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エンチャント台に向かって作業しているエスティナが、側にいる霊魂の1人と話をしていた。
「ここが大事。しっかりと押さえているのよ」
「はい」
霊魂がエスティナのエンチャントを手伝っている。見覚えのある輪郭と、過去に会った事のある感覚だ。
エスティナがこちらへ気付き向かってくる。歩きながら壁の方を見るエスティナ。
「イエナ、上達が早いわね。その調子よ」
「ありがとう!」
壁に向かって魔法の特訓をしているイエナ。イエナがこちらに気付き頭を下げる。手で相槌を送る。
「これはこれは、ようやく主のお帰りね」
「ねえエスティナ。何度も言ってるけど、ここの責任者は私よ」
「それで~、貴方は私に聞きたい事があるでしょ?」
エスティナを睨みつけるマーラがジャスミンと一緒に離れていく。
「お前の友人達か?」
「この霊魂達は街を彷徨っていたの。一緒に連れて来なかったら、今頃デーモンの玩具にされていたわ。駄目だったかしら?」
「別に構わないさ。好きにするといい」
「ありがとう。寛大ね。それと、力のある者をゴーストに変えてあげて欲しいの。貴方の力でね。残りは助力する」
「いいだろう。だが見返りは必要だぞ」
錬金台やエンチャント器具、簡易的な鍛冶場を見る。
「ええ、実は…」
「はいは~い! 」マーラが横から手を振って近付いてくる。マーラと話し終えたジャスミンがサムの元へと駆け寄っていく。
「私が母を迎えに行ったついでに、あっちに置いてあった錬金台やエンチャント器具、それと鍛治場を機転を利かせて持ってきたのよ〜♪」
「そう」
エスティナが言い終えたマーラに続き軽く答える。
「エスティナ。エンチャントに詳しいのか?」
「ええ、そりゃもう。目を瞑ってでも出来るほどにね」
「だったら霊魂達をゴーストに変える代わりに、この杖と、マーラのタクトを直して欲しい」
触手の杖を背中から取り出しエスティナに差し出す。
「なに言ってるの。貴方があの悪夢から救い出してくれなかったら、私は永遠にあの場所に囚われ続け、石が唯一の友達になるところだったのよ。貴方が望むなら、できる限り力になるつもりよ」エスティナが触手の杖を受け取る「マーラ。タクトを」エスティナが笑顔でマーラに手を差し出す。
「私は、いい」
マーラを見る。
「マーラ」
「ねえ、どうしてゴーストって透けずに物を掴めるのか、不思議じゃない?」
静かにマーラを見つめる。
エスティナも何も言わず、手を差し出したままじっとマーラを見ている。
「…………」口をつぐみ、こちらとエスティナを目だけ動かし何度も交互に見るマーラ「分かったわよ! ったく」投げやりな態度でタクトを取り出すマーラ「はい! 大事に扱ってよねっ!」
「心配いらない。ちゃんと直すから」
タクトを受け取ったエスティナがエンチャント台へ向かう。
その場を離れ、奥へ向かう。
「エスティナが嫌いか?」
「嫌いじゃない。良い人そうだもん」腕を組んで尻尾を何度も振り、片足のつま先を少し上げては何度も地面を踏み続けているマーラ。
「そうは見えないがな」
「彼女…上から目線っていうか。なんていうか、私を下に見てる。いえ、見下してる。まだ会って半日も経ってないっていうのに、まったく」
マーラの奥底へと染み込んでいる不満は止まらないようだ。
「これから色々と変化が訪れる。慣れないとな」
腕を組み不満げな表情を浮かべたままこちらを向くマーラ。
「それは……まあ、そうなんだろけど」
「慰めになるか分からんが、俺はお前を敬っている。口先だけではなく心からな」
「ふ〜ん」態度を変えず、静かに横目でこちらを見続けるマーラ。マーラが目を細め片方の眉を上げる。
「俺はエスティナを救い敬れ、俺は救ってくれたお前を敬う」
「う~ん」
マーラの表情が少し和らぐ。
「それにさっきの機転だ。素晴らしい。本当にな」間をあけ、言葉に力を込める「お前にしかできない」
「ふふ~ん」マーラが笑みを溢す。マーラが腕組むのをやめる「まだあるわよ」すぐさまマーラは嬉しそうにドアへ向かう。
マーラに追従する。
「さあ~て、ビックリするわよ」重い扉はマーラでは開けられないようだ「コホン! デュラハンお願い」
デュラハンがこちらを向く。デュラハンに軽く頷く。デュラハンがマーラの元へ行きドアを押し開けていく。
開いたドアの隙間から芳ばしく漂ってくる香り。
フロア内は多くの魔物の死体が綺麗に並べられ、置かれていた。
「どうかしら?」
後ろ向きにゆっくりと歩き、両手を広げるマーラ。
「素晴らしい」
気分が高揚とする。まるで餌場に誘われた魔物のようだ。
「まあ、これほど狩るつもりはなかったんだけど。先にイエナと話して錬金材料を集めない?って事になってさ。これが襲われに襲われてね〜。仕方なかったっていうか、なんていうか」マーラが目の前で指を鳴らしてくる「大丈夫よね?」
「ああ、正気だ。抑制にはだいぶ慣れてきたところだ」
「本当に? あの時は目が血走っていたけど。まあ蜘蛛とか、特にボーンゴーレムが活躍してくれたんだけどね。おっとっと、一番はイエナよ。そうイエナ…凄い指揮能力だった」
「マーラ」
人差し指で近くに来るよう示す。
「なぁ〜に?」
腕を後ろで組み、軽い笑みを浮かべながら近くまで来るマーラ。
「まあ本当は1つの予定だったんだが、2つやろう」
手に入れた指輪を1つ取り出し、マーラに手渡す。リングの外周に小さな目玉が均等に埋め込まれ緑に発光し輝いている指輪をマーラが受け取る。
「ありがとう。なんかメトゥスみたいね。目玉? 動いてるんだけど。この指輪生きてるの?」
「それは死の触手の影響を防ぎ、死霊魔法に抵抗を与えてくれる指輪だ」
「なんだ~♪ 便利な物あるんじゃない♪」マーラが意気揚々と指にはめる「う~ん…でも何も変わった感じしないけど?」
「いずれ分かるさ。もう1つは」
「ちょっと、待ったぁー!」マーラが片方の手の平をこちらに向ける「ここにいたエルフの男みたいに、私をイカれぽんちにしたいわけ?」
「いいや」
「だとしてもああはなりたくない」
「お前には向上心がある。他者の意見にも耳を傾け、友人や仲間もいる。問題ないだろう。それより現状死ぬリスクの方が高い」
「助言をくれる賢者が側にいる。ってのも抜けてる。まあ大丈夫かもね」
ウールで覆われた特徴的な外見の2つ目の指輪を取り出す。
「ああ、これじゃない」
「待って! 可愛い指輪じゃない!」マーラが手から指輪を強引にもぎ取り、眺める。
「マーラ、こっちだ」
数本の緑の蔓があしらわれた指輪をマーラに差し出す。
「じー……こっちでいい!」
「それはお前にとって何の役にも立たん」
「またまた〜♪ ……危険ってことじゃないよね?」
「ある意味……いいや。実は貴重だからな。お前に渡すのが惜しいと思っていたんだ。早く返してくれ」
ウールの指輪をはめるマーラ。
「バカね〜。返して欲しいなら、そんな言い方じゃ絶対に失敗するに決まってんじゃない。長年生きたリッヂならそれぐらい…………あっ」
「フフフ」
指輪が光り、指輪の力が解き放たれる。
「メェ~! メェ~エッ!?」
マーラが茶色く毛深い羊へと変化した。
「一体どうしたんだマーラ。急に毛深くなってしまって」
「メェー! メェー!!」
「心を落ち着かせて喋るんだ」
「メェ〜……ど、どう?」
「ああ、ちゃんと聞こえてるぞ」
「はぁ〜、良かった♪ ……そうじゃなくって! これどうやって戻すの?」
「簡単だ。頭の中で指輪を外すんだ」
目を瞑り、マーラがマーラへと戻る
「ふぅ~、怖かった……」
「役に立たんと言っただろ」
「意地悪。というか、なんでこんなもん持ってのよっ!」
マーラが勢いよく指輪を返してくる。
ウールの指輪を受け取り、別の指輪を差し出す。
「ほら、こっちだ」
「これは木になるとか?」
ディスコルディアの尖兵から手に入れたウールの指輪をローブの内側へしまう。
「それは自然魔法への抵抗を与えてくれる、ドルイドの指輪だ」
「へぇ~、なりほろね~」
マーラがドルイドの指輪をはめる。
「ありがとう♪」
「ドルイドの指輪は大した物ではないが、もう一方の指輪は貴重だ。失くすなよ」
「オッケ~。う~!」両手を胸の前で握りしめ、体を身震いさせるマーラ「もう死霊魔法が怖くないっていいいわね~」
「過信するなよ」
「分かってる分かってる〜るる〜る、る〜るるる〜♪ っと。側で反面教師が眠ってる場所だもんねっ」
「そういえばここを片付けたんだな」
「当たり前でしょ。あのまま放置してたら蛆が湧くわよ」
右手にはめた黒い指輪の力を放つ「少し遅かったみたいだな」
「え? ちょちょちょちょっと! どっから蛆……なにそれ!?」
引きつる表情を浮かべるマーラ。
「蛆は苦手か?」
「苦手とかそういう話じゃないでしょ。なんて気持ち悪いもん持ってんのよ。ちょっと! どんどん出てきてるって……」
「安心しろ。こいつらは味方だ」背中にしまってある黒い杖を取り出し、指輪から出現させた蛆を操る「これでこいつらをコントロールするんだ」
「こっちにやんないでよ」マーラが蠢く黒い蛆の塊を見つめ、少し硬直気味のようだ。
指輪の力を解き、蛆を消滅させる「相手を硬直させる効果もあったとはな」
不機嫌そうに睨んでくるマーラが笑みを浮かべる。
「殺すよ♪」
「ジャスミンはこいつらを相手に健闘したんだ」
「うっそ……」少し顔を遠ざけ、斜め下を向くマーラ「意外とやるわね。ジャスミン」と軽く呟いている。
「マーラ。どれくらいイエナは狩りの指揮していたんだ?」
「あ~、まあ分かっていると思うけど、私は途中までなの。でもどうして?」
「ふむ、寝癖があるな」
「どうでもいいでしょ」洒落たコームを取り出し、髪を急いでとかすマーラ。すぐさま寝癖が直っていく。無言で嬉しそうに髪を靡かせるマーラ。
「ドワーフの間でも、美容品は盛んなのか?」
「当然でしょ。というかドワーフだけじゃないし。盛んかとかどうかとか、商人目線じゃ分かんないけど、昔は違ったの?」
「香水や口紅はあった。多少はな。あまり交易品には詳しくはないが」
「まあ、その頭ならいらないもんね♪」
「俺だって使う時は使うぞ」
「まさに無駄ね♪ 文献で読んだんだけど、ウルカヌスは女性に厳しかったって本当?」
「う〜む、ウルカヌスは……まあ独特だな」
「独特って?」
「興味の幅が狭い神として有名だった。だから……」
「具体的には?」
「そんな事聞いてどうする?」
「ンフフ、別に。真剣に答えてくれるから聞き続けただけ♪」
「まったく」
「さっきの真面目な方の話は聞きたい」
「ドワーフの女の中には、逃れる為に危険な棄教を犯してまで他の神の元へ逃げる者もいた。まあ悲惨な運命もあったようだが」
「今ほど改宗は緩くなかったってこと?」
「ああ。昔は厳しかった。随分と変化を感じる」
「ある意味、私達は幸せってことね。この時代にも少しだけ感謝ね」
「じゃあ、そろそろお前の功績を味わさせてもらおうか」
「どうぞどうぞ」
ヴォイドの呼び声を放ち、横たわる魔物の死体全てをアンデッドに変える。
アンデッド達が起き上がり、フロアは緑に光る目に覆われていく。
「壮観ね〜」




