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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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65

奴はなぜ炎術を放って来なかった。

衛兵達が仲間の亡骸や装備の後始末に取り掛かり始めた。

住人達が立ち入らないよう衛兵が街路に立ち、規制線を張り始めた。

「さっきは助けてくれてありがと。それで、サムは大丈夫なの?」

籠の中でぐったりと動かないサム。

「恐らくサムには効かないだろう。ただ変化で疲弊し気を失っているだけだろう。心配はない。次第に意識を取り戻すはずだ」

「それは良かった。あの怪物の影響?」

「分からん。だが本質は別にあるように思える」

杖を持ったドワーフの男と、2人のドワーフ衛兵がこちらの前に来た。

「おい、早く出ていけ」

杖を持ち、立派な髭を生やしたドワーフが話し掛けてくる。

「一応加勢していたんだ」

威圧の姿勢を崩し、気だるそうな態度に変わるドワーフの男「そうだったな。感謝する。じゃあもうここに用はないはずだ。さっさと去るんだ」顔の横に片手を上げ、親指で通路を指差すドワーフの男。

見慣れた顔ぶれの衛兵が3人。こちらに走ってきた。

「隊長、彼です。俺達を例の烙印から救出してくれたのは」

「おお、そうか~。じゃあ、あんたが仲間を……礼を言うよ」兜を外し、律儀に頭を下げる衛兵隊長「それで、まだここに残っている理由を聞かせてくれるか? 気を悪くしないでくれ。これも仕事なんだ」言い終えると兜を身に着ける衛兵隊長。


コルンナティモラスの死体を指差す。

「あの死体の処理を任せてもらいたい」

腕を組み、居心地の悪そうな表情を浮かべる衛兵隊長。

「仲間を救ってくれたから一応聞くが、あれがディスコルディアの兵だってのは当然知ってるんだろうな?」

「ああ」

「そうか〜」渋い表情を浮かべ、髭を何度か整えるよう触る衛兵隊長「度胸があるな。その度胸、俺の部下にも見習わせてやりたいもんだ。はぁ〜、まあいいぞ。好きにしろ。だが必ず街の外に持っていってくれよ。ディスコルディアに解剖仲間と思われちゃ困るからな」

「感謝する」

衛兵隊長が頷いた後、駆けつけた3人の方を向く。

「おい、いつまでここに突っ立てるつもりだ。仕事に戻れ!」

「りょ、了解」

檻にいた3人の衛兵は荒れた市街地の片付けに取り掛かりにいった。

「隊長、こちらの物はどうしましょう?」

潰された鋼のオートマトンの側にいる別の衛兵が呼びかけている。

「待ってろ! 世話になったな。気をつけろよ」

「あんたもな」

衛兵隊長と2人の衛兵が呼び掛けた衛兵の方へ向かっていく。


コルンナティモラスの死体に向かう。

コルンナティモラスから滴る赤い血が泡立ち、まだ溶岩のように熱を発していた。

死体を眺める。

「こう見るとクラーケンだな」

「キュル?」

「クラーケンは蛸だったか」

「キュル」

「どっちでもいいか」

胴体の膜に腕を突っ込み、コルンナティモラスの体内を探る。

残滓の骨はどれも大きく太い。

獣や家畜の類いか。小さな骨は1つもないな。こいつは関係無いかもしれない。

内部に酸や体液でべとついていない空間があり、そこに置いてある物を掴み取り出す。

「まったく……こういう事をしていると、妙な悲しみに囚われる」

「キュル」

「お前がやるか?」

「キュ」

メトゥスが態とらしく視線を逸らす。

羊皮紙と指輪か。

羊皮紙を開き読む。


──赤い粘液が付着した羊皮紙。


あの方は情報を求めている。

アガレスを監視し報告しろ。


バロル。

──


バロルがいるのか。厄介だな。

指輪を眺め凝視する。

指輪をローブの内側へしまう。

力を込めコルンナティモラスの死体に不可視化付与を放つ。

「メトゥス、こいつを拠点まで運べ」

「キュル」

メトゥスがコルンナティモラスの死体へ持ち上げていく。

ジャスミンの元へ向かう。

心配そうにサムと話しているジャスミン。

「ねえ、本当にもう大丈夫?」

「我が愛しき女王陛下。心配など不要です。裏切り者はこの我が必ずや…女王陛下! お逃げ下さい!」

サムが睨み付けてくると骨の籠を必死に引っ掻く。

「正気を失い、ジャスミンに襲い掛かったのはお前だ」

「な!? そ、そんなはずない! 出鱈目を言うな! 我は裏切り者の嘘など聞かん!」

「本当よ。サム」

「あぁ……そ、そんな……嘘だぁーーーー!!」

サムは放心した様子で言葉を失っている。

「なぜ吸血鬼だという事を隠していた?」

座り込み俯くサム。

「別に隠していたわけでは……本当に吸血鬼になっていただなんて、思ってもみなかった。ある日、目が覚めると太陽の光がいつもより眩しく感じたんだ。喉が無性に渇く気がしたり……ん〜」

「寝ている内に吸血鬼に噛まれたのだな」

「そんな事考えたくもない」

「サム……」

俯くサムを悲しげに見つめるジャスミン。

「吸血病の治し方なら心当たりがある」

「そんなこと我も知っているさ。心臓を引き抜くのだろう?」

「いいや。治療するという意味だ」

「本当か!?」サムは直ぐに起き上がり、両方の前足を檻の骨に置く「本当か? 本当なんだな? 嘘じゃないな? 本当の本当に本当なんだな?」尻尾を大きく何度も振るサム。

「ああ」

「ど、どどどうすればいいんだ?」

「吸血鬼の血を飲む必要がある」

「……からかっているのか。それがお前のやり方なのか!!」

「サム落ち着いて。自分の血を飲むってことなの?」

「いいや。必要なのは純血吸血鬼の血だ」

「その話が本当だとしても、そんなの無理に決まってる」

ふて腐れるサム。

「そうでもない。少し心当たりがあるんだ。お前の話で確証を得られた」

「誰か頼める人がいるかな?」

「俺がやる。殺す理由が俺にはあるからな。お前のついでを受けてもいい」

「ほ、本当か!?」

「あまり期待するなよ」

「 うぅ~!」

サムは目一杯に目を輝かせ涙目になる。

「だが今は忙しい。お前を一先ずどこかへ置いておくべきだな」

「あんたがその吸血鬼の血を手に入れるまで、ずっと我はこの檻の中なのか?」

「不満か?」

「不満じゃない。不満じゃないが……ただ狭いし、窮屈だし……」

「それを不満と言うんだ」

「サム。誰かを襲う自分には耐えられないでしょ? だから辛抱して」

「勿論です女王陛下! あなたの頼みとあらばなんなりと。心からこの試練をお受け致します!」

「ジャスミンに醜態を見られぬよう祈っておけよ」

「な!? 催す際は開けてくれよ」

「どこか安全なところはない?」

「あるが……」

またメトゥスを行かせるのは億劫だな。

「私が連れていくわ。その後、希望の再会で合流しましょ」

「女王陛下よぉ~、すん、うぅ……なんと」

目に涙をにじませジャスミンを見つめるサム。

「場所は分かるのか?」

「アンデッドのにおいがする場所。でしょ?」

「まあ、そうだな」指差す「この方角の洞窟だ。マーラとイエナに……」

「マーラを知っているの!?」

「知り合いなのか?」

「まあね。古い友人よ」

「それは良い意味でか?」

「ンフフ、ええ、もちろん! ここへマーラが来たとき偶然会ったの」

「じゃあ頼んだぞ」

「サム。行くわよ」

「畏まりました女王陛下」

律儀に籠の中央にじっと座るサム。

ジャスミンが有翼と念動を放ち飛び立つ。

ジャスミンはサムの入った籠と共に拠点へ向かっていった。


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