛さの方が勝るんじゃない?」
「ジャスミン、私は行くわよ」
「止めるつもりはないわよ。あぁん、それで?」
「吸血鬼には死霊魔法が殆んど効かないんだ」
「では、どうするんですか?」
イエナが心配そうに割り込んでくる。
「戦い様はいくらでもあるさ。お前の場合毒とかな」
「ねえ、一応銀のダガーを持ってきたんだけど、役に立つ?」
「そこら辺の吸血鬼になら効くかもな」
「もちろん冗談よね?」
「ああ」
「こんなん持ってたら笑われそう」
「というより、雑魚と思われて真っ先に狙われるかもな」
「まあ一応、御守り代わりに持っとく」
街の北側、城塞近くに聳え立つ白い塔。リング状の青い装飾が輝き、塔を魔力が循環しているのが感じ取れる。
「着いたぞ」
「魔術師の塔が吸血鬼の住処? シンジラレナイ」
「吸血鬼は必ず、住処の領域から獲物を襲撃しに来るんだ」
「領域?」
「黙ってついて来い」
塔の入口へ向かう。
銅色に輝く金属で作られたドワーフ型のオートマトン2体が正面入口の両サイドに待機していた。
入口を通り抜けるまで遮蔽魔法の影響で先は何も見えなかったが、中へ入ると広大な吹き抜けの空間になっていた。周囲の外壁に沿うよう大量の魔導書が棚に並べられ、それらは塔の上方まで続いていた。
蝶のように白い羽を生やした魔導書が多数飛び交っている。
様々な種族の魔術師達が大勢目に入る。紫のローブを着た男は炎の精霊を呼び出し、側にいる女はその男を軽く称賛していた。
灰色のローブを身につけ、小さな赤い蛇の精霊を肩に乗せ、歩きながら本を読み耽る者とすれ違う。
ドワーフが魔法を受け入れ、ここまで発展していたとは。改めて時の流れを感じるな。
中央の受付へ向かう途中、獣人と人間の立ち話が聞こえてくる。
「さっき広場でフィーンドが出て、大暴れしたみたいだってよ」
「フィーンドが? 街中で? どうかしてるぜ☆ 態々リベルタリアからこの街に来たってのに、ここも安全じゃないだなんてな」
「ああ、どこ行っても同じようなもんだな」
「それで、そのフィーンドはどうなったんだ?」
「街中から衛兵が集まってきて、ズタズタにしたってよ」
「だから笛の音が凄かったのか。まったく、リベルタリアが攻めて来たかと思った」
「寿命が縮むよな。どっちにしろここにはあまり長居しない方が良さそうだ。用を済ませたさっさとルパに向かおう」
「同感だ。じゃあとっとと移動しよう」
塔の中央を中心に円形状に設けられた受付は縦に張られた銅の魔法の柵で造られ、塔の上部まで均一に隔てられていた。
空いている受付の1つに行くと、目の前に半透明の青いドワーフ型精霊が出現した。
「ようこそニザームの塔。ロクスソルスへ。何をお求めでしょうか?」
「ドワーフはいつから魔法に寛容になったんだ?」
「あ~あ! 我々の魔術遍歴についてですね。喜んでお答え致しましょう。我々ニザームの塔魔術師連盟は、根気よくニザーム政府へと魔法の必要性を訴え続けてきた結果の、まさに結晶であり歴史その物のAKASHIなのです。当然困難も数多くありましたが、今は見ての通り、ドワーフ種族に留まらず、多くの種族や国々と魔法について知識や経験を深める場を提供しています」
「感謝する」
「いえいえ、こちらこそ。我々の功績に興味を持って頂けるのは大変光栄ですので」
「それで何がある?」
「魔術に関する物なら何でも取り扱っています」
「マジックスクロールを見せてくれ」
「申し訳御座いません。スクロールに関しては、20年程前に取り扱いを終了しています。ですが、保全の観点から、歴史資料館で観覧する事は可能です。しかしながら、当ロクスソルスには歴史資料館は御座いません。研究目的でしたら、アークメイジの了承書をお持ちになって頂ければ当ニザーム塔より一部貸し出す事は可能です。他に何か御座いますでしょうか?」
「巻物の代わりはなんだ?」
「杖となります。我々ドワーフの類い稀な鍛造技術と、ニザームの塔魔術連盟の魔法技術で巧みに製作された精巧な魔道具は、杖に限らず多くの種族達に支持される非常に素晴らしい品物の数々となっています」
「品は何でも良い。1つ見せてくれ」
「こちらになります」
小型の転移魔法で目の前のテーブルへと杖が出現する。杖には塔の上部まで伸びる半透明の青い鎖が付いている。杖を手に取る。
全体が金ででき、上部に小さな青い魔法石が散りばめられている。
持ち手の部分まで魔法石が精巧に練り込まれているのが分かる。だが細部に粗が目立つ。
「一級品とは程遠い感じだが、この程度なのか」
「希望に添えず申し訳御座いません。現在ニザーム政府により戦時体制が敷かれていますので、軍事供給優先政策により標準以上の質を持つ攻撃兵器の在庫の確保が難しい状況です。購入希望の場合は予めご予約頂き、入荷までお待ち頂く必要が御座います。さて、他にご要件は御座いますでしょうか?」
杖をテーブルに戻すと杖が消えた。
「エンチャントの弓矢はあるか?」
「はい。ですが現在の主要はクロスボウとなっております。主に狩人向けの獲物の皮、骨、肉を痛めないエンチャントを多く取り揃えております」
「対種用ではないと?」
「杖の在庫不足でのご要望は分かりますが、こちらも先程同様の理由でご用意できません。政府の意向により狩猟用の武器でしたら多数在庫が御座います。ご覧になりますか?」
「いや、もういい」
立ち去る。
「またのお越しをお待ちしております」




