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兵長が腕を組むのをやめ、覚悟を決めた表情を見せる。
「慈悲深き虚無の神。ヴォイドを信じよう。勿論、皆を救ってくれたあんたの事も…ヴォイドの使者よ。今から俺はヴォイドへ信仰を捧げよう」
兵長が片膝を立て、こちらに跪く。
後方の衛兵達も兵長につられるように覚悟を決めた表情を浮かべ共に跪いた。
メトゥスをニオスの元へ向かわせる。
「立て」衛兵達が立ち上がる「ここは一先ず安全だ。囚われた種族達を解放するのなら、ここでやるといい。瓶を運び歩くのはリスクが大きい」
スザンカの家を指し、アンデッドハッグ達に瓶を家に運び入れるよう指示を送る。アンデッドハッグ達が瓶を抱え、スザンカの家へ向かう。瓶を持ったゾーナもジュナと共にアンデッドハッグについていく。
「分かった。ここの警備を固め、準備が整い次第、順に解放していこう」
「解放する間、アンデッドを警備の足しに置いていく。邪魔が入らないとは限らんからな」
「感謝する」
「終わったらソルスに声を掛けるのを忘れるな。それと伝言として、俺がお前達の解放者と同じだと伝えておいてくれ」
「分かった」
「最後に、街を歩くのにお前の部下を何人か借りたい」
「ああ。ジュナとガットを連れていって構わない。ゾーナは少し休ませるよ」
こちらの後方を見て驚く表情を浮かべる兵長。
踏み歩く振動で周囲の地面を揺らすボーンゴーレムがニオスと共に地下霊廟から出てくる。
こちらの側まで来る。
「残念だが魂は既に空だった。だがこれからはヴォイドの祝福を受け、自由を手にする事だろう」
「おお……」
兵長は口を開けたまま兜を取り、空虚な表情を浮かべつつ、ボーンゴーレムを静かに眺めている。同時に瞳の中にヴォイドへの希望の信仰心を宿らせているのを感じ取れた。
「どういう事だ!?」
後方で衛兵達が騒ぎ始めた。
「どうした!?」
兵長が兜を身に着け、急いで部下の元へ向かっていった。
ニオスに周囲を警戒するよう合図を送り、ニオスは静かに頷くとボーンゴーレムを散開させ、自身も警戒に向かっていった。
メトゥス、ジャスミンと共に兵長の元へ向かう。
「私は何も言わない。貴方には何度も救ってもらったし、ケリーの事もあったから」
「心配はしていない」
ジャスミンが静かに頷く。
「どうしたんだ?」
「シンジ…ラレナイ」
兵長が立ち竦んでいた。
「見てくれ!」
衛兵が喜びの表情を浮かべながら、手の平から小さな死の炎を燃え上がらせていた。
「俺もだ!」
「私もよ〜!」
「これは凄いわ!」
「ファンタスティック!!」
他の衛兵達も次々と小さな死の炎を手の平から燃え上がらせている。
「デーモンをも燃やせる、虚無の浄化の炎だ。信じられない……」
大層な認識だな。
「お前はどうなんだ?」
兵長はこちらを向き、手の平を出す。そして静かに目を瞑り、手の平から死の炎を燃え上がらせた「う、嘘だろ……。なんで、どうしてだ」
「良かったな」
「…………」
困惑した表情で呆然と見てくる兵長。
「ヴォイドだ! ヴォイドが俺達に力を与えてくれたんだ!」
「ああ凄い! なんて日だ!」
「ようやく希望が見えてきたわ」
「ファンタスティック!!」
衛兵達が口々にに喜びの声を上げていく。
「見られてるのかな?」
ジャスミンが耳元で囁いてくる。
「アンデッドの五感は全て、ヴォイドに筒抜けだ」
「アォ……」
自信の両手を見つめ、混乱している様子の兵長。
「あぁ……なんて言ったらいいのか」
「有効活用しろ」
「あぁ……あぁ! そ、そうだな!」
少し戸惑いながらも、興奮気味に声を上げる兵長の元を離れ、墓地の家へ向かう。
ゾーナ、ジュナが家具を整理し、アンデッドハッグ達が瓶を綺麗に並べ終えていた。
「ジュナ。一緒に俺の散歩に付き合ってくれ」
「いいけど兵長の許可を貰わないと」
「許可は得た」
「じゃあゾーナ。ゆっくり休んでね」
「うん。ジュナも気を付けてね」
互いにハグをし、ジュナがこちらに来る。
ジュナ、ジャスミン、メトゥスと共に墓地の出口へ向かう。
ニオスに合図を送り、この場の指揮を託す。
希望の再会の出口付近にいるガットに声を掛ける。
「ガット、ついて来てくれ。兵長には話を通した」
「それより見てくれよ!」
ガットが興奮気味に叫ぶ。ガットが手の平から死の炎を出す。
「うっそ!? ガット……あんたネクロマンサーだったの!?」
「バーカ。皆やってるぞ。ヴォイドがさっきくれたんだよ。ハッハッ、まったくヴォイドは最高だぜ」
「シンジラレナイ」
「俺もさ」
ガットが嬉しそうに目を輝かせ、自身が放つ死の炎を眺めている。死霊術に魅了されているようだ。
「ジュナ。お前はどうなんだ?」
「私は無理よ」ジュナが手の平を広げ「だって……」手の平から死の炎を出す「えぇー!」ジュナがすぐに炎を消す「ど、どうして……」
「良かったな」
「えっ……そ、そうね……」
戸惑い困惑した表情を浮かべるジュナ。
ジュナがヴォイドに改宗していないのは容易に看破できた。寧ろ嫌悪を抱いているようだ。
こんなに寛大な神だったか……妙だな。何かおかしい。
希望の再会を出て目的地へ向かう。
行き交う者達が振り向き、物珍しそうな表情を浮かべながら足を止めていく。
ジュナとガットの衛兵の威を借り、騒ぎになる心配は低い。
こちらの足元を同ペースで歩くジャスミンが俺を見上げる「で、どこへ向かってるの?」
「マリアに会いに行こうと思ってな」
「そうね。彼女には…一番に真実を伝えないとね」
進行方向の街路先で騒ぎが起きているようだ。衛兵達が規制線を張っている。
規制線を見張る衛兵の近くまで向かう。
「よ、よお……ガット、ジュナ……」
俺の方を困惑した表情で見ながら、2人に挨拶する衛兵。
見覚えのある衛兵だ。衛兵に声を掛ける。
「ハッグが出たのか?」
「あぁ…そうだ」
ジュナが一歩前へ出る。
「彼なら大丈夫よ。仲間を救ってくれたの」
衛兵は小さく頷き、こちらの視界を通すように体をどけ、現場を見て口を開く「彼女がいきなり喚き出し、体の中からハッグが出てきたんだ」辛そうな表情を浮かべ地面に落ちた顔の皮を見つめる衛兵「でも皆で盾を構え取り囲んでいると、暫くして苦しみ出し、いつの間にか灰に変わったんだ」
「地獄の兵士の戦いの後も、またこんな騒動に出くわすとはお前も大変だな」
「まったくだよ」現場を見ながら頷くが、驚いた様子でこちらに振り向く衛兵「なにっ」
「一度会ってる」
ジャスミンを見た後、すぐこちらを見る衛兵「その猫……あぁ、あんたまさか。烙印の仲間を救ってくれた奴か」
「ハッグの後で言いたくはないが、見た目に囚われるなよ」
「あぁー……信じられない日だな。少しはアンデッドへの考えを改めるよ。それと通りたかったら、いいぞ」
道をあける衛兵。
現場に集まった衛兵達の奇異な視線を受けながら先へ進む。
ジュナとガットは通りすぎる際に衛兵達と軽く冗談じみた挨拶を交わしながら通り過ぎる。
孤児院に着くまでに、何度かハッグ騒動の現場に居合わせた。
そして孤児院へ辿り着く。
孤児院はやけに静かだ。




