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「邪魔が入らないよう、ここで見張っておいてくれ」
「了解。ヴォイドの使者よ」
ジュナ、ガットが孤児院の入口の警備につく。
孤児院の敷地へ入り、建物へ向かう。
孤児院の中は非常に静かだった。だが床もテーブルも灰にまみれている。最初に訪れた際にいた労働者達は皆いない。
子供がいた奥の部屋へ向かう。
部屋に入ろうとすると、物陰からマリアが出てきた。
マリアは酷く睨み付けるような表情を浮かべていたが、こちらを見た瞬間、安堵の表情へ変わった。
「はぁ……」
マリアがそっと溜め息をつく。
「スザンカは殺した。喜んでくれるといいんだが」
マリアは苦しそうな表情を浮かべながら口を開く。
「有難う。心から感謝しているわ」
「俺がアンデッドだと初めから知っていたようだな。それともネクロマンサーなのか?」
「知ってたわ。騙したみたいでごめんなさい」
「いいさ。ケリーは戻ったか?」
「いいえ…見ていない。違うわね。ケリーはもういない。感じないの」ジャスミンは何も言わず、静かにマリアを見つめている。
「どうして分かる?」
「…………」
「他の子供達はどうだ?」
「騒動が起きてから、向こうの部屋に集めてる」
「それは良かった。にしても辛そうだな」
「ここにいた労働者のハッグを片付けるのに手間取ってしまって」
「お前が院長の跡を継ぐのか?」
「そうしたいけど……無理よ」
「どうして?」
隣にいたジャスミンがマリアに話しかける。
マリアが黄色い光に包まれていき、白い絹の服へと変化する。そしてボロボロになった白い翼を生やし、天使の姿となった。マリアの頭上には黄色く光る天使の輪が現れた。
「私はクニナに仕えるアークエンジェルだから。消えゆく定めなの」
「天使だったの……」
ジャスミンが目を丸くさせ驚いている。
「アークエンジェルか。だが面影がないな」
「ええ。長い間子供達を守る為に私は魂を削り過ぎたの。もう長くはないわ」
「クニナはどうして助けてくれなかったの? あんなに大勢いたのに!」
ジャスミンの方を悲しげな表情で見つめるマリア。
「ごめんなさい。それは私の力不足だったの。もう昔のような力は残っていなかった…。でも聞いてジャスミン。クニナは他の神々と違って、軍隊も兵士も持ってはいないの。私も天使だけど、兵士じゃない。救いを求める子供たちに比べ、戦える者はそう多くはないの」
「…………」
「神の力にも限界がある」
「ええ、その通りよ。イニティウムは今、戦争のせいで世界中でクニナに救いを求める子供達で溢れている。クニナは他の神々にも助けを求めたけど、結果は見ての通り」マリアが眩しい笑顔でこちらを見つめる「でもヴォイドは私達に手を差し延べてくれた」
「ヴォイドの意思ではないんだ。俺が勝手にやった事だ」
マリアは少し驚いた表情を浮かべる「天使になっても、世界はまだ未知で溢れているのね。それでも感謝の気持ちは変わらないわ。助けてくれて本当にありがとう。子供達の部屋への障壁を解いたら、私は……休むわ」
マリアが奥の部屋の障壁を解きに向かう。
「マリア。俺達よりも先にスザンカに一矢報いた者がいた。心当たりはないか?」
マリアは振り返ると、静かに首を横に振った。
孤児院の聖堂を出る。
孤児院の中庭から何かが崩れ落ちる音が聞こえてきた。
音のした孤児院の中庭へ向かう。
中庭に行くと、欠けていたクニナの像が粉々になり完全に崩れていた。
「マリアは逝ったようだな」
「…………」
ジャスミンは尾を下げ、何も言わず崩れたクニナの像を静かに見つめていた。
「ジャスミン、まだここにいるか?」
「いえ……もう行く」
崩れた像に背を向けた途端、凄まじい轟音が響き渡った。振り返ると、眩い光の柱が空から像に降り注いでいた。
光柱は街を覆う何かの障壁を突き破り像を差していた。障壁の修復波が山に建つロクスソルス城から発せられていた。
ジュナやガット、付近にいた大勢の種族達が像の周囲へ押し寄せ集い、皆が光の柱を見上げている。
メトゥスが眩しそうに全身の目を半分閉じ、俺の後ろへと身を隠す。
光り輝く中、像が次第に修復していき、光の中から天使が姿を現した。
天使はハッグの住処で案山子に成り果ててしまっていたソテイラだった。ソテイラが天使の姿をし、白く輝く翼を広げる。
「ソテイラ……」
ジャスミンが驚いた表情でソテイラを見つめている。
「ありがとう。ヴォイドの使者よ。お陰で無事にクニナの元へ行く事ができたわ」
集まった群衆からざわめき声が聞こえてくる。
「この件にヴォイドは無関係だ。礼ならクニナへの秘密としてくれ」
「分かったわ。約束する」ソテイラがジャスミンを見る「ジャスミン。貴女も助けにきてくれて本当にありがとう。とても嬉しかったわ」
たじろぐジャスミン。
「わ、私は何も……。それより気付いてあげられなかった……。助けたのも…ただの偶然…」ジャスミンは自身と葛藤しながらも話し続ける「ごめんなさい。力になれなくて」
ソテイラがジャスミンに優しく微笑む。
「何も気にしていないわ。それより、これからも時々子供達に会いに来てあげて」
「ええ。もちろん貴女にも」
ソテイラが次第に姿を消していき、ソテイラが完全に姿を消すと光の柱も共に消滅した。
「クニナがソテイラを天使に昇格させたの?」
「ああ。ソテイラは狂乱に陥っても、最後まで子供達を思う心と、クニナへの信仰を捨てていなかったようだからな。クニナとっては願ってもいない者だっただろう」
「これからはソテイラが魂を削る事になるのね」
「彼女自身、知らぬ事はないだろう。それが本望で、失った子供達への償いとしたいのかもな」
「なんだか…残酷ね」
「それがこの世の摂理だ」
集まった群衆達が騒ぎ始めた。
「神だ! 神が啓示を下さった!」
「この孤児院に寄付するべきだ! 称えるべきだ!」
「そうだ! 女神クニナを称えよう!」
「まだ私達を見捨てていない神がいたのね。ああなんてことでしょう!」
「孤児院に皆で寄付しよう。我々に慈悲を示して下さったクニナに敬意を示さねば! 怒りを買ってしまう」
こちらが立ち去ろうとするが、群衆が道をあけない。
「ヴォイドの使者よ。感謝します」
両手を合わせ、拝む人間の老女。
「ああ、ウルカヌスは俺達を見捨てた。クニナと共にヴォイドを称えます」
「俺もだ!」
「私もよ!」
群衆から、多くのヴォイドへの信仰心を感じ取れる。アンデッド故、悪くはない感覚だ。
「キュル」
メトゥスが虚栄の指輪を渡してくる。
メトゥスから虚栄の指輪を受け取りしまう。
群衆はメトゥスの正体を見ても恐れないどころか歓喜の表情を浮かべている。
「ヴォイド万歳!! クニナ万歳!!」
集まった群衆達の盛況が辺りへ響き渡っていく。
「道をあけろ」
群衆が道をあけ、孤児院の外へ向かう。
「まさかここへ来て、たった一日で変革を起こしちゃうなんて。予想もしてなかった」
「デーモンの無関心さに救われたがな。まあ、少しは住みやすくなるといいんだが」
「もうなってきてる。正直この街は最低だった。でも貴方が来てから、穢れていた街が元に戻っていくようで嬉しい。もう悲劇はうんざり。あっ、ちゃんと最後までやり遂げてよね!」
「尽力しよう」
「変革だ!」
「ビバレボリューション!」
群衆の中を通りすぎる傍ら、種族達の囁き声も聞こえてきた。
「何か暖かくなってきてないか?」
「あ~…言われれば、そうだな。いや寧ろ暑いなっ」
2人の男の間に女性が入る。
「クニナとヴォイドが街を祝福して下さったからよ〜」
「そうか~!」
「ああ!そうだな。そうに違いない!」
群衆を抜け、孤児院の敷地を出る。
「スザンカの呪術の影響で冷えていただけなのに。解釈次第なのね」
「だが良い解釈だ」
「そうね……」
少し悲しげなジャスミン。
「何か思うところがあるのか?」
「そんな大した事じゃ。ただ、少し昔を思い出して」
ジュナ、ガット達と共に再び希望の再会へ戻る。
墓地へ戻ると、入口の周囲にはテーブルが置かれ、椅子に座った衛兵が様々な種族達と話し、記録を書類に書き記していた。
喜び手を取り合い、ハグを交わす種族達で溢れていた。通り過ぎる住民達は無関心の者が多い中、時より立ち止まり事情を訪ねている者も散見した。事情を尋ねた者の中には共に喜びを分かち合う者の姿もあった。
入口に近づくと、種族達がこちらを向く。
「ありがとう。感謝するよ」
「この恩は一生忘れない。本当にありがとう」
「あそこから出してくれてありがとう!まだ信じられないんだ。ありがとう!」
「また外に出られるなんて、ヴォイドに一生感謝するよ」
「ヴォイドを称えるわ!」
「私もヴォイドを信じる」
「本当にありがとう!」
「ヴォイドに感謝だー!」
希望の再会前にいる群衆達の喜びに満ちた歓声を受けながら通り抜けていく。
時より手を差し伸べ握手をせがむ者や、こちらへ触れようとする者もいるが、ジュナとガットに近付けさせないよう頼んだ。
群衆を通り抜け、他の衛兵達が道を塞ぐ。
頭上で羽ばたいていたジャスミンが隣へ降りて来る。
「貴方じゃなくて、ヴォイドに感謝なのね」
「細かい事はいいさ」
「でも私はヴォイドじゃなくて、貴方に感謝してる」
「嬉しいな」後ろを向く「ジュナ、ガット助かった」
「いや〜、こっちこそ良いもの見せてもらった。俺もクニナに感謝しないとな。それとヴォイドとあんたにも、だな」
片手を腰に当て強くこちらを指差すガット。
「改めてお礼を言うわね。ゾーナのこと、本当にありがとう」
「ああ、2人共元気でな」
ジュナとガットが仲間の元へ行く。




