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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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スラムを抜け中心街へと近付く。


早朝だというのに、街にはもう活気が出つつあった。

種族の行き来が増え、すれ違う者達が増えてくる。


ドワーフ2人が立ち話をしていた。

「幼馴染の衛兵に聞いた話なんだが、あの事件解決したらしいぞ」

「本当か?」

「本当だ」

「あ〜、なら良かった。これで安心して仕事に専念できるな」

「まったくだ」

「詳しい話は聞いたか?」

「もちろんさ」

「聞かせてくれ」

「イカれた魔術師が廃鉱に籠もっていて、人体実験してたって話だ」

「おい、マジかよ。待て! 当ててやろうか。どうせそのイカれた奴はエルフだったんだろ?」

「ハッハッ、ああ。だがそれだけじゃないらしいんだ。どうやらその魔術師を殺したのが、ア・ン・デッ・ドだって噂だ」

「アンデッド!? じゃあ自分の実験物に殺されたってのか?」

「それがどうも違うらしい」

「一体どういう…まさか」

「ああ、そのまさかさ」

「なんだかヤバい感じがするな。まるでプルトーの贖罪日が近付いているみたいだ。神の存在を感じる」

「プルトーなんてマシな方さ。もしヴォイドが現れたら、俺達ドワーフは終わりだ」

「だ、大丈夫だろう…。俺らは無信仰だし。オートマトンも作っていない。きっと見逃してくれるさ」

「ヴォイドにとって糞か糞に集る蝿かの違い程度だろう。片付けるのに気にするとは思えない」

「じゃあ……どうする?」

「こんな街、さっさと出ていくしかない。幼馴染のあいつと明日一緒に出るんだ。お前も一緒に来るか?」

「ああ。だが何処にいくんだ?」

「南しかない。一先ず、修行僧の時代、世話になった司祭の元に行くつもりだ。いずれニザーム中アンデッドで溢れる事になる」

「やっぱりそうか……。だが妹を残してはいけない。俺にとって残された唯一の家族なんだ」

「好きにしろ。だが気が変わったら明日、東門に来い」

「あ、あぁ……」


「おーい! こっちだ!」

手を振り叫ぶソルス。

周囲を警戒し、ソルスの元へ行く。

「朝から元気だな」

「まあこれから寝るが。後は寝るだけっていうのは気が楽でな」

「そうか。この街に両替商はいるか?」

「もちろん。この先の……」ソルスから両替商の居場所を聞く「んな事より会えて良かった。あなたを探すのは大変だろうと思っていたところだったんだ。ほらこれ」

ソルスがポケットを探り、小さな布袋を手渡してくる。

「これは?」

「まあ見てくれ」

皮袋を受け取り紐を緩め開く。硬貨が数十枚入っていた。

「何の金だ?」

「少なくて悪いが受け取って欲しい。牢仲間で集めたんだ。あんたにどうしても礼をしておきたくてな」


〘⇄〙受け取る。受け取らない。


「そうか。ありがたく貰っておこう」ローブの内側へしまう「借りを作るのが嫌いなのか?」

「ハッハッ。そんな大したもんじゃないさ。ただ気が済まないだけだ」感傷気味なソルス「あー、眠い。じゃあな。救って貰ったあんたに言うのも変だが、気を付けろよ」

「ああ、お前もな」

ソルスが去っていく。

「キュル」

「悪くないだろう?」

「……キュ」


ソルスから聞いた両替商の場所を目指す。

街には既に多くの店が開き、種族達が買い物を楽しんでいた。

店だけでなく住居からも様々な料理の匂いが漂ってくる。

歩きながら店を見回す。


年老いているが、体格の良い人間の男が叫んでいる。

「射ったばかりの新鮮なプルの肉だー! 買ってってくれー!」


農婦にしては綺麗な身なりをしたドワーフの老女が叫んでいる。

「採れたての野菜ばかり! 歯応えはシャキシャキよー!」


丸々と太った白い巨猫が青いローブを羽織り、二足立ちで叫んでいる。

「大陸中から集めた摩訶不思議な品々。是非見てってくれ」

多くの者達が巨猫の商いテントの前へ集っていた。


猫が調和語を話せるのか。

ジャスミンを含め、今や珍しい光景ではないようだな。

だが家畜とは区別されている。棺で寛いでいる間に、随分と奇妙な世の中になったものだ。

昔はもっと…単純だったような気がする。


「キュル!」

「ふむ」

ここのようだな。

円形状の広場を囲うように建てられた建物。その一角に青い看板が立てられている。


──青い立て看板。

ドゥイリ銀行

──


装飾されたドアを開け建物の中へ入ると、中は洗練された格式のある内装になっていた。

立派な髭を生やし、青い服を着たドワーフの男が出迎えてくる。

「ようこそ、ドゥイリ銀行へ。オーナーのロレンツォです」ドワーフの男は両手を握り締め笑顔で接してくる。胸元にしまってある金のチェーンが付いた小さな羽ペン、折り畳まれていた青く光る羊皮紙を取り出す「んんっ、初めて見るお顔ですね。お名前を伺っても?」

妙だな。

「名は無い」

「おっと、それはそれは。複雑な事情がお有りのようで。ささ、まずは座って寛いで下さい」

部屋の中央。敷居で隔たれた先には黒い木材で作られた低いテーブル。テーブルの隅には新鮮な青いリンゴが2つ置かれ、側には白い頭蓋骨の置物があった。

金の縁に赤く染められたクッションが備わっている椅子が4つ置かれている。

ロレンツォが正面を避けるよう向かい側の椅子へ座わった。

「遠慮せず寛いで下さい」

「このままでいい。まずは貨幣の価値を尋ねたい」

「左様で。価値は多くの国と変わりありません。金貨は25銀貨。銀貨は16銅貨となっています。他の物同様、古代の質の良い硬貨に関しては相場の2倍です」

「硬貨のメッキを見分けるのは得意か?」

「ハッ、当然ですとも。心配なさらずとも、レプラコーンより腕はあります。保証しますよ。失礼ですが、そのお荷物は?」

「戦利品だ」

「では換金された硬貨を当銀行にそのまま投資して頂ければ、必ず硬貨を増やしてお返し致しますよ」

「儲かっているのか?」

「ハッハッハッ。もういい」ロレンツォが立ち上がり、先端に黒い棘が蠢くタクトを向けてくる「ここに来た事を後悔させてやる」

入り口のドアが勢いよく閉まり、ロレンツォがタクトと反対の手を緑に光らせ虚無の介入を放ってくる。透かさずロレンツォは不可視化を放ち姿を消すと、奧の階段へ走り去っていった。

カタカタカタ。

岩を砕く音と共に、周囲の地面から赤色のブラッドスケルトンが十体ほど姿を現す。緑の半透明の剣と盾を携え、取り囲むようにし盾を構えてきた。

テーブルの隅に置かれた頭蓋骨の両目が緑に光り、口を動かし始めた。

「いいか、協力的なら楽に逝かせてやる。答えによっては逃がしてやらんでもない。さあ、お前は何者だ?」


〘⇄〙戦う。戒める。


「驚いたぞロレンツォ」

「なんだと?」

指に力を込め虚無の誘いを放つ。

緑に光る長い虚無の腕を多数地面から出現させ、虚無の腕がスケルトン達に掴み掛かる。掴まれたスケルトン達は額に烙印が刻まれていく。

「諦めてこっちに来い。互いに誤解を解こう」

「それが答えか。殺れ」

烙印スケルトン達はロレンツォの命令に反応しない。

上手くいったな。

「知らなかったとは残念だ。こっちの番だ。生きたまま切り刻まれたくなかったら早く出てこい」

殉教騎士の皮を取る。

足音が聞こえないまま奥の階段から丸見えのロレンツォが不可視化を解き姿を現した。

「嘘だろ……。こいつぁ驚いた」

ロレンツォは口を開いたまま髭を触っている。

「驚いたのはこちらも同じだ。ネクロマンサーに会えるとはな」

「ヴォイドは我々を見捨てていなかったんだな」両手を腰に当て俯くロレンツォ。「はぁ〜」顔を上げ、困惑した表情を浮かべ頭を掻くロレンツォ「ああ…何と言ったらいいのか。あんた、ブラッドリッチなのか?」

「赤く見えるか?」

「いいや……」

「ふむ」

「……さっきはすまかった。その……」

「お互い様だ。アンデッドには然程詳しくないようだな」

「長い間……。まあ…そうなるな」

「ネクロマンサーはお前以外にもいるのか?」

ロレンツォは疲れた様子で椅子に座り、こめかみを指で擦る。

「いいや。分からない。私の知る限り、街には私以外ネクロマンサーはいない。居たとしても、世界中に散らばっているだろう。私みたいに密かに身分を隠し、過ごしているはずだ」

「お前はネクロマンサーになって長いのか?」

「長いなんてもんじゃない。祖先は由緒あるヴォイド教団、ブラックハンドだった。しっかりと教えと規律を受け継いでいる。つもりだ。随分と廃れてしまったが」

「家族は?」

鼻から息を吐き、両手の指を合わせ俯くロレンツォ。

「娘が1人。だが娘は……。死霊術は本来、我々に唯一残された救済だ。その事は娘も分かっている。あんたは? ヴォイドに会ったのか? 神の声は聞いたか?」

「いいや」

「そうか……やはり」

「どういう意味だ?」

「ただのミュトスの一種だが、ヴォイドが姿を見せなくなったのは、ユピテルとの戦いに敗れ消滅した。或いはこの世界を離れた。と書かれていてな」

「ふむ。可能性はあるな。俺が会った中で、お前が一番死霊術に詳しい」

「まあ、今はそうかもな。あんた程じゃないだろうが。あんたは何処から来たんだ? やっぱりリベルタリアから逃れてきたのか?」

「近くの森だ。少しうたた寝をしたら、随分と世界の時が過ぎてしまっていてな」

「ハッハッハッ、あんたがリッヂに昇華した理由が分かったよ」

「お前の祖先はブラックハンドの中枢人物だったのか?」

「詳しくは分からない。ウィクトーリアの信奉者との戦争の影響で多くの書物が失われたんだ。今は断片的な記述しか残っていない。だが祖先の1人が支部の守りし者だった。あぁ〜、ブラックハンド。あんたのそのローブを見て驚いた。まあ最初は殉教騎士団が熱心な事をしてるなって思っただけだったが、まさかリッヂとはなぁ〜。今でも内心驚いているんだ」

何者かの視線を感じ、室内を見回す。だが気配が消えていた。

「殉教騎士を最近見たか?」

「いいや。随分と前に会ったきりだな。今は戦争で、帝国もそれ所じゃないんだろう」

「当たりかもな。森で殉教騎士らしき連中に出会った。手記には解体が決まった旨が記載されていた」

「そうか。そりゃ朗報だな」

物悲しそうにしているロレンツォ。

「機会があれば、ブラックハンドを再建させるつもりはあるのか?」

「どうかな。今更何が出来るかって話になる」

「興味はあるんだな」

「興味? ああ勿論」

「ふむ」

「だが半分は嘘になる。昔ほどの情熱が湧かないのは、確かだ」

「そうか」

「いや、待ってくれ! チャンスをくれるのなら断るつもりはない。こういうチャンスを逃したくはない」

「ほお」

「その前に娘に会ってくれないか?」

「何故だ?」

「娘は……酷く落ち込んでいるんだ。リッヂのあんたが会ってきれればきっと…」

「分かった。その代わり俺に協力しろよ」

「助かるよ」

「メトゥス。荷を降ろせ」

「キュル」

メトゥスが荷を雑に落とし、背に引っ付いたまま追従する。

烙印を解き、ロレンツォが召喚したスケルトン達を解放する。

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