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支度を始めるマーラと別れ、猟犬部隊を呼び寄せる。
こちらへ駆けてくるアンデッドウルフ、アンデッドドッグ達。
体格の大きなアンデッドウルフがこちらの目の前まで来ると行儀良く座り、緑に輝く目でこちらを見つめ息を吐きながら舌を出す。
アンデッドウルフの頭を撫でると嬉しそうに尻尾を振り始めた。
指示を出し、拠点内の警備に着かせる。
「アオーーン!」
アンデッドウルフが遠吠えを放ち、他のアンデッドウルフ、アンデッドドッグ達が拠点内に散っていく。
後方で待機していたメトゥス、デュラハンと共に出口へ向かう。
ドアを抜け洞窟に出ると、アンデッドハッグ、ボーンゴーレム達が到着していた。
指示を出し、ボーンゴーレム2体をこのエリアの警備に着かせ、アンデッドハッグ六体を自由にさせる。
エスティナの張った幻惑を抜け外へ出る。
目の前に広がる数百の緑に光る多数の目。背を向け立っていたニオスがこちらへ振り返り、目の前まで転移してくる。
「師よ。囚われていた者達の解放は無事済みました。予測していた妨害は一切発生しませんでした。御安心を」
「それは上々」
片手を広げつつ頭を下げ、道を開けるニオス「こちらのカラス達は今後、師の目となるべく集わせました。許しを頂けるのなら、この役目を是非お受けしたい」片手を胸に当て再び頭を下げるニオス。
「ふむ」
顔を上げるニオス。
「現在街の支配者が相応しくないのは明白。代わりが務まるのは師のみです」
「確かに最終目標は近い。だが諜報分野はかなり重要なポストだ」
「勿論で御座います。私より優秀な者が他にいるのなら、異論はございません」
「お前に限らず、この地位の者には誓約を交わす。それでも受けるか?」
「地下の一件は失礼致しました。ハッグロードの干渉が予想以上でしたので。それに……師の提案は快くお受け致します。迷いは一切御座いません。必ず期待に応えてみせます。どうか今一度、このニオスめに機会を御与え下さい。期待に応えられず師に塵になれと命じられるのであれば、それにも従う覚悟です」
「いいだろう」
跪くニオスに手をかざす。
ニオスは静かに死の誓約を待っている。
…………。
…………。
「立てニオス」
立ち上がるニオス。
「期待に応えられず残念です。最後に処遇を求めます」
「誓約は不要だ」
「御言葉ですが師よ。記憶が戻らぬままのこの行い、非常にリスクが高いかと」
「馬鹿を言うなニオス。素直に受け入れてくれ。微かな記憶の端にあるんだ。それに、お前は優秀だが融通が利きにくい」
「……有難き寛大さと御言葉」
「信頼でき、頼りになる者が必要だ。相応の準備を頼むぞ」
「期待以上に御応え致します」
胸に手を当て頭を下げるニオス。
「うーわ! カラスの群れ!? それにリッヂがもう1人いるんだけど」
背後からマーラの声が聞こえ、振り返る。幻惑の霧を抜けてきたマーラが驚きながら、後ろのイエナやジャスミンの方を振り向き話していた。マーラと共に驚くイエナ。そして特に気にしていない様子のジャスミン。
マーラ達が近くまで来る
「ニオス。こいつはマーラ。経緯を聞くに、ブラックハンドの与えし者の子孫だったらしい」
ニオスは目を細め、静かにマーラを注意深く見ている。俺に軽く頭を下げるとニオスが数歩前へ出る。
「マーラとやら。継承せし者は知っているか?」
「ええ。ああ、もちろん」
引きつった笑顔を見せるマーラ。
「それが私だ」
「そっ。あぁん……それは凄い! うぅ〜!」
少し困惑した表情の後、満面の笑みを浮かべるマーラ。
「馬鹿にしているのか?」
「べ、別に、そんなつもりじゃ……」
「父の名は?」
「えっと……クシフォス」
「その名なら知っている。ネクロリッヂまで自身を昇格させた実に優秀な者だった」
「父について…詳しそうね」
「時間がある時に、是非話したいな」
「そう…ね」
ニオスがアンデッドレイヴン達に合図を送る。ニオスの合図でカラス達が一斉に飛び立ち、周囲を黒く覆い尽くしていく。
「カー!カー!カー!カー!カー!」
恐怖を帯びた咆哮を放ちながら周囲の音を染め上げるアンデッドレイブン達。
驚き少し後退るイエナ。
「師よ。私も同行した方が宜しいでしょうか?」
「いや、お前には留守の間ここを任せたい。だがそうだな、連絡用にレイブンを一匹寄越してくれ。援軍が必要になった時は頼む」
霧の奥からエスティナの視線を感じる。ニオスも感じ取った霧の方を少し伺っている。
「畏まりました師よ」目を見てくるニオス「ですがどうか御気をつけて、ただならぬ気配を感じます」
「ああ、お前も気を付けろ」
不測の来客があったとしても、ニオスやエスティナ達ならば十分対処できるだろう。
ニオスは幻惑の霧に入り消えていく。
マーラが側に来る
「ねえ。あの銀のリッヂとはどういう関係なの?」
「昔の弟子だった」
「……そう。凄いのね!」
肘を当ててくるマーラ。
手をかざす。
マーラがやめる。
有翼を放ち翼を生やす。
イエナ、ジャスミンも有翼を放ち翼を生やす。イエナは灰色の翼。ジャスミンは白い翼を各々靡かせる。メトゥスがデュラハンを触手で抱える。
ジャスミンが羽ばたきながら側に来る。
「何か色変わった? 薄汚れた白だったけど、なんか少しキラキラしてるみたい」
自身の翼を体の横へ回し眺める。確かに。金粉のようだな。
「気のせいだろう。マーラ。有翼は使えるのか?」
「あぁん…できる」
自信のない表情から一転、揺るぎない意志の表情へ変わるマーラ。マーラが目を瞑り、すぐさま有翼を放った。マーラの背中から黄色い翼が生えてくる。だが小さい。
「あれ〜? おかしいな〜」
何度もがむしゃらに有翼を放っているマーラ。放ち続ける。
「少し落ち着け」
「マーラの翼。うふっ、可愛いじゃない」
「ほんとね!」
ジャスミンは翼で羽ばたきながらマーラの背後に行きマーラの左翼を、イエナはマーラの側に寄り右翼を各々触っている。
「ちょ、ちょっと! 2人とも!」
「これじゃあ〜飛べないわよね~♪」
「お洒落なのね。マーラって♪」
「ちょっと2人とも! 私は真面目に! く、くすぐったいってば」
真剣な表情で怒っていたマーラは表情を和らげ笑っている。
次の瞬間マーラの翼が大きく広がる「「うっ!?」」
ジャスミンとイエナがたじろぐ。
「上手くいったようだな」
「あは〜ん! そうみたい♪」
イエナが目を瞑った銀の無表情な仮面を身に着ける。
「私もつけちゃおっと♪」
マーラがイエナに続き無表情で目を大きく見開いた銀の仮面を身に着ける。
「ンフフ、マーラ、あなたは必要ないでしょ」
「最初は気付かなかったけど、仮面を着けてると何だか自信が湧くのよね」
「嘘ばっかり」
「ホントだって」
「まあ、仮面自体にその効果はないが、大胆な行動に迷いが生じなくなるのは確かだな」
「ほら~」
「本当なんですか?」
「ああ、心理的にな。だから仮面を兵士や騎乗生物なんかに与えるのには意味があるんだ。行くぞ」
翼で飛び立ち、宙で留まり不可視化を放つ。ジャスミンも自身に不可視化を放つ。マーラは深呼吸しながら自身に不可視化を放ち、成功させる。イエナ、メトゥス、デュラハンに不可視化を付与し、再び街へ向かう。
「ねえ、どうして不可視化だけ? 他にも姿を隠す魔法があったでしょ?」
「見える者にとって、逆に目立たないようにな」
「なるほど」
ロレンツォの家の前に降り立ち、不可視化を解き中へ入る。だが中に入ると、前方に妙な気配を感じた。
目を凝らす。
「待ってた」
背を向けていた者が振り返る。
「うそ…」
ジャスミンが呟く。
アガレスが両手を広げると、入口のドアが勢いよく閉まった。
状況を理解できていなさそうなイエナ。デュラハンとジャスミン、そしてマーラは身構えている。
「ど、どうすればいいの!?」
デーモンの気配を感じ取っているのか、動揺しているジャスミン。
哀れなフィーンドだ。
「デーモンじゃないさ」
ジャスミンに投げかける。
「あんたが特殊だっただけみたいだな。これで自信が戻った」
赤い煙が上がり、アガレスの姿をしたフィーンドがインプに姿を変え翼をばたつかせ飛んでいる。
「知り合いなの?」
鞘に手を置くマーラが話しかけてくる。
「ある意味な。芝居はやめろ。お前の正体は分かってる。1人始末した」
インプの声が他者の物へ変化し、両目が赤く光る。
「これは驚いた。思っていたんだ。ついさっきまではな。貴様になら分かるだろう。いいか、ここに静寂は必要ない。それは困るんだ。非常にな。分かるだろう? これ以上邪魔をするな。二度目はないぞ」
指先で虚無のベールを放つ。
「フッフッフッ」
インプが鼻で笑い、すぐ後、頭を抱え目を見開いた。
「はっ!? 一体……どうなってんだ」
状況に困惑している様子のジャスミン、イエナ、マーラ。
「気分はどうだ?」
「またお前か。なに!? またここか…。ったく一体どうなってんだ」
「アガレスの指示で来たんじゃないのか?」
「んなわけ……あぁ…くそっ!」
「そうさ。恐らくバロルがお前の体を乗っ取っていたんだ」
「あ~……なんて事だ」
肩を落とし落胆するインプ。
「アガレスは忙しいのか?」
「まあな。多少はお前の事を気にしているようだったが、構っている暇はないだろう。ヘルがあれじゃーなー」
「それは良かった」
「良くない! 大体お前のせいだ」指をさしてくるインプ「バロルとアガレスが潰し合ってくれれば、全て丸く収まったっていうのに、余計な事しやがって。いくらお前がリッヂでも、アガレスを殺るのは無理だ」
「バロルなら殺れると?」
「はん、無理に決まってるだろ。だが火種は残せた。内政干渉するな」
「ここはイニティウムだ。やるのなら他所でやれ」
「イニティウムは誰のもんでもないさ」
「そうさ。それが良い所」
「…………まさか」
「お前がフィーンドだが、長生きらしいな」
「勘弁してくれ。俺にはお手上げだ」
「絶対はないが、勝算がないわけでもない」
「……考えとく!」
「きっと近いうちにまた会う事になる。返答期限は、そう長くないだろうな」
赤い煙と共にインプが姿を消す。
街のどこかにソウルピラーがあるはずだ。ヘルの住人が容易に来れぬようしておかねば。
「ソウルピラーを探すよう伝えろ」
「カー!」




