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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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「ジャスミン」

「魔法陣はあなたの予想通りだった。それと魔法陣壊しといた」

「それは良かった」顔で示す「見覚えあるか?」

見上げ、喋るソテイラを注視するジャスミン。

「ソテイラよ。本物の院長」

「本人は長い間、ずっとここに居たわけか」

「…………」

悲観した表情を浮かべ、俯くジャスミン。

「もう……やめて……た……助けて……子供達を……お……お願い……」

「気付いてあげられなかった……」

「仲が良かったのか?」

「ええ……」

「今なら彼女も、子供達も救ってやれる」

「救う? どうするつもり?」

悲しげに見てくるジャスミンの目には涙が溜まっていた。

「もう……やめて……た……助けて……子供達を……お……お願い……」

「ソテイラは長年の苦痛で精神を失っている。楽にしてやるのが一番だ。子供達もな」

「そんな……で、でも……あなたなら助けられるんじゃない?」

「ジャスミン。気持ちは分かる。だが俺は神じゃない。ただの歩く屍。リッヂだ。奪う事しかできん」

ジャスミンは何か言いたげそうだったが、静かに頷き、ソテイラからゆっくり離れていった。

「メトゥス」

「キュル」

メトゥスがソテイラの心臓部に触手を突き刺す。

「あ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ソテイラの苦痛に満ちた断末魔が辺りに響き渡る。

メトゥスが触手を畝らせ、ソテイラの心臓を引き抜く。メトゥスがソテイラの心臓を引き抜くと心臓は腐敗していき、白髪の塊へと変化していった。

「あ゛ぁ゛ぁぁぁぁ……あぁ……」

ソテイラの顔の肉が剥がれ落ちていき、次第に頭蓋骨だけになると頭蓋骨が塵と化していった。すぐさま案山子も灰となり、ソテイラの悲鳴が聞こえなくなると辺りに充満していた穢れが消滅していき、周囲の寒さが一気に緩和していった。


灰となったソテイラと案山子の中に一冊の朽ちかけた書物が残されていた。

念動で書物を引き寄せ、開く。


──朽ちかけた書物。

──朽ちかけたページ1。

民を苦しめる高慢で腐敗した伯爵。

あの伯爵との縁談から逃げる為、屋敷を飛び出したあの頃が懐かしい。

長い旅の後、最後に行き着いたこの街。

ドワーフ領の端にある鉱山都市でひっそりと暮らしている。

私はここで新しい人生を始めるつもり。

──朽ちかけたページ2。

持ち出した財産を用い、街にある使われていない古びた聖堂を買い取る事にした。

この街で多く目にしてきた貧困や戦争で苦しむ子供達の為に孤児院を開く。

受け入れた子供達に少しでも幸せを味わってもらいたい。それが今の私の願い。

──朽ちかけたページ3。

古びた聖堂の掃除をしていたところ、私と同じ志を持つマリアという女性と出会った。

彼女はこの聖堂の手伝いをしたいと申し出てきてくれた。

とても嬉しい。マリアを心から歓迎するつもり。

不思議とマリアからクニナの祝福を感じる。

きっと私と同じでクニナの信仰者なのだろう。

もう見かける事はないと思っていたけれど、これもきっとクニナの思し召しに違いない。改めて嬉しく思う。

──朽ちかけたページ4。

子供達を受け入れる準備が整い、孤児院を正式に開設した。

まだ初日だというのに、多くの子供達が訪れてくる。

心苦しい反面、その苦しみから救ってあげられるという喜びも感じている。

両親からはいつも苦しむ民に関わらないようにと言われてきた。関わろうとする私に、いつも父から放っておけと怒鳴られたあの辛い日々。

でも今の私はとても幸せを感じている。

あの頃よりもずっと、ずっと。

──古びたページ1。

いつぶりだろうか。この日誌を手に取ったのは。

孤児院を開いてからというもの、忙しく日誌を書く暇も取れなかった。

最近は孤児院の運営は日々厳しさを増すばかり。

受け入れる子供達は増えるのに、支援は減る一方。

この街の領主が変わってからというもの、一層と躊躇となり、まるで私達を目の敵にしているよう。

まだ貯蓄を切り崩せば暫くは凌げるかもしれない。でもいつか尽きてしまう。

クニナよ。どうか子供達をお救い下さい。

──古びたページ2。

自身の食事を1日1食から2日に一度に減らした。

最近は寝ても疲れが取れない日々が続いている。

これ以上減らすと子供達の面倒や聖堂の運営に手が回らなくなってしまう。

もし私が倒れてしまったら……この孤児院は一体どうなってしまうのだろうか。

マリアがいてくれるのは嬉しいが、彼女にこの辛さを味あわせるのは心苦しい。

苦しむのは私だけで十分。

日々、今後の事を考えるだけでも恐ろしい。

──古びたページ3。

クニナはやはり私達を見捨ててはいなかった。孤児院の支援を申し出てくれる人物がようやく見つかった。

希望の再会という墓地を運営するスザンカという女性。

彼女はこの土地の古くからの貴族らしく、今でも多くの貴族と繋がりがあり、支援と呼び掛けを手伝ってくれると申し出てくれた。

ああ、クニナよ感謝致します。

苦しむ子供達を救って下さると、私は心から信じておりました。

──


ジャスミンの元へ向かう。


「分かってはいると思うが、ここにケリーがいた可能性は高い」

「…………」

「俺はこの街に興味がある。足元で変な輩に彷徨かれるのは避けたい。ソテイラの仇を打つのなら、目的は同じだ」

ジャスミンがこちらを向き、静かに何度か頷く。そして苦い表情を浮かべ口を開く「みんなの仇は取る。でも……私は気付いてあげられなかった。嘘を噂だと鵜呑みにしてしまった。領主の事も……疲労でただ疲れているだけだと。ずっと私の足元で苦しんでいたなんて、考えただけで……自分を許せない」

「お前のせいじゃない」

「…………」

尾と髭を下げ、悲しげに見つめてくるジャスミン。

「誰しも問題を抱えている。それは自らの対処で手一杯だ。前向きに捉えれば、ソテイラと子供達はようやく安息を得られた。今はそれで十分だ」

「そ、そうね……。励ましてくれてありがとう」

壁や地面の蔓に多数の老婆の顔が現れる。

「イッヒッヒッヒッヒッヒッヒッ」老婆の顔から笑い声が上がり、通路に笑い声が反響していく。

「シャーー!」

ジャスミンが老婆の顔を強く睨み付ける。

「イッヒッヒッヒッヒッヒッヒッ」

「アッーー!!」

尾を立て、全身の毛を逆ださせたジャスミンが中型のアイスシャードを老婆の顔へ次々と放っていく。

四方八方に浮かび上がった老婆の顔へと氷柱が命中していく。

「イッヒッヒッヒッヒッヒッヒッ」老婆は怒り狂うジャスミンを見て楽しんでいるようだ。

ジャスミンが魔法を放つのをやめ、通路に静けさが戻る。

「はぁ…はぁ…」

息の上がったジャスミンが目に涙を浮かばせながら尾を下げ俯き、ジャスミンが俯く地面には涙が零れ落ちていく。ジャスミンはそのまま一言も発することなく顔を上げ、奥へと静かに歩いていく。

ジャスミンに続き、共に深部へと向かう。壁に目をやると、蔓に浮かび上がった老婆の顔は静かにこちらを見つめ、目を細めながら追っていた。


畝る大きな植物の蔓の中を進んでいるかのように、緩やかなカーブの下り坂が続く。

先へ進むと、様々な者達の悲痛や苦渋の囁きが重なり合い聞こえてくる。

壁には等間隔にスザンカの作品が飾られているようだ。

こちらの近くに全裸で腹の出たノームの男が壁に打ち付けられている。

口と腹は雑に白髪で縫われており、腹の肌の色が様々異なっている。

「うぐ……うぐ……」

ノームの男は口に何かを詰め込まれており、大きく口を膨らませ、苦痛に満ちた表情で何かを訴え掛ける目でこちらを見てくる。

男はこちらに何かを言いたげではあるが、言葉を発したくとも発せられずに悶える声をあげ続けているのみだった。

側にある木の枠で囲われたキャプションパネルを読む。



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