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「ゴホン !もういいかな~?」
「あら、つい。はいマーラ」
マーラに修復したタクトを手渡すエスティナ。
タクトを眺めるマーラ。
「本当に直しちゃったよ…」
「損傷が軽微だったから。それにしてもすぐ壊す癖に直せないんだから。困ったものよね~」
「いや~♪ そんなに誉められると」
「あなたに限った話じゃないけど」
「ありがとう。エスティナ」
少し言い辛そうにエスティナに礼を告げるマーラ。だがどこか嬉しそうにタクトを眺め、イエナの元へ向かっていく。
「良い子よね」
「優しくする気になったのか?」
「どうかしら。落ち着きがない子は苦手で。はい、貴方のも終わったわ」
エスティナから杖を受け取る。
「早い上に見事だな。手にした時よりも状態が良い。相当の腕だな」
「褒められるのはいつでも嬉しいものね。もう彼等をゴーストに変えてくれる?」
「ああ」
エスティナの手に目をやると、修復した明晰の指輪がはめられていた。
エスティナと共に霊魂達を集わせ、エスティナが霊魂達に損傷の庇護を放つ。
「皆、覚悟はいいか?」
霊魂達は皆静かに頷き、落ち着いていた。エスティナの損傷の庇護を受けた霊魂達にヴォイドの呼び声を放つ。
霊魂達は無事にゴーストへ変化した。だが六体の霊魂は予想より輝きが薄い。ルビーだけはそれなりに色が鮮明のようだが、それでもエスティナと比べればかなり見劣りするものだった。
「皆気分はどう?」
「凄い。ボヤケていた視界がはっきりと見える!」
「さっきまで頭がボーっとしていたのに、鮮明になったわ!」
「まるで生き返ったみたいだ」
「バカね。生き返ったのよ。それにしてもこの体は凄い。驚いたわ」
「本当にありがとう。貴方も」
「ありがとう!」
興奮した様子のゴーストが目の前で叫んでくる。
「ああ、良かったな」
「す、すまない。つい気分が高ぶってしまって…取り乱した。嬉しくて話さずにはいられなくて……。その…本当にありがとう」
「気にするな。こう見えて心は笑顔だ」
ゴースト達の歓喜が落ち着き、平静を取り戻し各々の役割へ戻っていく。
「彼らの面倒は私が見るわ。エンチャントを教えていくつもりよ」
「それは頼もしい」
「時が来たら、是非きちんとした肩書を頼みたいわね。肩書きは私にとってアイデンティティーのようなものだから」
「考えておこう」
「ありがとう。今はそれを励みに頑張るわ。もう仕事に戻るわね」
エスティナはエルフの男が放置していた指輪の山を布袋からエンチャント台へ広げ復元作業を始めた。
檻に入ったサムの側で座り込むジャスミンの元へ向かう。
二匹は楽しそうに他愛のない会話をしている。
「邪魔して悪いな。吸血鬼の居場所の手がかりを得た」
檻にしがみつき興奮するサム。
「おぉ~! やはりジャスミン王女と、我が一目置いただけの事はあるなぁ!」
「もう出発するの?」
「勿論。ケリーもいるかもしれない」
「私も行く」
「大丈夫なのか? スザンカの一件で、だいぶきているだろう」
「平気よ」
「分かった。俺は少し野暮用がある。出口で集合だ」
「ok」
「メトゥス、デュラハンを呼んでこい」
「キュル」
マーラとイエナの元へ向かう。2人で魔法の特訓をしているようだ。
「調子はどうだ?」
「みんなそれを言うよね。ふぅ〜! いいわ。イエナの成長著しいかな」
「も~、マーラ」
「本当の事じゃない」
笑顔で楽しそうにじゃれ合う2人。
「エスティナの指導が効いたようだな」
「ンフ。貴方は教えてくれないのあか?」
「俺の教え方は、エスティナとは違う」
「私はエスティナの指導の仕方が合わなかった。貴方に教わりたい」
「本気か?」
「本気も本気」
「はぁ。本当はそんな時間はないんだが、命の恩人の頼みなら、断れんな」
「聞いたイエナ? こういうやる気を出すやり方の方が、私は身が入るのよ」
「ンフフ♪」
「手を出せ」
「こう?」
「いいや。手の平は下だ」
「ンッ」
「イエナ、それを」
「これですか?」
「そうだ」イエナから比較的綺麗な布を受け取り、マーラの口に近付ける「咥えろ」
「なんか嫌な予感がするんだけど」布を渋々咥えるマーラ。手を平行に置き、マーラの手の平に知識の共有を放つ「いったぁぁぁぁ!!」マーラは布を吐き出し、痛む手を抑え地面に丸まる「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。教えるってただ痛いだけ…あっ…なんか頭痛がしてきた…吐き気も……うぇ」頭を抑えるマーラ「痛い痛い……。心臓が頭の中で脈打ってるみたい。き、気持ち悪……」
「大丈夫なんですか?」
「害はないはずだ。さあマーラ。もう一度手を出すんだ」
「いっ…いぃ…いひぃぃ。も、もういい……」
息を荒くあげながら苦痛の表情を浮かべるマーラ。
「途中でやめた方が危険だ。さあ出せ」
手を体の隙間から出すマーラ。
再びマーラに知識の共有を放つ。
「アッ!! ムリムリムリムリムリムリムリムリ。痛い痛い痛い痛い痛い痛い!! 体にある何かが千切れる」
「もう一度だ」
「悪魔……。ちょっ…はぁはぁ…ちょっと待って…はぁはぁ……マジで痛い……」汗を流し、手が震えているマーラ「手、手が動かないんだけど……も、もう無理。ホントに無理」
再びマーラの手に知識の共有を放つ。
「ン゙ーーーーーーーー!!!!」マーラの涙と鼻水は赤い血へと変わる。
「このままだとマーラが死んじゃいます!」
「イエナ…私は大丈夫」頭を抑え、ふらつく足で立ち上がるマーラ。マーラが腕で顔を拭う「爽快に出たわ。あぁ……にあいても何か見えた気がする。……もう終わり?」
「ああ、良くやったな。正直、最後まで持つとは思わなかった」
「ンフフ、獣人舐めんじゃないわよよ。にしても、よくもやってくれたわね」
「持っていたから続けたんだ。気分はどうだ?」
「最悪。と言いたいところだけど、これがすこぶる良い。なんかサッパリした感じっていうのかな」
「それは良かった」
「そうでもない。本気で死ぬと思ったから」
「それはない。魂に知識を入れただけだからな」
「エグいことするんだから。どれだけ痛いか分かる?」
「勿論」
「ホントに?」
「最近、魂を破壊されかけたからな」
「ンフフ。いい気味」
笑いながら首を左右に軽く振るマーラ。
「メトゥスも誓約の時に少し味わっている」
「ホント〜?」
「キュル」
「想像以上に、みんなタフなのね」イエナを静かにじっと見つめるマーラ「次は、イエナね」
「わ、私はいい!」こちらを向くイエナ「私はいいです! 本当に」
「そうしたいとこだが、この魔法は生者にしか無理なんだ。それに詠唱者にもかなり負担が生じてな」
「ふ~」
安堵するイエナ。
「まさか私と同じ痛み?」
「そんな所だ」
「うっそ」
「本当さ」
「わお。ねえ、すっごい気持ち悪いんだけど、これいつ治んの?」
「知識の量による。その様子じゃ、思ったより多かったみたいだな。ハッハッ」
「ったく呑気な事言って。何も変わらないけど」
「これはあくまでも知識だけだ。感覚はないんだ」
「その内、使えるようになるって事?」
「楽しみにしておけ」
「いいね〜♪」
「さっき俺の使った魔法は変性の一種だ。得たとしても絶対に使うなよ言った通り負担の大きい魔法だからな」
「どれくらい?」
「お前の場合、魂を削ることになるだろうな。それか跡形もなく消える」
「……おーけー」
「これから吸血鬼狩りに行くんだ。どうする?」
「ジャスミンから聞いた。サムを助けるのよね? 勿論行く」
イエナを見るマーラ。
「私は遠慮……行きます」
「準備ができたら出口に来い」
「待って、少し話がある」
淡々と支度を始めるイエナを離れ、こちらに来るマーラ。
「なんだ?」
「その…なんで問題に首を突っ込むのかなって。勿論」両手の平をこちらに向けるマーラ「街を手に入れる為よね。でもそれにしても、ね〜」
「何と言ったらいいか。ある種の生き甲斐だからだ」
「だから早死にしたのね」
「笑えるな。正直消えても構わんと思ってる。自ら首を突っ込まければ、退屈で仕方がないからな。そういう性分なんだ」
「まあ、分かる気がする。危険と分かっていても、遺跡探索に行きたいみたいな事でしょ」
「冒険家と魔術師は、好奇心の塊だからな。似ているな」
「それで貴方の側にいると妙に楽しいわけね」
「これからもっと楽しめるさ」
「楽しみね♪ まあ、早死にしそうだけど」
「その時は任せろ。魂は最後までお前の物だ」
「……ンフ、頼りにしてる♪」
マーラが一瞬、真顔になった気がしたが、すぐに満面の笑みを浮べる。「どうせ遅かれ早かれ皆、肉体を失うんだ。きっかけなんてどうでもいい。あぁ……どうして俺がまだ抗っているか分かるか?」
「いいえ〜♪。どうして?」
「もうそれしかできないからだ。永遠の命に囚われ、気付いた時には手遅れ……。だからマーラ。リッジとして蘇るつもりなら、良く考えておけ。後戻りは出来んぞ」
「まさか後悔してるの?」
「問題は、後悔する記憶すらない事だな」
「んふ」




