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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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予想より早くメトゥスが戻ってきた。

メトゥスと共に衛兵の規制線を越え、再び集まった群衆の中を進み希望の再会を目指す。


群衆の会話が聞こえてくる。


「何があったの?」

「魔物が出たらしい」

「嘘!? 怖いわね〜」


「負傷者多数だってよ」

「恐ろしい怪物だったんだな」

「それが衛兵のボルトや槍で怪我したんだってよ」

「なんだそれ!? ひでーな」

「ああ、まったくだよな」


群衆を抜ける。


「問題なかったか?」

「キュル。キュルル」

「今はいい。この目で確かめる」

備えの為にと思っていたが、今は軍備が急務か。街も不安定だな。

このまま自らの肉体と思しき物を取り戻し続けた場合、現状の様に理性を保ち続ける事が可能なのだろうか

「メトゥス、お前はイエナの様に部隊を指揮したいか?」

「キュル~」

「ふむ。苦手か」

「キュル?」

「俺は聞くまでもないだろう」

「キュルル」

願わくば、今のまま力と記憶を取り戻していければいいが。

神にも種族にも存在し得る冷静さを欠いた存在に身を窶す事だけは避けねば。


暫く歩き、希望の再会へ着く。

希望の再会の入り口に近付こうとした時、凄まじい剣幕でこちらを睨み付けながら向かってくるゾーナが視界に入った。

ゾーナがこちらの目の前で足を止める。

「スザンカから聞いたわよ。貴方がケリーに余計な事を吹き込んでいたって。まったく、なんて酷い人なの!」

「あの子が望んでいた事だ」

怒りと呆れが混在した表情を浮かべるゾーナ。

「あなた頭可笑しいんじゃない? あの子はまだ子供よ。それなのに……あー!もー!」下を向き、首を左右に振るゾーナ「まったく信じられない」顔を上げこちらを強く指差す「もうこの地区には近付かない事ね。この地区でどんな些細な事でも違反すれば、すぐに牢に放り込んでやる!もう消えなさい! 二度とその面を見せないで」憤慨し立ち去るゾーナ。

「悪いがそうはいかない。ケリーを探しているんでな」

振り返り睨み付けてくるゾーナ。

「諦めなさい。衛兵でもない貴方が関わって良い問題じゃないの。これは衛兵である私からの忠告よ。冷静になって、よ~く考える事ね。自分の立場という物を。それにマリアから聞いているわ。ケリーがいなくなったって。私が捜査担当じゃなくて良かったわね。貴方にはこの件に関わって欲しくない。この街の為にも、貴方が誰かに殺されるよう祈っておく」

ゾーナが去っていく。

「キュルル」

「安心しろ。この程度で理性を失ったりはしない」

「キュル」

「それより警戒しろ。質の悪い奴が絡んでいる気がする」

「キュル」


希望の再会の敷地に入ると、スザンカと人間の男が口論しているのが目に入る。

希望の再会は他に人影がなく閑散としてしまっていた。

妙な気配が漂っているな。

「ですが、貴女が要望した事ですよ?」

「あたしゃ~、そんなこと一言も言っていないね~。それより不法侵入だよ! 衛兵に突き出されたくなかったら今すぐ金を払いな!」

「そんな無茶苦茶な……」

「ああ~! 煩い!煩い! だったらとっとと帰んな! この金に群がる薄汚い人間が!!」

男はスザンカの激高ぶりにたじろぎ、不満そうな表情を浮かべたまま希望の再会を去っていく。


中央の質素な建物の入り口から広がるウッドデッキ。その場から希望の再会を見回しているスザンカと目が合う。

「私の敷地に勝手に入るんじゃないわよ!!」

細い丸太だけで雑に作られた階段を登り、家の前にいるスザンカの元へ向かう。

「耳が塞がってんなら穿り開けてやろうか」

「歓迎の笑顔はどうした?」

「無駄話をしたいんなら他所にいきな。ここはあたしの土地だよ。勝手に入るんじゃない」

スザンカが酷く睨みつけてくる。

「ここによく来ていた子供がいただろ? 何か知らないか?」

「知らないね。それより通行料と違反料、合わせて2金貨。払うんなら見て回ってもいいさね。さあ払いな」

薄汚れた手を差し出すスザンカ。

「断ると言ったら?」

「衛兵を呼んでもいいのよ。あんたらは嫌でしょ?」

「払えば自由に見て回っていいんだな?」

「ええ!」

声が和らぐスザンカ「で?どうすんだい?」だが直ぐに声質が戻る。

「受け取れ」

スザンカに2金貨を投げ渡す。

「イッヒッヒッヒ~。物分かりがいいじゃないさね~」

背中を丸めて手の平にある金貨を反対の手で摘まむように触りながら笑うスザンカ。

「なぜ急に寛大さを失くした?」

笑顔を一瞬で消し真顔に変えるスザンカ「単純さね。こんな金にもならない孤児や浮浪者ばかり受け入れちまっても仕方がない。当たり前のことじゃないかい」

「ふむ」

スザンカの横を通り、スザンカの家へ入る。寂れた木製の室内。室内は妙に整理整頓されていたが、かなりの埃が積もっていた。

「 ちょっと! 何勝手に入ってんだい!」

室内の魔法の痕跡を探る。

「金はちゃんと払っただろ」

「家に入っていいだなんて一言も言ってないよ! あたしゃ~」

スザンカの息遣いが荒くなる。

スザンカの方を向く。

「お前の家じゃない事はもう分かってる。メトゥス!」メトゥスが勢いよくスザンカの体に多数の触手を突き刺す。

「イッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッ」

笑い声と共に穴の空いたスザンカの服だけがメトゥスの触手に残された。

スザンカが姿を消した後も笑い声が木霊し、室内に響く。そして笑い声は次第に小さくなっていき、完全に聞こえなくなった。

スリザキオか。

「メトゥス、見張っていろ。俺は家の中を捜索する」

「キュル」

近くに奴の気配はないな。だがそう遠くはないな。生者感知を放つ。

街路を行き交う住人や土の中にいる蛆が白く浮かび上がる。

やはり視界が煩わしくなるのが欠点だな。

家の中は家鳴りの軋み音以外聞こえず、こちらが歩くと更に床が軋む音を立てる。

入り口の右側にある木の長テーブルと長椅子。テーブルの上に置かれている果物。果物は全て作り物のようだ。銀の燭台はかなりの年代物に見える。

長テーブルの上に置かれた一冊の茶色い表紙をした書物を手に取る。書物は表紙に何も書かれていない。

書物を開く。


──茶色い表紙の古びた書物。

今日、父からこの土地を受け継いだ。

初めは自分の土地を持てるだなんて夢にも思わなかった。でも自分だけの土地を所有して分かったのは、想像より面倒だという事。


そんな折、気味の悪い老女がこの土地を買い取りたいと申し出てきた。今の私にとっては願ってもない申し出だった。

最初はその風体から警戒していたけれど、愛想もよく、多額の前金も置いていってくれた。

種族は見た目によらない。私の心はすぐさま決まった。

早くこんな寂れた土地から去りたい。

──


本を閉じテーブルに戻す。


他には…これといって無いな。

奥にある階段を上がり、二階へ。

二階へ上がり、古びた木のドアを開ける。ドアの軋む音が響く。

二階の部屋へ入ると、窓から日が入り、舞った埃を映し出していた。

ベッド、棚、丸いサイドテーブル、四角いテーブルや椅子などが置かれてある。

ドアの左にあるウォールシェルフに並べられている本の背表紙を見ていく。

【土地相続。著:ファビアン】【死者の埋葬。著:バーナード】【植物と錬金。著:マリー・スワナ】【神々の知識。著:ヒューバート】【信仰と恩恵。著:ジャノマリス】【道化の騎士道冒険譚。著:ラピアノーン】【⠀⠀⠀⠀⠀】

一番端にある背表紙に何も書かれていない黒い本を手に取り、開く。


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