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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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「あんたのせいだ!」

数人の老若男女の様々な種族の戦士や魔術師などが立ち塞がり、先頭に立つ男が叫んでくる。

「俺に何か用なのか?」

「あんたが余計な事をしたから、悪魔が憤怒する」

「ここでは名のしれた傭兵団よ」

ジャスミンが耳打ちしてくる。

「ほお」

「この代償は高くつく事になる。勿論、代償を払うのは罪のない住人達だ」

「それは残念だ。だが状況はすぐに良くなるだろう。俺が変えてみせる」

「それはどうかな。はっきり言って、あんたは必要ない。悪魔もな。この街は元々あんたらの物じゃない」

「それはどうかな。少なくとも、お前よりは長生きしている」

少し離れた場所で巡回していたドワーフ衛兵2人が立ち止まり、こちらの様子を伺っている。

「私達は忙しいのよ。早く消えて」マーラが短剣の鞘に手を置く。

「かー、ぺっ!」男は俺の足元に唾を吐き、睨み付けた後立ち去っていった。

「嫌な連中」

「行くぞ」

「どうして人間って唾を吐くわけ? 故郷では一度も見た事ない」

「私達がいつも顔を洗うのに近いんじゃない」

「そうかな〜」


ロブスター亭の近くを通り過ぎる傍ら、側の路地で人間とドワーフが大声で話す声が聞こえてくる。

「ちょっとやめてよね! ちゃんとトイレでしてよ」

「いいじゃないか。誰も見てないんだ」

「見てるわよ。まったくこんな所で。はぁ〜、どうしてこんな男と一緒になったのかしら。まだ日も暮れてないうちから酔っ払って、あ〜だらしない」

「そんな俺に惚れたんだろ」

「よしてよね。衛兵だったからよ。もっと真面目だと思ってたのに」

「ハッハッハッ、勇ましい戦士だろぉ~♪ いつも褒めてくれてたな」


「こちらをどうぞ」ロブスター亭の外でビラを配っている給仕の女から羊皮紙を受け取る「どうも。こちらをどうぞ。こちらをどうぞ」他の種族達にもビラ配っている。


酒場の入り口で酔っぱらい、立ち話をしているドワーフ達の話し声が聞こえてくる。

「さっきの光を見たか?」

「ああ、何かの神だろ」

「噂じゃあクニナだってよ。住人達は大騒ぎらしい」

「はん、馬鹿らしい。今さら神なんて珍しくもないのに」

「ここじゃあ、随分ご無沙汰だったらしい」

「そうか~。どっちにしろ神にすがるなんて哀れな連中だ。向こうは気にもしていないだろうに」

「ハハ、そうだよな」

「ところでクニナって、何の神なんだ?」

「さあ知らねー。ヴ×××とか?」

「「ハッハッハッ」」


──コークス亭のビラ。

邸宅は買えないけど貴族のように飲む事はできる!それがロクスソルス、イチ! 酒の旨い店! コークス亭!!


下部にジョッキに注がれる酒の絵が描かれている。

──

ビラを捨てる。

「マーラ、酒は飲むのか?」

「少しはね。でも好き好んでは飲まないかな。あなたは?」

「同じく、酒には疎い」

「いが~い」

談笑しながら暫く歩き、目的地へと着く。

「ここ?」

「ああ。だがここには別の用で来た」

「いつになったら吸血鬼の所に行くわけ?」

「そう焦るな。お前達はここで待っていろ」

「オーケー」


地下へ向かいモークの部屋に入る。

「おっと~。これはこれは、我らが救世主さ様のお出ましだ〜」

モークが笑顔で俺の側まで来る。

「随分とご機嫌だな」

「ハッハッハー。分かってるだろ。ここを見てくれ~」両手を広げ、大袈裟に振る舞い始めるモーク「化けていたアガレスの兵が全部消えた。いや〜、久し振りの自由を満喫できる。あんたのお陰だ」

「それは良かった」

テーブルへ向かい、モークも隣を歩く。

「分かってる。まだ予断は許されない。だが今は喜ばずにはいられないんだ」

テーブルへ着くと、モークは足で椅子を退け、両手をテーブルに着く。

「妻は無事なのか?」

「妻?」

「同じ指輪をしていたからな。違うのかか?」

動揺しているモーク。

「あんたには嘘をつきたくないんだが…つまり…あれだ」

「ハッキリ言え」

「かなり……複雑なんだ」

「いいから話せ」

「……分かった。あー……彼女の名はエスペランサ。そしてデーモンでもある」

「ほお」

「彼女は……」視線を左右にやり、目を瞑ったあと軽く深呼吸をし、視線を合わせてくるモーク「良いデーモンだ」モークに小さく頷く「あんたがここに来た理由は知ってる。今後の事についてだろ」

「そうだ。だがエスペランサの事は心配していない」

「それは良かった。だがエスペランサは…その…この仕事の事をあまり快く思っていないんだ。だから互いに一緒になるのなら、この仕事から足を洗って欲しいと頼まれてたんだ」

「奴隷の事か?」

「ああ。あんたは俺のコネやルートを、その…欲しいんだろ?」

「そうだ。だが然程長くはない。見返りが必要なのは分かっているだろう」

「ああ、あいつにはもう少しだけ待ってもらうさ。何をすればいいか詳しく聞かせてくれ」

「お前には今までと同じ商品を扱ってもらう。だが俺が欲しているのは生者ではなく死者だ。言葉通りの死体。状態は問わん」

「本当にただの死体か? くどい意味じゃないよな?」

「ああ。最悪骨だけでも構わん。だが、分かるだろ?」

「ああ」

「今までより稼げるぞ。それに後ろめたさはなくなるだろう」

「確かに、そうだな。悪くはない話だ」

小刻みに頷くモーク。

「まあ、周囲からは変人だと思われるだろうがな」

「ハッハッ。ああ、そうだな。分かった。早速準備を始める」

「いいか。まず、お前は奴隷の代わりにアンデッドを売り込め」

「なに!?」

「最初は値段は問わん。とにかく評判を広めろ。アンデッドは食事も休息も、魔力も忠誠も必要ない。文句を言わず、ただ言われた事を淡々とこなす存在だ。その価値を相手に理解させろ。出来る限り多くな」

「金と死体だと、どっちが重い?」

「まずは死体だ。後は任せる。だが俺を失望させるなよ。経費に関しては俺が全て持つ。後のことはこのカラスと相談しろ」

「分かった。あんたが何をしようとしているかは分からんが、凄まじい事になりそうだな」

「楽しくなるぞ。一先ずこいつを置いていく。必要なら後から更にアンデッド兵を送ってやる」

「感謝する。行く前に見せておきたい事があるんだ」モークが手から小型の死の火球を壁に向け放つ「凄いだろ」

「いつ使えるようになったんだ?」

「デーモンの兵がここから引き上げてからさ。こんなに早くヴォイドの恩恵を得られるなんて驚いたんだ。正直半信半疑だったからな」

「もういいか」

「待ってくれ。最後に1つ。俺はヴォイドに対して信仰心はないんだ。誤解しないで欲しいんだが、ヴォイドだけじゃなく、信仰そのものがって意味だ」

「分かってる」

「だったら…これはなぜだ? あんたなら知っているはずだろ? 教えてくれ」

「さあな。自分で考えろ。奴隷に用がある」

「好きにしてくれ」1人の男が入ってくる「丁度良い、案内を頼む」


男と共に部屋を出て地下へ向かう。

「何度も会ってんのに、ようやくあんたの顔が見れたぜ。にしても大したことねーな。ただの喋るスケルトンだ」

「忙しいようだな」

「あんたがここに来てから大忙しさ。まあ俺は金さえ手に入れば、どうでもいいが」

「デーモンが金を寄越してもか?」

「きついなー。連中がそんなんで満足するはずがねー。奴らの口車に乗ったら最後、魂は終わる」

「随分詳しいな」

「元アルモガバルスだからな」

「傭兵か?」

「まあ、そんなとこだ」

「なぜ抜けた?」

「デーモンを舐めてた。それで大勢仲間を失った。それだけさ。でも行く先々で地面が燃え上がる。参るぜ」

地下へ着く。

「あまり奴隷は減っていないようだな」

「そうか? あんまり見てねーから分かんねーが。檻のドアを開けても、居座る連中ばかりさ」

「訳ありか?」

「話せば長い」

「本当にリッヂか。噂は本当だったんだな」

屈強な肉体をした人間の男が檻の前に立っていた。

「お前は?」

「ただの傭兵さ。ここでアンデッドが暴れてるって聞いてな」

「そいつには気いつけた方がいい」

「ふむ。随分と腕に自信があるようだな」

「おう。散々しけた依頼を断って、態々ここであんたが来るのを待ってたんだ。甲斐があったみたいだ」

「ほお」

「あんたの元なら楽しめそうだ」

「何ができる?」

「魔術師を殺すのは得意だぜ。高慢ちきで優雅に後方に居座ってる奴を大勢葬ってきたからな。王の側に突っ立っていた宮廷魔術師も大勢だ。誤解すんなよ。脅しじゃねー。事実さ」


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