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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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「えっ!」

ゾーナが叫び、解体台に置かれた死体を見て固まっている。

解体台へ行く。

死体は解体途中。台には糸ノコ、ナイフ、深いレードル、プライヤーが置かれ、台の小瓶には各々色違いの液体が入っていた。

解体台に置かれた死体の顔に覆い被さっている髪を退ける。

見た顔だな。あの孤児院の前で会った捜査官か。

「ねえ、まだ奥があるみたい」

ジャスミンがこちらを呼ぶ。


奥へと向かう。

「早くこんな所から出たいんだけど……」

おどおどしながら周囲を見回すゾーナ。

「ハッグの残党がいるかもしれんが、まあ行きたいのなら止めはしないさ」

「付き合うわ!」

姿勢を戻し即答するゾーナ。

ジャスミンがひび割れた壁の前でこちらを向く。頷いて合図を送り、ジャスミンが小型の火球をヒビ割れた壁へ放つ。ヒビ割れた壁は火球を受けて崩れていく。

「妙な感じだ。ジャスミン」ジャスミンが道を開け、先に崩れた壁の先へ向かう。


「寒っ!!」

追従するゾーナが叫ぶ。

「確かに強い冷気を感じるな」

「スザンカは死んだのに、どうして……」

壁を抜けると、先は洞窟になっていた。洞窟に先はなく、行き止まりになっていた。

正面奥には洞窟と同じ色をした黄土色の大きな石像が置かれ、石像の周囲の石の段差には火が灯った蝋燭が多く立てられている。


一番上の石段中央に瓶があり、脳みそを溶かした薄いピンク色の液体が入り綺麗に並べられていた。

石像の足元には数体のハッグロードが象られた石像があり、全てのハッグロードが大きな翼を折り畳み、座り込んで中央の像を拝んでいた。


中央の像は四匹の大きなワームを背中から覗かせ、下半身が大量の渦巻く蛆に包まれた女が象られていた。

女は右手を掲げ、手の平に蛆の山を持っている。

「神像?」

「ああ。おそらく蛆の女王だろう」

「ハッグの母。マーゴッドね」ジャスミンが周囲を見回す。何かを見つけたジャスミンが洞窟の左側に駆けて行く。

ジャスミンの元へ向かい、地面に転がっている石像の破片を眺める。

ジャスミンが小さな破片を前足の肉球で軽く動かす。

「羊?」

「見えるな」

石像の割れた腕は胸の辺りで曲げられ、手の平に大きなᯣを持っている。そして台座の破片と覚しき物にはᬀが装飾されていた。

「これも神像?」

「ああ、恐らくヴォイドの神像だ」

「ヴォイド……」ジャスミンが左、右と首を傾げ、地面の石像の破片を注視している「そう言われれば…見覚えがあるかも。でもどうしてこんな所に?」

「元々はヴォイドへの祠だったんだろう。その後、マーゴッドの祠が建てられたのかもな」

探索を終えたメトゥスが合流する。

「あぁぁあ!? なんか今ゾワッとした。何かいるんじゃない!?」

洞窟に入ってこないゾーナが胸の前で腕を交差させ、自分の両腕を擦っている。

「何かあったかメトゥス?」

「キュル」

「そうか。メトゥス、この神像を壊すんだ」

「キュル」

メトゥスが神像の前へ向かう。

ジャスミンと共に部屋を出る。

メトゥスが触手を伸ばし、マーゴッドの神像を破壊する。神像の欠けた上部が前へと倒れ、地面で砕け、辺りに飛散していく。

「あっ!? 勝手に倒れた。貴方が念動でやったのよね?」

「いいや」

「う、嘘でしょ……これはきっとマーゴッドの怒りよ……」

「マーゴッドがなんで自分の像を壊すわけ?」

「ねえ、この猫、今私に何か言ってなかった?」


神像内部には無数の黒いワームが蠢いており、上部にへばりついたワームの塊が地面に衝突すると同時に蠢き始めた。

「アーー!!」

ゾーナが慌てて洞窟の入り口から遠ざかっていく。

瓶の元へ向かい、アンデッドハッグ達を呼び寄せる。

少し後、アンデッドハッグ達が集結する。

「わおわおわお……これは悪夢だわ」

「運ぶんだ」

「グゥゥ」

アンデッドハッグ達が両手で瓶を抱え運ぶ。

「ゾーナ、お前も運ぶか?」

「い、ぃ゙ぃ゙ぇ゙ム゙リ゙よ゙。わ、私に大勢の命を抱えて運ぶなんて、そんな大役、荷が重過ぎるわ。もし躓いて落として割ったりでもしたら……あっー怖い!」

「英雄になるチャンスだぞ」

「う~ん……」

「運ぶんだ」

「わ、分かったわ。う、後ろから脅かしたりしないでよね。お、お~け~ゾーナ。慎重に…慎重によぉ…私は衛兵だもんね。住人達の命を守るのが仕事ぉ……それじゃあ、これ。ゾーナから杖を受け取る。

アンデッドハッグ達が瓶を抱え、出口へ向かっていく。

ジャスミン、ゾーナと共に出る。


〘⇄〙ここを破壊するべきか。それとも利用するべきか。


「メトゥス、ここを焼き払っておいてくれ」

「キュル」

メトゥスが死の火球を放ち、フロア内の肉や臓器を燃やしていく。

丸テーブルの置かれた部屋の出口でニオスが待っていた。

「師よ。地上へ戻る時ですか?」

「ああ。魔法は使えるか?」

「はい。問題ありません。ただハッグの影響か、今はまだ思うように力が出せないのです。ですが直ぐに元の力を取り戻せるよう精進します」

「推察通り奴がお前の力を吸い、代わりに力を得ていた」

「申し訳ありません」

「いいや、お前のお陰で無事に勝てたようなものだ。目覚めたばかりだ、徐々に取り戻していけばいい」

「……感謝致します」

「それからメトゥスと共に、ここを焼き払っておいてくれ」

「畏まりました」

片手を胸に当て、頭を下げるニオス。

2人に任せ部屋を出る。


ニオスとメトゥスが部屋を焼き終え合流する。

「ゴーレム1、先導しろ」

ボーンゴーレムの後に続き、全員で地上へ向かう。

後方に瓶を持ったハッグ達を追従させ、最後尾をボーンゴーレムに守らせる。

去り際にハッグ達の死骸をニオスとメトゥスに焼き払わさせ、スザンカと対峙した酸沼のフロアを出る。


光源の杖の力を解き、背中へ収め、蛆の杖を手に持つ。

「はぁ~、まさかこんな事になるなんてね。入る前には想像も付かなかった」

「確かにそうだな。だがそれが面白いところじゃないか? 冒険はどこにでもある。ケリーの事だが、ケリーがここにいた可能性は低かった」

「そう、なの?」

「ゼロではないが、低い。ここにいなかった事が良かったかは、まだ分からんが」

「じゃあ……やっぱり街を出たのかな」

尾と髭を下げ、どこか寂しそうにしているジャスミン。

「かもな。だが孤児院で見た絵、あれには見覚えがあった」

「本当?」

「マリアが言っていただろう。孤児院にいない子供がよくケリーに会い来ていたと」

「うん」

「その子供に心当たりがあるんだ」

「その……まだケリーを探すのを手伝ってくれたりする?」

「ああ、構わんさ。関わった以上、最後まで付き合う。それにどうせ、目的地は変わらない」

「ありがとう」

静かに尾を揺らすジャスミン。

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