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── Ⅵ章『新たな起点』 ──
自らの目標を他者に委ねてはならない。不可能だと告げられても、その言葉に惑わされてはいけない。『戦術魔法学』より。著:ガブリンガル:マスターウィザード。
階段を上がり、上階へ向かう
「ねえ、結局烙印って何だったわけ? その…メトゥスってのが原因?」
「もう少し込み入っている。この指が発する魔法が副作用となり厄介な特質を引き起こしていた。遺跡自体にも拡散する仕掛けがあったんだ。それとメトゥス、エルフの男。様々な要因が重なり、結果的にこういう事態に陥った。まあメトゥスにはそういう意思はなかったと思うが、意図的に作用したのはエルフの影響もあっただろう。不可解な点はいくつか残るが、おおよそは今言った通りだ」
「でもメトゥスはこっち側でしょ? どうしてあのエルフの味方してたわけ?」
「キュルル」
「キュルルって、それじゃ分かんないわよ」
「キュ…」
「メトゥスの事をまったく知らないのか?」
「私の読んだ文献では少なくともメトゥスに触れた記述はあんまし見かけた事ないから」
「ろくなものを読んでないんだな」
「褒めてくれてありがとう」
「メトゥスは謂わば監視役だ。それにヴォイドに近しいアンデッドでもある」
「使者のリッヂみたいな?」
「そんなところだ。誰かが意図的にメトゥスを介していた可能性もある」
「は~ん」
上階フロアへ着く。
「お前達はこのフロアで待機しろ。イエナ、エルフのローブを」
アリゲーターとバジリスクが周囲を巡回し始め、イエナがローブを取りに行く。
ローブを受け取る。
「どうして一緒に連れていかないの?」
「ここをベースにする。守りやすく、まあ悪くないだろう?」
「そうね。なんかゾクゾクしてきた」
「はい、持ってきました」
「メトゥスに」
イエナがメトゥスに着せる。
「不格好だが、一先ずは十分だな」
「キュル」
「イエナ、アイスエレメンタルは目立ち過ぎる。人前ではあまり出すなよ」
「分かりました」
イエナがアイスイエナから杖を受け取り、背中へしまう。
「その新しい杖が気になる」
「それは追々な。行くぞ」
出口へ向かう。
「それで、ブラックハンドの隠れ家があったところはどうするの? まだ奥があったみたいだけど」
「事態が落ち着いたら、探索する」
「私も是非行きたい」
「考えておこう」
牢へ続く階段のあるフロアまで戻る。
「イエナ、転移の杖を使い、蜘蛛をここへ呼び戻してこい」
「分かりました」
「牢連中の出入りもある。気を付けろよ」
「任せて下さい」
イエナが出口へ向かう。
牢屋への階段を降りる。
「それで、もう下の人達の運命は決まってるの?」
「多少な。デュラハン、奥に隠れてろ」
「御意」
牢に着く。
ソルスが牢の中から手を振り、牢のドアへ走って来る。
「おお~!戻って来てくれると信じてた。うぅ! で、どうだったんだ?」
「問題ない。邪魔は全て片付けた」
「はぁ~、 あ~! 良かった。本当に良かった。それじゃあ、出してくれ」
杖を牢屋の柵に向け放つ。
黒い触手が鋼の檻に練り込まれた魔法を侵食し汚染させていく。
マーラが透かさず、短剣を使って鋼を切断した。得意気な表情で見てくる。
粉々になった鋼が崩れ落ちる。
「よっしゃ~!」
ソルスが牢の外に出て、両手の拳を握り締め天を仰ぐ。
牢の中にいた衛兵達が次々と出てくる。
「この恩は忘れないよ」
「本当にありがとう」
「はいは~い、感謝の握手は私にね~」マーラが代わりに握手していく。
「あんた凄いな!」
「本当に助かったよ。感謝する。ありがとう!」
「まさにあんたは俺達の救世主だ!」
「ああ。だがここはガスが充満している。すぐに出て、二度と近付くな」
「分かった。いやぁ~、助かった~。よしみんな、早くこんな所からずらかろう」
ソルスが衛兵達を率い、急いで出口へ向かって行った。
「正直なとこ、本当に助けるとは思わなかった。さっきみたく、そこら辺の魔物のように、本能に支配されて襲い掛かると思った」
空になった牢を見る。
「気持ちいいものだな」
「人助けが?」
「自由を得る光景だ」マーラを見る「見ていて心が晴れる」
「ふ~ん」何度か小さく頷くマーラ「その新しい杖が無かったらどうしてたの?」
「まあ時間は掛かるが、イエナが開けられない事もなかった」
徒党集団の檻へ向かい、デュラハンを合流させる。
「メトゥス、やってみるか?」
「キュル」
メトゥスが檻の柵目掛け触手を伸ばす。
「お、おい…なんだありゃ」
「化け物だ……」
「一体なんの魔物なんだい……」
メトゥスの黒い触手が鋼に練り込まれた魔法を侵食し汚染していく。
マーラが短剣を構えるが、メトゥスはそのまま檻の柵を引き千切り、壁の方へ投げ捨てた。
驚く徒党達がメトゥスを静かに見つめている。
「あ、ありがとう…」
「か、感謝するよ…」
「悪ぃなぁ~。ヘッヘッ、助かったぜ」
徒党達が背筋を伸ばし、できる限りメトゥスから遠ざかるようにして出てくる。そして通り抜け終えると、慌てた様子で出口へと走り去っていく。
「あのドワーフの女性。威勢がよさそうに見えたんだけど違ったのね」
「目玉が苦手なのかもな。おい待て」
デュラハンがゲイグを掴む。
「な、なんだよ~」
「話がある」
「な、なあ。あ、あの時の事は本当に悪かった。許してくれ」
「…………」
ゲイグの魂を凝視する。




