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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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壁の先の部屋には複数の障壁ケースが置かれ、ケース内は泡立つ黄色い液で満たされていた。

「錬金術…か?」

「近いものがあるかね」

部屋を見渡す。

「脳に心臓、肺に…また脳か」

脳が入れられたケースの前に立つ老女。老女は悲しい表情を浮かべ静かにケースを眺めている。

「これは私の脳。他はスザンカの。これを破壊しないと、スザンカは何れまた蘇ってしまう」

「なら何故壊さない?」

「私の力じゃ、この障壁は突破できない。それに自分の脳は、これに触れさせてくれなくてね」淡々と話し続ける老女「スザンカを倒した者は、過去に貴方以外にも何人かいた。でも皆傷を負い、ここに辿り着ける者は誰1人いなかった。私もその1人……姉の力を見誤っていた」

「…………」

「いずれにしろ、貴方のように障壁を越える手立ても持ち合わせていなかった」

「分かっていると思うが、スザンカの肉体を破壊した場合、デーモン同様、全ての影響化にあった者は、無事では済まないだろう」

「ええ……そうでしょうね。お願いできるかしら?」

「……いいだろう」

ケースの前まで行く。

ケースには一枚の羊皮紙が貼られていた。羊皮紙を読む。


──唾液で貼られた羊皮紙。丁寧な字で書かれている。

このメモに見覚えがない?

よく見る事だよ。これはあたしの字だ。そうだろう?

いいかい良く聞きな。

誰かがあたしに魔法を掛けた。この体が乗っ取られたんだよ。それも痕跡を一切残さずにね。信じられるかい? 犯人は分からないが必ず突き止めるんだ。

これは今後また同じ事が起きた時の為のメモさ。

見覚えがないなら、また乗っ取られたと考えな。

あんた、つまりあたしの体をよく調べて痕跡を探す事だね。犯人はいつか尻尾を出す。やった奴にはお仕置きが必要さね。諦めるんじゃないよ。

どこかの馬鹿のせいで、これからくだらない連中を埋めたツケを払わなきゃいけないんだ。

それとこの件が片付くまでは、霊廟への道は暫く封鎖だ。絶対に解くんじゃないよ。

スリザキオのトーテムも解除しておきな。

今の所マリアって女が最有力だ。他に光ってる奴がいたら用心しな。

──


スザンカの体を凝視し、魔法の痕跡を探す。だが魔法の痕跡は見当たらない。

障壁を通過し、スザンカの肺を手で掴む。そして死の火球を放ち、燃やしていく。同様に脳、心臓も掴み燃やす。

各々の部位が死の炎で燃え上がり、青黒い血を流しながらゆっくりと燃えていく。

そして最後の心臓が燃え尽き、消滅した。


後方で落下音が聞こえた。

振り向くと、後方にいた盲目のウッドエルフの老女は消え、灰と光源の杖が地面に転がっていた。もう1つの脳はその後すぐに跡形も無く消滅した。

地面に積もる灰の中に埋もれた一枚の羊皮紙が残されていた。

杖と羊皮紙を取り、羊皮紙を読む。


──朽ち掛けた羊皮紙。

父の言う通り、姉はもう以前の姉ではなくなっていた。

でも心のどこかで、昔の姉の面影が重なっていき、私は諦め切れないでいた。

姉を救いたかった。ただそれだけ。

昔のように、故郷の美しい森で一緒に楽しく過ごしたかった。

あの頃がとても恋しい。


姉は昔、ディアーナから恩恵を受けドルイドとなった。

でも今の姉は見る影もない。酷く堕落し、蛆の姉妹にまで身を窶してしまっていた。

最初は呪いか魅了のせいだと思っていたけれど、姉の残した手記には姉が心からマーゴッドを崇拝し、受け入れてしまっている事実が書き残されていた。

悲しい。とても、とても。

それでも私は諦めない。

姉はきっと、辛い時に、弱みに漬け込まれ騙されただけなのだから。いつか昔の姉を取り戻してみせる。今度は私が姉を救う番。


姉はまだ自然魔法を覚えていた。望みがある証拠。

ディアーナよ。どうか姉を許し、救済を与えて下さい。

──


ジャスミンが翼で羽ばたき側へ来る。

「これを見て!」

ジャスミンが少量の塵を浮かべている。

「それは?」

「サムの人形、だった物。他の人形も全部塵になって障壁も消えたから来ちゃった」

「ふむ」

「それに何だか暖かくなったと思わない?」

「スザンカを葬むった影響だろうな」

「ついに死んだのね♪」

「肉体はな」

「……そっか」

「でも今は祝うしかない」

「うん……そうだね!」ジャスミンはどこか悲しそうな表情を浮かべ俯く「もし駄目だったら、どうしてた?」

「お前をここから逃がすよう努めたさ」

「ンフフ、一匹の猫の為に、進んで作品になるって?」

「足止めしてから逃げる事も、それほど難しくはなかっただろう」

「ん〜♪ 少しケリーの事で……」

突然物音がする。

ジャスミンと目を合わせた後、生者探知を放ち周囲を探す。ジャスミンも周囲を見回している。

「何も、ないようだな」

「アッアッ~!」ジャスミンがケースの下に前足を入れ、尻尾を大きく振りながら何かを探っている。右側の肺が入っていたケースが右にスライドし、肺ケース奥の壁が下へとスライドしていく「ハッグは足先で開けていたのね~」

「流石だな」

ジャスミンと共に更に奥へ向かう。

「い、いやぁぁぁぁーー!!」

鎖に繋がれた女ドワーフが暗闇で叫んでいる。鎖の影響か顔は判別できない。

生者探知を解き、スザンカの妹が持っていた杖を使い部屋を照らす。

「大丈夫か?」

「ハッグじゃないけどアンデッド!?」

次第に声を大きくし顔を歪める女ドワーフ。

「ゾーナだろ?」

「えっ、どうして私の名を!? 私何かしたの!? お、お願い、ヴォイドを冗談の種にした事なら謝るから! だから私の魂を虚無に送ったりしないで!」

泣き出しそうなほど怯え、悲観の表情を浮かべる女ドワーフ。

「そんな小さな事、気にしていないだろう。それより最近、ケリーの件で話したはずだが?」

「あ~……」目を一回りさせ、こちらを見る女ドワーフ「もしかして……あの親切な旅人さん?」

「覚えていたか」

「うそでしょ……街にアンデッドがっ。それよりも貴方もここに閉じ込められたの!? あ〜! 嘘でしょ! 冗談でしょ! あ〜ネケシタスよ。どうかお救い下さい」

ゾーナに近づき鎖の金具を破壊する。

「あっ、ありがとう。でもどうしてこんなところに?」

立ち上がり、金具が嵌められていた手首を擦っているゾーナ。

「デーモンが人々を捕らえるよう、ハッグを使っていると聞いてな。ヴォイドに言われ助けに来たんだ」

「あらまあ~なんて事! あぁ、ヴォイドに感謝永遠に」祈りのポーズを終えると、顎に手を当て俯くゾーナ「改宗しようかしら」こちらを再度見る「あっ!? 墓守のスザンカは?」

「始末した。それで、お前はどうしてここにいる?」

「あのクソッタレを殺してくれたのね。やったわね! あー……何て言ったらいいのかしら。スザンカが急に頭を抑えて倒れ込んだから、心配で駆け寄って…気が付いたらここにいて鎖に繋がれていたの」

「運が良かったな」

「ケリーはいた?」

ジャスミンが叫ぶ。

「猫? 貴方って生前ドルイドだったの?」

「ケリーを見なかったか?」

「残念だけど見てない。ごめんなさい」俯きながら首を左右に振るゾーナ。顔を上げ、困惑した表情でこちらを見つめる「まさか……」

ジャスミンが静かに離れていく。

「無事な可能性もある」

「そ、そうよね……」

「他に生きたまま捕らえられている者はいるか?」

「…………」片手で胸の溝を掻くゾーナ「悲鳴とか…骨の砕く音とか……もういないと思う」掻くのをやめ顔を上げる「そういえば、人々を縮ませて瓶に詰めていた記憶がある」

「これでしょ」

少し離れた場所でジャスミンが瓶の蓋部分を前足で叩いている。

「持ってろ」

ゾーナに杖を手渡す。

「えっ」

ゾーナは驚きながらも受け取る。

ジャスミンの元へ向かい、地面に置かれた大きな瓶を凝視する。

幾つかの瓶が整頓されて置かれ、各々順に見ていく。

「確かに大勢が詰め込められているようだな」

助けを求める大勢の人々がこちらに向かって何かを叫んでいる。だが聞こえない。

「ケリーはいる?」

「分からん」

「どうしてこんな事を……」

「恐らくデーモンへの貢ぎ用だろう」

「じゃあ、本当にデーモンの手先だったわけ?」

「いいや。スザンカの手記にデーモンの存在を示唆した記述があった。恐らく警戒していたんだろう」

「そういう事」

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